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至高の黄金球使い ~旧版~  作者: 濃縮原液
第一章 囚われの空中要塞
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01 異世界

 教室全体が光りに包まれ、気が付くと全く別の場所にいる。座った姿勢のまま机と椅子がなくなったため、教室内にいたほぼ全員が尻もちをついていた。


「大丈夫? 彩亜」


「わたしは大丈夫。レンセが支えてくれたから……ありがとうレンセ」


 レンセは彩亜を抱きかかえたまま辺りの様子を見回す。


 壁、床、天井……全てが鉄で出来た広い部屋である。表面は綺麗な銀色に輝いており、錆びなどは一切ない。SFに出るような宇宙船の中とでも言うような様相である。


 だが尻もちと同時に床を見た生徒は、地面に魔方陣のような模様が発光しているのに気付いただろう。現在はすでに消え去っているが。


 そしてレンセ達は、周りを見知らぬ男達に囲まれていた。怪しげな、黒色のローブに身を纏った男達だ。それが十人ほど立っている。


 正確には、男達は生徒を完全に取り囲んでいるわけではない。この鉄で出来た部屋には出口が一つしかなく、そこを塞ぐようにして男達は立っていた。


 その黒ローブの集団から、他より装飾の多い一人の男が歩み出る。緑色の短い髪を持つ、強そうな顔つきの男だ。両の目が赤く光っており、それが不気味さを醸し出している。


「俺の名はボコラム・アイシルス。貴様らを召喚した召喚者だ。そしてようこそフォニアックへ。異世界の少年少女達よ」


 ボコラムの声は低いがよく通り、威圧感を伴う響きがあった。


 その声をうけ、生徒達はわけが分からないままに震えている。尻もちをつき、しゃがんだ姿勢のまま震える生徒達は、さしずめテロリストに捕らわれた人質のようだった。


 だが勇敢にも、ここで一人の少年が立ち上がる。


 学級委員長のすめらぎ 騎士ナイトだ。


「いきなりようこそなどと言われても意味が分からないです。あなた達は一体何者なんですか。それにここはどこなんですか。それに僕達はなぜいきなりこんなところに……」


 ナイトが立ち上がって声を上げると、他の生徒達もみんなが立ち上がり始める。そうしてボコラムに向かって次々と質問を投げかけ始めた。中にはわめき始める者さえいる。


 薄暗い部屋の中は、生徒達の声で一気に喧騒へと包まれた。


 その中心となるナイトは、果敢にもボコラムへと質問を投げかけ続けている。クラスの女子、特にナイトの取り巻きの少女達はそんなナイトの姿に見惚れていた。


 確かにこんなわけの分からない状況で果敢に質問できるナイトはすごい。騎士と書いてナイトと読むキラキラネームにさえ名前負けしない、本物の騎士だと言えるだろう。


 だが、相手はどんな人間かも分からない謎の集団だ。そして生徒達を一クラス丸ごと瞬間移動させるような、超常の力を持つ可能性が非常に高い集団でもある。ナイトの勇気は本物だが、同時に軽率な面も目立った。


 詳細が不明な相手に対し、目立った行動をして目をつけられるのは危険だ。


 そのことを理解している者達は、それとはなしに後方中央の目立たない位置へと、己の立ち位置を変えていた。


 レンセに彩亜、それに加えて、クラスで一番成績の良い金元かなもと せりがそうである。


 金元 芹、Dカップ。黒髪ロングの、意志の強そうな瞳が印象的な少女だ。頭の良い理系の美少女であり、その綺麗な顔立ちから、男子からの人気もクラスで二番目に高い美少女だった。


 その金元 芹、目立たない位置へと移動する内に自然とレンセの隣にまで来ていた。レンセと彩亜が彼女と同じ行動を取っていると悟り、芹は小声でレンセへと話しかける。


「自然とこの位置まで来ているとは、さすがだなレンセ」


「芹さん。ううん、僕はそんないいものじゃないよ。さすがというならナイト君の方だよ」


「ナイトか。確かにあんな謎の集団にさえ食って掛かる彼の勇気は本物だろう。だがあれは蛮勇だ。奴らがもしテロリストか何かなら、彼はいつ殺されてもおかしくない」


「うん。……でも、おかげで他のみんなは助かってる。ナイト君の言っていることは、誰かが聞かなきゃいけないことでもあるしね。だから彼はすごいよ。それに比べたら僕なんて、我が身可愛さに自分だけ安全な所に来ている臆病者だ」


「ふっ、なるほどな。だがレンセが臆病者だとすれば私も同類ということになるな。それにレンセの場合……守っているのは自分の身だけではないだろう?」


 芹がそう言った所で、反対側にいる彩亜が会話へと入ってくる。


「……レンセが安全策をとってるのは、わたしを守ってくれてるから。一人だったら……レンセは自分が前に出て囮になってたかも知れない」


「だろうな。だがいずれにせよ、私達全員がナイトに助けられているのは確かだ。彼がそこまで考えているかは知らぬがな。ともかくここは、ナイトが殺されないよう祈りつつ大人しく見ているのが懸命だろう」


 こうしてレンセは、彩亜と芹の二人の美少女に挟まれつつ、事態の推移を見守る。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 黒ローブ達の代表らしきボコラムは、ナイト達からの質問に丁寧に回答していた。そうして驚くべき事実が次々と生徒達に知らされる。


 まずここは、フォニアックと呼ばれる地球とは別の異世界であること。この世界は魔法や魔物などが存在する、いわゆる中世ファンタジー的な世界であること。


 そしてこの世界の中心には神の塔と呼ばれる巨大な塔が立っており、その塔を攻略するためにレンセら二十八人の生徒達は召喚されてきたということだ。


 ボコラムがここまで話を進めた所で、一人の生徒がひときわ大きな声をあげた。


「つまり僕達は、この世界に勇者召喚されたってことなんですね!」


 声を上げた少年の名は野崎のざき 小太郎こたろう。読書が趣味の少年である。特に異世界物の小説を好んで読んでいた彼は、この状況がまさに異世界召喚物の展開であると興奮していた。


「ってことはあるよね! チート能力! だって僕達わざわざ地球から呼ばれた勇者だもん! ねっ、おじさん。そうでしょそうでしょ!」


 興奮する小太郎に対して、ボコラムは冷ややかな態度で返答する。


「確かに貴様らには、我々にはないある種の特性が存在する」


「よっしゃあっ、チートキター!」


 小太郎は全身で喜びをあらわにした。


 だがボコラムの次の言葉で、小太郎だけでなく、生徒達全員が地獄の底へと突き落とされる。


「しかし貴様らの待遇は勇者などという物ではない。……奴隷だ」


「――え? 奴隷……?」


 小太郎は両手をガッツポーズにしたまま固まっていた。ナイトを始めとする他の生徒達も、状況の変化についていけずに固まっている。


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