第9話 隊商といっしょ
リリーさんにやばくなったらヘシ折れという恐ろしいアドバイスを受けた後、隊商の護衛任務を探してもらった。
結論から言うと護衛任務の対象はすぐに見つかった。
魔王領の王都へと向かう隊商がいたのだ。カノープスは王都からすぐだしね。
なんだか、ユグドラシル王国産の薬やら食べ物やらをあっちに持って行って売るんだって。
エルフの弓も引き手数多らしい。まあ、私は弓なんて作れないけどね(ドヤア
隊商のリーダーはエルフのおじさん、『キアラ』さんだった。
私のことも知ってるみたいで、なんだかとっても恐縮されちゃった。
「アイーシャリエル様に警護していただけるなど、私はそのような身分ではありません!」
「だって私は今かけだしの冒険者なんだし。そういうことは言っちゃダメだよ。」
「しかし……」
「姫様はあちらの国に行くまでのついでの護衛仕事です。あまり深く考えないようにしてください。」
「カリナ様、しかしそれでも……」
「まあまあ。一緒に行かないなら個別に行くだけだし。どうせいくなら一緒に行こうよ。別に交易の邪魔をしたいわけじゃないんだし、その位いいでしょ?」
「はあ、しかし…」
なんだかまだ色々言ってるけど強引に出かけることに。
そしたら隊商のメンバーの商人さんたちも黙って一緒についてきた。
よいではないかよいではないかー。
それからはほとんど何事もなく旅は進む。
旅の間は歩いたりムカデちゃんに乗ったり (ムカデちゃんを出した時にまた一騒動あった)。色々しながらぼちぼちと進んだ。こんなにノンビリと旅をしたことがなかったなあ。
モンスターは時々出現した。ホントに時々って感じで、ゴブリンちゃんとかワイルドウルフとか。あんまり大して強くないのばっかりだったからみんなのペットの練習台にしかならなかったのだ。
道中ではあちらこちらの集落に泊めさせてもらったし、ホテルなんかじゃなくって馬小屋を借りたり、野宿を経験した。初めての野宿はカリナが用意していた小さいテントの中で寝たんだけど、もふもふと一緒だったから凄くあたたかったよ。むしろ暑かったくらい。
私を含め、みんなお嬢様のはずなんだけど、野宿なんて特になーんともなかった。
貴重な経験が出来たって喜んでたくらい。
みんなお姫様だし、下手すりゃ一生に一度しかないことだからなあ。嫁入り前に野獣と一緒に外で寝てしまうのだ。げっへっへ……また変なのが混ざったなあ。寝よ寝よ。
夜の番は一応私達も交代で回してたけど、ウチのスラちゃんたちは寝なくても平気なのでプリンちゃんをリーダーにスラちゃんたちをキャンプ地の近くに放流していた。
なんだかつまみ食いもしてたみたいでみんな次の朝にはご機嫌で帰ってきたよ。
変わった事が起こったのは10日目だ。
いくつもの村を通り過ぎ、そのたびになぜか私だとばれて大騒ぎになったけど、ようやく国境を越えて魔族の国『フレスベルグ共和国』領にはいって2日目の事だった。
前日の野宿からノンビリと目を覚まし、いい加減強いモンスターでも出てきてくれないかなあ。と考えながら歩き始めてしばらく。
周りは森と草原が広がる殆ど人の営みを感じられない世界。こういうのも悪くないなーと思いながら歩いていた。てくてくと雑談しながら一応周囲に気をつけて歩く。
すると、なんだかちょっと変な気配を感じたぞ?と思ったら進行方向で馬車が壊れているみたい。
「あれ?馬車が壊れてるみたいだよ」
「ほんとですね。こんな所で大変そうですねえ」
「ん?でもあれって……?どうおもうカリナ?」
「盗賊だってパターンが定番ですね。それにしては使い古された手ですが」
「「盗賊!?」」
狭い道に横倒しになった馬車。
邪魔な事この上ないけど、こういう位置にこういう風に馬車が倒れてて、うかつに近寄ると矢が降ってくる……って聞いた事がある。
びっくりしてるのはエルさんとユリアンヌちゃん。
私達はギルドで遊んでるときにあるあるパターンだって教えてもらってたからまず疑ってかかる。
「キアラさんどう思いますか?」
「疑わしいですが無視は出来ません。道を塞がれてますしね。」
「うーん、じゃあ釣ろうか。」
「そうですねえ。じゃあ私が行きます」
「一緒にいこ。盗賊くらいなら大丈夫でしょ。でも一応プリンちゃんも連れてこっか」
カリナと一緒に伏せているであろう盗賊を釣り上げる事に。
プリンちゃんがいると矢くらいどうにでもしてくれるだろうし、それに探知もしてくれる。やっぱりスライムは万能やでー!
「ほら起きて!」
(起きてるプルよ。と言うか寝ないプル。いつもそう扱ってるくせに忘れたプルか?)
「そういやそうだった。」
(あそこの馬車の裏に2人、森の中に小屋があって3人いるプル。)
「ほええ。馬車のところに2人で、森に小屋があってそこに3人いるんだって」
「いかにも盗賊っぽいですねえ……」
まあ行ってみればわかるさ。しっかし初盗賊かも!アジトにとらわれのお姫様とかがいるんだぜ!
それを助けて報酬ががっぽがっぽだ!いやあ、たのしみだなー!
あれ?私達もたいがいお姫様だぞ?お姫様がお姫様を助けてそれから…?
なんだか色々おかしくない?
違和感が凄いけどまあいいか。ってことで私とカリナでフラフラーっと近寄っていく。
もちろん矢がいつ飛んできてもいいようにプリンちゃんバリヤー付きだ。
「どうしましたー?」
「車輪が故障してしまったようで、困っているのです。幸いなことに近くに小屋があってそこで何人か休憩しているのですが、申し訳ありませんが修理の間待っていただいて……って、もしかしてアイーシャリエル様では!?」
「アイーシャリエル様だって!?ほんとだ!」
「えーっとそうですけど……?」
裏で何かしていた人もビックリして出てきた。
確かに私はアーシャちゃんだけど、この人たちにはまーったく見覚えがない。
と言うかこの人たち見た目は全く盗賊っぽくない。
どこかの騎士っぽい格好で特に薄汚れたりしてないのだ。とりあえずウチの騎士団の装備じゃあないな。カリナを見るとやっぱり記憶にないって顔してる。うーん?
「失礼いたしました。私はフレスベルグ共和国、第3騎士団所属のフラジール・ライエルと申します」
「同じく、第3騎士団所属、ヘンセルワーム・リーブルです。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」
「ありゃ。フレスベルグの騎士団の人だったんだ。いやあ馬車が転んでるからてっきり盗賊かと……おっと、アイーシャリエル・エル・ラ・ユグドラシルです。こっちはお供のカリナです。今は冒険者やってまーす」
跪いて挨拶してくれたのでこちらもちゃんと名乗る。
でもよその国の人だしそこまでしなくってもいいんじゃ?
「姫様が冒険者とは……っと失礼。私は以前に行われたテイミング学会の折に会場警備をしておりましたのでお顔を存じ上げておりました。我々は現在護衛任務の最中でしたが、1時間ほど前にモンスターに襲撃されてしまい、馬車が破損して困っていたところです。そこで次に通りがかった隊商の方に修理の為の物資を融通していただこうと考えておりました。」
「そっか。そこの小屋の人と馬はどうしたの?」
「ご存知でしたか。襲撃を受けましたが、幸いにも近くに山小屋がありましたので、姫と従士2名は山小屋にて休んでおられます。馬車を引いていた馬はここに。おい、姫に声をかけてきてくれ」
「ああ。では失礼します!」
ライエルさんが同僚に声をかけるとぴゅ―っと山小屋のほうに飛んでった。
同僚さんはホントの意味で飛んでいったのだ。羽のある種族っていいなあ。
そしてライエルさんがポケットに入れた手を広げるとおもちゃのような小さい馬。
これが馬車を引いていたの??とりあえずかわいい。これって機械仕掛けかな?でも小さすぎない?
「かわいいしかっこいいけど小さいね」
「そうですね。魔道工学の逸品のようですね」
「その通りです。我が国の姫が作っておられまして。見て下さいね、巨大化!」
ライエルさんが魔力を注ぐと普通の軍馬より大きいくらいまで巨大化した。ほああかっこいい!
小さいのは可愛かったけど、大きくなるとかっこいいなあ。いいなあ、こういうのも欲しいなあ。
「ほへー。こういうのもいいなあ。ね、カリナ!」
「そうですね。軍馬に騎乗して戦うのも素晴らしいかと。アーシャ様の凛々しいお姿を想像するだけでカリナは何回でもおかわりできそうです!」
(何をおかわりするんだプル……それに僕だって馬車くらい引けるプル!)
またプリンちゃんからの微妙な視線を感じる。
服に擬態してるくせに馬に対して嫉妬の視線とはどういうことなんだってばよ!
この章ではちょこちょこスラングや下品な妄想が混じってきます。
記憶が混ざって、無意識のところで融合が進んでいるからなのですが、そのあたりの表現が難しくて気が付いたらネットスラングが混じる展開に。




