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犯人は一晩だけ異世界チートになるようです  作者: たいよう はさん
言霊神ナナセの自己実現願望 − 記録係 : キャンディー
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第16話 「未熟な神にご用心」

「…で、何があったにゃ?」


 まず聞いてみる。


「おサルが、手の光って、んむむーはぎゅうだけど、ひゅるひゅるひゅる、バーン!?

 ドカボン様ぁ…」


 最後は身振りを付けて説明してくれた。


「…にゃあ」


 支離滅裂すぎるため、いったん落ち着けと深呼吸させる。

 それがひっひっふー、ひっひっふーとラマーズ法だったことには敢えてつっこまない。


(余程興奮してるにゃね…)


 ドカボンはナナセの心理状態を察する。


(…もともと人格に少しは欠損があったからにゃあ……。

 感情の起こりがどうしても激しくなるみたいにゃねえ)


 そしてうーんと難しい顔で唸っていた。


(それでも紳士っぽいトウジなら大丈夫と思ってたんだけど、予想が外れたにゃ)


 立てば変態座ればオタク歩く姿は偽紳士。

 人はこれを、変態紳士と呼ぶ。

 なお、トウジが変態紳士かは不明だ。変態ではあろうが。


 まだ落ち着きそうにないナナセ。

 その間ドカボンの方も どんな話をされても驚かないよう、心の準備をしていた。


「たっだいまー!」


(…にゃ、面倒臭いのも帰ってきたにゃ)


 戻ってきたヤスの方を見て渋い顔をする。


(…今のナナセにこのヤスが関わると、負の連鎖反応にゃ)


 そう判断したドカボンはヤスを見張りに行かせ、ここから遠ざけようと思った。


「ねえヤス、どうしよう!」


 のだが、


「私とトウジ、キスしちゃった!」


(…お?)


 短い一言だが、まともな説明になっていた。


「わーお、おめでとーう」


 ヤスは手をぱちぱち叩く。


「マウス トゥー マウス?」


「ううん、おデコにされた!」


 そういって自分の額を指差す。


「ほーん。その(あと)にトウジは? 押し倒してきたか、やっぱり」


 腰に手を当て、ヤスは呆れた顔をする。


「…え?

 えーと、顎叩いたらお空に飛んでっちゃった」


「……ごめん、よく聞き取れなかった。

 お空がなんだって?」


「どっひゅーんって、お空に飛んでったの。

 おサルのヤスも一緒だったよ」


「…うっきゃー?」


 ヤスは首を傾げる。


(いい感じだにゃ。

 バトンタッチにゃよ、ヤス)


「にゃあ、のろけ話なら聞き流しちまうにゃあよ」


「の、のろけてないもん!」


 少し頬を染めて言い張る。


「そんなこと言って、トウジを悩殺させるぐらいのエッロエロなことしてたんじゃにゃあか?」


 ドカボンは口に手を当てつつ目を細める。


「…!?」


 するとヤスがハッと何かに気付いたようだ。


「エロいのはナナセだったか…!」


「私エロくないもん!」


「エロセ!」


「怒るよ! しまいにはぶん殴るよ! ヤス!」


 ナナセは歯をむき出してヤスへ怒鳴る。


(…直情的にゃ)


 にゃっはっはとドカボンは笑っておく。


「うちらの記憶がない間、いったいを何してたか。

 矛盾なく説明できないと、今日からエロセにゃね」


「ふえ!?」


 それを聞いてナナセが目を点にし、


「エロ神なんぞにトウジを渡せん。

 破談だ、破談!」


「…!」


 続くヤスのこの一言に、ナナセの顔からスッと血の気が引いた。


 おそらくこれが決め手になったのだろう。


「わわわわ!

 えーと、えーと、まずトウジが2人を集めてて ―――― 」


 ナナセは焦りつつも最もらしく、今までのあらましを説明し出した。

 おデコへキスのところになってもペースは乱れず、先程トウジを捕まえるまでの事柄が全てナナセの口から語られる。


「……」


「……」


(…話を聞く限り、『分析の加護』はナナセの手に余るか……。

 あれを使い熟すには、知識と知恵、それらの応用力、また、『ある程度結論を無視する思い切りの良さ』が求められる。

 となると持ち主のトウジに返すべきだが、その場合、ナナセに加護がなくなる…。

 …守護神でいられなくなってしまうにゃ……)


「……」


「…にゃあ」


「…なんてことだ!」


「……にゃ?」


 すると考え事をするドカボンの隣で、ヤスが(いきどお)っていた。


(そういやヤスには『わらしべの加護』があったにゃ…)


「ふおぉおお!」


 湯気が立ち上がらんばかりのヤスの怒りように、ナナセが怯えていた。


「ヤ、ヤス! 破談はいや! 破談は!」


 ナナセが祈るように手を組んでそう訴える。

 どうやらさっきの話を本気にしているようだ。


(…うまいことつついて、ヤスから『わらしべ』を取り出せないかにゃあ……)


 ドカボンは少しばかり思案する。


「…わかるぞヤス、その怒り」


(いや全然わからんけど)


「だろ? ドカボン!」


(いいからさっさと話すにゃ)


 ヤスは一呼吸いれ、


「ささやキッス!」


「…?」


「……?」


 いきなりそんなことを言い出す。

 ドカボンもナナセも首を傾げていた。


「トウジの奴! あろうことか美幼女に、囁きからのキッスだとお!?

 うらやまけしからん!」


 囁き+キスで、ささやキッスということだろうか。

 いきなりの造語は勘弁願いたい。


「ナナセに変な性癖が目覚めたらどうするんだ!!」


「…な!? 目覚めないもん!」


 突然なるヤスの暴言にナナセはすぐさま反論した。


「いや目覚める!」


「…な!」


「いや違う、目覚めろ!!」


「はぁああ!?」


(うっわあ…)


 ナナセが素っ頓狂な声を上げる。

 そしてヤスもヤスだ。暴走し過ぎであった。

 ちなみにドカボンは少し引いている。


「エロセとエロジの馬鹿やろおおーー!

 エロカップルー!」


「ヤ、ヤスぅ!!」


(これは直情的とかに関係なく怒るにゃ。

 …まあこんなことで怒り心頭とまではいかんだろうけど……)


「その口を閉じな!」


 ざわりとナナセの髪が揺れた。

 声音からして頭に血が上っているのがわかる。

 さすがに神へ対し、()(ごと)が過ぎるのではないだろうか。


「エロセとエロジはエッロエロ!」


 だが飽きずにヤスは続ける。

 ヤスの何がそうさせているのか。


「ぶ、ぶぶ、本気でぶっ飛ばすぞヤスぅうう!!」


 そしてナナセは怒鳴り、掌を握る。

 するとその拳が鈍く光り、それが赤い炎に包まれた。


(ああー、ガチで怒ってるにゃー。このお馬鹿ー。

 …しかし、本当に神の力が使えるようになってるにゃあか)


 その片腕を肩からぶら下げながら、顔を怒りに引きつらせ、ナナセはヤスを睨んでいる。


(ならちょうどいいにゃねぇ)


「エッロエロ! エッロエロ! あそ~れ!」


 ナナセ達から距離を取りながら、変な踊りを披露するヤス。


 しかしどうしたというのだ。

 何故ヤスはこんなテンションなのだろう。

 初めからこんな奴だと思えばそれまでだが、おふざけでここまで他者の神経を逆撫でる男じゃないはずだった。


「ヤスてめえ、私の拳が見えてないみたいだなあ!?

 ひとつじゃ足りないかあ!」


 声を震わせながら威嚇し、もう片方の腕にも炎を灯す。


「ぶっ飛ばす!!」


 ナナセの眼がぎらついている。


「にゃあ、ナナセナナセ」


「っく、やらせてください! ドカボン様!

 ここまでこけにされては、目にもの見せてやらないと…!」


 目の前のヤスを睨み付けたまま、ドカボンに懇願(こんがん)する。


「うん、やるにゃ」


「そんな止めたって ―――― 」


 (しば)し沈黙が流れた。


「 ―――― いいんですね?」


 確認のためか、ナナセの瞳がギョロっとこちらを向く。

 その目に怒りを滾らせながら。


「…にゃ、ただヤスの名誉のために言っとくけど ―――― 」


「……」


「……」


 続きを勿体(もったい)ぶるドカボン。


「 ―――― あいつ今、正気じゃないにゃよ」


「………え?」


「うちはヤスが頭上に落ちてきた時点で混乱が解けたけど、奴は今も中途半端なままで、やたらとハイテンションなんだにゃ」


 ドカボンはすっとヤスの方を向く。


「だからほら ―――― 」


 そしてヤスを指で差した。


「 ―――― ウザいだろう?」


 そのヤスといえば、今はあらよいよいと(みやび)に踊っている。

 行動のひとつひとつに法則性がなかった。

 あれが混乱のせいだというなら、なるほど、あれは正気な人間の様子ではない。


「………」


 ドカボンの話を聞いたナナセは、激怒していた熱がすうっと引いていくのを感じた。

 それもそうだ。

 なぜならあの無礼な有様はヤスの責任でなく、混乱させたトウジ、引いてはその力を制御させることができなかった、トウジの守護神たる自分の責任なのだから。


「……」


 なんてことはない。

 ナナセは自分の力足らずを、ヤスに押し付けているだけだったのだ。

 自分の失敗に、ただ感情的に、ヒステリーになっていたのだった。


 ただの人間のように。


(…なんとも、情けない……)


 今度は悔しくて泣きそうになるナナセ。


(やっぱり、私に神の資格なんて…)


「…にゃ、つまりこれは、『お前の好きなようにヤスをぶっ飛ばせ』と言ってるのではない」


「……」


 どうやらこんなナナセにもわかるよう、丁寧に、ドカボンが説明してくれるようだ。


「……」


 ドカボンは溜息をつく。


「お前のトウジ、『将来の旦那さんの尻拭いをしろ』と、言ってるにゃ」


「…!」


 ナナセがドカボンを見る。

 今度は怒りに染まらぬ、理性ある目で。


「できるにゃ?」


 その眼を正面から受け止め、ドカボンは問う。否、命令する。


「……」


「できるにゃと聞いてる」


「…もちろんです、ドカボン様!」


 ナナセは気付いていた。

 いや、『分析』のせいで見えてしまっていた。


 これは、ドカボンの優しさだと。


 ドカボンはこれが誰の責任か知ってる上で、ナナセに花が渡るよう、理由をつくってくれたのだった。


 駄目な神に『責任』で命令するのではなく、『将来の旦那さんの尻拭い』なんて甘い言葉に置き換えて、己で前に進むようにしてくれていた。


(…これが、世界神なんだ……)


 ナナセはかつて自分が目指した場所、そこにいる神をちらっと見る。


(生命を導くだけじゃない。

 神すらも導いてこそ、神の頂きに立つ神、世界神…そのひとり)


 (おさな)(つたな)い思考だが、ナナセはナナセなりにドカボンの神らしさというものを、改めて実感したようだった。


「……」


 そして(おもむろ)に両腕を前へ出す。

 そこから、はあ、すう、と軽く深呼吸し、ナナセは呼吸を整える。


(…ヤス、今助けてあげるからね!)


 怒り任せだった自分の力、それを、掌に集中させようとしていく。


「……」


「……」


 時間をかけて、ゆっくり、ゆっくりと、暴れる炎に一定のリズムを与えていく。


「……」


 ぼんぼん暴れていた炎、それがある一瞬を境に、静かにゆらゆらと動きを落ち着け出した。


(この、感覚…!)


 続いて炎がしゅるしゅると収束を始める。


(…今だ!)


「『正気』!」


 そして掛け声と共にぎゅっと掌を握った。


「にゃ」


 再び拳が鈍く、否、強くカッと光る。


「…よし!」


 するとその両拳には、それぞれ不思議な文字が浮き出ているのであった。

 代わりに先程までの炎を消して。


「ふむ、やればできるにゃ」


「はい!」


 そしていつの間にか、瞳の色を黒から赤に変え、ナナセがそこに立っている。


「そんじゃ、あの見苦しいの片付けてきてにゃ」


 そういってドカボンが顎で指した先には、エロエロ音頭(おんど)というヤス作曲で踊る、とある阿呆が1人。


「…なんて、可哀想な姿……」


 まったくにゃとドカボンが頷く。


「今楽にしてあげるからね、ヤス!」


「…にゃ? 楽?」


「はああああ!」


 そして神の力を充分に発揮させたナナセは、天高く飛び上がり ――――


 ―――― 結果、クレーターがもうひとつできた。


 その中央には、情けない姿で横たわるヤスの姿が………。


 その後、ナナセがドカボンに怒られたのは言うまでもない。


 そんなナナセの瞳は、赤から黒に、戻っていた。

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