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◇BELIEVE

「さて、じゃあこういう時一番活躍するのは漫画部だってことを全校生徒に知らしめる時が来たかな」


 拘束を解かれた生徒が、まだ拘束されている生徒を解放しに廻っている。漫画部部長・平田は腕を拘束されたまま身体に反動をつけて立ち上がり、腕を背中に2、3度叩きつけた。パシン、と音がして結束バンドが外れる。ライターも同じようにして拘束を抜けだした。

 彼らの後ろにいた茶道部部長の保阪が、パチパチを瞬きをする。


「どうやったんですの?」


 ライターはキヒヒッ、と笑ったあと彼女の背後に回り、保阪の拘束を解く。その前方で平田が人差し指を左右に振った。

 

「背中にバンドを叩きつける衝撃と、叩きつけた瞬間腕を開くように力をいれることで外すんだよ。もともと結束バンドっていうのは拘束のためのものじゃない。安価で効率がいいから仕様されてるだけだ。ちなみに漫画部は全員がこれをできるぞ。ネットで探せば動画付きで方法が掲載されてるからな」


 保阪がライターに視線を移す。彼女は保阪の視線を正確に理解し、キヒヒッ、と笑ったあと

 

「わたくしは本でよみましたわぁ」


 と言った。

 平田が近くでまだ拘束されている隆弘の手もとにしゃがみ込む。

 

「さて。おそらく三年勢の中で一番戦力になるこの男から解放するとしますか」


 拘束されてあぐらをかいた状態の隆弘が

 

「悪いな」


 と呻るように言う。平田が彼の拘束を解くと、195cmの巨体がぬっと立ち上がった。そこに、捉えられた当初の、泣き出しそうな表情は見つけられなかった。

 

「感謝するぜ平田ァ」


 隆弘がその場にしゃがみ込み、排気口のフタを持ち上げる。ベリベリと妙な音がした。彼はそれを片手で掲げると、生徒達に銃口を向ける黒ずくめに狙いを定めて思いきり投げた。

 ブォン、と空気を切り裂く音がして排気口のフタが黒ずくめの頭に直撃する。グァン、と大きな音を立てて金属のフタと、男の身体が地面に倒れる。

 平田が笑顔をひきつらせて隆弘に言う。

 

「西野クン。俺の記憶だと体育館の排気口は溶接されていたと思うんだが」


「たまたま溶接がアマかったんだろ」


「いやぁ~……?」


 ライターがキヒヒッ、と笑い声をあげて平田に歩み寄る。

 平田がライターに視線を向けた。

 

「これはあれだな、リトル・ライター。なんていうか、手札に揃えちゃった……みたいな」


「封印されしエクゾディアですか?」


「そうそれ」


 ◇

 

 ステージの上で拘束されていたヴァレンタインたちの元に、ツァオとユトナが駆けつける。頬の赤く腫れたヴァレンタインの拘束をツァオが解く。

 

「ツァオくん! 大丈夫だったの!?」


「それはこっちの台詞だ! こんな怪我しやがって……!!」


 ヴァレンタインの拘束が解かれる。

 ユトナは奈月とルカの拘束を解いていた。

 

「怪我はねぇのかよ?」


 彼女が尋ねると、奈月が頷く。

 

「大丈夫だよ。ユトナこそ、無茶して怪我してない?」


「俺は大丈夫だよ。そんなホイホイ怪我するわけねぇだろ」


「ならいいんだけど」


 人質としてステージに拘束されていた三人が救出され、騒動の被害がないステージ裏へ誘導される。

 ユトナとツァオは、友人たちの無事を確認し、脱力したようにため息をついた。

 

 「無事で、よかった……」

 

 ◇

 

「くっそ、ナメやがって!」


 黒ずくめの一人が生徒に銃をむけたせいで体育館に悲鳴が響く。だが引き金を引く前に彼は後頭部に衝撃を受けて白目を剥いた。

 倒れた男の横にバスケットボールが転がる。二年のバスケ部員、大沼が男の背後に立っていた。

 

「おぉおぉ……!! 俺、人にダンクシュートキメたの初めてだぜ」


 銃を見て腰を抜かしていたクラスメイトの菊島が座り込んだまま呟いた。

 

「たいていの人間は人間にダンクキメるなんて経験しねぇよ」



 三年の待機列では黒ずくめ二人が銃を構える暇もなく地面に倒れる。顔面に野球ボールがめり込み、そのまま意識を失ったのだ。

 投げたのは野球部部員の細川だ。


「花神楽のエースナメてんじゃねぇぞ!」


 細川の真横をバスケットボールが横切り、後頭部をボールに殴られた黒ずくめが一人倒れる。

 

「我らが顧問の仇だこの野郎っ!!」


「その首級くび取ったぁぁああああっ!!」



 二年の待機列でも黒ずくめが銃を構えたが、彼も銃を撃つ前に金縛りにあったように動けなくなってしまった。

 背後に回っていた女子生徒が男を羽交い締めにしたのだ。

 

「運動部にばっかりいいカッコさせられないわ」


 吹奏楽部部長、滝沢奏だ。

 彼女は自分より20cmほど高い男の身体を羽交い締めにして、そのまま背後へそり投げた。ジャーマンスープレックスだ。

 

「吹奏楽部がいつもどんだけ重い楽器もって演奏してると思ってんのよっ! 毎日腹筋背筋腕立て伏せ各100回の筋力ナメんじゃないわよぉおぉぉっ!」


 ガツン、と音がして、技を食らった黒ずくめが白目を剥いて脱力する。

 男を1人気絶させた女子高生がふらりと立ち上がり、片手をあげる。

 

「気合いいれなさい吹奏楽部!! まだまだヤるわよ!」


 漫画部部長の平田は周囲の生徒達がバタバタと暴れる中、部員全員で体育館の窓という窓をかたっぱしから開けていた。

 雨と風が体育館の中に入り込む。

 

 平田は風に制服を揺らしながら、朗らかに笑う。

 

「ダテにマスターキートンが愛読書なわけじゃないぞ! 風が強いと銃も照準が狂うらしいじゃないか! 弾丸が小さいからな! 『原始的な武器のほうが威力が高い』と一話でキートンがいってたぞ!」


 ハハハハ! とピンチの時に現れたヒーローのような笑い声を響かせて彼は言う。

 

「うちの顧問を泣かせた罪は重いぞ、テロリスト諸君! たっぷり後悔してもらおう!」


 ◇

 

「きなさい! テオ、リリアン!」


 ジュリアンが大きな声を出してテオとリリアンの腕を引く。2人は当然抵抗するが、ジュリアンはニコリと笑って2人に囁いた。

 

「いまさら、貴方達を笑顔で受け入れてくれる場所があると思うの? 信じてくれる人がいると思うの? ――零れた水はね、元には戻らないのよ」


 テオとリリアンの肩が揺れた。それから2人は人形のように力なく、ジュリアンに腕を引かれてステージを降りた。

 彼らの背後からバタバタと騒がしい足音がする。

 

「待ちやがれ!」


 祐未だ。ジュリアンは背後から駆け寄る少女の姿を確認すると、黒ずくめの1人に指示を出した。

 

「足止めして!」


 黒ずくめがヒヒッ、と不気味な笑い声を出して祐未の前に立ちふさがる。

 

「まてよ! まだ我慢比べしてねぇだろうが!」


 祐未が走りながら拳を振り上げた。

 

「どけぇえええええ!! クソ野郎がぁああああっ!!」


 祐未が男を殴り、代わりに男の蹴りが祐未の右側を狙って飛んでくる。右目が腫れて使い物にならない祐未は蹴りをモロに食らい、身体の中からバキリと妙な音がした。それでも彼女は身体が吹き飛ぶ前に踏みとどまり、男の左半身向って蹴りを放つ。男はその祐未の蹴りを腕でガードし、やはり祐未の右を狙って拳を突き出した。この攻撃はなんとかかわした祐未だったが、立て続けに放たれた蹴りは反応できずに今度は吹き飛ばされてしまう。


「祐未っ!」


 叫んだのはアレックスだ。彼は壁に激突しそうになった祐未を受け止めると、祐未を吹き飛ばした黒ずくめを睨みつける。

 

「貴様よくもっ!」


 アレックスの蹴りを黒ずくめが受け止める。黒ずくめの拳をアレックスが受け止め、そのまま彼の腕を掴んで大きく振り回した。

 投げ飛ばされて崖に激突しそうになった黒ずくめが床に手をついてスピードを殺す。そして床を蹴り、アレックスに向って行った。

 

「邪魔すんじゃねぇよぉっ!」


 男が飛びかかるようにしてアレックスを殴りつける。腹部に直撃を食らったアレックスはすこし苦しげに呻いたあと、急接近した男の両肩をガッシリと掴み、そのまま膝で男の顎を蹴り上げた。

 

「ぐふっ!?」


 男の顔が跳ね上がり、グルリと目が一回転する。男が脱力したことを確認すると、アレックスは慌てて祐未にかけよった。

 

「大丈夫か、祐未!!」


 脇腹を押さえた祐未がアレックスの声に反応してフラフラと立ち上がった。

 

「だっ、大丈夫……だぜ……ちくしょう、右目が見えねぇ……」


「それだけ腫れているんだ。無理もない。もう大人しくしていてくれ」


 すでに身体中に傷をつくった祐未がアレックスを睨みつける。


「は? なに寝ぼけたこと言ってんだよ。あたしがいかねぇで誰がテオのやつ助けんだよ!」


 アレックスも負けじと怒鳴り返した。


「私がなんとかする! リリーもテオも取り返す! 君もリリーも、テオも! 私が助ける!」


 祐未の肩を押さえつけて座らせようとするアレックスの腕を、彼女はうっとうしそうに振り払った。


「ふざけんじゃねぇよ! あたしとお前だ! あいつらを助けんのは! じゃねぇとあたしが、あいつを信用してねぇことになるだろうが!」


「どうしてそういう話になる!」


「そういうことだろ! なにがあってもあたしが助ける!」


 体育館の大乱闘のせいで割れたガラスの破片を、祐未が手に取る。彼女はその破片を腫れた瞼に突き刺した。

 アレックスが声をあらげる。

 

「祐未! なにをしている!?」


「うるせぇ黙ってろ!」


 ブシュリと嫌な音がして、祐未の瞼から血が噴き出した。それをさらに押し出して、グッと出血を拭う。

 そうしてステージの裾にあるカーテンを踏みつけ、ビリビリと破る。破いた切れ端を傷にあてがい後頭部でグッと結んだ。

 血を抜いて腫れを取り、目が開くようにしたのだ。

 傷口を強く押さえつけた祐未は、グルリとあたりを見回して既に出入り口近くにいるテオを見つける。

 大きく息を吸い込んで、叫んだ。

 

「テオォオォオォオォオオッ!!」



 テオが振り返る。そのせいでジュリアンの歩みが少し遅くなった。祐未が走り出し、追うようにアレックスも走り出す。

 

「――あたしの信頼みずは! 一滴たりともこぼれちゃいねぇぞ!」


 騒がしい乱闘の波を縫うようにして祐未が走る。ジュリアンの前に立ちふさがるようにして黒ずくめが銃を構えた。ガガガガッ、とマシンガンから火花が吹き出るも、祐未には当たらない。アレックスが男の持つ銃を蹴り上げ、そのまま男の顔を横に蹴り飛ばした。

 祐未はその間にテオの腕を掴み、勢いよく引っ張った。

 ジュリアンと祐未では力の差は歴然としている。テオの手を掴んでいたせいで身体がひっぱられたジュリアンは黒ずくめに手を引かれ体勢を立て直した。

 

 ――テオは、祐未に手をひかれてジュリアンから引き剥がされる。

 

「戻ってる暇はねぇぞ、ジュリアン!」


 黒ずくめが銃を乱射し、アレックスと祐未は立ち往生を余儀なくされた。

 

 ジュリアンがリリアンの手を引いて体育館を出る。

 祐未が床に倒れ込むテオの身体を受け止めた。アレックスも傍に駆け寄る。

 3人の中で最初に口を開いたのは、アレックスだった。

 

「……無事か、テオ!」


 テオはしばらくの間茫然としていたが、やがて


「……あ、ああ……」


 と、熱に浮かされたような返答をした。

 その言葉を皮切りにテオはだんだんと正気を取り戻したらしく、祐未の腕を振り払うようにしてアレックスと祐未を睨みつける。

 

「……っ、どうして助けた!! こんな危険なマネまでして! 俺はっ、俺は、今回の騒動の、引き金みたいなものなんだぞ!?」


 アレックスがテオの頭を撫でるが、彼は拒否するように首を振る。

 

「俺が今回何をしたと思う!? 人を脅して、人を傷つけて、あいつらに協力して、騒動を大きくしただけだ!! 助けるならなんで校長にしなかった!? 俺は、俺が、俺が助けてもらっても、なにも、できないだろう!? 俺は助かるべきじゃない!! おまえらに手を引いて貰う資格なんてない! あの、女の、あのジュリアンの息子だぞ!?」


 テオの声は震えているから、たぶん、泣いている。祐未の眉がピクリと跳ね上がった。

 

「おい、テオ。顔あげろ」


 思いの外素直に顔をあげたテオは、やはり赤い目に涙をためていた。濡れていると、本当にキラキラと光って、宝石のようだ。耳につけられたピアスなんかよりよほど美しく輝いている。

 おそらくこの世に存在するどんな宝石よりも美しい瞳が祐未を見ていた。彼女は赤い目をまっすぐに睨みつけたまま、青白い頬を思いきり叩く。

 

 パン、と乾いた音がした。

 

「ふざけんじゃねぇぞ。あたしが手を引くかどうかはお前が決めることじゃねぇ。あたしが決めることだ。お前がなんと言おうと、今日のことでお前が傷つくことがあるなら、その全部からお前を守る。世界が敵にまわってもお前の味方だなんて言うつもりはねぇ。あたしは、お前が世界を敵にしたりしないってわかってる。お前はあの女とは違ぇだろ」


 テオがまた俯いたので、祐未は彼の頬を叩いたその手で無理やり顔をあげさせた。

 オニキスの瞳とルビーの瞳がぶりかりあう。ルビーは一瞬ぐらりと揺れたが、オニキスはまったく動かずに目の前の端正な顔を睨みつけていた。

 

「これから先なにがあってもお前は絶対あたしが助ける! あたしはお前を信じてる! だからお前も、あたしを信じろ! お前はあたしが世界で一番信頼する人間だ! 胸を張れ! テオ・マクニール!」

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