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コロシタノダレ ~黒猫学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
―エピソードⅠ― 「切札枠と舞踏人形」
15/18

#15 奇人のよりどりみどり


 どうしてこうなってしまったんだろう。

 俺はただ、彼女の言っている事がよく分からないと伝えただけなのに。あの保健室に居た「熊耳くまがみはるか」という名の着物女がこちらに怒りを向け、追い掛け回して来る。


「だから話を聞いて下さい熊耳さん。俺はあんたの話をおかしいと言ったつもりではありません!」


「ウチを馬鹿にした事実に変わりはないじゃろーに!」


「だから誤解なんです。俺はただ、あんたの話が難しくて理解出来なかっただけなんだよ!」


「それじゃあれか。ウチが世間知らずの大馬鹿者だから貴殿の耳に通らぬと申すか!」


 駄目だ。いくら説明しても分かってくれない。各プレイヤーのマイルームにあった刀の無い鞘を振り回してこちらに向かって来る。本気なのかネタなのかよく分からない。


「とりあえず一回落ち着いて話し合いたい。だからその鞘をしまってくれよ!」


「このムッツリスケベ。鞘を失ったウチに性欲を強要し性行為を企むはらであろう。そうはさせぬぞ!」


 建物中に響く声量で人を変態扱いしてきた。そうはさせないと言って、熊耳が鞘をこちらに向けて投げてきた。見事、後頭部にヒットした夏男はその場で倒れてしまう。


「夏色の染めし神の子、隙、見極めたり!」


 床に倒れている夏男に向かって飛び掛って来た。次の瞬間だ。襲い掛かろうと飛び上がる熊耳に、割って入る何者かが彼女を床へと張り倒す。


「なに奴!」

「兄貴をいじめるな!」


 何だ。何が起きた。どうして小学生の三野みの大海たいせい君が熊耳さんの身体に乗っかっているんだ。兄貴って誰の事だ。まさか今の一瞬で俺を助けたのか?


「なんじゃ童。ウチの邪魔せんといてーや」


「うるさい着物の化け女!」


 なんだなんだ。おかしな展開になってきたぞ。大海君を守る予定がこっちが守られているじゃないか。大海君は何か武術でも習ってるのだろうか。


「と、とにかく熊耳さん。これは全て誤解なんだ。あんたの話を馬鹿にしてるつもりも否定してるつもりもない。難しいって言ったのは俺が無知なだけで、あんたが引け目を感じる事はない」


「なんだなんだお前ら。初日の朝から大広間で殺し合いでも始めるつもりか、オラ!」


 今度は柄の悪い女性プレイヤーが割り込んできた。大広間で喧嘩はさすがに目立ち過ぎている。ペル電子手帳を使って、割り込んできた女のプロフィールを見てみる。


 彼女の名は「牧山まきやま桜咲さき」。服装はヒョウ柄の上着にミニスカート。金髪でオールバックのヘアスタイルに、金色のピアスや口ピアスが特徴的だ。趣味はバイクで特技はドラムと書かれている。


 見た目だけの第一印象を言ってしまうと「不良」で正解だろう。とても未成年には見えない。そんな彼女が、このコントみたいな状況をどうするつもりだ?


「そこの少年。さっきの四方投げはナイスファインプレーだったわ。ただし女に使うもんじゃないよ。合気道を習ってるのかしら?」


「そうだけど……」


 なるほど。大海君は合気道をやっているのか。だとしたらさっきの状況を止められたのは、まぐれでも何でもないという訳か。これは驚いた。


「朝から元気で何よりだ。よしお前ら、とりあえず食卓囲んで朝食にしようや。そこの着物女も腹を空かせてるせいでカリカリしてるんだろうさ」


 牧山の柄の悪い印象を一変させ、暴力的なプレイヤー達を簡単にまとめてみせる。確かに昨日の出来事もあって、殺伐とした雰囲気漂うこの状況がそうさせているのかもしれない。


 食堂には新島さんが夏男と安藤さんを含めた三人分の朝食を用意している。安藤さんに朝食を運んでから新島さんも入れたこのメンバーで今後のプランについて相談してみる事にする。


 食堂に集まったのは自分と新島さん、牧山さん、熊耳さん、大海君。それから安藤さんの朝食を運んだ帰りに連れて来た北村。後は先客の色白男と食堂で朝食を作っている赤髪の男を含めた計八人だ。


 もしかしたらこれから朝食を作りにやって来るプレイヤーもいるかもしれない。その時は無条件でこの輪に入れよう。一部例外のプレイヤーもいるけど……


 最初見た時に怖そうだと思った牧山さんは、小学生の大海君と楽しそうに合気道の話をしている。大海君は彼女に任せても良いかもしれない。熊耳さんは一人黙って食事をしている。さっきの喧嘩を引き摺っているのだろう。自分とは目も合わせてくれない。


 横に座っている北村と新島さんは主に夏男と会話をしている。北村とはこれから夜時間にメッセージのやり取りはしないよう無理に約束をさせた。


 名前がまだ分からない色白男はテーブルに頭を置いて眠っている。夜時間に眠れなかったのだろう。長い銀髪が傷んでボサボサになっている。彼については目を覚ましたら話を掛けてみるとしよう。


 赤髪の男は厨房にこもり、食堂へ訪れたプレイヤー全員の朝食を慣れた手付きで用意している。新島さんが言うには、自分らの朝食を作ろうと食材の用意をしていた時に赤髪が食堂に訪れたとの事。


 彼は厨房に入るや否や新島さんに「何が食いたい」と言い、自分を含めた四人分の朝食を作り出した。新島さんは厨房から追い出され、ダイニングルームに置かれたテーブルの椅子に座っていた。


 黒猫学園生活初日は白米、味噌汁、金目鯛、茄子のお浸し、キノコのソテー、サラダ、食後の洋梨と栄養たっぷりの豪華な朝食となった。


「今後のゲームプランについて話を進めたい。このメンバーで作戦会議をしよう」



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