第1話 おはようとおやすみ
―――夢を見ていた
夢の中で私は男性だった。そこに不思議と違和感は抱かなかった。
夢の中の私は仲間と共に強大な魔神と戦っていた。
魔神もその部下たちも強かった。
私たちは何体もの敵を打ち倒し、また何人もの仲間を失った。
私自身も大切なものを奪われながらも魔神を打ち倒し、封印した。そのはずだ。
そして……わからない。そしてそれからどうなったかは良く分からない。
気がついたときには私は白い部屋でよく分からない石版の前に立たされ、面倒になって適当に選ぶのだ。
白い部屋のあたりからは急に記憶が鮮明になる。
―――そうか、あれは私か。
いや、正確には私の前世のようなものだ。私は適当に選んだりなんてバカな事を……してないよな?
とにかくだ。
『ダンジョン最下層にあるコアに接触すれば、記憶を取り戻すことが出来る』
最後に部屋から出るときにそう誰かが言っていた。
それと、白い部屋に最初に入った時に何とかに失敗したとも言っていたような。
あれは誰の声だったのだろうか
今回の白い部屋では石版を触るだけで誰かの声のようなものは聞こえなかった。
どうしてあんな声が……
5歳の誕生日の時、あの時恐らく本来の記憶が蘇るはずだったのではないか。
だが何らかの異常によって記憶は蘇らず、ダンジョンに行かなければならないという焦燥感だけが残ってしまったのでは……うーん?
そもそも夢の中の私の戦いは何のために誰と何をして、そして仲間は誰で敵は誰だったのか。
それすら定かではない。記憶は取り戻せた、と言っても本当に一部だけ。
その取り戻した一部もボンヤリとしているだけだ。
戦っている場所も記録映像のように客観的な像として覚えているが……それもどこだかサッパリ分からない。空のような、地上のような、海のような。わっかんないなあ。
何一つまともに情報がない。やはりココは―――
「ダンジョンにいくしかない!いますぐ!」
「おわっ!姫!お目覚めですか!おおお!カリナは……カリナは心配いたしましたああ!」
(おはようプル)
「にゃー」
「きしゃー」
(プルプル)
「ああ、おはようカリナ」
えーっとここは?私のベッドだけど、見覚えがすんごくあるこの空間は……私の作った異世界、『アーシャパラダイス』の中だ。
温泉とバーベキューコンロにはものすごく見覚えがあるけど、全く記憶にないところもある。
私のベッドが置いてあるのだ。
何故私の部屋のベッドがココに置いてあるのか?
10m四方程度の空間に温泉、バーベキュー、ベッドの順番で川の字に配置してある。
色々おかしいな?
そしてカリナは……というかプリンちゃんもムカデさんもココアちゃんも、スラちゃんたちも食事中だったみたい。カリナなんて焼肉のお皿を片手に反対の手はお箸を持って、口の中はモゴモゴ、タレつきの唾をこっちに飛ばしながら私に話しかけてくる。
ばっちいから食べ物を持ってベッドに来るな。黒くて速いヤツが来るだろうが!
どうせ寝ている私を見守っていたと言うよりは、私を肴につまみ食いの最中だったのだろう。
つまみ食いか、くそういい身分だな!
…しかし、いい匂いだしお腹すいてきたなあ。
「おおお!眠そうなアーシャ様も神々しゅうございますう!」
「うるさいなあ。カリナ、私もおなかすいたから頂戴……ってあれ?私ってどうなったんだっけ?」
「ムグムグ…ごっくん。えー、かいつまんで言うとアーシャ様はダンジョンをクリアした後お休みになられましたが、なんとそのまま半年ほど寝込んでおりました。国王様と王妃様は大変心配しておられて……まあ、それと同じくらい怒っておられましたが。」
「フヒッ!」
思わず変な声が出た。
半年寝てたってことよりママが怒ってるってのが怖い。
よし。目も覚めたし、怒られる前にパパとママにおはようの挨拶してこよう。
ついでにココアちゃんも紹介しないとね!
だが、その前にカリナよ!私にもそのお肉をよこすのじゃー!
「いやんっ」
カリナから肉を奪い取ったらおかしな声を出した。何言ってんだこいつ。
アホは気にせず、むしゃむしゃと食べまくった。
ふい~食った食った。
お腹いっぱいになってすっかり満足したので『アーシャパラダイス』から出ることに。
出た先はどこかなと思ったけど、普通に私の部屋だった……
「これ初めっから部屋で寝てればよかったんじゃないの」
「最初はお部屋でしたが、王妃様がどうせならあちらのほうが良いと仰って……今更ですが王妃様は凄いですね。アーシャ様の空間魔法を勝手に開いてベッドを持ち込んでいましたよ。中にいたモンスターちゃん達も主人を迎えるかのようで……」
「そだねえ。ママは色々おかしいからね」
そういいながらドアをガチャっと開けるとそこにママが。
あっれ?もしかしてやっちゃった??
「誰がおかしいのかしらね?アーシャちゃん?」
「いやあ、おっかしいなあ!ママはお菓子が大好きだって!ね!カリナ!」
「そ、そうかもしれません。そういうところはアーシャ様にそっくりですね!」
「はあ。まあそういう事にしておいてあげるわ。おはよう、アーシャちゃん」
「おはようママ!」
「さあ、食堂のほうへ向かいましょう。パパが待っているわ」
「はーい」
やった!どうにかごまかせた!危ないところだったなあ!せーっふ!
せーふせーふ!特に怒ってなさそうなママと一緒に食堂へ。
食堂ではパパが先に座って書類を見ながらご飯を食べてる。
「パパおっはよー!」
「おお!アーシャちゃん!やっと起きられたんだね!」
パパはすっごく嬉しそう。というか目をウルウルさせてるなあ。
そんなに喜ばなくってもさあ。
「おはよう。心配した?」
「そりゃあ心配したよ。まだこんなに小さいのにダンジョンを攻略して不死者と戦って、おまけに何ヶ月も昏睡してなんて……心配するに決まってるじゃないか。戦いの時だってパパを呼んでくれたらいつでも駆けつけたのにさ!」
「そうよ。あの時呼んでくれたら私だって助けに行ったのに」
「だってパパもママも肝心な時にいなかったじゃん。近くにいたのシエラ先生くらいだったし。」
「「うぐっ」」
「それに私ひとりで何とかなると思ったんだよね!まあ最後ボスの不死者とかその後とかはちょっと予定外だったけどさあ。」
「……そうだね。最近のアーシャちゃんを見てるとダンジョンだけなら実際なんとでもなったんじゃないかと思うんだけどね。でも何が起こるかわからないからいつも安全策をとっておいたほうが良いと思うよ」
「そうよ。いくら気をつけていてもどうにもならないこともあるわ。そのお陰で―――おっと、これはいいわね。とにかく、役に立たなくてもカリナくらいはいつも連れておきなさい」
「はーい。」
「そうですよ。役に立たないとは思いますが私くらいは…ってひどくないですか!?」
みんなの笑い声が広がる。
プリンちゃんもプルプル笑ってる。
でも一人足りないのだ。
「ところでシエラ先生は?」
「シエラ先生は後始末で学園に泊り込んでるわ。傷が治ってからずーっとね。かなり責任を感じちゃってるみたいね。」
「ありゃ。私が勝手に動いて寝込んだから?」
「それもあるみたいだけど。学園長とセレナ先生が不死者だったというのがショックだった見たいだよ。特に学園長のほうはパパたちもショックだったからね。」
「だよね。私もビックリしちゃった。パパったら信頼してる先生だとか言ってたし。そういえば学園のほうは無事だったの?」
そういえばすっかり忘れてたけど学園もモンスターの大群に襲われてたんだっけ。
それもあって急いで攻略しようと思ってたんだった。うーん、いろいろ大変だっても仕方ないね。
「学園のほうは殆ど無傷だったよ。防衛部隊の軍人や騎士団に重軽傷者が出たけどもう治癒してるし、死人はどうにか出なかったみたいだしね。」
「そっか。よかったよかっただね!」
「とりあえずはね。カリナに聞いたけど、今回の件はあいつらが人工的に起こしたみたいね?」
「そういえばそんなこと言ってたなあ。あんまり大騒ぎにするつもりじゃなくってちょこっと実験したみたいな??そんなこと言ってた気が。うーん?思い出せないなあ。まあとりあえず今回は間に合ってよかったね!」
「今回は、ってどう言う意味だい?」
「んん?んーっと?なんだか前にも何かを守ろうとしたことがあったような気がするんだけど……だめだ。思い出せないなあ。」
「……まあ無理しなくてもいいわ。それより早く食べちゃいましょう」
「ワーイ!」
今日のご飯は私の快気祝いってことで厨房のみんなが張り切って作ってくれたみたい。
エルフ伝統のお料理で豆やら木の芽や実を多く使ったお料理だった。肉もいいけどこういうヘルシーなのもたまんないね!
そういえば今さっき『アーシャパラダイス』の中で不思議肉をい~っぱい食べたのにまだまだ入る。どうなってるんだろうなあ?まあいいか。細かいことは気にしなーい!
ご飯の最中に思い出してココアちゃんをパパとママに紹介。
ビックリするかなーと思ったんだけど、残念ながら二人とももう知ってたみたい。
私が寝てる間に見たんだって。反応見たかったなあ。
それから、ココアちゃんはかなり大きくなってる。きゃわいい子猫だったのにもう私と同じくらいの大きさだ。普段は何を食べてるんだろうなあ。
まあいいか。私は今日のお料理をもっきゅもっきゅ食べてお風呂にはいって寝室へ。
お肉をいっぱい、お野菜をいっぱい。バランスよく食べたからかさっきまで寝てたのにもう眠い。
ベッドは私の部屋に戻ってきていた。誰が動かしたのかサッパリわかんないけど不思議なこともあるもんだなあ。
おやすみなっさーい!
ぼちぼち投稿再開します。
毎日はちょっと難しいです。




