#10 フレームデッドゲームスタート
「プレイヤーナンバー十八番『安藤愛冬』ちゃん」
ゲーム開始まで残り三分。やっと十八番まで呼ばれた。しかし、今呼ばれた安藤という名前の女性プレイヤーは、先ほど監視役のトランプに右腕を撃たれた女性プレイヤーだ。
右腕にガーゼを当てて、身体をフラつかせながらくじ引きボックスのあるテーブルへ向かう。彼女については夜時間に考えるとしよう。今は何もしてあげられない。
ペル電子手帳より安藤愛冬のプロフィールを見てみる。
年齢は十六歳でフリーター。身長は152センチと小柄。以前通っていた高校の制服だろうか。制服姿で今回の脱出ゲームに参加している。趣味と特技欄にピアノと書いてある。
「今回の反省を踏まえ、次からは自分の行いに気を付けてゲームに挑むのニャ」
「はい。すみま……」
今にも倒れそうな身体でくじ引きボックスに手を伸ばす安藤。いや、倒れそうではない。彼女は、ゲーム開始まで三分を切ったこのタイミングで気を失う。
呼吸困難と大量出血により気を失ってしまった安藤。左手に持っていた枠ミッションの内容が書かれたくじが床に落ちる。
安藤が床に倒れかけたその時だった。安藤の次にくじを引く予定の男性プレイヤーが彼女を両腕で抱える。神崎も倒れる彼女に駆け寄ったが間に合っていない。
「気を失ったみたいだニャ。もう二分でゲームが始まるっていうのに、どうしてくれるニャ」
化け猫の仲間が拳銃で右腕を射撃したせいでこうなっているんだろうが。後二分でゲームが始まると言われても困る。ゲームが始まったら夜時間も同時に迎えてしまう。
眼鏡をかけた男性プレイヤーが安藤を床に眠らせる。残り二分と聞いた男は、自身の枠ミッションくじを引く。それをポケットにしまってその場を後にしようとする。
「え。お前。何やってんだよ。この子を置いて行くつもりか?」
てっきり安藤をマイルームまで運んでくれるのかと思っていた夏男は、思わず眼鏡男に話し掛けてしまう。
「すまない。この状況に混乱していて、今は自分の事しか考えられない。一人にさせてくれ」
「くそ!」
眼鏡男の言い分は分かった。もっともな意見だろう。だが、夏男は重傷な上に気を失っている安藤をこの場に置いて行く事は出来なかった。早々にくじを引いて彼女を抱き抱える。
時間がない。残り二分で安藤のマイルームを見つけ、そこに彼女を置いてからマイルームに戻らなければならない。食堂から最短で一分も掛からない。今ならまだ間に合う筈だ。
食堂を後にする。抱き抱える安藤は小柄という事もあって思っていたよりは重くない。問題なのは彼女の部屋を一分の間に見つけられるかどうかに限るが。
プレイヤー達の待機するマイルームエリアに到着。二十号の中から彼女のマイルームを探す。
「考えが甘かった。部屋の位置がプレイヤーナンバー順になっていないハアハア。これじゃあ彼女の部屋を見つけられたとしても、自分の部屋に戻れないかもしれない」
残り三十秒。安藤のマイルームが何処にあるのか分からない。マイルーム入り口のドアにはそれぞれの似顔絵と名前が貼り付けられている。だが、安藤の似顔絵が見当たらない。
電子ロックされた自分の部屋を指紋認証で開けるだけでも二十秒は掛かる。読み込み時間が十秒。ドアが開いて閉じるまで十秒掛かる計算だ。
「仕方ない。行くしかない!」
廊下の奥からトランプとは別の監視役と思われる人物が拳銃をこちらに構えている。夜時間になったら射殺されるかもしれない。こうなったら一か八か行くしかない。
夏男は自身のマイルーム入り口ドアを開ける為、入り口にセットされている指紋認証機に人差し指を置く。だが、指に付着している汗のせいでなかなか認証してくれない。
三回目にしてようやく指紋認証が完了される。夏男のマイルーム入り口ドアが開いた、次の瞬間だ。
「十時になりました。よって、ただいまより生き残り脱出ゲーム『フレームデッドゲーム』開始のお知らせを致しますニャ。プレイヤー諸君の健闘を祈るニャ。それと同時に夜時間を迎えました。諸君は絶対に部屋から出ないで下さいニャ」
その直後に廊下の奥から銃声が鳴り響く。銃弾がマイルームに安藤を投げ入れた夏男の頬っぺたを掠る。容赦なく二発目の銃声が鳴り響く。その銃弾が真っ直ぐ夏男の胸に向かって放たれる。




