第7話 「破壊神には記録係がいるそうです」
「にゃ、多才なこともわかったし、『こうなった経緯』ってやつを教えてやるか」
そう言ってドカボンが空中に手を伸ばすと ――――
―――― こんにちは、トウジです。
先ほどドカボン様が記録装置を切ったので、その間をわたくしが執筆させてもらっています。お目汚しすみません。
その記録装置は用紙を吐き出しました。
いわく、1話目からのことが書いてあるとか。
読んでみます。
・・・さて、1話目から読ませて頂いたのですが・・・・・・。はい、会話文が多くて読みづらく、何がしたいのかよくわからないというのが本音です。
読めます。しかし日本語を読んでるなあと感じるだけで、物語を読んでいる気がしません。
休日のだらだらした生活をカメラに押さえ、それを描写しているといえばよいのでしょうか。
そんなものを読んで経緯を察する?
無理です。
僕は正直に答えました。
するととにかく異世界に行きたがるドカボン様。理解はいらないそうです。
ヤスもまた、才能を貸してくれないかと催促してきます。
そこでわたしは聞いてみました。
異世界に行き、あくせく動いて、汚れて、危険な旅をする。
どこに魅力があるのか。
テレビにソファー、クーラーに冷えた飲み物、ポテチ、用を足したくなったらきれいなトイレもほらすぐそこに。
わたしの楽園は異世界になどではなく、一室のリビングに収納されています。
それに向こうにはネットがありませんからね。わたしの知識欲を満たすにはアナログ面の強い冒険ではなく、デジタルによる速さが不可欠。
楽しむ、面白いという点で、異世界に行く魅力は特にありません。
科学力の進んだ現代は偉大である。それをわたしは強く主張しました。
しかしそれを聞いてもヤスは冒険に行きたがります。
まあわかっていました。
いやいやでなく、強制でない。
これはヤスの選んだことなのだと。
わたしが頭脳派なら、ヤスは労働派。
体を動かす、考えるより先に。
それは野蛮で野性的に思えますが、それで正解だったと思えることをやらかすのがヤスです。
適当に選ばれた、みたいな始まり方でしたが、その直感を働かせたのがいやしくも神ならば、それは必然なのではと思います。
ヤスは僕が考えに考えた選択をあっさり選んでいく。それが悔しく、ねたましい。
ヤスは考えれば馬鹿らしいことなのに、それを平然と選んでしまう。それが微笑ましく、世話を焼きたくなってしまう。
そんなお互いにないところを埋め合い、馬鹿にし合いながら、気が付けば僕らは友達になっていた。
そして友として、ここに呼ばれた。
ヤスがそれを選んだ。
・・・・・・正直、これが夢なら僕はこんなにも悩みはしない。
あのドカボン様から漂う異様な存在感。
風が吹いていると思ったが、違う。渦を巻くように空気があれへと呑まれている。
時限式の爆弾を常に突きつけられる圧迫感で、キョロキョロ動く目がこちらの隙を見逃さない。その目線の多さに身震いし、吐き気がした。どんなケダモノの群れに、僕は投げ込まれたのか。
この草原に紛れた黒い床、あれはなんだ。背丈に似合わぬ巨大な影が、あれから草原に落ちているではないか。
あれが、これが、夢なんかであってたまるか。
ヤスほどではない僕の本能でもわかる。これはヤバい存在だ。
僕は考える。
ヤスは僕を呼んだ。
しかし今までの行動からして、SOSを求めてではない。
僕はただヤスが自然に選んでいる行動を正解だと後押しするためだけに呼ばれたのか。
それとも、馬鹿をやらかしてて、それを僕が気付かせるために、ヤスの直感に呼ばれたのか。
・・・ったく、直感で僕を呼ぶぐらいなら、その感で間違いに気付けっての。
考えろ。考えろ。
何が正解で、何が間違ってる。
情報を分析し最適解、情報を分析し、最適解!
考えろ。考えろ。考えろ ――――
―――― 「にゃ、記録装置再起動」
そんなのが1話からずっとお話を書いてたとはねえ
ヤスはそれが吐いたという用紙を読んでいた。
しっかしこれ読みにくいな
さっぱりしてるというか、描写が欠けてないか?
「・・・にゃ、ヤスにそう言われるなら末期かもな。
数日ほど前ガラクタ部屋から出てきたんだけど、やっぱ寿命きてたか」
ドカボンは何か透明なものを掴んでいたが、それを空中へリリースする。
・・・で、トウジがさっきから固まったままなんだが・・・・・・
いいから才能ひとつ貸してよ、と投げかけたきり、うんうん唸って考え事をしている。
「・・・にゃ、お前のために頑張ってるみたいだぞ?」
そうなの?
「このままだと『分析の才』が『分析の加護』に開花しそうだな。
環境が人を変えるというが、この神の間に来て化けるとは、こいつ本物か・・・」
なにいい!?
てめえトウジ! 加護ふたつ持ちとかチートかよ!
や・め・ろ! や・め・ろ!
「にゃ、加護をふたつプレゼントするために頑張るとか、いい友達だな」
フレー! フレー! ト・ウ・ジ!
がんばれがんばれトウジ! 負けるな負けるなトウジ!
「にゃ」
・・・・・・!
そしてトウジは最適なる解を導いた。
そう確信していた。