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至高の黄金球使い ~旧版~  作者: 濃縮原液
第一章 囚われの空中要塞
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08 繁殖

 例えばあなたが誘拐され、犯人に監禁されているとしよう。その誘拐犯は、なぜかあなたに何もしない。


 その理由が知りたくて「どうしてあなたは私に何もしないのですか?」などと尋ねる者はいないだろう。


 なぜならそれは――私に何かして下さいと言っているような物だからだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「昨日召喚されてからこれまで、どうして僕達はまだ何もされていないのですか?」


 レンセがそう口にした瞬間、覇気のなかった生徒達が皆一斉にレンセをにらむ。



 お前は、一体何を言っているんだ。



 生徒達の全員が、無言でそう語っていた。



 自分達が何もされないことを、疑問に感じている生徒はもちろんレンセ以外にもいる。だがそれを疑問に思うよりも、理由は分からずとも何もされなくて良かったと思う方が自然な反応だ。


 だからわざわざ、自分からそれを蒸し返すような質問はしない。当然である。


 にもかかわらず、レンセはその地雷を全力で踏み抜いた。


 もちろんレンセも、この質問がいかに危険かを十分理解出来ている。



 だがレンセの認識は、他の生徒達よりもっとシビアだった。



 レンセはここが雲の上だと知った時点で早期の脱出は不可能だと判断している。


 それ以前にここは地球でさえないのだ。例えここから出られても、何も分からぬ異世界でどうやって生きていくのかと。


 どう考えても一カ月、最低でも一週間はこの要塞から出られない。場合によっては一年を超えることさえ十分ありえる。


 ならば一時しのぎを期待して、聞くべき質問を避けてもなんの意味もない。


 逆に彼らが生徒達に手を出さない理由があるのなら、その理由を知っておくことこそ、自分達の身を守るために必要なことだとレンセは判断する。


 だから、レンセは質問した。


 このあまりにも直接的で、だからこそ最も必要な情報を得られるだろう質問を。



 レンセが質問を放って数瞬。生徒達はレンセをにらんで固まっている。


 だがこの質問、イルハダルのメンバーにとっても予想外だった。まさかこんな爆弾発言を恐れず聞く奴がいるとは、と。


 下卑た笑みを浮かべることが多いボコラムも、レンセの質問には驚きを隠せないでいた。そして驚いた後、なぜかボコラムまでもが憎らしげな目でレンセをにらむ。


 そしてこの質問にはシュダーディでさえ、内心で大きな驚きを覚えた。だが高い洞察力を持つシュダーディは、ほどなくレンセの真意にまで辿り着く。


 (やはりこの少年。ワシと同レベルの高い洞察力を持っておる)


 シュダーディはそう感じつつ、同時にやはりこの少年は面白いと感じた。


 そのためシュダーディは、これまでで最も楽しそうな笑みを浮かべつつ、レンセへと話しかける。


「どうやら貴様は、自分達が昨日危害を加えられなかったことに理由があると確信しておるようじゃの?」


 シュダーディの言葉にレンセは一瞬違和感を覚える。殺された池口 渚のことを思いだし、全員が危害を加えられなかったわけではないと反論したい衝動に駆られる。だが今の主題ではないと、今はあえて口にしない。


「もし危害を加えられない理由がないなら、あなた達は昨日の内に僕達全員を暴行し、最初に主従関係をはっきりさせていたはずです。ですがそれをしなかったばかりか、あなた達は僕達に個室まであてがいました。これは奴隷に対する待遇としては優遇されていると思います。だから、理由があると思いました」


「なるほどの。じゃがお主……調子に乗ってはおらぬか? 優遇したために増長したと判断され、そのせいでこれから暴行されるとは考えぬのか?」


 シュダーディの目が真っ赤に光る。その光に、関係のない生徒達さえ恐怖に震えた。だがレンセは、その目を真っ直ぐみつめて言葉を続ける。


「増長していると思われたのでしたら謝罪します。どうかお許しください。ですが、僕に叛意はありません。僕達はただ、暴行を受けたくないだけなんです。そしてあなた達の方にもそれをしない理由があるのなら、その情報を共有することで、無用な犠牲を減らせると考えての質問です」


「つまり、ワシらの方にもメリットがあると言いたいのじゃな」


「はい、その通りです」


 レンセはシュダーディの顔から目をそらさずにそう言った。


「ふっ。どうやら、主は脅しても動じぬようじゃの。良かろう。話してやる」


 シュダーディは最初に座っていた高級感のある椅子へと腰かけて語り始めた。


「まずワシらが異世界人を召喚するのは、今回が初めてではない。一度目の召喚時には意志の疎通にも苦労したものじゃが、今回そのような不手際はなかったじゃろう? それは異世界人の召喚が初めてではないからじゃ」


 確かにイルハダルの手際は良かったとレンセは思う。意志の疎通に関しては深く考えてはいなかったが、イルハダルのメンバーは日本語とは別の言葉を話していた。


 しかし同時翻訳のような物でその意味は理解できる。レンセは小説などでそういう状況のものを読んだことがあったためになんとなくそういう世界なのかと思っていた。


 だが実際にはイルハダル側で意思疎通のための魔術を行使していたのだ。


 それに加えて初日の対応も手慣れていた。もちろん意図を持って召喚したのだから準備があるのは自然だが、イルハダル達は生徒が地球人であるのを知った上で用意をしていたふしがある。


 それらのことをふまえれば、シュダーディ達が複数回召喚に成功しているというのもむしろ自然だとレンセは感じた。


 そんなレンセの顔を見ながらシュダーディは話を続ける。


「じゃが初めてではないと言っても、いつでも召喚が出来るわけではない。複雑な条件が絡んでくる。周期で言えば、数十年に一度しか召喚は不可能じゃ」


 召喚は数十年に一度。これもレンセの予想の範囲ではあったが、良かったとレンセは思う。やはり召喚のコストは安くない。レンセ達を殺してしまっても、新たにすぐ補充が出来るわけではないのだ。


「ほっとした顔をしてるな少年よ。まあ、お主らが貴重な存在だというのは確かじゃ。この世界で純粋な異世界人の血を持つ者は、貴様らの他には数人しかおらぬのじゃからな。世界にわずか数十人。しかも次に召喚が出来るのは数十年後と来ておる。これは実に効率が悪い」


 シュダーディの話しぶりだと、レンセ達以外にも数人は地球人がいるようだ。だがそれでも数十人。シュダーディ自身が言うように、レンセ達は貴重な存在だと確認できた。


 だが、シュダーディの最後の言葉。


 効率が悪い。


 この一言に、レンセは言い知れぬ恐怖を感じた。そして次のシュダーディの言葉によって、その恐怖は現実のものとなる。


「これから数十年。補充もなしに貴様らだけで塔を攻略出来るとはワシは考えておらぬのじゃよ。神の塔に入れる人数は確かに百人足らずじゃ。じゃが可能なら、限界まで戦力を投入したいと考えるのは自然じゃろう。その上で主らの中にも使える者、使えぬ者は必ず出る。であるならば、二十七人でもまだ足りぬ。最低百人。出来ればそれ以上の兵が欲しいとワシは思っておるのじゃよ。じゃがこれから数十年。次の召喚までただ待つのも馬鹿らしい話じゃ。なればどうすればよいと思う? 少年よ」


 シュダーディがレンセに問う。その問いに、レンセの頭には一瞬で答えが浮かんだ。


 レンセの顔に汗が噴き出す。そのレンセの顔を見て、シュダーディは嬉しそうに答えを語った。


「理解したようじゃの。そう。簡単なことじゃ。外から補充出来ぬのであれば増やせばよい。幸いなことに、貴様らは女の方が数も多い。十六、いや十七人か。素晴らしいの。仮に一人が五人子をなすとして、第二世代は八十五人。これに貴様ら二十七人を足せばこれでもう百人は超える。貴様らの繁殖が順調に行けば、次の召喚を待たずに塔を攻略出来ると言うわけじゃの」


 繁殖――


 そのシュダーディの言葉に、レンセは全身に怖気が走るのをはっきり感じた。


 ボコラムはレンセ達を奴隷と言った。だがこの男、指導者のこのシュダーディは、レンセ達のことを同じ人間だとさえ見ていなかった。


 家畜か何かでも扱うように、シュダーディは生徒達を互いに交配させて増やそうとしているのだ。


「ほっほっほ。ここでいらぬ心配はせぬで良いぞ。貴様ら異世界人の持つ特性、混血児では消えてしまうでの。じゃからワシの部下が、貴様らを妊娠させるようなことはない。これが貴様らが何もされなかった理由じゃよ。ワシらの子種で妊娠させるような余裕はないからの。貴様らには仲間同士でたくさん励んで、より多くの純血の異世界人を出産してもらわねばならん。一人部屋を用意しておるのもそのためじゃ。仲間の見る中でするのは恥ずかしいじゃろうからの。ここまで用意してやっておるのじゃ。想う相手のいる者はそれぞれ相手の部屋を訪ねていって、大いに子作りに励むがよいぞ。ワシの異世界人繁殖計画の為にな」



 シュダーディの話すあまりの内容。異世界人の数が少ないなら増やせばいいというその発想に、生徒達は全員が硬直してしまっていた。


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