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火ノ生物滅殺霊≪後編≫

「世界破滅遊戯」

~火ノ生物滅殺霊(後編)~






火ノ生物滅殺霊の拠点に入ってから、僅か一時間足らず。善戒の生首が露になり、葉晴と白雪の姿が忽然と消滅した。やはり、生物滅殺霊の前では、人間は為す術などないのだ。






「呆気ないものですね」

静寂なその空間に、来伝の声が響き渡った。

そして、来伝はその場に腰を下ろし、更に一声その場に響かす。





「やはり、貴方に期待するしかないのでしょうか?」



「………」


来伝は思わず、口角を上げた。


「善戒君」


来伝の目の前に、葉睛と白雪を担いだ善戒の姿があった。


善戒は、床に転がっている生首に目をやる。

「ああ、気を悪くしないで下さい。これはただの余興です。こう見えて、私、悪戯が好きなんですよ。うふふ」


善戒は静かに葉睛と白雪を地面に置いた。


「にしても、お見事です。私の炎光球をいとも容易く防ぐとは驚きました。さすが、我が主が一目置いているだけの事はあります」




「亜莉愛はどこにいる?」

感情の読み取れない善戒の声が、響き渡る。



「亜莉愛?」

善戒の目付きが自然と鋭くなった。

「答える気はねぇんだな」

「すみません。どうも記憶に無いようです。お友達ですか?」

「なら…」



――――来伝の右腕が消えた。



「ぐっあああアアアッ!!う、腕がぁッ!」


「答えさすまでだ」


事は一瞬だった。

善戒と、来伝は一定の距離を保ったまま微動だにしなかった。

しかし、来伝の右腕がなぜか消滅していた。

「な、何をした!?」

「答えてやる義理はねぇよ。死ぬ前に亜莉愛の居場所を教えやがれ」

「くっ!」

来伝は、素早く立ち上がり、善戒との距離を更にとった。

「ゆ、油断しました。貴方を侮っていたようです」

そう来伝は口にすると、突然、残った左腕を高く上げた。

「来い!我が僕達よ!」

そして、指を鳴らして、パチンと乾いた音を響かせた。

「何をしやがった?」

その行動を不思議に思ったのか、善戒が疑問をぶつける。

「うふふ。直ぐに分かりますよ」

そう来伝は笑いながら言うと、突如、地面から丸い赤色の玉が次々と姿を現した。

「な、何が起きてやがる…」

善戒の驚きをよそに、その赤玉は地面から浮かび出てきたかと思えば、見覚えのある形へと姿を為していた。

「こ、こいつは」

そして、気がつくと、来伝の回りをその場一杯に赤色の小鬼が囲んでいた。

「山野下町を襲った小鬼か!?」

「小鬼?うふふ。貴方達はそう呼んでいるのですか?」

来伝は回りにいる、小鬼を一体掴み取り、顔の高さまで持ち上げた。

「小鬼ではありませんよ」

「じゃ、何だってんだよ?」

「こいつらは…」

そして、来伝はおもむろに持っていた小鬼を頬張り始めた。

不愉快な音と共に、小鬼の頭が来伝の口へと運ばれていく。

「……」

その姿には、善戒も堪らず吐き気を催した。


そしてしばらく、その光景を眺めていると、ある事に気がついた。




「み、右腕が…」


なんと、徐々に来伝の右腕が元の形を取り戻していくではないか。


「な、なぜだ?」

来伝は自分の右腕が完全に元の形になったと確認するや否や、持っていた小鬼の残骸を地に捨てた。

「こいつらは私が殺した生き物の魂で作った人形です」

「魂…」

「そして、私達、生物滅殺霊は生き物の魂さえあれば、いくらでも自分を治すことができるのですよ」

「生き物の魂って…」

「そうですよ。最近だと山野下町の人達の魂が多いですかね」

そう言うと、来伝はさっきむさぼった、原形の定まっていない小鬼を指さし、更に言葉を続けた。

「母親の前で食い散らかされて死んだこの魂なんか印象的ですよ。絶望に満ちた母親の表情なんか、手に取るように覚えています。あまりにも良い顔でしたので、その人は殺さずに置いてしまいました」

そう言う来伝の顔は、心底嬉しそうな形をしている。



そして、しばらく間を置き、ふと、さっき食らった肉塊と化した小鬼に目をやると、何故か、突然笑い声を上げた。




「この姿を見せれば、今度はどういう顔をするのでしょうか?」



「て、てめぇ…」


善戒は、歯を噛み締めながら、拳を震わせる。


「貴方のその顔は、予想していました」


善戒は来伝に向かって走り出した。


来伝との距離を縮め顔面に向かって拳を放つ。


「何ですか、これは?」

しかし、容易く来伝に拳を掴まれた。

「さっきの技は…があァッ!!!」


そして、拳を掴んでいた手が粉々の肉片と化した。


「あ、貴方、わざと…」


「砕け散れッ!」


そして、善戒はその拳をそのまま、来伝の顔面に命中させた。


当然来伝の顔面は原形を定まってはいない。


ポロポロと、肉の雨が降りそそぐ。


来伝はそのまま、地面に膝をつき、身体を地面に預けた。


「…っ!」

来伝はもう、倒れているのだが、その回りの小鬼が攻撃を仕掛けてきた。


小鬼は善戒の顔面に向かって爪を降り下ろしたり、炎を吹いたり、自爆をしたものもいたが、善戒は一歩も動かず、一瞬で自分の回りの小鬼達を消滅させた。


そして、残りの小鬼達から距離を取った。


「一人残らず消してやらぁ。おめーらだってもう、疲れてんだろ」


そう言うと、善戒は目の前の小鬼達に右手の平手を向けた。

小鬼の数は約三十体。

これなら、一回で全てを消せる。


「≪消破滅波≫」


善戒は右手の手の平に魂を集中させ、そして、それを一気に前方へ拡散させた。

拡散された魂は、波動となって小鬼達を襲う。

「「ギギッ!!!」」

すると、小鬼達が奇妙な雄叫び声を上げながら、砂粒の大きさの肉片と化した。

三十体もいた小鬼達の粒は、宙を舞い、幻想的な光景を映し出していた。

メラメラ輝く蝋燭の火に照らされ、ゆっくりと地面へ舞い降りて行く。

そんな光景を善戒はただ、眺めるだけでいる。









―――「なるほど、私の腕と頭を奪った技はこれでしたか」

突然の声に善戒はビクッと驚き、声のした方へ目をやる。


「来伝…」

そして、目をやるとそこには頭が失われたままの来伝が立っていた。

消破滅波(しょうはめつは)ですか。私の炎光球と原理は同じようですね」

「そうだな。魂の放出だ」

「やはり、貴方は特別のようですね」

「頭無しで立ってる奴に言われたくねぇよ」

「うふふ。それもそうですね」

「どうすんだ?もう身体を回復するための小鬼はいねぇぜ?」

そう善戒が言うと、来伝は突然笑い声をあげた。

「ご冗談でしょう?」

「なに…?」

来伝はまた指をならした。

それと、同時に突然地面が落ち着きをなくし、揺れ始めた。

「地震か…?」

「いいえ、そうではありませんよ」

そして、地面から徐々に見覚えのある頭が姿を表した。

しかし…

「小鬼か…、にしては…」

大きさはいつもとは違っている。

善戒の身長の約五倍の高さの小鬼がそこにはあった。

身長五倍近い高さの小鬼が善戒の前に現れた。

「どうですか?これこそ私の持つ、全ての魂を集めた最高傑作の人形です!腕を振れば山を壊し、火を吹けば海を蒸発させるのです!この人形と、そして、生物滅殺霊であるこの私!貴方はどう戦いますか!?」

興奮した様子の来伝が叫び、そして、おもむろに巨大な鬼の一部を体内に取り込んだ。

「汚ねえ面が復活しやがったか」

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておきます」

しかし、どうしたものか。

来伝一人でも手に負えない相手なのに、更に、あの巨大な鬼の相手もしなければならないとは。

逃げるにしても、白雪と葉睛を担ぎながらだと無理がある。

あの鬼を消し飛ばせるほどの魂はもう残ってはいない。

余力はあるにしても、鬼を消せば間違いなく魂が全て失われ、俺は消える。

それでは、意味がない。

「どうしたのですか?黙りこんで。亜莉愛の居場所はもう諦めたのでしょうか?」

「うるせえ。ってか、要はお前を倒せば良いだけの話だろ。お前さえ倒せば…」

「この人形は止まりませんよ?」

「なんだと…」

「人形でも、仮にも魂が有りますからね。一度出した命令は最後まで成し遂げます。例えそれが生きていた時の親を殺すことでも…ですよ」

「くそったれ」

手詰まりか…。

来伝を倒しても、鬼に白雪達を殺されてしまう。

笑えねえな。

「けど、やるしかねえか」


そう言うと、善戒は一直線鬼に向かって走り出した。

距離を殺し、鬼の顔面まで跳び跳ねた。


「魂が使えねえなら、拳で倒すまでだ!」


そして、右の拳を鬼の顔面に放った。

しかし、命中まで後わずかの所で横から炎の球体が凄まじい勢いで向かってくることを確認できた。


「《消破滅波》!!!」


それを間一髪、消滅させた。


しかし、今度は鬼の番のようだ。

巨大な手から放たれる降り下ろしには、反応できる余地はなく、地面に叩き伏せられた。


巨大な鈍い音とともに、地面にひびか入り、砂ぼこりを舞いながら、善戒は叩き付けられた。


「があアッ!!」


自然と声があがる。

しかし、それにも関わらず、鬼はもう一撃お見舞いするようだ。


再び巨大な手のひらが善戒を襲う。

回りの風を裂きなから、手のひらは一直線、善戒のいる地面へと向かう。


意識がもうろうとしている善戒はこれを防ぐ術などなく、ただもう一度、激痛を味わうだけだった。


大きな鈍い音を残し、真っ赤に染められた地面から手を退けた。

どうやら、善戒はびくともしないようだ。


「死にましたか。無様なものですね」

来伝はそう吐き捨てると、地面に寝かされている白雪と葉睛に目をやり、そこまで足を運んだ。


「今度はこいつらを殺しなさい」


そう言うと、鬼が手を高く持ち上げ、そして、無慈悲に二人に向かって降り下ろす。


ためらいの無い手が、真っ直ぐ二人に向かって行く。


徐々に手と二人との距離は詰められ、後一歩のところまできてしまった。


そして、その後一歩のまま、巨大な鬼の手は静止した。


「もう誰も殺させねえよ…」


血まみれとなった善戒が、巨大な手のひらの衝撃を両腕で受け止める。

善戒は震えながらも、精一杯押し砕かれないように全身の力を両腕に込める。


「しぶといですね」


「俺だってさっさとくたばりてえよ」


「うふふ。そうですか」


来伝はそう言うと右手を善戒に向けた。


「その願い叶えてあげましょう」


来伝の手のひらに炎の塊が徐々に球体の形を成していく。


「《炎光球》!!」


そして、禍々(まがまが)しい炎の球体が高速で善戒に向かっていく。


「私の炎光球を避けたら巨大な手のひらが仲間を潰しますよ。しかし、避けなかったら貴方は死ぬでしょう。さて、どうしますか?」


善戒は白雪と葉睛に目をやった。


「大事なもんは例え牙を使ってでも守りやがれ」


「は?」


「呂ノ伊の口癖だ」


爆音を残し、炎光球は善戒に命中した。

血しぶきが舞い散り、辺りを真っ赤にさせた。


その血を顔に浴び、白雪が目を覚ます。


「えっ…?」


「し…白雪…。起きたか…」


「ぜ、善戒さん…?」


「良かった…。葉睛を連れて…、逃げて…くれ」


「え…」


「疑問は多々あるとは…思うが、取り合えず言う通りに…してくれ」


「だ、だって、善戒さんは、生首で、今、その怪我…」


「早く…しろ!!!もう…、持ちそうにねえんだ!」


「は、はい」


白雪は、葉睛を引きずり、少し善戒との距離を置いたところで疲労からか止まってしまった。


「す、すみません。ここが限界です…」


「い…や、そこまで行けば…上等だ。後はゆっくりでも良いからこっから…脱出しろ」


そんな状況を眺めていた来伝が口を開く。


「うふふ。うまく左腕を使って急所への直撃をかばったようですね。素晴らしいです」


「ありがとよ」


「しかし、これとは別に、私が見す見すこの女達を逃すとお思いですか?」


「思うわけ…ねえだろ」


「なに?」


さっきの炎光球で左腕が潰されているため、今鬼の手を支えているのは善戒の右腕一本のみ。


そして、善戒はその腕で一瞬鬼の手を上へ上げ、再び落ちてくる前に素早く右手を来伝へ向けた。


「《消破滅波》」


「ガあアッ!」


来伝の両足が姿を消した。


「両足は…貰っていくぜ」


しかし、そのため、善戒の残された力は完全に底をついてしまった。


自然と落ちてきた鬼の手のひらに潰される。


「善戒さんっ!!!」


白雪の叫び声むなしく、誰にも届くことはなく善戒の潰される音に紛れるだけだった。


「くそっ!善戒め…!ふざけたまねを!おい、人形!その手にへばり付いてる汚いものを喰らい、残りのゴミ共を殺しなさい!」


来伝はそう叫ぶと、巨大な鬼は血で真っ赤に染められている手のひらにくっ付いている善戒を一飲みにし、うまく動けずにいる白雪達の元へ歩み始めた。


「うふふ。善戒め、私の両足を封じ仲間に危害を加えさせない作戦だったようだが、私の人形の事を完全に忘れていたようだな!無駄死にもいいところだ!」


「ぜ、善戒さんがまた、殺された…。い、いい嫌ぁッーーー!!!」


そして、気が付けば、白雪達の目の前には巨大な鬼の姿が存在していた。


「も、も…もう、私達…死ぬんだ…」


お父さんも、お母さんも、山野下町の人達も皆こんな思いで、死んでいったのだろうか。


白雪はそう思いながら、恐怖で震えながら静かに目を閉じた。


――『死ぬかもしれねぇぜ?』


前に聞いた善戒の言葉だ。


確かに、その通りになってしまったようだ。


前には生物滅殺霊と、巨大な鬼。


後ろには、怪我を負って目を覚まさずにいる葉睛の姿。


無惨に喰い殺された善戒。


そして、非力な自分。


敵う要素など微塵もない。


地球を破壊する程の力を持った生物滅殺霊と、花摘みしか能の無い女。


しかも、その花が実は町の人々を苦しめるだけの麻薬というのだから、もう笑い話にもならない。


いっそうの事、散々苦しめてきた山野下町の人々で出来てるこの鬼に殺された方が、自分の気持ちとしては楽なのかもしれない。


そうしようかと思いもしたが、やはり、そうはできない。


白雪は瞳を開けた。


「行きなさい!叩き潰すのです!」


白雪の頭上に巨大な手のひらが降り下ろされる。


「殺されない!」


それを、白雪は間一髪横に飛び込むようにして回避できた。


しかし、完全にではなく右足を一本折られたようだ。


「小賢しい!面倒だから早く死になさい!」


「死ねない!」


「何だと!?人形!もう一発お見舞いなさい!」


そしてまた、鬼の手が白雪に向かって降り下ろされる。


「あなた達を倒して、世界を元通りにしたいからッ!」


しかし、白雪は今度は足が折られているため、さっきみたいな回避はできないようだ。


自分へ向かってくる手のひらを見つめ、しかし、生への希望は捨てずにいる。


―――「もう私の命は、人々が笑って暮らせる未来の為だけにあるのだから!」


鬼の手は白雪の目前にある。


圧倒的な威圧感に怯えながらも、白雪はもう目を閉じる事はしなかった。


後は、現実をそのまま受け入れる他ないだろう。


「うふふふふ!死ねぇ!死ね!死ねぇ!」


鬼の手一色に染められた、白雪の視界が死を伝える。


やはり、ちょっと


「怖いなぁ…」


そう呟いて、涙が一滴溢れ落ちた。


涙の雫が地面に着くと共に、鬼の手も地にたどり着いた。







―――白雪を避けて。


「ギャアアアアアオ!!!」


鬼の方へ目をやると、手が腕から切り落とされ、悶え苦しむ姿が見えた。


どういう事かと白雪は回りを見渡し、そして、見覚えのある背中をとらえた。






「人々が笑える未来か…。私もその道を歩きたいものだ」


金色の髪をなびかせながら、剣を手にした油利の姿がそこにあった。


「に、兄様…」


「き、貴様、油利!どういうつもりだ!?契約を忘れたのですか!?」


来伝が、怒りがままに怒鳴り声をあげる。


「忘れてなどいない」


「な、なに!?」


鬼が残された左手で油利を襲う。


爆風を巻き起こしながら、鬼の手は凄まじい速度で油利に向かっていく。


しかし、その手首も切り落とされるだけだった。


「ギャアアアアアァアァァッオオッ!!!」


鬼が痛みで悶え苦しむ。


「私は小鬼を退治しているだけだ」


「き、貴様ぁ!!!」


来伝は怒りで拳をワナワナと震わせる。


「兄様!どうしてここに!?」


「決まっている」


油利が白雪のそばへ歩みを進める。


目の前に止まり、手を差しのべた。


「もう二度と白雪の涙を見たくはないからだ」


「兄様…」


「怪我は…」


油利が白雪の足の状態に気づく。


「あっ、だ、大丈…」


「貴様がやったのか?」


油利が来伝を睨み付ける。


「いや、私ではなくその人形ですよ。まあ、そうしろと命令したのは私ですけどね。うっふふふふふ」


油利は高笑いする来伝を無視し、再び白雪に目をやる。


「善戒の姿が見当たらんが、まさか…」


「う、うん。あの鬼に殺された…。食べられて…」


「そうなのか…」


油利は今度は葉睛に視線をやる。


「起きろ葉睛。あの鬼のはらわた切り裂いて善戒の墓を作ってやるぞ」


「う、うう…、はい、油利様…」


そう言いながら、葉睛は力なくではあるが、何とか立つことができた。


「ふっ、あなた達ごときにこの人形が倒せるものですか!?」


「両足をなくしたまま威勢を張られてもなんも怖くはないぞ火の生物滅殺霊よ」

油利は来伝を見下ろしながらそう挑発した。


「くっ、おい人形!この無礼な奴らを殺せぇ!」

来伝がそう叫ぶと、巨大な鬼はその右足を高くあげ、そしてそのまま油利に向かって降り下ろした。


「葉睛!左をやれ!」


「はい!」


そして、二人は一斉に動き出した。

こんな少ない指示で葉睛は何をなすべきか理解できたようだ。


葉睛は鬼の左足へ一直線に向かい、油利は踏み潰される前に鬼の背後へ向かった。


ドーーーンっと地面が揺れながら、鬼の足は地に着いた。


「今だ!」

油利がそう叫ぶと、葉睛は左足の裏側に回り、剣をアキレス腱に向け、それを切り裂いた。


「ギャアアアアアオ!!!」

鬼が物凄い痛がりかたをする。

しかし、油利はそれに構わないらしい。

素早く鬼の右のアキレス腱を切り裂いた。


鬼は声になら無い叫び声をあげながら、ゆっくりと前のめりに倒れていった。

そして、地面に着くと、砂ぼこりを舞ながら、鈍い音をたてた。


「いくぞ!仕上げだ!」


「はい!」


そして二人は一斉に飛び込み、鬼の背中を切り裂いた。

そして、その切り口から善戒をさがしだす。


「な、なんだと……。わ、私の人形が、瞬殺…」

来伝が絶句してる間に、どうやら、善戒は見つかったらしい。


「おい!善戒、大丈夫か!?」

油利はそう叫ぶが、善戒は中々目を覚まさずにいる。


「き、貴様らぁ、よ、良くもやってくれましたね…。最高傑作の人形をボロボロにしてくれやがって…」

来伝は、怒り、そして、徐々に自分の回りに炎を集中させていた。

すごい熱気の炎が来伝の回りを囲み、そして気が付けば、来伝は真っ赤な不死鳥へと姿を変えていた。


「な、なんだあいつの姿は…」

油利が、その姿に恐れののいている。


「ゆ、油利か……」


「ぜ、善戒!」


どうやら、あまりの熱気に善戒は目を覚ましたらしい。


「善戒さん無事なんですか!?」

白雪が、心配そうに善戒に尋ねる。


「ああ、あの鬼の中にいたら何故か傷が全部治っちまいやがった」

善戒は、自分の身体を見渡しながらそう言った。


「それよりも…」

善戒はそう言って、立ち上がって、来伝の方へ向いた。


「善戒!貴様まだ生きてやがったか!?面白い!」


「ああ、お前から亜利愛の居場所を聞くまでしなねぇよ」


「ふっ、面白い。それでどうだ、一つ提案があるのだが……」


「わかっている。お互いもう体力が残されてはいないからな」


「そうだな」


「次の一撃で」


「「最後にしてやる!」」


善戒と来伝はそういい放つと、魂を極限まで両手に集中させた。


この一撃で全てを決めるつもりだ。


「危ない!俺達は下がっていよう」


「ええ」


「はい…」


危険を察したのか、油利達が少し離れた物陰に隠れることにした。


「いくぜ、来伝!!!これが、俺の最大最強の技だぁ!!!」

善戒はそう叫び、そして、命を保つ最小限の魂を残し、それ以外を全て来伝へ向かって放った。


「≪破壊犬(はかいけん)≫!!!」


巨大な犬の形をした衝撃波が、来伝一直線を目指す。


「面白い!私も、最強の技でいかせてもらう!」


不死鳥の姿となった来伝は、口を大きく開き、そして


「≪炎死(えんし)≫!!!」

巨大な炎のかたまりを放った。


善戒の魂と、来伝の魂。

互いにぶつかり合った時、その場で大爆発を巻き起こさせた。

その場の火山を粉々に破壊するほどに。


ほこりが舞い散り、しばらく視界を妨げていた。


「だ、誰が勝ったのだ!?」

油利が目を凝らしては見るものの中々見ることができないようだ。


「善戒さん…」

白雪が心配そうに声をあげる。

それもそのはず、もしかりに善戒が負けてしまっては、山野下町、いや、世界が終わってしまうから。


そして、しばらく時がたち、破壊されたところから天の光が降りかかった。

風がほこりを吹き飛ばし、そしてその光は真っ直ぐその人を照らした。


その場で唯一立っている善戒を。


「善戒さん!!!」

白雪は満面の笑みで、善戒のもとへ走った。


「白……雪……」

善戒は白雪に目をやり、そして、安心したのか、その場で力尽きて倒れることにした。


「危ないっ!」

善戒が倒れそうになったところを白雪がなんとか支えることができた。


「お疲れ様です。善戒さん……」


「ああ、ありがとう…」


「でも、善戒さん、亜利愛さんの居場所はわかったのですか?」


「ああ、大丈夫だ…。死ぬ前にやつが教えていきやがった」


「そうですか。良かったです…」


「まあな…、それより白雪…」


「はい?」


「敬語はいらねぇよ…」


「うふふ。はい、わかりました」


「ふっ、わかってねえよ…」

その言葉を最後に善戒は気絶することにした。




火の生物滅殺霊は倒され、残るは後、四体となってしまった。


火ノ生物滅殺霊編≪完≫




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