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哀しき真理

作者: ゆうき狐虎

 僕の高校には、ちょっとした有名人がいる。とはいっても、テレビ等に出演している女優や歌手というわけではない。彼女は入学直後の宿題考査から今―――高三の春までの約二年間、全ての試験で満点を取り続けているのだという。

 僕は彼女を噂でしか知らなかった。同じクラスになり、更に隣同士の席に座らせられた、今日までは。

 彼女の第一印象は想像していたよりもずっと平凡だった。肩にギリギリ届くくらいの髪は、少しクセ毛気味。パッチリとした二重まぶたの中には、漆黒の瞳がきちんと正座している。

「君凄いね。今まで満点しか取ったことないんだって?」

僕は意を決して彼女に話しかけてみた。彼女の反応はというと、「そんな台詞は聞き飽きたわ」とでも言いた気な冷ややかな視線をこちらに投げかける。

「そんなの当然よ。だって私、知らないことなんてないもの。」

僕は最初、彼女が冗談を言っているのだと思った。

「はは・・・君って結構面白いね。」

「面白くもなんともないわ。そういう性質をもって生まれてきたの。」

「・・・。」

彼女はニコリともしない。冗談で言っているのではないのか・・・?

「へぇ、何でも知ってるって?じゃあ聞くけど、僕の名前は?」

「清水卓也。」

即答だった。彼女は更に続ける。

「双子座のB型。父・母・妹との四人家族・・・」

中学から始めた野球が大好きで、今では野球部のエースを担うほどの腕前。数学が得意科目だけど、成績は中の下といったところ・・・

「・・・。」

呆然とするしかない僕に向かって彼女は

「どう、気が済んだ?」

と言った。

「・・・凄い!全部当たってるよ。君は超能力者なの?」

「超能力なんて使えないわ。ただ全てを知っているだけ。生まれつきね。・・・あ。」

そして、彼女は思い出したようにこう付け足した。

「そうそう、今夜は小さな地震が来るわ。気をつけてね。」


 その日の夜、彼女の言ったとおり地震が来た。彼女の言ったとおり、気づくか気づかないか程度の小さなものだった。

 翌日以降も彼女は色々なことを言い当てた。クラスに転入生が来ること。担任の教師が季節はずれのインフルエンザで一週間も学校を休むこと。修学旅行の行き先が北海道に決まること・・・何もかも、彼女の言ったとおり。

 僕はふざけて「中間テストの問題を教えて!」と両手を合わせた。すると彼女は

「アンタに教える義理なんてないわ。」

そう言って少し笑った。彼女が初めて見せた笑顔だった。



 彼女と出会ってから一ヶ月が経とうとしていた。僕はとっくに気づいていた。彼女は何があっても、楽しそうな素振りを見せないのだ。

 彼女には友達がいなかった。お昼休みには、いつもひとりきりで弁当を食べる姿がある。先生に優秀だと褒められても、彼女は眉ひとつ動かさなかった。

 僕は彼女にたずねた。

「ねぇ、君は全てを知っているんだよね?」

彼女は答える。

「そうよ。」

「じゃあ答えてくれ。君は、幸せかい?」

彼女はいつものようにさらりと答えようとした。が、言葉が止まる。しばらくの沈黙の後、彼女は冷静に言った。

「そんなの見れば分かるでしょ。私は全く幸せじゃないわ。」

 彼女は全てを知っている。だから、試験で満点をとることだって簡単だし、明日のことも明後日のことも十年後のことまでも・・・何もかもがわかる。不安になることなどない。

 でも、彼女は少しも幸せではない。彼女の中にあるのは、哀しき真理だけなのだ。



 家に帰ってから、僕はずっと考えた。

 何もかも知り尽くしている世界で生きていくというのは、どういうことだろう。それは、感動も興奮もない氷の大地に根を張るということだ。

 僕は、彼女にそんな一生を送って欲しくなかった。何とかして、幸せの種を飛ばしてあげたいんだ。明るく暖かで、愛に満ちた世界まで・・・。

 しかし、どうしていいかわからなかった。

「いったい、どうすれば君は幸せになれるんだ・・・?」

そう口にした瞬間だった。

「あっ!」

僕の中にひとつの疑いが生まれた。本当に彼女は、この世の全てを知っているのかということである。

 ・・・そんなはずがない。きっと彼女にも知らないことがある。僕はそれを確かめる決心をした。



 僕は誰もいなくなった放課後の教室に彼女を呼び出した。そして、こうたずねた。

「君はこの世界の全てを知っていると言った。そして、自分が全く幸せではないと。・・・そうだね?」

「そうだけど、それが何か?」

彼女は既に鬱陶しそうな表情を浮かべている。しかし、僕は引き下がらなかった。

「じゃあ、最後にひとつだけ質問させてほしい。・・・どうすれば、君は幸せになれる?」

彼女はまたいつものように答えようとするが、やはり言葉が止まった。

 今度は、前よりもずっと長い沈黙だった。しばらくして、彼女は震える声で静寂を断った。

「分からない・・・。」

それは彼女の口から初めて出た言葉だった。

「どうすれば幸せになれるのか、わからない。私、何でも知ってると思ってた・・・知らないことなんて何一つないと思ってたのに。」

生まれて初めて、未知なる物の存在に触れ、彼女は慌てふためいている様子だった。でも、僕の方はむしろほっとしていた。

「君にも知らないことがあるんだね。」

「・・・。」

「じゃあ、どうやったら幸せになれるか、一緒に考えようよ。」

「えっ?」

彼女は驚いたように俯いていた顔を上げた。

「一緒に探そう。」

僕は、彼女に向かって手を差し出した。彼女はというと、目を丸くしたまま動こうとしない。

 けれど、少しずつ少しずつ・・・その表情が緩んでゆく。そして

「・・・うん!」

僕の手を強く握り返した。




 僕らは小さな存在だから、知らないことも数え切れないほどある。ときには「知らない」ということが、迷いや悩みにつながり、僕らをがんじがらめにする・・・。

 だけど、未知の中でこそ得られるものも、きっとあるよ。

 それを探しに歩いて行こう。


 君と共に・・・これからも、ずっと。

        

                         END



文章が下手で申し訳ない(><)

「知っている」ということ、「知らない」ということについて、色々と考えてもらえたのなら幸いですv


読んでくださってありがとうございました♪



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― 新着の感想 ―
[一言] 知るということと幸せということについてとてもよく考えさせられました. 子供は何も知りませんね. 純粋無垢な存在です. だから毎日が恋です. 恋はきっと知らないことを知ろうとすることなのではな…
[一言] こんばんは。突然読ませてもらいました。 この「何でも知っている」女性のキャラは非常に秀逸だと思います。そして「幸せを知らない」というのも、うまく考えられていると思いました。 ただ、「何で…
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