大嘘
ホラーチックな作品です。素人ですので是非ご容赦を。
青年は村の中で『大嘘付き』と呼ばれていた。
しかし一旦村の外に出て待ちの方に出てみれば彼の評価は『誠実なやつ』に早変わりする。
何を言いたいかと言えば彼は村の住民達による『嘘』によって大嘘つきのレッテルを貼られていると言うわけだ。
村の中では彼の言葉は何も理解されず、また彼を貶める為の嘘があれば村人全員がそれを支援した。好意で助言すれば「バカにするな」「またその大嘘か」と怒鳴られ、また「怪物が来る」と緊張極まりない顔で言われた夜に言いつけ通り家の中でジッとしていれば突如青年を抜いた住民総出で宴会が始まっていた。本気で心配になって駆け寄れば「そんな嘘も見抜けんのか」と大笑いされた。
それでも青年がこの村に住み続けた理由は一重に『仕事の邪魔にはならない』からだった。話すと馬鹿にされるのなら話さなければ良いし、幸い近くの町まで買い出しに行けば衣食住は十二分保証されている。
しかし最近、青年は人生において大事な分岐点にさしかかっていた。結婚だ。
その相手は青年行きつけの飲食店の店長で当然町に住んでいた。栗色の髪が可愛らしい人だった。昨年から始まった交際もようやく実を結び、現実的な結婚の話すら彼女からされていた。
それなら2人で町に住んで仕舞えば良い。もう何の思い入れも無いこの村を出る口実が出来たことに青年は高揚を禁じ得なかった。
そんなある日のことである。
朝、毎日のように家に鍵を閉めた時ある村人が青年にこう話しかけた。
「お前、今日夜中に帰ってくるか?」それは緊張を隠しきれていない、深刻そうな表情であった。
「いえ、夕方―――5時ぐらいには帰って来ます」
「そうかそうか」村人はホッとした表情を浮かべた。
「今は真夏だから5時ならまだまだ日が出てるな。お前さん、今日は森の化け物が出るから日が落ちる頃―――7時過ぎには家に電気を消して静かにしてな。……殺されんぞ」
(今日はこのパターンか)青年は呆れかえった心内を押さえつけて「それはそれは。忠告ありがとうございます」と微笑んだ。
「お前さんは大嘘つきだがそれでも村の一員なんだ。頼むから変な真似して殺されんでくれよ」
再度事の深刻さを伝えるように手を握り、声を落とした村人は他の村人にも伝えるべく向かいへと走っていった。
時計を見る。時間に問題は無かった。
その日の夜。帰宅した青年は家の物品を整理していた。
結婚というのが現実味を帯びていく中彼女からこれからは店の方に住まないかと提案されたのだ。
このタイミングでの提案は青年にとって二重の意味で僥倖だった。1つは大好きな人と同棲出来ること。もう1つは出て行くと同時に村人達へ仕返しが出来ることだ。
怪物の話。恐らく殆どの村人が8時には閑散とする今夜に敢えて徹夜で過ごし明日の朝村長にでも「お疲れ様でした」と言って村を引っ越す。
普段穏便な青年からすればこの程度な事でも十二分憂さ晴らしたり得た。
そして迎えた午後7時。青年は明かりなど消さずおもむろに本を取り出しレコードで陽気なジャズを流した。そのまま読書なんかを始めた。
8時前に窓から他の家を見ればちらほらと明かりが点いていた。何だか笑いにも似た面白い感情が込み上げて来た。しつこく続いた村の迫害は決して一枚岩では無かったのだ。
3冊目を読み終えるころには時刻は午前12時を回り、レコードももう何週したか分からなくなっていた。当然他の家は皆寝静まっておりもう誰も何かする気配は無かった。
そんな時である。コンコンと家をノックする音が聞こえた。
青年はこんな時間に来る客など覚えは無かったがしかし断る理由も無い。「少し、待ってください」と向こうの人へ呼びかけていつもの如くゆっくりと扉を開けた。
そこに立っていたのは濃緑の極端に細長い手足と2メートル長の体につけた巨大な瞳の魚のような顔だった。
「Hello」
掠れた、子供のような声と同時に視界の隅で赤黒い銀色が煌めく。
「あれ?お前さん?……ってうぁぁぁぁぁァァァァ!!!」
昨日の村人の絶叫が、モーニングコールとなった。
長編は自分には荷が重かったのでこれからは短編をちらほらと書いていこうと思います。




