#11 ゲームパートナー
銃弾が夏男に向けて放たれる。その銃声と同時にマイルームへと飛び込む。銃弾は夏男の後ろ髪を貫通。
間一髪のところでマイルームまで戻れた。室内に投げるように入れた安藤が死体のように倒れている。結局、彼女のマイルームは最後まで見つからなかった。
開いてる入り口ドアが自動で閉まりかけたその時だった。閉まるドアを掴んで阻止しているのは、銃撃してきた監視役の男。彼の持つ拳銃の銃口をこちらに向けている。
「ま、待ってくれ、此処はマイルームの中だ! 撃つな、俺達はちゃんとルールに従っている! ルールにはこう書いてあったよな。夜時間の部屋からの出入りが禁止で、プレイヤー同士の部屋交換は認められていないと。見ろ、俺達はこうして部屋にいる。ルールのどこにも他プレイヤーの部屋に泊まっていけないとは書いていない筈だ!」
「…………」
「部屋から出入りさえしなければルール違反にはならない。お前、ゲームを取り締まる監視役だろ。監視役が何の違反もしていないプレイヤーを射殺でもしたら、やってる事が矛盾してるんじゃないのか。俺はただ公平にゲームを進めてくれとお願いしているだけだ!」
同じ監視役でもぬいぐるみを着たトランプとは違い、普通に素顔を見せている男。見た目だけで言ってしまえば彼も夏男らと同年代に見える。どうしてこんな若造がこのゲームの監視役をやってるんだ。
夏男の熱い弁明を聞いた彼は、構える拳銃を後ろポケットに入れ、閉まるドアから手を放す。どうやら納得したようだ。自動ドアが閉まっている間に視線を逸らすことなく睨み合う夏男と監視役の男。
ドアが完全に閉まりきった。二発も銃弾が放たれたのに頬の軽い出血で済んだのは奇跡としか良い様がない。敵は本気で夏男を殺す気で向かってきていた。
「おい安藤、安藤しっかりしろ」
安藤に意識はない。血だらけになった上着だけでも着替えてもらいたかったが、彼女に起きる気配はない。仕方がないからそのままベッドに寝かせる。
彼女が貰っていた代えのガーゼをポケットから取り出して貼り付ける。夏男の上着を使って右腕に巻き付ける。安藤の血で真っ赤に染まった自分の手を見て、自分は今なにをやっているんだと思ってしまう。
「どうしてこんな事になっちまったんだ」
このゲームに参加してしまった自分の行いに強く後悔している。人に殺されかけた現実に、じわじわと恐怖が膨らみ涙が流れる。
「何が再生へ向かう若者達へだ。何が生徒達が一丸になって困難を乗り越え、共に成長していく夢の脱出ゲームだ。あんたらがやってる事は銃撃と監禁じゃないか。ちくしょう!」
この調子ならどうせ、室内にも監視カメラが隠されているんだろう。そう思った夏男は、マイルーム中に響き渡る声で主催者側に怒りをぶつける。
「安藤だけでも治療してくれ。頼む、傷口からばい菌が入ったら大変だ。こうして呼吸をしているだけでも大変そうなんだよ。頼むよ、なあ、聞いてんのか、人殺し!」
溢れる怒気のあまりに、テーブルに置いてあったゴキジェットを洗面所へ思い切り投げつける。次にペットボトルに入った飲みかけの水を一気飲み。空になったペットボトルを入り口ドアへ投げつける。
「良いかお前ら。このゲームでもしも、もしもだ。もしも死人でも出してみろ。その時は俺が絶対に許さない。ふざけ半分でやっているのなら、今直ぐに俺達を此処から出せ」
届いているのかどうかも分からない夏男の言葉。それでも夏男は何もせずにはいられなかった。このタイミングでゴキブリがタンスの上から出現するが、この状況では知ったこっちゃない。
「神崎くん……」
「あ。安藤さん。気が付いたか」
一瞬、どうして自分の名前を知っているのか疑問に思ったが、それは青髪の早乙女が夏男と呼んでいる会話を彼女が聞いていたからだろう。重たい身体をゆっくり起こす。
「えっと。此処は神崎くんのお部屋?」
「そうだ。ごめん、君を部屋まで連れて行ってやりたかったんだけど、時間が足りなかった」
「こちらこそ色々と迷惑を掛けたみたいでごめんなさい。ミッションのくじを引いているところまでは覚えてるんだけど、その後が……」
「君は気を失ったんだよ。多量出血で呼吸困難になってた」
「そっか。神崎くんが此処まで運んでくれたの?」
「そうなるね」
「あああ、ごめんなさい。ベッド汚してしまったみたいで、本当ごめんなさい!」
被害者であるべき安藤の謝っている姿を見て、先ほどドパッションねこから説明されたあのルールを思い出した。彼女は手負いだ。きっと組んでくれるプレイヤーはいないだろう。
「そんな事より安藤。俺とゲームパートナーを組んでくれないか?」
・ゲーム開始と同時にパートナーを一人選ぶ(相手は自由に選択出来る)




