第41話 地獄耳
気持ちを新たに、街並みのようなダンジョンを進む。
今まで、洞窟のような階層や木と土で出来た階層。それから開けた地形の階層といろんなところを通って、戦ってきた。でもこの街並みはやばい。
(また矢!)
「こっちか!にゃろう、ライトニングボルト!」
盾で矢をはじいてお返しの魔法攻撃を放つ。
雷魔法は速度も早く、火力も高い。
そして何よりある程度近くに行けば勝手に着弾するという利点があるのだ。
今、窓から狙撃してきた敵は矢を放った後に壁の向こうに隠れたが、そこへ一直線に向かっていったライトニングボルトはギリギリでかわされた…と思ったらクイっと曲がって直撃した。
ふふん。自分だけ撃って隠れようなんて許さないんだからね!
「でも魔石拾いに行くのも大変だよね」
(この辺まで来ると売ればいい値段になるんじゃないプルか?)
「だから拾いに行ってるんじゃん。メンドイけど」
時間がないとかいってもさすがにコレくらいは許してもらおう。
いやあ、役得役得ぅ!
この階層では街中で武装した集団はあんまりで歩いちゃいけない決まりでもあるんだろうか?
モンスターがパーティーを組んで襲ってくるというのは今まで一度もないし、そもそも集団で歩いているところを見たことがないのだ。
隠密を使っているからかもしれないが、襲い掛かってくるのは遠距離攻撃を撃って来るやつだけだ。そいつが物陰から攻撃してきて鬱陶しいんだけども。
盾と剣で武装した人型、魔法使いっぽく杖を持っている人型…人間のようだけど倒すと消えるし人型モンスターだ。個人を識別できそうな顔みたいなのはよくわからない。
全身黒塗りでしかも顔部分はぼやけている。どうやら個人情報重視の集団のようだ。
エルフ社会でも個人情報は重要だ。
私は誰にも言っていないがかなり耳が良いようで、城の中の噂話もよく聞こえてくるのだが、○○の彼女は元××で~、その彼氏の彼氏が□□で~それが冒険者の△△と昔付き合っていて~など。冒険者ギルドにいって遊んでいても同じような話が聞こえてくる。あっちはもっと直接的な表現が多いようで◆▲×ってどういう意味?ってカリナに聞いたら顔を真っ赤にしていた。
上司と部下の人間関係も色々と複雑だったり。
しかも寿命が長いので昔どうとかこうとかというのは100年以上前だったりする。
元彼や元カノが300歳だったり。人間の冒険者の人が信じらんないってぼやいてた。
―――そういえばあの時、彼女は何故あんな事を―――
(何ぼやっとしてるプル!囲まれてるプルよ!)
プリンちゃんに言われてハッとする。
何を今考えてたんだっけ?わかんない。モヤモヤするなあ。
さっきまでの階層とずいぶん違う。
木と石の街がもっとしっかりした建物になっている。
道だって土がむき出しだったり石畳だったりしていたけど、もっとしっかりした何かだ。
あれ?いまどこだっけ?なんだか黒塗りも出世してるような。さっきまではしょぼぼい黒塗り装備だったのに、しっかりしたフルプレートや大盾にごついランスって騎士と、魔力を帯びまくりのローブに杖を持った魔法使い。弓兵だってカッコいい、ええ弓やで!ああいうのほしい!それにあれは銃だ!銃を持っているのもいるぞ!
銃は異世界から来た勇者が発明した武器で、火薬を使って力や魔力の低い人でも高い殺傷力を持てるという危険度の高い代物だ。
ただし、できる傷は体に穴が開く程度なので、頭に直撃したんじゃなければ治癒魔法の使い手がいればすぐに治る……ということで徐々に廃れていった。魔法や弓でいいじゃんって事だ。
まあ、もっと火力の高い銃ならなんとかってママも言ってたけど。
でも体に穴が開くって十分痛いんじゃないかな?
(あっ!)
「ぶぇ!?」
『あっ』が聞こえたと同時に襲いくる衝撃。
お腹を背中側から貫く銃弾。うーん、ないすリバー…痛い。くそう。言わんこっちゃない。
「痛いでしょうが!フレア…ミサイル・カタパルトぉ!!」
銃を撃って来た奴は三階の窓から撃ってきてる。
さっきまでは二階までの建物しかなかったのに、出世したなこの街も!
おかげで死角がいっぱいだよ!
「うう…痛いなあこんにゃろう。」
(まだ来てるプルよ!)
「隠密使ってたのに何でこいつら気がついてるの?」
(もう49層だししょうがないんじゃないプルか?)
「いつの間にっ!?おおっとあぶな!」
ランスを避ける。お返しの刺突は盾で受け流される。そしてランスが戻ってくるところで、
「アースバインド」
ランスを固定。がら空きの右側へぐるっと一回転して槍を叩き込む。体制が崩れたところで突き!
(矢!)
「うおっと!」
突こうとしたところを横から弓矢で妨害される。クソ邪魔な弓手め!
「ええい。ライトニングボルト!ついでにお前も!フレアミサイル!」
すでにプリンちゃんの酸弾を食らっている弓兵と魔法使いに対して魔法を放つ。魔法使いの方はレジストしたみたいだけど、弓の方は潰した。
「プリンちゃん魔法の方よろしく!」
(プル!)
仕留め損ねた騎士のほうへ。
すっかり体勢を立て直しているが、盾と武器の使い方は―――ベルレットさんのほうが上だ。
同じパターンで突き出してきたランスをかわし、槍で突こうとする。盾で防ごうとして体の前に大盾を持ってきたところで大きくジャンプ!
「どりゃー!」
脳天へと踵落とし!
そして追撃の刺突で仕留めた。
プリンちゃん?プリンちゃんなら私の横で…元気に魔法使いを喰ってるよ?
実はそういうスキルも有ったんだぜ!
でもアーシャは使い道を思いつきません……




