第四話 彼女の野望
「飛び降りようとしてたんです。ここから」
「……はぁ?」
彼女は一体何を言ってるんだ?
俺は彼女の言葉に絶句してしまった。とっさに言うべき言葉が見つからず、俺はただ呆然とした。それを見かねたのか、彼女は俺の返答を聞かずに言葉を続けた。
「貴方がここに来なければ、私の野望は成就したはずだったのに……残念です」
「待て待て。今お前野望って言ったか?」
野望って何ですか波城さん。せめて目的と言って欲しかった。って違うだろ俺。突っ込むべきところはそこじゃねえ。
俺がそうやって心の中で突っ込んでいると、彼女は若干不機嫌そうな表情でさらにとんでもない爆弾発言をした。
「私、自殺するのが野望なんです」
「……頭大丈夫ですか」
「正常に機能しています」
「……」
もう一度言おう。頭大丈夫ですか。
***
とりあえず、今回の件を説明すると、こういうことだそうだ。
「私はこの学校に入学する以前から、飛び降り自殺をしようと考えていました。今日はその実行日でした。ですが、二週間程前から私の計画を脅かす、イレギュラーな人物が現れました」
どうやらそのイレギュラーな人物というのは、俺のことらしい。俺何かしたか?
「貴方はことあるごとに私に接触してきました。できる限り早く目立たない存在になろうと努めていた私にとっては、それはものすごく迷惑でした」
ひでぇな。面と面を向かってそんなこと言われたのは初めてだよ。
「おかげで予定日が遅れてしまいました。しかし、今日はほとんどの部活動が休みなので、放課後最も人が少ない今日を狙おうと思いました。なので、私はとりあえず〇〇さん対策として人形と制服を用意しました」
え。あれって俺対策だったのかよ!!
「〇〇さんは部活動には所属していませんでしたよね。なのでおそらく、貴方は私が下校していないのに気づけば私をつけてくると思っていました」
俺の考えはそんなに分かりやすいのか。恥ずかし過ぎる俺……。
「あの人形は言わば囮です。私が貴方の目の前で飛び降りたと見せかけ、貴方の注意を反らす。そして私は反対側からゆっくり飛び降りる計画でした」
どんだけ飛び降りたいんだよ。あの人形は俺が扉を開けたところで、彼女が糸でゆっくり落としたらしい。手の込んだことするな。
……ん? ちょっと待てよ。そんだけ手の込んだ仕掛けをしたってのに、何で彼女は飛び降りなかったんだ?
俺はそのことを疑問に思い、彼女に聞こうとした。しかし、俺が疑問を口にする前に彼女は答えた。
「……〇〇さんは、本当にイレギュラーな存在でした。まさか貴方が、あんな表情を……それに、涙まで流すなんて……」
俺はこの時、初めて動揺した彼女を見た。今まで表情を全く変えず、常に冷静沈着だった彼女のそんな姿が見れるとは、思いもしなかった。
それと同時に、心の底からほっとした。俺はどうやら、彼女の自殺を止めることができたらしい。
彼女は不服そうな顔で俺を軽く睨みつけてきた。
なんか、可愛いだけなんだけど。
「調子に乗らないで下さいね〇〇さん。私は必ずや、野望を成就させてみせます。覚悟しておいて下さい」
「俺は悪役か」
そう突っ込んだところで、なんだかおかしくなってきた。徐々に笑いが込み上げてくる。
「……あははっ波城、お前、やっぱ可愛いわ」
「意味分かりません。何で笑うんですか」
彼女はかなり不機嫌そうだ。けれどその表情を見て安心した。波城かぐや――全然無表情じゃないじゃないか。キャラ崩れもいいところだ。
「波城、お前言ったよな。必ず野望を成就させてみせるって。だったら俺も宣言してやるよ」
俺のその言葉に、彼女は驚いたような表情を見せた。
「絶対俺がお前の野望を打ち砕いてやる」
覚悟しとけよ?
第一章終わり