第39話 毒無効!?
後半珍しくシリアス展開です
とっても美味しかった食事の後で聞いたのだが、私がついうっかり開けた宝箱からの爆炎は天井を舐めるほどだったようだ。
というか草原に天井あったんだ……
「何であんなにうっかり開けちゃったんだろう」
(たぶんキマイラの毒蛇のせいプルよ)
「ああ。噛まれたのに平気だからおかしいと思ったんだよね」
毒耐性みたいなのはない…はずだ。なのに噛まれたのに平気だった。
おかしいなあと思いながら鑑定をしてみると私はレベルが9になっていた。
やったぜ!……と思ったけど、あるかもと期待した毒耐性はやっぱりなかった。じゃあ何で平気だったのか?わっかんないなあ。
(実は思いっきりやられてたんじゃないプルか?でも分かってなかったとか。何とかは風邪ひかないみたいに。)
「ぼろくそに言うねえ」
さすがにカチンと来るなあ。
でも実際毒でふらふらするなんて感覚はなかった。
いや、多少効いてたから判断が鈍ってうっかりパカッと開けたって説はある。でも毒は効いてる感じはないのだ。いや、毒が効いている感じってそもそもどんなのだろ?そういえば盛られた事がないからわかんないなあ。
「プリンちゃんこそ毒盛られてたりしないの?チラッと見たけど噛まれまくってたじゃん」
(効いてないプル)
「むむ。毒盛られたらどうなるか聞いてみたかったのに」
プリンちゃんはさっきの戦いで何匹かのキマイラを相手に大立ち回りをしていた。
大体私の魔法で弱ったあとの個体だったけど、尻尾が無事な奴もいてガブガブ齧られてた筈なんだけども。爆発の炎も効いてないみたいだし、物理攻撃はほぼ無効だし、スライムってもしかしてかなり強いんじゃ?
(ふふん。今頃気づいたプルか)
「さすがは私だ。かつての野望を自分でも気付かぬうちに叶えてしまっていたとは」
(野望プルか?)
「ドラゴンやら何やらよりも強いスライムを作ってやろうって思ってたんだよね。いやあさすが私。略してさすわた!さすわたさすわたー!」
(ちょ、ちょっと待つプル!なんでそうなるプルか!)
「何がよ?物理も効かなくって炎も効かない。他にもモリモリ耐性つけて、そして捕食してどんどん強くなる。最強じゃないのよ。そしてそれを育成・使役するのはこの私!ほら。何一つ間違えてないじゃん」
(前半は認めるけど後半は…まあそういえばそうプルけどなあ)
釈然としないプリンちゃんを尻目に、私は『アーシャパラダイス』から出て次の階層へと進む事にする。何だかんだ言ってちょっとノンビリしちゃったから地上が心配だ。さっさと進んでダンジョンボスちゃんを倒そう。げっへっへ。どんなボスなんだろ。楽しみだなあ。おまけにお宝もあるんだぜ!言うことないっすなあ。
さあ!休憩した分取り返さないと!さくっといくぞー!
~そのころの地上~
「隊長!流出するモンスターの量が想定よりやや少ないようです!」
「そうですが油断は禁物ですよ。魔法部隊は一時休憩としてください。学生たちには倒したモンスターの処理をお願いします」
王女により防衛部隊の隊長として任命されたシエラ。
先ほどまでは予想より少ない……今のところほんの2000匹程度しかスタンピードに寄ってダンジョンからあふれ出すモンスターはいなかったのだ。
通常、スタンピードが起これば少なくとも8000匹、多い場合は万を超えるモンスターがダンジョンから溢れ出す。
勿論、全体に見れば弱いモンスターの数の方が多い。
そして同士討ち、というか小さなモンスターが大きなモンスターに踏み潰されるといったことは多々ある。実際に戦うのは出現数よりはかなり少ない。そうはいっても、元が万を超える数なのだ。
防衛部隊として短時間の間に派遣されるのは軍が500、騎士団が500程度。後はそこらじゅうから戦力を掻き集めてくるしか方法は無い。
そして、通常は低層のモンスター、つまり弱いモンスターが最初に現れ、徐々に強いモンスターが増えてくる……戦いの本番はこれからということだ。
「ハイ!では屍骸の回収を行います。行くぞ!」
「「「おう!」」」
学生を率いるのは生徒会長であるエウローニュ王国の第2王子、ルーフェリア王子……アーシャの言う『部長』だ。勿論アーシャはまだ名前は覚えていないが。
ダンジョン前には高い土壁がV字型に構築されており、ダンジョン入り口から溢れ出たモンスターは壁の上からの魔法、矢、気刃などの遠距離攻撃により処理される。
また、Vの先端にたどり着いたモンスターは騎士団の盾兵部隊がこれを体で食い止め、さらにその後方から精鋭部隊による攻撃が行われる。
殆どの中級モンスターはこの『殺し場』で処理されるが、一部の上級モンスターは……
「きました!キマイラとサイクロプスです!100体以上います!」
「先ずは足止めを。その後は私が倒します」
「ハッ。先ずは火だ!撃てっ!」
壁上から撃たれる火魔法。火矢、生み出される燃料となる木、そして油。
『殺し場』の中は猛烈な高温に包まれ、大型モンスターたちも為す術なく焼かれていった。
そして次は風、水、土魔法と撃つ。
手足をもがれたモンスターたちが再生を始めたところで……
「絡まりなさい。私の子らよ」
シエラによる植物魔法の発動。
再生を始めていたキマイラを絡め取り、封じ込めながら磨り潰す。
何度再生をしてもその都度磨り潰される。そうして残るは魔石だけとなった。
「ふう。しかしこの分ならいけそうですね。後は中の様子だけですが……」
「困りましたね。こんなに綺麗に対処されてしまっては計画が台無しです。さすがは天才と誉れ高いシエラ・エ・ドライエデスと言いたい所ですがねえ。」
「あなたは……そうですか。あなた方の仕業でしたか。それで?私との決着でもつけますか?」
全身を黒で覆い、顔だけは真っ白の仮面と言う異様な出で立ち。
だが、その身に纏う魔力を見れば只者ではないことは一目で分かる。
そこに現れた者はかつての、これまでの戦場で何度か相対した『敵』だった
「決着は楽しみですが…今は止めておきましょう。あなたも可愛い生徒たちを皆殺しにされたくもないでしょう?それとも生徒たちを私達の仲間にすると言うのも一興でしょうか。」
「何をっ!」
「フフフ、冗談ですよ。では名残惜しい事ですが、一旦さようならです。私はあなたより中にいる方に興味がありますのでね」
「アーシャ様に手出しはさせん!『樹精結界』」
「おっと、これは失礼」
シエラは固有魔法を発動させるも、結界に閉じ込められる前に転移で逃げられてしまった。
「くっ……不死者め……」
相対していた者はかつての戦場で相対した不死者。
あの時も決着は付けられず。今回もまた……
「私は奴を追ってダンジョンに入ります。指揮は引き継いでください。お願いします」
シエラは副官を務めてくれていた軍時代の部下に後を任せ、不死者を追ってダンジョンへと向かう。
「姫様には指一本触れさせぬ……!」
大切な姫を、何としても守る。
その気持ちを胸に、シエラはダンジョンに吶喊した。
毒が効いてないわけではなくて、効きまくって酔っ払いみたいになっていたという風にとらえてもらえれば。ついうっかりふらーっとで大事故を引き起こす。酔っ払いの定番です。




