表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様と自殺志願のかぐや姫  作者: 吹雪
最終章 笑顔希望
9/12

第九話 俺と彼女の進展

「王子くん、私と付き合って下さい!」


 俺が彼女――波城かぐやの首吊り自殺を止めて告白した日から、早いもので二週間が経った。


 時期は六月上旬。そろそろ梅雨を迎える頃だ。俺はあれからずっと彼女に好きになってもらうために、涙ぐましい努力を続けている。……がしかし、俺の努力は未だ実らずにいる。


 別にフラれ続けているわけではない。彼女が返事をくれないだけだ。決してフラれてるわけではない……多分。


 話は変わって今の状況。俺は屋上にて、隣のクラスのとある女子生徒から告白された。


 いつの間に広がったんだか、俺の呼び名は"王子"で定着している。この女子生徒も例外なく俺を"王子"と呼んでいる。……もう呼び名に関しては諦めた。これからまた三年間、俺は"王子"として過ごすのだろう。


 ……まあそんなことはどうだっていい。問題はこの女子生徒をどうやって傷つけずに振るかだ。


一、普通にごめんなさい

二、そんな暇はない、と言い訳

三、好きな子がいる

四、彼女がいると嘘をつく


 ……何言っても傷つけるだけだ。


 俺は目の前で期待と不安に顔を紅潮させ、そわそわとしながら俺の返事を待っているこの女子生徒を見て、思わず溜め息をつきそうになった。が、それをなんとかこらえる。そして――


「ごめんな」


 そう一言で返事した。


***


「流石は天然タラシのモテモテ王子様。入学してから一体何回目ですか?」

「……そんなの一々数えてねーよ」


 とある喫茶店にて、俺の向かい側に座って優雅に紅茶をすすっているのは、俺の想い人――波城かぐやである。


 彼女は相変わらず鉄壁のポーカーフェイスを貫いている。しかしそのポーカーフェイスの裏には、その表情とは相反した心情を秘めている……と思いたい。


 因みに、こうやって二人で放課後に寄り道するのは、今日を入れて二回目だったりする。俺の涙ぐましい努力の賜物だ。


 彼女は最近では、大分俺に気を許してくれるようになったのか、心なしか表情が柔らかくなった……ような気がする。まだ笑顔は見たことないが。それでも、かなりの進歩だと俺は思っている。


 おまけに、というか、これが一番重要なことだが、自殺もしなくなった。いやマジで。


 お陰で俺たちは、わりと平和なスクールライフを送ることができている。やっぱり平和が一番だろ!


 ところが、最近では彼女以外のことで俺は頭を悩ませていたりする。その悩みとは、やたらと女子からのアプローチ? が激しいことである。一体どういうことだ。


「貴方はいい加減ご自分の外見を自覚すべきです。貴方は無駄に顔だけはいいんですから」

「おい、ちょっと待て。俺の長所顔だけか」


 好きな子にそんなこと言われたら、いくら俺でも傷つくぞ。


 俺は彼女の辛辣な言葉に若干うなだれた。しかし、彼女はうなだれる俺など全く気にせず、パフェを食べるのを再開している。


 彼女は意外と甘いものが好きらしい。今だって、結構大きなチョコレートパフェをつつき回している。しかも心なしか、俺が食べている最中の苺ケーキに視線を送っているような……。


「……一口、いるか?」

「……はい」


 俺は苺ケーキを一口大にフォークですくい、彼女の口元まで運んだ。彼女は差し出されたケーキに目が釘付けになっている。


「ほら、あーん」


 パクっ


 俺のベタなかけ声と同時に、彼女は小さく口を開けてケーキをパクりと食べた。


 ……食べた!!


 この時の俺の感動を分かってもらえるだろうか。いつもポーカーフェイスで時折毒を吐く彼女が、素直にあーんしてケーキを頬張り、モグモグと味わいながら表情を輝かせている。もう涙ものだ。


「苺もいるか?」

「……!」


 彼女が喜んでくれるのなら、好物の苺なんていくらでもくれてやる! 苺もいるかと聞いた途端の彼女のキラキラと期待を込めた表情といったらもう!!


 彼女は苺を咀嚼し、飲み込んだところで、表情を元通りに引き締めた。


 ――もう少し嬉しそうな顔見ていたかったんだけどな。


 少し残念に思ったが、レアな表情が見れた今日はかなりラッキーだったから、これ以上欲張るのはやめておこう。俺は心の中でそう思い、幸せを噛みしめた。


「王子さん、どうぞ」

「えっ」


 俺が少し思考を飛ばしていると、彼女は無表情に自分のパフェを乗せたスプーンを突き出してきた。


 ……まさか、


「食わせてくれるのか?」

「はい」


 やべぇ。今日一日で一生分の運を使っちまったんじゃねぇのか俺。


「……食べないのですか?」

「いやいやいや、食べます食べさせて下さい」


 俺は嬉し過ぎて思考がショートしかけたのをなんとかこらえて、不満げにスプーンを下ろそうとする彼女を止めた。


「あーん」


 あーんって言った!! 俺は感動にうち震えながらも、パフェを食べさせてもらうことができた。


 彼女は俺が食べたのを見ると、仕事は済んだとばかりにまた紅茶をすすった。


「……そういえば、私、王子さんに言いたいことがあったんです」

「何だ?」


 彼女は今まで流れていた和やかなムードから一変し、真剣な表情で切り出した。俺も彼女につられて姿勢を正し、真剣な表情を作った。


「最近起こった通り魔事件をご存知ですか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ