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王子様と自殺志願のかぐや姫  作者: 吹雪
第二章 首吊り希望
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第七話 俺と彼女の中学時代

「本っ当に、"あの"時村なんだな?」

「本当に"あの"時村です」


 俺は実は、中学時代、既に彼女に会っていた……らしい。正直言って信じられない。しかし、よく考えてみると同じなんだよ! "あの"時村と名前が!!


 いい加減焦らさずに説明しよう。


 俺はぶっちゃけると、中学時代はその……不良だった。いや、マジな話だ。中学生で不良って、何か今思えば恥ずかし過ぎる黒歴史だよな。


 しかも、俺は何気に有名な不良だった。自分で言うのもかなり恥ずかしいのだが、やっぱりここでも俺のあだ名"王子"が出てくる。


 ……王子と呼ばれる不良って一体何なんだよ。


 一応喧嘩もそこそこやって、先生に目をつけられながらも、あの当時の俺は不良生活をエンジョイしていた。


 ところが、それも長くは続かなかった。理由は単純に、受験生になったからだ。


 不良は不良で楽しかったけどさ、やっぱり真面目に勉強して、将来のことを考えたほうがいいよなーって、唐突に思ったんだよな。何でだっけ?


「私は覚えていますよ。その時のこと。私と喧嘩したんですよね」

「……やっぱり、あれは波城だったんだよなぁ……」


 そう、ここでやっと"あの"時村が出てくる。今の彼女、波城かぐやは、中学時代は時村かぐやだった。


 理由は……知らん。後で聞こう。とにかく、今と名字が違ったわけだ。


 ここで一つの疑問が出てくる。なぜ、俺は彼女が"あの"時村だと気づかなかったのか。いくらなんでも、名字が変わったぐらいで気づかないなんてことはないだろう。


 ……本当に名字"だけ"しか変わってないんだったらな。


 当時の彼女は……不良だった。俺と同じ。髪は今と違って金髪で、かなりの厚化粧で、常にバットを持ち歩く、典型的な不良だったのだ。。流石に煙草は吸ってはいなかったと思うけどな。


 それにしたってなあ……。


 俺はふと思考するのを止めて、隣を歩いている彼女を見た。肩より少し長めのストレートの黒髪、くっきりと二重瞼で可愛らしい黒い瞳、雪のように白い肌――"あの"時村とは似てもにつかない。


 俺は大きく息を吸い込み、そして――


「高校デビューし過ぎだろ!!」


 と彼女に突っ込んだ。かなり大きな声で怒鳴りつけてしまったが、そんなことを気にする余裕なんて俺にはない。


 彼女は俺の突っ込みに大した反応を見せずに、呟くようにこう言った。


「貴方にだけは言われたくありません」


 ……仰る通りです。


 彼女の言う通り、俺も結構見た目を変えている。髪は変わらず茶髪のままだが、肩ぐらいまであった長髪を短く切って、ピアスもやめた。目付きが悪いのを気にして、鏡の前で柔らかい表情を作る練習までした。


 ――うん、今の俺は完璧普通の男子高校生だ!


 というふうに俺は自分を納得させている。だがそれでも俺は声を大にして言いたい。


 お前は変わり過ぎだ!!


「……私、王子さんと喧嘩した時に思ったんです。自殺したい、と」

「おい、ちょっと待て。その発言は色々誤解を生むぞ」


 というか、俺のせいなのかよ!!?


***


「私は王子さんの言う通り、中学時代は不良でした。理由はただ単純に、興味があったからです」


 何にだよ。俺はそう心の中で思いながらも、とりあえず彼女の言葉に耳を傾ける。


「不良の心理に興味があったんです。なぜ彼らが不良という、一種の社会不適合者であるのか。なぜ一般人に白い目で見られることに抵抗がないのか。それらのことがとても気になっていたんです」


 中学生のクセになかなか難しいこと考えてんな。そんなこと誰も考えねーよ。


「仕方がないので、私は不良になることにしました」


 そこが一番分からねえよ!!  一体どう考えたらそんな考えに至るんだ!!?


「私は見た目はもちろんのこと、口調もそれらしく変えました。武道も少しかじりました」


 少しじゃねえけどな。めちゃくちゃ強かったじゃねえかお前。俺は見たぞ、お前が男十人を相手に無傷で勝ったところを。


「そこそこ名の知れた不良になった頃、私は貴方に会ったんですよ。王子さん」


 そう言われて、俺はあの日の出来事を思い出す。


 あれは確か、中学三年になる春休みの出来事だった――


***


「お前、こんなとこで何してんだ?」


 俺はあの日、地元の廃工場にいた。廃業してすでに二十年は経っていて、壁や屋根は穴だらけだし、残されたままの機械は錆びきってボロボロな、ホコリまみれの場所だった。


 そんな場所に、彼女――時村かぐやはいた。


 彼女は俺たちの母校F中のセーラー服を着ていた。だがなぜか所々破れており、あちこちが赤黒く変色していた。


 俺はそんな彼女を簡単に観察したところで、彼女の周りに倒れている男たちを見た。


 どうやら彼女を襲ったまではいいが、返り討ちに遭ったらしい。御愁傷様だな。


 当時の俺は、その程度の感想しか持たなかった。今の俺だったら、きっと彼女にすぐに駆け寄って、彼女の無事を確かめようと焦ったはずなのに――


「……何の用? 私、今ものすごく機嫌が悪いんだけど」


 当時の彼女は、今の彼女からは想像もできないぐらい口が悪く、攻撃的な性格だった。この時も彼女は、不機嫌さを隠すこともなく、殺気立ったオーラ全開で俺を睨んでいた。


 もちろん、当時の俺も彼女を睨み返した。


「さっきからやたらと賑やかな声がしてたんでな。面白そうだったから様子を見に来たんだよ」

「ウザい。消えてくれない?」


 今の俺だったら、もしこんなことを言われたら泣くかもしれない。それぐらい、ひどく冷めた声だった。


「ひでえ言い種だな」

「ひどくて結構。そんなことより、ちょうどあんたに聞きたいことがあったんだ」

「何だ?」


 彼女は一呼吸おくと、俺の正面に向かい合って口を開いた。


「あんた、不良いつまで続けるの?」

「……はあ?」


 俺は思わぬ質問をされたことに、半ば呆然とした。しかし彼女はそんな俺を気にすることもなく、ただ睨んでくるだけだった。


「……そういうお前こそ、いつまで続けるんだ?」

「質問に質問を返すな」


 ごもっともです。


 彼女は苛立った様子で俺の逆質問を一蹴した。仕方がないので、ある程度真面目に答えを考えてみた。


「多分、そろそろやめる」

「……何で?」

「受験生だから」

「……」


 俺の答えに彼女はうなだれた。どうやら彼女のお気に召さなかったらしい。


「あんた、それでも不良?」

「不良だよ。だけどな、やっぱり、いつまでもこんなことやってられないんだよ」


 これは俺の本音だ。不良なんかが通じるのは、せいぜい中高生までだ、と俺は思っている。悪さができるのは今だけで、大人になれば、嫌でも現実を突きつけられる。そうなる前に、自分である程度の見切りをつけるべきだ。


 ……というようなことを、俺は彼女に話した。彼女は黙って話しを聞いていた。


「……なるほどね。あんたの言いたいことは分かった。私も、そろそろやめようと思ってた。実験はもう済みましたし」

「……?実験?」


 なぜか最後の台詞だけ敬語になっていた。だが当時の俺は、それよりも"実験"という言葉の方が気になった。


「なあ、実験ってどういう「〇〇、最後に、」……何だ?」


 彼女は俺の言葉を遮り、最後にこう言った。


「ちょっと相手して」


 そう言った瞬間、彼女は臨戦体制に入っていた――


***


「あの日を境に私は不良を引退しました」


 俺もだ。あの後、俺はくたくたになるまで彼女に付き合わされた。終わった頃にはすっかり日が暮れていたな……。


 あの日俺は決めたんだ。絶対に真っ当な人間になってやる、と。もうあんな風に喧嘩してボロボロになるのは御免だ!!  と彼女との死闘で思ったんだ。


 無理矢理ポジティブに考えるのであれば、あれは更正のいいきっかけになったかもしれない。一応彼女には感謝しておこう。


 だが忘れてはならないことがある。


「……それで? 何であれをきっかけに自殺したいと思うようになったんだ?」


 ここからが俺にとって一番重要なことだ。なぜあの日を境に自殺願望が芽生えたのか。これを聞かないと今日は気になり過ぎて発狂するかもしれない。


 彼女は俺の問いかけに肩をすくめると、軽く首を横に振った。


「残念ですが、タイムオーバーです」

「え」


 彼女はそう言って、ある場所を指差した。そこは――


「もしかして、ここが波城の家か?」

「そうです」


 彼女が指差したのは、どこにでもあるような普通の一軒家だった。いつの間にか、俺たちはすでに地元にたどり着いていたようだ。


「今日のところはここでお別れです。さようなら」

「……あ、ああ」


 俺は煮え切らない思いはあったが、家に着いてしまっては仕方がないと無理矢理納得させて、彼女と別れた。


 だが何となく不安に思い、彼女がちゃんと家に入るまで見送った。


「明日に聞くしかないか……」


 俺は若干うなだれながらも、ここから大して遠くない自宅を目指して歩き始めた。


 しかしこの時の俺は、今晩全く予期しない出来事にまたしても遭遇することになるなんて、思いもしなかった――


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