第32話 スタンピード
―――その日は夢見が悪かった。
なんだか、重苦しい何かが私に迫ってくるのだ。
何かはよく分からない。だけど、なにやら重大なプレッシャーを感じる。
ダンジョンの中では感じたことのない苦しさ、そして手強さ。
戦っても、斬っても、魔法を撃っても……倒したと思ったのに倒れてくれない。
消えてくれない。
私はもがき苦しみながらも進む。前へ。前へ。
何故だかは分からないが、そうしなければならないのだ。
そして取り戻す。私を。総てを
そうやってもがいている私に突然襲い来る息苦しさ、まるでケダモノのような臭いに覆いつくされて……
「ぶはあっ!」
「に゛やっ!!」
朝、目が覚めるとモフモフが私の顔の上に乗っていた。
そう、ココアちゃんだ。
ちなみにスラちゃんたちはお行儀良く私の周りで寝ている。
ポヨポヨできもちいいんじゃあ~
「あー、苦しかった。ひどい目にあったよ」
「うにゃ~ん」
「ごめんごめん。ココアちゃんのせいじゃない…よ。たぶん。」
(いや、その猫のせいだプル)
「……なんだか今日は胸騒ぎがするなあ」
(全く聞いてないプル……)
今日はいつもとは少し違う感覚がある。妙な胸騒ぎがするのだ。
シエラ先生もそういえば昨日帰ってこなかったみたいだし、変な夢は見たし重かったし、もっふもふだったし、獣臭いけど良くかいだらほんわりするいいにほひだし。
それにこの毛並みの艶。見てください!
いやあ今日もたまりませんなあ!何だこのニャンコめ!ゴロゴロ言いやがって!ゆるっさーん!
「ふもわああああ!もっふもふ天国じゃあ~!」
「うにゃ~ゴロゴロ…にゃ~ン…ふにゃ…」
「アーシャ様、そろそろ朝食を食べませんと。」
「カリナおはよ!見てたの?」
「見ていたと言いますか。まあ、はい。」
カリナは記録水晶を構えている。見ていたどころかばっちり撮影していたようだ。
この私がパジャマでニャンコと戯れている姿を。
へいへい。そういうのは一言断ってからにしよう?ね?
パジャマ姿だよ?この水晶いくらで売れちゃうの?
カリナと一緒に朝食をとっていつものように馬車で学園へ。
馬車の中ではプリンちゃんとココアちゃんと、ぽよぽよモフモフ天国だった。
昨日は大変なことになったけど、流石に今日は気を失うことは無かったのだ。
学園へと到着すると、学園内はなんだかザワザワしていた。なんだろなあ?
教室へ向かうと教室でもザワザワだ。どしたの?
「皆さんおはようございます。何かあったんですの?」
「アイーシャリエル様!お聞きになっておられませんか!?アルヘナダンジョンがスタンピードを起こす兆候があるようなのです!」
「あらまあ。知りませんでしたわ」
私に答えてくれたのはセイレーンのユリアンヌちゃん。
そのうち一緒に狩りに行けたらいいなあって思って狙っている子だ。
でもまだまだ子供なんだよなあ。セイレーンは妖精で寿命が長いから成長も遅い。
まあ大きさについては私が言えた事じゃないけど。
早く大きくなあれ!だ。
それはそうとスタンピードかあ。
ダンジョンのスタンピードとは、ダンジョン内のモンスターが異常に増殖し、ダンジョンの外へと溢れ出す事をいう。何故発生するのかはわからないが、とにかく当たりかまわず暴れ狂うモンスターが何百、何千、何万と出現するのだ。
当然の事だが、軍やら警備隊やら冒険者やらが出動してモンスターを押さえることになる。
なるほど、シエラ先生が昨日帰ってこれなかった理由はこれか。
パパやママがいないし、軍の首脳部がどうにかして押さえるしかないってことだなあ。
さて、それじゃあ楽しそうだし一応様子をチラッと見に行こうか。
「じゃあ、私はちょっと見に行くから。あとはよろしくねカリナ」
「え、姫様!ちょっとお待ちを!」
「ばいばーい」
そういい残して隠密を全力で発動。
同時にプリンちゃんを全身に纏う。すると透明で音も立てない不思議空間が出来上がるのだ。
どうやってるのかは分からないけれど、いつの間にやら出来るようになったんだなーこれが。
「アーシャ様!ダメですよ!」
「アーシャ様?危険ですよ?」
目の前ではユリアンヌちゃんとカリナが私を探している。
こんなに近いのに見えないもんなんだなあ。
隙だらけのカリナの背中をこしょこしょっと悪戯してから教室を出る。
まあ学園のことはとりあえず放置放置。ダンジョンの様子を見にいってきまーっす!
ようやっと話が進むのじゃあ……




