第14話 「この幼き神に祝福を」
泣き止んだナナセの頭を撫で、トウジは立ち上がる。
「…さて」
そして腕を組んで、
「これどうしよう」
改めて現状を確認する。
「しーっぽのながいー」
「……にゃ~……ふにゃ~……」
「……」
とりあえず2人を一カ所に集める。
「…うーん」
しかし揺さぶっても叩いても、元に戻らないヤス。
また、頭を抱え続け、聞く耳を持たないドカボン。
(まさかここまで効果覿面とは…)
実はこれ、トウジが新しく手に入れた能力『✡.言霊神の使徒.✡』によるものだった。
言霊神を生み出す切っ掛けがトウジの加護だったからか、身に付いた能力である。
ドカボンから一応説明を受け、使い方は理解していた。
なんでもこれを使用することで、言葉に重みが加わるという。
ピンとこないが、要するに説得や交渉、そして演説などが、上手くなくても成功しやすいらしい。
言葉による幻術が可能だとも言っていた。
ナナセも同じのが使えるのか聞いたら、まだ神の力を使いこなせず、持ってる能力の範囲でしか力を行使できないらしい。
生まれたばかりだしそんなもんかと思った。
「これ戦闘に使えるの?
異世界には魔物とか出るんだろ」
「にゃあ、言葉が通じる奴には幻術で混乱ぐらいすると思うにゃ」
混乱?と、当初は聞いてもよくわからなかったが、
(…なるほど)
百聞は一見にしかず。
(言葉に重みを加えると、情報量で頭をパンクさせられるのか)
正直、こんなつもりはなかった。
とりあえず皆を納得させようと思い、どうせならと使用してみたのだ。
ただ、ドカボンが倒れた辺りからおや?と思い、ヤスには敢えてとどめを刺しに行ったのは認める。
(なかなか面白い能力だ…)
トウジは掴みが新鮮な内にあれこれと思案してみる。
「ねえ! トウジトウジ!」
しかしナナセが元気にパンツを引っ張ってきて思考を中断させられた。
「ん? どうしたナナセ」
トウジはしゃがみ込むと、ナナセが着るシャツの裾を掴み、まだ涙で汚れていた顔をごしごし拭ってやる。
「トウジ! 私、今なら神の力が使えそう!」
泣き止んでからというもの、さっきまで何かぼーっと、ナナセは自分の掌を見詰めていた。
「本当か?」
「うん!」
胸の重みが外れ、言い知れようのない何かがふつふつと湧いてくる感覚に、ナナセは確信を得ていた。
「僕みたいな幻術がかい?
やったな~ナナセ」
頭を撫でる。
ナナセはそれを嬉しそうに受け取るが、
「ううん、もっとすごいの!
見てて見てて!」
そういってヤスの側へ駆け寄っていく。
「…あ」
(…大丈夫だろうか。
これ以上、悪化したりしないよな?)
自信はあるようだ。しかし、もしもということがある。
トウジが止めようか決め倦ねていると、
「正気に戻れ~、正気に戻れ~」
(…お!)
盆踊りの振り付けのように腕を上げ下げし、ぐるぐると回り出す。
するとナナセの掌が発光し出した。
「…『正気』!」
そしてバッと掌を向け言い放つと、ヤスが暖かい光りに包まれていく。
「………」
歌が止まった。
「やったか!?」
「待って!」
ぎゅっと掌を握る。
するとナナセの光が染み込むように、ゆっくり、ゆっくりと、ヤスへと入っていった。
「……」
「……」
ナナセとトウジはごくりと唾を呑む。
これでうまくいったら万事解決だ。
「………う」
「…!」
「おお!」
ヤスが呻き声を、
「っきゃーー!」
「…はぁ?」
「あぁん?」
否、叫び声を上げた。
「うき、うききき」
ヤスは元気に四足歩行で動き出す。
とても先ほどまでただの人間だったとは思えない。実に身軽だ。
「……」
「……」
「…やったなナナセ、成功だ!」
トウジは優しく微笑み、ナナセの肩を叩く。
「ええ!?
でもあれ、おサルさん……」
「うっきゃーー!」
だだだっだだだっと、気持ちよく走り回るサル。
「…大丈夫だ。
知能に大差ない。つまり、成功だ!」
笑みを崩さず、頭の上に掌を置き撫でてやった。
(…許せサル、否、ヤス。
こうなってしまってはこれが最善。
お前の名誉を犠牲に、僕はナナセへ自信を送る…!)
「えーと、そ、そうかなー」
ナナセがもじもじし出す。
「ああ、この調子で神の力を伸ばそうな」
「本当に成功?」
再度確認してくる。
「もちろんだ。よくやったよ」
「偉い?」
「偉い偉い」
「………」
(…ん?)
何かナナセが呟いた。
「どうした?」
「じゃあキスして!」
「…ん?」
ナナセが目をつむり、んむむむーと唇を突き出してくる。
(…こっちが狙いかーー!!)
額に手を当て項垂れる。
「うきゃきゃきゃ!」
「む!?」
あまりの衝撃に後退ろうとすると、面白そうな匂いを嗅ぎ付けたのか、ヤスが走り寄ってきた。
(しっしっ!
あっち行けしっしっ!)
ジェスチャーでこっち来んなと伝えてはいるが、そこはサル。
お構いなしだ。
「きゃっきゃー!」
(背後を取られた!?)
スライディングで素早くトウジの後ろを取ると、片足をがっしり掴み、そこに居座るおサルさん。
(離・せ!)
振り払おうとするが、足はビクともしない。
そんなトウジをサルはニヤニヤしながら見上げていた。
字面通りならちょっとしたホラーだ。
(そこはお前の特等席じゃねえぞ!)
「んむむー」
ナナセは一歩前進する。
(っく! 後門のサル、門前のタコ!)
さすがのトウジも混乱してきたようだ。
(自信を付けさせるのはいいが、これは、やり過ぎでは!?)
とりあえずナナセの肩に両手を置いた。
「…!」
するとナナセはびくりと反応し、
「……! ……!」
徐々に顔が赤くなっていく。
「……」
(…っくっくっく、お前も恥ずかしいんじゃん……)
それを見て、ちょっと、気が楽になった。
どうせなら少し、からかってやろうと思うぐらいには。
「……ナナセ」
目をつぶってるのをいいことに、不意に小声で、耳元へ話しかけてみる。
「…!」
「好きだよ」
「…!!」
そしてビシリと、ナナセが固まった。
そのすきに、おデコへちゅーする。
ヤスがうきゃっきゃーと手を叩いてはやし立てるが、今は無視だ。
(神の力が使えるようになって、本当におめでとう、ナナセ)
そう祝福を捧げながら、ナナセにキスし、その髪を撫でるのだった。




