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コロシタノダレ ~黒猫学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
―エピソードⅠ― 「切札枠と舞踏人形」
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#8 監視役トランプ


 さすがに待ってくれ。何でいま人が銃撃を受けて血を流しているんだ。


 主催者側から私語は禁止だと事前に言われていた。今右腕を撃たれた女性プレイヤーは隣の女性プレイヤーと小声で会話をしていたのは夏男も気付いていた。しかし、それでも何で撃たれなきゃならない。


 銃声と女性の叫び声に反応したプレイヤー達は、撃たれた女性プレイヤーを見ている。他の人も何が起きたのか理解が出来ないでいる。


 一瞬、化け猫が拳銃を出したのかと思ったが、奴は通信機以外に何も手にしていない。どこから銃弾が飛んで来たのか分からない。食堂入り口付近から拳銃を持った男の足音が聞こえてくる。


「そこの小娘。私語はいけないよ」


 現れたのは男性の声をした黒猫のぬいぐるみ。ぬいぐるみの男の右手に所持する拳銃の銃口から煙が出ている。今の銃声はこの男の仕業だ。


「先に彼の事を紹介しておくニャン。彼の名はトランプ。この学園の風紀委員会の者ニャ。言わばこのゲームの監視役というところかニャ」


 風紀委員会。確か、ゴミ箱に丸めて捨てられていたゴキ退治に関する手紙を書いた人物。その差出人が風紀委員長だった。この黒猫のぬいぐるみの男、もしくは男の仲間が書いた手紙という訳か。


「良いか諸君。これで分かったと思うけど、これから我輩に逆らったり、ルール違反を犯した場合はこの男を含めて四人の監視役が動き出すからな。自分の行いには十分注意するニャン」


 何だこれ。ガチで撃ってるじゃないか。何が監視役だ。何が脱出ゲームだ。


「ほら小娘。これで止血しときな」


 血だらけになって倒れている女性プレイヤーにガーゼと止血剤を渡すトランプ。自分でやっておいてどうして被害者に優しく接していられるんだ。


 銃撃を目の当たりにしたプレイヤー達は、撃たれた女性を除いて固まってしまう。早くも得体の知れない学園に入学した事を後悔し始めるプレイヤー達。注意するにしてもこれはやり過ぎだ。


「ニャニャ、そんな目でこっちを見るニャよ。こんな程度でいちいち驚いていたら、この先長くは持たないぞー。うーん、何ていうか、再生に犠牲は付き物なんだから。ニャ?」


 夏男の直ぐ右側に立っている眼鏡を掛けた少年の身体が震えている。この子がペル電子手帳のプロフィールに載っていた唯一の小学生プレイヤーだろう。


 涙を流す少年を横目で見ていた夏男はいても立ってもいられなくなった。後先考えずに動き出そうとした、その時だった。誰かが夏男の左腕を強く掴んできた。


 掴んできた手も酷く震えている。振り返ってその人物の顔を確認してみる。その人物は先ほどメッセージのやり取りをしていた北村玲美だ。


「血のお披露目会で場が盛り上がってきたところで、さっそく今回行うゲームのルールを説明するニャ」


 ・参加プレイヤーは計二十名


 ・期間は本日午後十時スタートから二十日後の午後十時


 ・夜時間は午後十時~午前六時(就寝時間の間は個室待機、出入禁止)


 ・プレイヤーの中に黒幕の『ドンしゃく』という人物が紛れている


 ・プレイヤーにはそれぞれ一つ枠ミッションがランダムで与えられる


 ・個人の脱出方法は脱出ルートを抜けるか、枠ミッションの条件クリア


 ・集団の脱出方法は黒幕ドン釈が二十人の誰なのか正体を暴く事


 ・制限時間を過ぎた場合、または枠ミッションに失敗した場合はゲームオーバー


 ・ゲームを優位に進める施設としてショップやカジノが用意されている


 ・一部例外もあるが、基本的に黒猫学園内に置いてある物は使用可


 ・事件があった場合はそれぞれ「モレクの間」と呼ばれるエリアに集合


 ・ゲーム開始と同時にパートナーを一人選ぶ(相手は自由に選択出来る)


「では、さっそく枠ミッションの割り振りをするから番号順に呼ばれた者からくじを引いてくれニャ。あ、くじ引きの注意点なんだけど、これから夜時間を迎えるから諸君にはくじの中身を見ないまま部屋に戻って貰う。くじの中身は各自部屋で確認してくれ」


 枠ミッション。恐らく個々に与えられたクリア条件が複雑に絡み合い、混乱を招くつもりでいるのだろう。拳銃を持ち出してる時点で連中の事は全く信用していない。


 夏男の隣に立つ小学生の名前を、ペル電子手帳を使って調べてみる。彼の名は「三野みの大海たいせい」。さっき空白だった一言欄に「あ」と書いている。この子だけでも何とかしてあげなくては。


 静かに大海たいせい君の肩に手を置く。顔を見上げて夏男を見る。夏男の表情は「大海君、大丈夫だ」と言っているように思える。大海君の頬っぺたが赤くなっている。


 夏男の腕を掴んでいる北村の番号は十三番。大海君の番号は十一番。この三人の中で一番早く枠ミッションのくじを引くのは大海君だ。夏男は二十番なので最後の余り物に決定する。


 それぞれが番号と名前を呼ばれて枠ミッションのくじ引きボックスへ向かう。監視役のトランプが、部屋に戻る際にくじの中身を見る違反者がいないか鋭くチェックしている。


 例え彼が見ていなかったとしても、建物中に設置された監視カメラが違反を許さない。恐らく化け猫が紹介していた他の監視役が監視しているのだろう。


「じゃあ次はー、プレイヤーナンバー六番の十河愉快くん!」


 あの十河愉快の名前が呼ばれた。色んな事が一気に起こったせいで、彼についてはノーマークだった。夏男はこの時初めて自分を利用しようとしていた男の素顔を見る事になる。



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