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至高の黄金球使い ~旧版~  作者: 濃縮原液
第一章 囚われの空中要塞
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03 脱衣

 副委員長の池口 渚が殺された。


 部屋の中は阿鼻叫喚の渦に包まれている。女子達は泣き叫び、あまりの出来事に失禁してしまう生徒までいた。ショックを受けているのは男子も同様で、こらえきれず床に嘔吐している者もいる。


 レンセも思わずその場にしゃがみ込もうとしていた。だがその瞬間、レンセの左手が強くにぎられる。手を握った主、西堀 彩亜の顔は、わずかにだが苦しそうにしつつ、レンセの目をじっと見つめていた。


 レンセも彩亜の手をきつく握り返し、二人はこの状況でも嗚咽をもらすことなく耐え続ける。


 レンセの右隣に立つ芹も、レンセと彩亜の様子を眺めつつ、手で口を覆い、なんとか嗚咽を漏らさずに耐えていた。


 だが異世界の過酷な現実は、さらに生徒達へと追い打ちをかける。


「二度は言わんぞ。早く脱げ! 男も女も全員だ! 服を全部脱いだら両手に抱え、男女別れて二列に並べ!」


 ボコラムが恫喝する。再び怯える生徒達。


 目の前でクラスメイトを殺され精神的に不安定になっている生徒達は、ボコラムの命令通りに次々と服を脱いでいった。


「おいそこの女! 下着もだ! 全部脱いで両手に持て! 怪しい動きもするな!」


 下着姿のまま列に並ぼうとしていた女子がさらなる恫喝を受ける。


「ヒィッ! す、スミマセンッ!」


 恫喝された女子は恐怖のあまりに失禁した。少女はその尿にまみれた下着を泣きながら必死で脱いでいく。



 レンセと彩亜はそんな生徒達の様子を後ろから眺めていた。従わなければ二人も渚のように殺される。だがレンセは、彩亜の手をきつく握って離せずにいた。


 自分が裸になるのは許せても、彩亜がそうなるのだけは許せない。頭では手を離さないといけないと分かっていても、心がそれを許さなかった。


 そんなレンセの顔をしばらく見つめ、彩亜が小さく声をかける。


「……わたしは大丈夫。これくらい平気……負けない」


 レンセの目に思わず涙がこみ上げた。まだ手を離せずにいるレンセに、彩亜は続けて語りかける。


「こんな所で死んじゃ駄目。わたしもレンセも……絶対、生きて帰るから。だから……」


 その時レンセは、彩亜の手がかすかに震えているのに気が付いた。


 冷静なように見える彩亜も、レンセと同じ十六歳。どこにでもいるただの女子高生に過ぎないのだ。こんな極限状態の中、何も感じないわけがない。その上で彩亜は、恐怖もくやしさも、全てを飲み込んでレンセへと語りかけていた。


 そんな彩亜の思いに気付き、レンセもつないでいた手を離す。


 絶対に、こんな所で死んだりしない。レンセはそう心に誓う。現状を打破する方策は見えないが、絶対、生き抜いてみせると。もちろん、彩亜と二人揃って。


 決意のこもったレンセの目を見て、彩亜は小さくうなずいた。


 そして彩亜は、レンセの目の前でおもむろに制服を脱ぎ始める。


「わっ」


 思わずレンセは目を逸らそうとした。だが――


「……見て」


 彩亜の言葉を受けて、レンセは再び視線を戻す。彩亜はすでに制服を脱ぎ、下着があらわとなっていた。Fカップの豊かな胸がよく見える。だがレンセは、他の男子なら釘付けになるであろうその胸よりも、彩亜の顔だけを真っ直ぐ見つめる。


 彩亜の表情に変化はない、レンセ以外の者が見ればそうとしか思わないだろう。だが無表情に見える彩亜の顔に、恐怖の色が混ざっているのがレンセにははっきり分かった。


「わたしは……裸を見られるくらい平気。……負けない」


 小さな声で、不安を押さえつけるように彩亜は続ける。


「でも……初めて見せるのはレンセがいい。……だから見て」


 いくら口では平気と言っても、そんなはずがないのは明白だった。男子もいる中で服を脱ぐことを強要され、さらに見も知らぬ男達にその体を見られるのだ。それをなんとも思わないわけがない。


 好きな人にさえその姿を見せたことがなければなおさらだ。


 だからこそ、せめて、最初にその姿を見せる相手だけは、ゲスな犯罪者共などではなく、レンセであって欲しいと彩亜はその目で訴えかける。


「レンセも……」


「うん」


 レンセと彩亜は、互いに見つめ合いながら服を脱いでいった。


 レンセは彩亜の姿から決して目を逸らさない。様々な感情が心に渦巻く。だが彩亜の体を、その姿を、初めて見るのがあんな男達などと言うのは許せない。だからレンセは、一瞬も目を逸らさずに下着を脱ぐ彩亜の姿を見つめ続ける。


 彩亜の方も同じ思いか、レンセの姿を目に焼き付けるように、パンツを脱ぐレンセを、瞬きすらせずにじっと見つめた。


 二人は全ての服を脱ぎ終えて、改めて互いの体を上から下まで見つめ合う。そして――


「……レンセ」


 彩亜は小さくつぶやくと、そのままレンセの体に抱き付いた。突然の出来事に、レンセは身動き一つとれずにいる。


 彩亜の豊満な胸が、レンセの胸元にぎゅっと押し付けられて形を変えた。互いに服を着ていないため、彩亜の胸の感触がダイレクトにレンセの体へと伝わってくる。


 だがそんなことが頭から吹き飛ぶような感触が、レンセの唇の方にはあった。



 ――この日初めて、レンセはキスの味を知った。



 しばらく唇同士を重ねた後、彩亜はそっと唇をレンセから離す。


「……ごめんねレンセ。でも……」


 少しだけ顔を離し、レンセの顔をじっと見つめて彩亜は言う。


「わたしは、初めてだったから。初めてのキスは……絶対レンセが良かったから。だから……ごめん」 


 彩亜はくっついたままだった体も離し、制服を手に取ってレンセから離れようとする。


 だが離れようとする彩亜の手をレンセが掴んだ。そのまま彩亜の体を抱き寄せ、次はレンセの方から彩亜の唇にキスをする。


 彩亜の目には、涙が溜まっていた。


 こんな異常な状況でこれから何が起きるのかなど分からない。既に一人殺されているのだ。二人が生きてこの部屋を出られる保証さえありはしない。


 そんな状況だからこそ、彩亜はあのような大胆な行動に出た。これから二人がどうなったとしても、せめて初めてのキスだけは、自分の好きな人としておきたいと。


 もちろんこれは彩亜のわがままだ。レンセの方が彩亜をどう思っているかなど考えずに行なった行為である。だから怖くなった彩亜は、レンセから離れ、逃げるように列へと並ぼうとした。


 そんな彩亜の想いを知ってか知らずか、逃げようとする彩亜にレンセは無理やりキスをする。そして彩亜の目を優しくみつめてこう言った。


「僕もさっきのが初めてだったんだから。だから……ふいうちだけして勝手に逃げちゃ駄目だよ彩亜」


 レンセの言葉に、溜まっていた涙がついに彩亜の目からあふれ出す。


「うん……」


 そうして彩亜はレンセの胸へと顔をうずめる。その彩亜の体を優しく抱いて、レンセは彩亜の頭を優しく撫で続けていた。


 しばらくそうした後、やっとで二人は列へと並ぶ。


 普段であれば、あまりにラブラブな二人をからかう者もいただろう。だがレンセが列に並んでも、からかう者はおろか、声を出す者さえいない。


 彩亜の方には芹が何か話しかけているようだったが、決して茶化したりはしていないようだ。



 他の生徒は私語を発することもなく、様々な思いをその胸に抱え、この異様な全裸の行列へと加わっていた。


 ただすすり泣くような嗚咽の声だけが、列のいたるところから暗い部屋の中に響いていた。


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