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火ノ生物滅殺霊≪前編≫

「世界破滅遊戯」

~火ノ生物滅殺霊(前編)~





生物滅殺霊の拠点地を発見した善戒。山野下町を度々襲撃し、町を壊し、人を殺め、人の心を弄ぶ外道に腸煮えたぎる。しかし、生物滅殺霊の力は並みではない。果たして、想い虚しく、今まで通り、朽ち果てるのみだろうか。そろそろ番狂わせも悪くはないだろう。





「くっ…!」

善戒は勢い良く、目の前に見える巨大な火山、言わば、生物滅殺霊の拠点地に向かっているが、突然胸辺りに鋭い痛みが走った。

「こ、これは…」

痛みを気にし、胸を見てみると、そこには大きく広がって、真っ赤に染められている傷口があった。

「そーいやぁ、油利にヤれちまってたなぁ…」

善戒は一旦、走るのを止め、傷口を塞ぐ方法を考える事にした。

周りを見渡し、何か有効なものは無いのだろうかと思い、探してみたが、あったのは景色を茶色一色に染めている土だけだった。

「草一つも生えてねぇな」

そうしている間にも傷口から、ドンドンと血が流れており、善戒を弱まらせている。

途方に暮れた善戒は、結局無視すると言う結論に至った。

「もたもたしてらんねぇ。もう二度と山野下町を襲わせたりなんかさせてたまるかってんだ」

そうと決まると、善戒は再び拠点地に向かって走ることにした。

元々何故か、傷の治りが速いから大丈夫だろうと、自分に言い聞かせ、再び足を前へ動かす。

―――「待ってください!」

動かした足を止め、声のした方へ振り向いた。

この声は…

「白雪…」

白雪が、善戒に追い付くために走ってきたのか、息を切らしながら、頭を下げ、膝に手を置いて呼吸を整えようとしている。

しばらく、そのまま、時が経ち、白雪の息が大分落ち着いて来た頃を見計らって、善戒が口を開けた。

「どうして、ここに「善戒さん、私も生物滅殺霊の討伐の協力をさせて下さい!」

「何だと?」

「それが私の出した答えです!」

白雪が手を胸に置き、堂々と声を上げた。

今の彼女の瞳はどこまでも真っ直ぐで、その輝きが善戒に響いた。

「俺と共に行く事が、おめーの出した答えか?」

「そうです」

「死ぬかもしれねぇぞ?」

「そのぐらいしないと、私の罪は絶対に償えません」

「……」

善戒は暫し考える。

確かに自分なりの答えを出して、それを行えと言ったのは己だが、しかし、生物滅殺霊の討伐は余りにも危険すぎる。今まで幾度も人類がそれを試みては返り討ちにされ、命を落としてきた。ましてや、戦闘経験の無い白雪は生物滅殺霊の前では、塵紙同然であろう。

殺されに行くようなものだ。

正直、連れて行きたくはない。

しかし…

「私も元の世界を取り戻したいんです!」

強く光輝く彼女の瞳が、判断を揺るがせる。

覚悟は決まっているようだ。

これ以上引き伸ばすのは、無粋と言うものか。

「わかった。付いて来やがれ」

「は、はい!」

白雪は、満面の笑みで返事をした。

「ただし、生物滅殺霊は俺が狩る。手は一切出させねぇ。それでもいいか?」

「はい。元々、善戒さんの手助けをするために、来ました。善戒さんがそう言うのであれば、従います」

「そうか」

なるほど。

言動といい、振る舞いといい、白雪はかなりの覚悟を決めて、善戒に協力を申し出たようだ。

だが…

「これから、共に行くってんなら、堅苦しいのは無しだぜ。敬語は要らねぇよ」

「わ、わかった」

「取り敢えず、白雪」

「何?」

「薬草持ってねぇか?」

「えっ?」

「胸の傷で死にそうだ…」

「あっ!兄様に付けられた傷!すぐ手当てします!」

善戒は、緊張の糸が切れたのか、力無くその場で気絶した。

最後に「敬語は要らねぇって…」と口にし、完全に暗闇に身を委ねた。






『おい、善戒起きろ!』

『……』

『このやろ!』

ズドンと鈍い衝撃が、善戒の頭に走った。

『痛っ!何何?何が起きたんだ!』

『お前が起きないから、拳骨喰らわせたんだよ』

『えっ!酷いよ寿蛇』

『修行の時間になっても起きないお前が悪い』

善戒は寝ていた、寝床から起き上がり、痛そうに頭を擦った。

これで、頭こぶが出来たのは何個目だろうか。

『それに…』

『ん?何?って痛っ!』

もう一つこぶが出来たようだ。

『寿蛇じゃなくて、師匠って呼べって言ってるだろうが!』

『ご、ごめんなさい…』

善戒は涙目で、更に頭を擦った。

『ったく…。準備できたら外でな。今日はちょっと特別な修行をするから』

『う、うん』

返事を背中で受け、寿蛇は外へと足を運んだ。

それを、善戒は目で追いながら、何故かボーとしていた。

少し、雰囲気が変だった。

今日の修行はろくなもんじゃないと善戒は悟った。


しばらく時が経ち、善戒が家から出て、寿蛇の元へ歩み寄った。

それを確認した寿蛇は、その場で善戒を座らせ、口を開けた。

『今日は、いや、今日からは特別で、かなり危険な技の修行に入ってもらう』

ただならぬ寿蛇の雰囲気に、善戒は涙を流しそうになる。いつもと違って、妙な迫力があった。

『き、危険な技?』

『そうだ』

『どんな技なの?』

『正直、分からない』

『えっ?』

『どんな技になるのか、私にも分からないのだ』

善戒は混乱した。

そして、これから何をされるのか、と思うと不安で仕方がなかった。

だから、せめて、修行の内容を知っておきたい。

『修行は何するの?』

『そうだな、良く見ていろ』

そう言うと、寿蛇は手を握り締め、おもむろに地面を殴った。

『し、師匠!?』

驚く善戒をよそに、急に地面が揺れだした。

―――地震だ。

『師匠!』

『黙って、そこに居ろ。すぐ止む』

そして、寿蛇の言った通りとなり、地面が落ち着きを取り戻し、揺れが止んだ。

しかし、善戒は落ち着きを取り戻せないでいる。

『い、今のは…?』

『私がやった』

何も迷いもなく、寿蛇が言い放ったものだから、善戒はそれを寸なりと信じることができた。

『ど、どうやってやったの?』

『それが、今回の修行の内容だ』

『えっ…』

善戒が面食らう。

『こんなことするの、無、無理だよぉ』

『でも、やらなければ生物滅殺霊は倒せないし、亜莉愛だって救えないぞ?』

『うっ』

善戒の頭の中に、亜莉愛の姿が思い浮かんだ。

そうだ、速く強くなって、亜莉愛を助けに行かなければ。

『わ、わかった。やる』

『宜しい』

今、亜莉愛は善戒の最大の活力となっているのだ。

あの日々を取り戻すためなら、善戒は何だってやってやる覚悟だ。

しかし、

『何をすればいいの?』

『そうだな、それよりも前にまず、説明からだ』

『う、うん』

善戒はまた、寿蛇の説明好きが出たと、ちょっと面倒くさそうに頭を掻いた。

『人は皆、魂があることは知っているな?』

『うん』

『しかし、皆同等の魂ではない。必ず違う魂だ』

『う、うん』

善戒には少しややこしくなって来たのか、ちょっと混乱する。

しかし、それに構わず、寿蛇は言葉を続ける。

『そして、それぞれの魂の特徴を持ち合わせている』

『とくちょう?』

『そうだな、この場合では、言わば、特性かな?』

『うーん』

善戒はこのあたりになるともう、訳がわからなくなって来たのか、少し苛立ってきた。

分からない単語を、更に分からない単語で説明しないで貰いたい、と善戒は思った。

『そして、私の魂の特性は物を揺らせる事だ。思い通りに、物を揺らす事が出来る』

『そうなんだ』

善戒はちょっと興味を持ち始めた。

『ねえねえ、じゃ僕のは?』

『それを知るための修行でもある』

『じゃあ、早くやろうよ』

『ま、待て。また説明が…』

『もういいよ!どうせ聞いても分かんないし』

『こ、こら』

『さあ、やろっ』

『ったく…』

寿蛇は後頭部を掻き始めた。

まあ、確かに実践が一番か。

まだ説明したかったが、また今度にするか。と寿蛇は自分に言い聞かせ、善戒に拳骨を一発入れてから、修行の内容を説明し始めた。

『さっきも言ったが、人には魂の特性がある。そして、その魂を外に出して始めて、その特性が出るのだ』

『う、うん…』

善戒は痛い頭を擦りながら、大人しく寿蛇の話を聞いていた。

『魂を意図的に外へと出す。それが、今回の修行の内容だ』

『いとてき?』

『自分の思いがままにってことだ』

『そうなんだ。だったら…』

善戒の顔色が少し悪くなってきた。

『どうした?』

『なんか…。ちょっと、怖い…』

『そうか。その恐怖こそが、この修行の一番重要なところだ。意図的に魂を外に出す。これは、正直言って自殺行為に等しい』

『……』

『だからこそ、使い所と、量を絶対に間違ってはいけない。間違えたら、体から魂が抜けて、即死だ』

『う、うん…』

善戒の顔がドンドン悪くなっていく。

寿蛇は、早い方がいいと思い、今この修行をやろうとしたが、どうやらまだ早すぎたようだ。

そう思い、やはり止めておくかと善戒に言おうと口を開ける。

『やはり『でもやらなければ、亜莉愛は救えないんだよね。なら、やる』

生意気だな。と寿蛇は笑いながら思った。

『だったら、とっとと立つんだ。まずは、魂のコントロールからだ。出来るまで飯は食わせん』

『ええっ!』

『休憩もなしだな』

『ひ、非道いや!』

『それが嫌なら、とっとと出来るようになることだ』

そう言うと、何が愉快だったのか、寿蛇はふて腐れる善戒をよそに、高笑いを続けた。

どこまでも、鬼みたいな人だなと善戒は思ったが、寿蛇は『今失礼な事を考えたな!』と言い、本日三発目の拳骨を喰らわせた。

拳骨の音で驚いたのだろうか。

木から鳥が一匹、空へと羽ばたいた。





「ん…」

善戒は、目を覚ました。

眠たい目を擦り、そして、目を開けらる。

「し、白雪…」

「目覚めましたか?」

「あ、ああ…」

まだ夢の途中だろうか。

間近に、白雪の顔が目に入る。

そして、微かな温もりを残し、後頭部が柔肌で包まれている。

「わ、悪いな。膝枕をしてもらちまって。別に、地面でも良かったぜ?」

「い、いえ。さすがに地面には寝かせません…」

「そうか」

「はい…」

善戒は白雪の膝から、後頭部を離し、上体を起こした。

「じ、実はですね…」

白雪は、少し恥ずかしそうに俯いた。

「ん?」

「よくやって貰ってたんです」

「膝枕を?」

「そうです…」

「誰に?」

俯いているから、表情はよく見えないが、白雪が、少し悲しそうに肩を落とす。

「母です…」

「そうか…」

白雪の母と言えば、生物滅殺霊の拠点地から出た小鬼に殺されたのだった。

「大好きでした…」

「そうか…」

彼女の瞳から涙が流れたのを見て見ぬふりをして、善戒は立ち上がり、巨大な火山である、生物滅殺霊の拠点地に目をやった。

どれ程の悲しみを生み出せば、気が済むのだろうか。

善戒は、白雪の涙が乾くまで、その場で立ち尽くし、時間が過ぎるのを待った。


しばらく時が経ち、突然、白雪が立ち上がった。

「行きましょうか」

そう言うと、彼女は巨大な火山へと、足を動かした。

「ああ」

善戒も、それに続く。

足音のみが、その場の空気を振動させ、それ以外の音は生み出されなかった。

静かに、巨大な火山へ向かって歩いていると、火山の麓に巨大な扉が見えた。

二人は、そこへ到着し、近くから扉全体を見渡す。

ざっと、善戒の身長の三倍ぐらいだろうか。

善戒は、その大きさに圧倒されながらも、その扉を開けてみることにした。

「ふん!」

力んで、押してみたが、うんともすんともしなかった。

扉がやたら重いのだ。

「駄目だ。開きやしねえ」

「どうしましょうか…」

二人は、しばらく途方に暮れたが、白雪が何かを思い付いたのか、善戒を見て口を開けた。

「あ、あの。さっきやったみたいに、この扉も消せませんか?」

「あ、ああ…。そうだな…」

善戒は困ったように、頭を掻き始めた。

さっきやったみたいにって言うのは、きっと油利の槍や馬を消したときみたいにってことだろうな。

「できませんか?」

白雪が不思議そうに善戒の顔を覗く。

「できねぇ訳じゃねぇけど…」

「うん?」

白雪が更に不思議そうに顔を覗く。

この場合しょうがないか。

「わかった。やってみる」

そう言うと、善戒は扉に手を伸ばし始めた。

手と扉の距離が徐々に縮まり、後わずかと言うところで、急に扉が勢いよく開かれた。



―――「扉は開きましたよ。どうぞ、お入りになって下さい」


どこからかは分からないが、聞き覚えのある声が鳴り響いた。

「来伝!」

「ふふふ。久しぶりですね、善戒君。あの鼻垂れ小僧が、よくそこまで大きくなりました」

「来伝!てめえ、亜莉愛の居場所を言いやがれ!」

「ふふふ。知りたければ、私のところまで来てください。まあ、来れればですけどね。うふふふふふ」

「お前どこにいる!?」

善戒は叫ぶが、空しく誰にも届くことはなかった。

どうやらもう聞こえていないようだ。

「糞っ…」

苛立ちを隠せない善戒は早速、扉から火山に入ろうとする。

「ち、ちょっと待ってください」

「なんだ!?」

「うっ!」

白雪が、驚いてビクッとする。

「あ、あの…もっと慎重に…」

「ああ、おめーは慎重に行け。俺はとっととあいつを潰しに行く」

そう言うと、善戒は今度こそ走り出そうとするが

―――「頭を冷やせ。阿呆が」

聞いたことのある声が善戒を引き留めた。

「葉晴さん!」

「なにしに来やがった!?また俺にぶっ飛ばされに来たのか!?なら後に「生物滅殺霊を倒しに来たのだ」

「なに…?」

「耳が悪いな。俺も討伐すると言ったのだ」

「そうかよ…。勝手にしやがれ。じゃあな」

「待てと言っている!」

葉晴は行こうとする善戒の腕を掴んだ。

「放せ…」

「この先に罠があったらどうすると言うのだ」

「あのなぁ、俺はこの日のために、亜莉愛を助けるために死ぬほど修行してきた。十数年助けたくても、力不足で助けに来れなかった。だが、それが今、後わずかで助けられる。手が届く。罠だろうが、神だろうが悪魔だろうが何だって掛かって来りゃあいい!あいつをぶっ殺して、亜莉愛を助けてやらあ!」

善戒は葉晴から手をほどき、全速力で拠点地へ入って行った。

「善戒さん…」

「頭に血が昇りすぎだ。阿呆が」

「葉晴様、どうしましょうか?」

「あいつを追いかけるぞ」

「わ、わかりました」

そう言うと二人は、善戒を追うべく、火山に入る。

慎重に回りを見渡しながら、先に進む。

どうやら、相当な速さで向かったのか、善戒の背中が見当たらない。

「いないみたいです」

「きっと、あの階段を登ったのだろう。行くぞ」

「はい」

二人は、注意をしながら、目の前の階段に向かった。

向かう途中、回りを確認する。

あちこちにある、人の身長程度の巨大なロウソクに火が付いており、回りは明るい。

回りにある壁は火山のままだが、床が木のような物で出来ており、どうやら改築したようだ。

火山の中身を空にし、人が住める、まるで城のような内装にしてある。

こんなこと、人間技では不可能。生物滅殺霊というのは、相当な企画外れの存在であろうと、白雪は思った。

「着きました」

「良し、登るぞ」

二人は、次の層へと続く階段を登り始めた。

上を見れば、少し距離はあるが、真っ暗な天井から、光が降り注いでいる。

次の層まで、そんなに遠くはないようだ。

「葉晴様はなぜ生物滅殺霊を?」

階段に昇る途中、白雪が疑問に思っていた事を口にした。

「油利様のためだ」

「えっ?」

葉晴は少し肩を落とした。

「偽の英雄としての最後の命令を下さった」

「それが、生物滅殺霊を討伐することですか?」

「いや」

気のせいだろうか。

葉晴の階段の昇る速さが変わったと、白雪は思った。

「あの阿呆に協力することだ」

「そうなんですか」

「ああ。だから、速くあいつの元へ行かねば。あの生物滅殺霊の分かりやすい挑発。罠があるに決まっている」

「そうですね。急ぎましょう」

二人は、やっとで階段を昇りきり、そして、次の行き先を探すため、回りを見渡した。

「なんだこれは…」

しかし、階段はおろか、扉、窓一つもなかった。

完全な密閉空間である。

「どうなっている!?善戒はどこに行ったのだ」

「葉、葉晴様!私達の来た階段が!」

「何!?」

さっき昇ってきた階段に目をやると、なぜかは知らない。

しかし、無数の亀裂が入り、確実に崩れていっている。

ポロポロと形を失い、重力に従って、崩れ落ちていく。

その現状に、何も成す術無く、二人はその階段が完全に姿を無くす瞬間まで見ていることしかできなかった。

「ど、どうしましょうか…」

白雪が、不安そうに葉晴を見つめる。

しかし、葉晴にも、この状況が意外だったのか、何を成すべきかわからずにいる。

そして、そこに、そんな二人を嘲笑うかのような、気品漂う声が鳴り響いた。

「ご機嫌麗しゅう、山野下町の住民達。ここへ何の用です?うふふ」

どこからか、いや、何時からかも分からないが、確かに、そこに奴はいた。

「来伝!」

「自己紹介が省けて、嬉しいです」

「ぜ、善戒さんは、どこですか!?」

「そうですね。お答えしたいのですが、まずは、私の質問から答えて貰いたいのだが…」

「そ、そんなの、貴方を倒すために決まってるじゃない!」

「そこの貴方も、同じ動機で?」

来伝が、葉晴を指差し、訪ねた。

「切り刻んでやろう」

「ふははははははぁ!良いですね!面白いです!」

来伝は手で顔を隠し、盛大に笑い声を上げた。

そんな姿を不気味に思いつつも、白雪はもう一度同じ質問を打つけてみる。

「ぜ、善戒さんはどこに居るんです!?」

「そう慌てないで下さい。今すぐ会わせてあげますから」

そう言うと、来伝は着ていた服の内側から、ある丸い物体を取り出し、露出させた。

「な、何を出した!?」

ロウソクの火の明かりがあるものの、来伝が、少し離れているところにいるため、余り光が届かず、見えにくい状態となっているのだ。

「これですよ」

そう言って、来伝はその物体を葉晴達の方へ投げた。

その投げられた物体は、重力に従って地面に落ち、数回跳ねてから、落ち着きを取り戻し、コロコロと葉晴達の方へ転がって向かっていく。

「気、気を付けろ!爆弾かもしれない!」

二人は構えて、その物体の正体を知るため、凝視した。

ゆっくりと転がってきている。

転がってきているが、まだ認識するための十分な光が届いていない。

コロコロと、コロコロと、その球体状のものが、徐々に近づいてくる。

近付いてきて、更にしばらく静かに転がり、そして、やっとでその正体を認識できる距離に達した。

「う、嘘だろう…」

「い、いいいいやぁ、いやああああああああぁ!!!!」

その球体は火の光に照らされて、善戒の生首を写し出していた。

その生首は、善戒の顔が見えては、地面に隠れ、そしてまた、顔が現れるという回転運動を繰り返している。

善戒の頭は、しばらく転がり、そして、白雪の足にぶつかることで運動を停止した。

「お待ちかねの善戒君ですよ」

来伝は少し興奮しながら、厭らしい笑顔を見せた。

「い…いやぁ…いっ………」

足元に、善戒の生首がある現実に堪えられなくなったのか、白雪はその場で気絶した。

「ふははははっ!感動的な再会でなりよりです!」

「し、白雪!」

葉晴は安否を確認するために白雪の元へ行き、顔色を見るためにしゃがみ込んで、そして、その時、不意に善戒の生首と目が合ってしまった。

突然の吐き気が葉晴を襲う。

「一体いつ善戒にこんなことをした?」

「入ってすぐですよ。血相変えてここに入ってきましたから、隙はいくらでもありました。とるに足りませんでしたね」

そう言うと、来伝は残念がるように、わざとらしく肩を落とした。

「貴方はどうしますか?逃げますか?それとも…」

来伝が善戒の生首に指を指しながら続きを言い放つ。

「こうなりますか?」

「ら、来伝、お前…!」

「うふふふふふっ!」

来伝は愉快そうに笑い声を上げる。

「さあ、早く選んでください。あなた方仁助組は出来れば殺したくはないのです」

「な、なぜだ…?」

「貴方が知る必要はありません」

「……」

葉晴は頭を悩ませる。

勝ち目の無い戦いを挑んで無駄死にするか。それとも、逃げて生き長らえるか。

どのみち、善戒が死んだ今、油利から受けた頼みはもう成し遂げられない。

それに、直接的には来伝に恨みはない。戦って得るものがない以上、逃げる選択肢が一番理にかなっている。

「一つだけ聞く」

「何ですか?」

「何故、山野下町に度々襲撃を行ったのだ?」

「そんなの決まってるじゃないですか…」

来伝はニヤリと口角を上げる。






「暇潰しです」


――――来伝の首元に刃が迫る。


「おっと」

来伝はそれをギリギリのところで後ろへ移動することで交わす事が出来た。

「凄まじく速いですね。今まで力を隠していたのですか?」

葉晴は今度は来伝の眉間を目掛けて、剣を突き付けた。

剣先は空気を切り裂き、凄まじい速度で、真っ直ぐ来伝へ向かう。

「……っ」

来伝は頭を横へ倒す事で何とか致命傷は避けられたが、余りの剣先の速さで、頭の側面にかすり傷を負わされていた。

「血が出」

来伝の言葉が終わる前に、又もや剣が来伝の首元に向かう。

葉晴は一心不乱に来伝の命を狙う。

「くっ!」

来伝はまた後ろへ下がる事で避けようと試みたが、途中でそれは不可能だと悟った。



剣の速さが数倍にも増して上がっていたからだ。



「避けられないッ!」

気が付けば葉晴の剣の刃はもう来伝の首の皮まで到着していた。


このままでは、殺される…

こんな三下に…

この私が?




―――「調子に乗るなぁッ!」


突然、剣も、葉晴をも吹き飛ばす大爆発が来伝から巻き起こった。

「ぐわァ!」

葉晴は爆発の威力がままに飛ばされ、そのまま、地面に倒れる。

爆発の衝撃と、地面に倒れた衝撃で、葉晴の体に激痛が走る。

「ハァハァ…」

一方、来伝の方も無事ではないらしく、荒い呼吸がその場に響いた。

「あ、貴方、ただ者ではないですね…。一体、な、何者なんです?」

葉晴は体中に走る痛みを無視して、ぎこちなくゆっくりと立ち上がって、口を開けた。



「お前の暇潰しに家族を殺された、ただの男だ」


来伝はうふふと笑い声を上げ、続けて口を開けた。

「御愁傷様です」

「貴様ぁッ!」

怒りで我を忘れ、再び剣を握り締め、葉晴は来伝の元へ走った。

「くっ…」

走ってはいるが、さっきの爆発の衝撃のせいだろうか、速度が常人の走る速度と大して変わらなくなっている。

「ご自慢の速さはもう、見る影もなくなりましたね。うふふ」




「それはどうかな」

気が付けば、一瞬にして、開いていた距離がないものとなっていた。

「き、貴様、さっきの剣の速さといい、余程芝居がお好きなようですね…」

来伝は、至近距離まで詰まった葉晴から距離を取ろうと後ろへ下がる。

「しょうがないだろう。頭を使わなければ、この刃は貴様には届かんからな」

しかし、葉晴は難なくその距離をまた潰し、そして、剣を来伝に向かって振り下ろす。

鋭い音と共に、剣は凄まじい勢いで来伝に向かっているが、しかし、来伝は焦るどころか、避ける素振りすら見せていない。

「ご冗談を…」

その声を合図かのように、再び、来伝を中心とした大爆発が起きた。

今度は、葉晴が吹き飛ばされただけではなく、剣が焼き消されるほどの威力であった。

独特の焼き焦げた薫りだけを残し、剣は灰へと身を変えた。

「頭を使っても、貴方の刃は一生私には届きませんよ」

葉晴は、なんとか、力なく目線を来伝へとやる。

そして、何故人類は、彼らにこれまでの間、全く敵わないのか、少し理解できた気がした。

「生物滅殺霊を侮らないでください」

来伝の体が、規則正しく燃え上がっている、純粋な赤色の炎に包まれていた。

禍々しいまでの、その炎は、全ての命を燃やし尽くすと言わんばかりに、おびただしく燃え盛っている。

「化け物め…」

もう、全く動かなくなった体を恨みながら、葉晴は精一杯の力を振り絞り、言葉を発した。

「森を燃やし、木を切り刻み、空気を汚す」

来伝は右手を胸の前まで持っていき、手を開き、手のひらに意識を集中させる。

「己の糞と変えるため植物を殺し、そして、そのケツを拭くためにも更に植物を殺す」

来伝の手のひらの上に、透明感のある赤色の球体が浮遊している。

「何も抵抗できないと知りながら!」

その球体が、突如人の頭ぐらいの大きさに膨張し、凄まじい熱を発している。




「どっちの方が化け物だァッ!?」



来伝は右手を葉晴の方へ勢い良く突き出したかと思いきや、その手のひらの上に浮遊していた、大きな球体はその勢いがまま、姿を巨大な火の鳥と変え、一直線に葉晴へ猛進する。

眩しいぐらいの光を放ちながら、その火の鳥は空気を焼き尽くしながら、葉晴へ飛んでゆく。

「喰らいなさい!≪炎光球≫!!!」

その火の鳥は見事に葉晴に直撃し、そして、その場から全てが消滅した。

事は一瞬。

葉晴の遺体はおろか、炎光球(えんこうきゅう)の炎さえもそこには存在していなかった。

「あの世で逃げなかったことを一生後悔することです。うふふふふふっ!」

来伝は相当気分が良いのか、いつも以上に笑い声に拍車がかかる。





「こ、これは…。どういう事…」

「おや、王子も無しに、お目覚めですか?」

白雪が、目を覚ましたが、しかし、すぐに目を覚ましたことを後悔した。

「ぜ、善戒さん…」

なぜなら、まだ足元には、善戒の生首が転がっていたからだ。

「い、いやぁ…」

「まあ、その王子が方や生首になり、方や遺体も残らないぐらいに焼き尽くされれば、一人で起きるしかないと言うものでしょう。うふふ」

「えっ?ば、葉晴さんは?」

来伝の口角が厭らしく上がる。

「私が殺しましたよ」

その言葉で、白雪の頭は真っ白になった。

「う、うそ…」

「嘘など吐きませんよ」

「え…えっ…?」

白雪はもう冷静さを知らない。

善戒に続き、葉晴までも殺された。

しかも、いとも簡単に。

そして、次は…

「貴方の番ですよ」

来伝が、全身に炎を纏いながら、徐々に白雪に近づいて行く。

一歩、また一歩と近づいてくる。

そして、その度に体の力が抜けていくのがわかる。

体はもうとっくに命を諦めているようだ。

しかし、頭は恐怖でいっぱいだ。




死にたくない。

死にたくない。

死にたくない!!!


白雪の本能がそう叫ぶが、体が一向に動く気配がない。

余りの恐怖に、全身の筋肉、一筋、一筋が硬直している。

どうすれば…

「諦めて下さい」

気が付けば、来伝が白雪の目の前に立っていた。

体が動かず、地面に尻餅を付くだけでいる白雪を見下ろし、彼女の顔の前で手のひらを開いた。

「御機嫌よう」

来伝の手のひらから、赤色の球体が浮かび上がる。




「≪炎光球≫!!!」




そして、全てが消滅した。

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