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コロシタノダレ ~黒猫学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
―エピソードⅠ― 「切札枠と舞踏人形」
14/18

#14 ピロピロ笛


 化け猫に枠ミッション内容が書かれたくじ引きの紙を渡す。これで物的証拠は無くなった。こうなってしまっては、誰が何の枠を持っているのか確認のしようがない。


「確かに受け取ったニャ。それと安藤、此処にいるんだろ。悪いけどちょっと安藤に用があるから部屋に入るニャ。では、良い学園生活をお過ごし下さいニャン」


「安藤に手を上げてみろ。俺が許さないからな」


「そんな事しないニャ。彼女も大切なこの学園生徒の一人ニャ。ほら、さっさと行った行った」


 そう言って夏男のマイルームへ入っていく。きっと安藤にくじで引いていた枠ミッション内容の報告をしているのだろう。化け猫にドアを閉められ、二人の会話を聞く事は出来ない。


 裁判枠のプレイヤーと手を組もうと考えていた予定が台無しだ。今はどうしようもない。さあ、これからどうするか。


「とりあえずショップに行ってみるか。ゴキを換金した金で買い物出来るなら買い物してみよう」


 長い廊下と各プレイヤーが夜を過ごすマイルームエリアを抜けてホールへ出る。そこには「食堂」「保健室」「浴場」「ショップ」「空き教室」が設けられている。体育館へ続く通路や二階へ続く階段も確認出来る。


 何処にも外に出れそうな窓が見当たらない。ホールエリアから玄関の出口ドアはシャッターで封鎖されている。主催者側は逃げようとするプレイヤーを外に出すつもりがないようだ。


 ショップに着いた。しかし、店はシャッターで閉まっており、立て看板で「営業開始予定、二日目午前九時」と書かれている。換金はショップでやるんじゃなかったのか。


 ゴキブリの死骸が入ったプラスチックの箱を後ろポケットにしまう。自分で自分の行いを冷静に見て何をやっているのかよく分からなくなる。どうして自分はゴキブリの死骸を大事に持っているのだろうと。


「昨日は申し訳ございませんでした」


「わっびっくりした!」


 いきなり後ろから話し掛けられて驚いてしまう。声を掛けてきたのは、気を失った安藤を支え、自分の前にくじを引いた眼鏡の男。


「ああ昨日の。おはよう」


「おはようございます。あの、昨日の……」


「安藤は俺のマイルームで安静にしてるから心配するな」


「そうですか。やはりあなたが彼女を預かってくれていたんですね。申し訳ございません。あの時は周りの状況に理解が追い付かなくて、保身の事だけ考えておりました。最後はあなたに全てを預けてその場を後にしてしまいました。伏してお詫び申し上げます」


「あんたは正常だよ。あんな状況でお人好しは通用しないからな。それより、これからどちらへ?」


「はい。ゴキブリを退治したので報酬を貰いに」


「どうやらまだ報酬を受け取れないみたいだぜ。店は明日の午前九時に開店するんだとよ」


「そうなんですか。どうしましょう……」


「食堂に行ってみないか。もしかしたらプレイヤーの朝食が用意されているかもしれない」


「そうですね」


 眼鏡男の名は「新島にいじま悠平ゆうへい」。ペル電子手帳で確認した最年長の十九歳プレイヤーだ。身長が187センチと大きい。夏男はひとまず彼と行動を共にする事にした。


 食堂には、広いダイニングスペースとその奥に厨房があった。二十人以上が座れるロングテーブルと椅子が置いてある。奥の厨房に入ってみる。


 厨房には十分過ぎる程の食材が並べられている。冷凍食品、魚介類、生肉、調理加工品、未開封のデザート、練り製品、麺類と盛り沢山だ。


 一般食材は、調味料、だし、乾物、油脂、缶詰、惣菜、漬物。香辛料、カレー、乳製品、粉類、パスタ、インスタント食品、米穀。飲料も充実している。未成年者が集まるゲームだっていうのに、何故かビールやワイン、日本酒やウイスキーといった酒類も用意されている。


「なるほど。こりゃすごい。自分で食いたいもんを勝手に作って食えと」


「そうみたいですね。しかしここまで充実しているとは驚きですね」


「ああ。連中は本気で俺たちを殺し合わせたいみたいだ。つまらない事で死なれたりしたら困るんだろうよ」


「そんな怖いこと仰らないで下さいよ」


「ごめん」


「安藤さんの朝食、まだですよね?」


「ああ。作ってやらないと」


「宜しければ、私が神崎さんのを含めた三人分の朝食をご用意させていただきます。私に出来る事と言ったらこれくらいしか思い浮かばないので……」


 彼なりに昨日の自分の行いを反省しているんだろうな。今は料理に時間を取られている場合でないのも事実だし、ここは彼に任せてみるか。


「分かった。よろしく頼むよ」


「そうですね。では二十分後にまた来て下さい。朝食をご用意してお待ちしております」


「りょーかい」


 朝食の支度を新島に任せて食堂を後にする。さて、次は何処へ行ってみるか。仲間を増やす為に、なるべく他のプレイヤーが集まっていそうな場所が好ましい。


 上の階や体育館も気になるけど、とりあえず一階のホールエリアを見て回ろう。浴場は午後五時まで閉鎖中らしいし、空き教室はそのままの意味だろうし、ショップもまだ開店していない。


「誰もいないだろうけど、保健室に行ってみるか」


 保健室と案内された部屋を訪ねてみる。中は想像通りの保健室って感じだ。ただ用意されているベッドの数が八台もある。これから怪我人が続出しますってか。ふざけるな。


 よく見ると誰かが部屋の一番奥のベッドで横になっている。こんな状況だっていうのに呑気なものだな。保健室でズル休みしてるってか。


 黒髪に梅の花で細工された髪飾りが輝いている。息を吹き掛けると紙笛が伸びるピロピロ笛をピーピー吹いている。和装が趣味なのだろう、場違いな紫色の着物を着ている。


 監禁されてる学園の保健室で着物を着たピロピロ少女に出会うって、日常の中ではありえないエピソードだろう。変な人感が否めないけどその女性プレイヤーに声を掛けてみる。


「おはよう。体調でも悪いのかい?」


「自然換気の効率の悪さに苛立ってな。気分転換にと柏木様の遺品となった紙笛で、夕霧の手を介して薫の手に渡って行く過程の風景をイメージしておった。して、知られざる財宝は保健室に隠れたりとな」


「なるほど、ちょっと何言ってるか分かんないです」



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