◇20th Century Boy
トゥルルルルルル♪
ジュリアンの笑い声に混じって、電子音が聞こえてきた。今まで笑い狂っていたジュリアンがピタリと笑うのを辞め、音がした人質の群れのほうを見た。
「なに?」
今まで笑っていた顔が、その日はじめて無表情になる。
テオもゆるゆると人質の群れに視線を向けた。
電子音が聞こえてくる。
ランランララランランラン♪
リンガ ディン ドン リンガ ディン ディン ドン♪
テテテテテテーテーテテテテー♪
チャラララランララン♪
テレレテテテテーテテテテ♪
タタタ タンタタ タンタタ タタタタン♪
チャラララ チャーチャララー♪
ラーラララーラーララーララーラー♪
チャラランランラン チャラランランラン♪
テレテレレテレーデンデン♪
それがどんどん重なり合って、ひとつの大きなうねりになっていった。さまざまなメロディの、さまざまな電子音が体育館中に溢れていく。
携帯電話の着信音だ。
ジュリアンがパイプ椅子から勢いよく立ち上がった。
「なに……!? どういうことなの!? ジャミングしてあるはずでしょう!!」
ステージ上で男に襟首を掴まれていた祐未がククッ、と笑った。男が祐未を蹴り、少女の身体を吹き飛ばす。
「なにわらってやがる! テメェ、なにしやがった!!」
祐未が口から血の混じったツバを吐き出した。それからまたクククッ、と笑うと、勢いよく顔を上げる。野犬が呻る時のような笑顔だ。
「時間だぜ! IT’S SHOWTIMEだ!!」
突然、携帯電話の着信音とは違う音源がスピーカーから流れてきた。
低音の、ともすればノイズともとれる音が三回ほど響き、それからアップテンポなイントロが流れてくる。
――1973年にリリースされたT・レックスの名曲、20センチュリーボーイだ。
マーク・ボランのハスキーボイスが響く中、祐未を殴った男がツバを吐く。
「だからなんだってんだ! てめぇら全員拘束されてるには変わりねぇんだ!」
祐未がまたククッ、と笑う。だが次に言葉を発したのは、彼女ではく教師陣を見張っていた黒ずくめだ。
「そいつはどうかな?」
ジュリアンが勢いよく黒ずくめを見た。顔から笑みが消えている。能面のような無表情。こういうところは血が繋がっているのだと、黒ずくめは思わず笑った。
「俺があんたらの仲間だって、一度でも宣言したかよ?」
顔に被った目出し帽を取ると――ジュリアンが眉をひそめた。人質側から彼の顔を確認することはできない。
「誰――あなた」
「この学校の音楽教師、キールだ」
彼の言葉を合図にしたように教師陣が一斉に立ち上がる。彼らの足元には金属製の結束バンドが転がっていた。周囲の目を盗んで拘束を解いていたらしい。
キールは目出し帽をとってジュリアンに自己紹介を下あと、いそいそと紙袋を頭に被る。横にいたイセリタが
「それはかかせないんですね」
と呆れた様子で呟いた。
頭に銃をつきつけられていたリアトリスが背後にいた黒ずくめを後ろ足で蹴り飛ばす。携帯電話の着信音とスピーカーから流れてきた20センチュリーボーイで戸惑っていた黒ずくめたちを、入り口から途中にしてきたツァオとユトナが蹴り飛ばす。
人質の何人かも、友人に頼んで自分の拘束を解いて貰っていた。
ステージ上で白いドレスの女が叫ぶ。
「リリーをつれてきて! どうなってるの!? 正門のワゴンとは連絡がとれないの!?」
「それは僕は説明してあげますよ」
いつのまにかステージに近寄ってきた直樹が、ジュリアンに話し掛ける。美しい顔立ちの女が能面のような無表情で彼を見た。
直樹の拘束は解かれている。
瑠美とリアトリスの拘束もすでに解かれていた。横にソウルがいるので、おそらく彼が解いたのだろう。アレックスとイセリタは黒ずくめの討伐に向っているが、それ以外の教師は生徒たちを解放するのに全力を注いでいた。
「三年生のライラ・タイタニアが、テオの放送から何分もしないうちに捕まったでしょう?
あの時、ライラはオトリだったんですよ。
見張りが彼女を体育館に放り込んでいる間に、排気口を使ってクレイズ先生が体育館に侵入したんです。だめですよ、不用意に自分達の情報をしゃべったりしたら。誰が聞いてるかわかりませんから。
そのあとは、5分以内に正門ワゴンを制圧して、クレイズ先生には放送室で時間が来たら曲がかかるように設定してもらいましてね。選曲は姉さんかな?
その時、保護者に対して一斉にメールを送信したんですよ。学校名義で。
『ただいま電波状況が非常に悪く、復旧作業を行っております。30分後には復旧予定です』――それから、30分後にこういうメールを送信するよう設定しました。
『電波状況が回復しました。ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません』――さて、子供と連絡がつかず、心配していた保護者は、いったいどういった行動をすると思います?
まあ、学校内にちらばった抵抗組に渡りをつけてくれたのはライター先輩なんですけど」
ジュリアンがここにきて初めて下唇を噛んだ。直樹がクスクスと笑い、これ見よがしに人差し指を口元に持ってくる。
「貴方のかけた魔法は、これで解けました。これからは僕らがかけた魔法に、みんながかかる時間です」
アレックスが祐未の拘束を解く。手が自由になった彼女は手始めに自分を殴った男を睨みつけた。
「さっきはよくもやってくれたなぁ! たっぷり礼してやるから覚悟しやがれ!」
◇
人質の生徒達が、教師によって解放されていく。やっと身体が自由になった野球部の細田が拳を手のひらにうちつけた。
「くそっ! 俺らだってやられっぱなしで黙ってられるか!」
二年の列でも、バスケ部の宮内が吠える。
「あいつらよくもうちの顧問殴ってくれたな! アル中ナメんなよ! 三倍にして返してやる!!」
一年の列でも剣道部の町田が床を蹴り飛ばす。
「犯罪者が怖くてこの学校通えるかよ! 先輩! やってやりましょう!」
三年の列から剣道部部長の櫻井が怒鳴り声を返した。
「あったりめぇだ! 剣道部の意地みしてやんぞぉっ!」
二年の列でバスケ部マネージャーの春菜が怒鳴る。
「いくわよあんたら! あいつらにばっかりイイカッコさせられないわ!」
恐怖という魔法がとける。直樹がジュリアンをまっすぐ見て、ニッコリと笑った。
「さあ、反撃の時間です」




