あめどけい
切ないラブストーリー書こうと思ったらこうなった。
「ねぇ、風夜くん。明日、久しぶりに会わない?」
ある日、俺の元にかかってきた電話。
その相手は、小学校の時からの幼馴染である、怜奈だ。
「どうしたんだよ急に。つーか、急すぎんだよ、前に会ったの2年前だろ?中学の卒業式!あれ以来だぞ?」
本当に突然の連絡で、あまりに驚いてしまって、ついまくしたててしまう。
「あはは、ごめんごめん、なんか急に会いたくなっちゃってさ」
怜奈は、とても無邪気に話す。
昔から、明るくて無邪気で、人気者だった。
「まぁ、明日?特に用事もねぇし、大丈夫だけどよ」
俺がそう言うと、怜奈は「やった!」と、喜んだ後、続けた。
「じゃあ、明日の朝、中学校の前で!」
「あー、了解」
中学校の前には、地元の偉人の銅像が立っている。
だから、俺たちはよくそこで待ち合わせをしていた。
「あ、そうだ」
怜奈がふっと話を変える。
「1つ、天気予報してあげる。」
「はぁ?んなもんテレビとか見てりゃわかるだろ」
「相変わらずテレビっ子だねぇ、風夜くんは」
「うるせぇ!いいだろ別に!」
「ふふ、それでね、天気予報なんだけど」
少し間をおいて、言う。
「明日の夕方、6時になったら、大きな通り雨が降るよ。」
少し落ち着いた……いや、低いトーンで、怜奈はそっと伝える。
あまりに珍しい雰囲気だった。
「………わかったよ。」
俺が答えると、怜奈は笑いながら「また明日」とだけ言って、電話を切った。
翌日、俺は中学校前の銅像の辺りに向かった。
そこには、中学の時よりも少し髪が伸びて、大人びた雰囲気になった怜奈がいた。
「お、早いじゃん」
俺が駆け寄ると、怜奈は少しむっとした顔をした。
「風夜くんが遅いのよ!ほら、いくよ!」
「行くって、どこだよ」
「思い出巡り!……っていっても、昔よく行ってたとこ回るだけだよ!」
怜奈は、さっきのむっとした表情からぱっと笑顔になって、楽しそうに俺に話しかける。
他愛のない話をしながら、近く小さなショッピングモールや、本屋なんかに向かったりして。
「そういや、高校別んとこだけど、彼氏とか出来たのか?」
「えっと……」
「その様子だと…出来てないんだな?」
俺がからかうように言うと、怜奈は恥ずかしそうに怒る。
「う、うるさい!そういう風夜くんはどうなのよ!」
そう言われると、俺もうまく答えられない。
彼女なんて、出来る気配すらないからだ。
「ほーら、あんたも人のこと言えないじゃん!」
「うぅ…」
大分歩いて、ちょっとした街はずれ。
少し雲行きが怪しくなってきていた。
「結構遠くまで来ちゃったけど、やべーな、雨降りそうだ」
「言ったでしょ。夕方6時に、雨が降るよって」
「………」
あの時の言葉を、信じた訳ではない。
何せ、テレビの天気予報じゃ、どこも雨が降るなんて言っていなかったからだ。
「傘、持ってきた?」
怜奈は俺に心配そうに聞いてきた。
「……持ってるよ」
俺はカバンから折り畳み傘を出して見せる。
「ふふ、よかった、忘れてなかったんだ」
「なんだよ、俺が毎回傘忘れると思ってんのか?」
「だって、風夜くん昔傘忘れて濡れて帰ってたじゃん」
「あれはたまたまだろ!それにお前だって忘れてたじゃん!」
それは、小学生の頃。
俺は傘を忘れてしまい、雨の中濡れて帰った。
たまたま、同じ日に怜奈も傘を忘れていた。
仕方なく、一緒に濡れて帰った。
どっちが早く帰れるか、競争しながら。
今では、いい思い出だ。
「………懐かしいね。あの後揃って風邪引いたんだっけ」
「あー、そうだったな」
ふと見ると、怜奈は少し悲しそうな顔をしていた。
「……どうかしたのか?」
俺が聞くと、怜奈は俺の前に立った。
「風夜くん、私ね、やっぱり……」
「やっぱり?」
「風夜くんのこと、好きだった。」
あまりに突然な告白に一瞬驚いたが、すぐに返す。
「なんだよ急に!昨日といい、突然すぎるぞ……てか、友達としてだよな?」
何故か、余計なことまで聞いてしまった。
怜奈は、それを聞いて、優しい声で答えた。
「ううん、多分、恋してたんだと、思う」
多分ってなんだ。
さっきから様子がおかしい。
「なんだよ……どうしたんだよ」
「風夜くんは、どうかな?」
俺の声を遮るように、怜奈は問いかけた。
「………嫌いじゃ、ないよ」
はっきりとした気持ちなんて分からない。
恋愛感情なんて、そうそうすぐ分かるもんじゃないと思っているから。
「そっか、よかった。」
怜奈は、無邪気に笑う。
ぽつりと、雨が降り始める。
「風夜くん。……幼馴染の恋愛とか、漫画やドラマじゃよくあるけどさ、結局私達には、そんなの全然芽生えなかった」
怜奈は、俺に背を向けて話し出す。
「私も、そんなこと、ずっとないと思ってた。………最後まで」
「最後まで………?」
なにか、引っかかった。
その言葉と、その言い方が。
どこか寂しそうで、彼女らしくなくて。
「この先の踏切。そこで何があったか、よくニュース見てる風夜くんなら、知ってると思う」
昨夜のニュース。
それは、ちょうど今俺たちがいる場所の、少し先にある踏切で、誰かが事故にあったというもの。
あまりに凄惨で、未だにその身元は不明のままだ。
「怜奈………?」
「あれね、私なの」
信じられるわけがなかった。
死んだはずの人間が、ここにいるはずない。
「不思議だよね。私も、まだ不思議な感じ」
雨が、少しずつ強くなる。
「あの時ね、本当に不慮の事故だったの。遮断機が降り始めた時、線路に足が引っかかって抜けなくて。………一瞬だった」
とても悲しそうな目で、俺に語る。
「それでも、走馬灯?みたいなのってあるんだね。……最期に、風夜くんを思い出したの。」
俺の顔を見る。その顔は、雨に濡れている。
「何故か、また会いたい。最期に、会いに行きたいって、思ったの。」
濡れているのが、雨のせいなのか、涙なのか、分からない。
「神様の気まぐれ、なのかな。」
雨は強くなる。どんどん土砂降りになっていく。
「この雨はお迎えなの。私の、思い出の雨」
傘を忘れて走った、あの日の雨。
「ありがとう。また会えてよかった。」
懐かしい笑顔を向ける。
精一杯、涙をこらえながら。
「………元気でね。風夜くん」
雨が、酷く強くなる。目の前が見えなくなるほどに。
「怜奈!」
手を伸ばす。
そこにいるはずの怜奈に、その手が触れることはない。
まるで雨に溶けていくように、逝ってしまった。
雨は、少しだけ弱まった。
踏切の元へと歩いてみた。
遮断機の下に、花が供えられている。
俺は、そこに折り畳み傘を置いた。
「今日は、濡れて帰るよ。……傘は、ここに忘れたんだ」
言い訳とも言えない言葉を吐いて、背を向ける。
この雨は、俺と怜奈の思い出の雨。
怜奈が、溶けていった雨。
君を忘れないように、浴びて帰ろう。
きっと、好きだったはずだから。
どこかシリアスな恋愛ものを描こうと思ったら死にましたねぇ…
タグ付けがまったく分からなかったのでファンタジー?入れてみたけどこれは何処に入るんだろうか。
ありがとうございました。