夏
どうして原石は磨くと光るのだろう。それは宝石だから?
そうであるなら、原石のくせして磨いても光らないものは、宝石なのに価値が低いものという事なのだろうか。いや、もしかしたら原石だと思っているのは僕だけで、本当はただの石ころ……ではなく、石ころですらない役に立たない『なにか』なんじゃないか。
教室の窓から外を眺めていると、部活動に励んでいる人達が目にはいる。
彼等はいつも輝いている。何故だかわからないけど、僕が目を背けたくなるくらいまばゆく輝いているんだ。
ただこの時期に限っては、部活動をしている生徒だけでなく、帰宅部と呼ばれている生徒達も、学校祭での発表の練習という形で、教室にいるとき以上の輝きを見せてくれる。
その光はとても綺麗で、見ていると自分も彼等と同じように光っている存在だと錯覚してしまう。
でも僕は彼等のように輝けない。普段の生活でさえ輝けない。楽しくない。つらいんだ。何がつらいのか自分でも分からないのに、ただつらいという気持ちだけが僕の心を支配する。
その事実にもまたつらさを感じてしまって、どうしようもない負のスパイラルに陥ってしまった。数年前から抜け出せないまま今日まで過ごして、楽しいという感情がどんなものだったのかも忘れてしまいそうだ。
「いいなぁ……」と、つい本音を口に出してしまった。
教室には誰もいないから、まあいいやと思って帰る支度をする。
僕はさっさと自分の自転車のところまで行き、荷物を籠に入れ、思いっきり自転車をこぐ。
もちろん、学校祭のために練習に励んでいる人達にぶつからないように注意しながら。
学校から出て、周りに空き地が広がる道に出たら全力でペダルをこいだ。
ふと空を見上げると、茜色の空がやけに淋しかった。僕にとってこの色は、今にも泣き出しそうな子どもの顔が思い浮かぶ色だった。何かが終わってしまうような、そんな気分になる。つい自転車を止めて、ゆっくり眺めてしまった。どのくらい見惚れていたのだろう。気付いた時には、空が暗くなりかけていた。そして僕が再び自転車をこぎだしたときには、なぜか頬に涙が伝っていた。
最初はそれが自分の涙だとは気が付かなかった。雨が降ってきたんだと思った。でも違う。雨なんか降っていない。
凄く淋しくて、凄く悲しくて……そして切なくて泣いてしまったのだと思う。それはきっとみんなが持っている輝きを僕が持っていないから感じられる気持ちなんだろう。
ただの石ころでも、使い方次第で宝石よりも輝ける瞬間があるというのに、僕は一体なんなんだろう。どうして、何の役にも立たないのに、存在していなくてはいけないんだろう。
誰かが、いなくなっていい人なんてこの世にはいないって言っていたけれど、きっと僕みたいに自分を持っていない人間は、居ても居なくても変わらないんだ。どうせみんなの中にいる僕の優先順位なんて最下位付近だろうから。
熱中できる何かを持っている人は強いんだろうし、羨ましい。僕にも昔あった楽しいという気持ちが、もう一度戻ってきたらいいのに。どうして僕は感情を捨ててしまったんだろう。僕の忘れてしまった記憶の中で、僕は一体何を考えて、感じて、思って生きてきたんだろう。
お願いだから『誰か、僕に居場所を作ってよ……』
そんな僕の叫びは、夏の風によって夜へと運ばれていった。
何かに打ち込んでる人ってきらきらしてると思う。
そういう人って、生きてるって感じがする