第二話 俺と彼女の通過儀礼
「……っ!? 何やってるんだ!!」
俺はあの時、今までの人生で初めての経験をした。飛び降り自殺を目撃してしまったのだ――
俺は密かに想いを寄せる少女―波城かぐやと仲良くなりたい一心で、屋上に向かった。なぜ屋上かというと、たまたま屋上に向かう階段の傍に彼女がいたからだ。
俺はその様子を向かいの校舎から見て、慌ててついて行こうと走り始めていた。
……念のために言っておくが、決してずっとつけていたわけではない。ただ見ていただけだ。
まぁそれはいいとして、俺は彼女が屋上で何をしているのだろう、と色々想像しながら扉を開けた。開けてすぐに視界に入ってきたのは、太陽の沈みかけた淡いオレンジの空。若干埃っぽい気がしないでもないコンクリートの床。そして――
今にも飛び降りようと、柵の向こうに立っている、黒髪の女子生徒だった。
「……っ!? 何やってるんだ!!」
俺はとっさに叫んでいた。頭の中が真っ白になって、なりふり構わずに彼女に走り寄った。
頼むから間に合ってくれ……!!
しかし、俺の必死の思いは届かなかった。
あともう少し、あと一センチ……掴もうとした手は、彼女の腕をかすることもなく虚しく空をきった。
彼女は重力に従って、まっ逆さまに落ちていった。