第16話〜20話
第16話
いずみと権現
「なんで?なんであんたが私を見えるわけ?私の声も聞こえるの?」
「ああ。姿形も見える。」
「Σ('◇'*エェッ!?姿形って・・私は鏡にも映らない存在なんだよ?」
「でも見えるんだよ。」
「そんなことはあり得ない。私だって自分の今の顔がわからないのに。」
「そうなんだ?足の先までちゃんと見えてるぞ。」
「そんな・・信じられない。。私どんな服着てる?」
「すっぽんぽんだ。」
「ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!!ウソおぉぉぉぉ?!」
「ウソだよ。」
「(ノ _ _)ノコケッ!!何よ!びっくりさせないで!もうっ!」
「ごめん。俺今、酔っぱだからw」
「じゃあ私は何を着てるの?」
「紺の・・いかにも地味な会社の事務服みたいだ。」
「それって私が勤めてた会社の制服よ。私ったらそんなの着てるんだ。。」
「コスプレ好きなのか?」
「違うわよっ!私にケンカ売ってんの?」
「別に。思ったことを隠しておけないたちなんだ。」
「それで一体あなた何者?」
「だからお前の同級生だって。忘れてんのか?」
「それは思い出したけど。。そんなことじゃなくて、ひょっとして私がどうしてこうなったのかあなたにはわかってるの?」
「いや、わからない。でもずっと不思議だとは思ってたんだ。」
「ずっとって、いつから?」
「俺がお前と同じクラスになっていたはずだった時さ。」
「???よくわかんない。『はずだった』って?」
「あ、幸村が戻って来る。もう無視するからな。話せないぞ。」
「ちょっと待って!じゃあ権現君、チャットすることある?」
「たまにはするけどな。」
「良かった。じゃあID教えて。お願い。まだまだ聞きたいことがいっぱいあるの。」
「いいけど、栗山はパソコンに触れることもできないだろが?」
「そうなんだけどね、それが不思議とネットの中だけは頭の中の文字を流し込むことができるの。」
「(・。・) ほー。不思議っちゃあ不思議だな。」
一星がだるそうに缶ビールを手に持って部屋に戻って来た。
「ほら、飲めよ。つまみはないからな。」
「もう食ってるよ。ポテチのコンソメうまいな。」
「(ノ _ _)ノコケッ!!俺のお菓子を許可なく食いやがって!!」
「気にすんなよ。アハハ。」
「お前が言うな!」
「飲んだらすぐ寝るからよ。んで朝になったら帰るわ。」
「当たり前だ!俺だって明日は仕事だ。俺の出勤前にさっさと帰れよ。」
「俺の朝めしは?」
「ナメてんのか?権現(⌒-⌒;」
結局、この夜は、いずみと権現が再び会話できる余地は全くなかった。
翌朝、一星が起きてトイレか洗面所に出て行った瞬間をとらえて、いずみは権現に話しかけた。
「ねぇ、起きてよ。聞きたいことが山ほどあるんだってばっ!」
「(_ _)(-.-)(~O~)ファ…なんだぁ?もう朝かよ。」
「ゆうべの続きよ。私と同じクラスのはずだったって?」
「あぁ、その話か。長くなるからまた今度なぁ。」
「それじゃ困るのよ!ここまで何年も私、こんな宙に浮いたような存在で我慢してきたの。もうたくさん!」
「でも話の途中で幸村が来てしまうしさ。」
「じゃ昨日言ったように、チャットのID教えて。今夜ネット上で話しましょう。」
「あぁ、わかったわかった。まだ眠いなぁ。。」
「こんな私を見てよく落ち着いてられるわね?」
「なんか俺、昔から霊能力があるってか・・変なものばかり見えるんだ。」
「変なもので悪かったわね!ヾ(`ε´)ノ」
「まぁまぁ、俺が昨日ここに来たのはわさとだから。」
「えっ?」
「確かめに来たんだよ。」
「私がここにいるって知ってたってこと?」
「それはわからなかったけど、幸村に何か秘密があるとはずっと思ってたんだ。」
「じゃなんでもっと早く確かめに来なかったのよ!」
「うちにも家庭の事情とかあったんだよ。卒業してから間もなく北海道に引っ越したからな。」
「あっ!そう言えば・・権現君、確か同窓会のときに北海道から来たって言ってたような。。」
「やれやれ、やっとわかったか。だから、確かめようもなかったんだよ。しばらくして、こっちで就職見つけてやっと念願の今日にたどり着いたんだ。」
「念願て・・意味がよく飲み込めない。もっと詳しく聞きたいわ。」
「いいよ。じゃあ今晩な。IDは・・・・・」
こうして権現京二は幸村一星宅をあとにした。
いずみは夜まで待ちきれない興奮を味わっていた。自分の存在をわかってくれてる人が見つかった。
まだまだ謎ばかりだけれど、新たな事実も今夜聞けそうだ。
高校時代の権現君て・・・そうだ、やたらとちょっかい出されたような気がする。。
だが当時、いずみは彼に全く興味がなかった。他に好きな人がいたからだ。
でもそれは淡い片思いにすぎないことでもあった。
『一体、権現君から何が聞けるのかしら。。あ、それとかずぽんと打ち合わせもしなきゃ。』
第17話
好きの度合い
和代はロビンがONしていないのが気になった。
いつもならポンスケとデートを済ませたその夜すぐにPMが飛んで来るはずだ。
そして和代がデート内容を細かく説明する。
そうしなければ、ロビンとポンスケがチャットをする上で会話がかみ合わなくなる。
おかしいな・・どうしちゃったんだろ?ロビン。。
内容報告の義務と責任感は強く持っている和代である。
しかしながらデートも4回となると徐々にその気持ちも揺らいで来ているのも事実だった。
それは和代自身が、本当に一星のことを好きになり始めたことに他ならなかったからである。
ロビンがONしないんなら・・それならそれでいいわ
和代には代理がバレる不安はなかった。むしろ早くバレた方がいいとさえ思い始めていた。
自分がロビンとしてではなく、水口和代として一星と付き合いたい。
そういう思いが日増しに募って来る。でも略奪愛は好きじゃない。
ロビンは大事な親友。裏切ることなんてできない。
じゃあアタシはどうしたらいいの?
そう、やはりロビンにちゃんと自分の気持ちを説明してわかってもらうしかない。
でも最後にどちらかを選ぶのはポンスケなのだ。
彼の気持ちがネットのロビンにあれば和代は諦めるしかない。
だが、今の和代には少しだけ自信があった。
和代は部屋で1時間近く、体を微動だにせず考え込んでいた。
報告義務・・そしてこれからの自分・・ロビンとの話し合い・・
とにかくロビンが今度ONしたら、アタシの今の思いを全て話そう。。
和代は一大決心をして、改めてロビンのONをじっと待っていた。
だがこの日の夜はとうとう彼女のONがなかったのである。
次の夜、いてもたってもいられなくなった和代は、オフラインメッセージをロビンに送った。
kazupon_v:ロビン、大事な話があるの。ポンスケのことで。返信お願い。
間もなくすると、PM画面が開いてロビンが話しかけてきた。
robin830:昨日はごめんね。急に来客があっていろいろと。。
kazupon_v:そうなんだ。お客さんが来てたんだ。友達?
robin830:私の友達じゃないんだけどね。
kazupon_v:家族の誰かの知り合いとか?
robin830:そんなところかな。
kazupon_v:今、時間大丈夫?
robin830:実はこのあと約束があるの。まだ1時間あるから今なら平気。
kazupon_v:それって・・ポンスケと・・だよね?
少し間があいてからロビンが答えた。
robin830:今日は違う人。ちょっと聞きたいことがあって。
kazupon_v:ふうん。。。
robin830:で、私に大事な話って?ポンスケのこと?
kazupon_v:うん。。
robin830:どうしたの?何かドジったの?
kazupon_v:そうじゃなくてね、アタシ・・ロビンには悪いんだけどポンスケのこと本気で好きになっちゃったの。」
robin830:。。。。。
kazupon_v:ロビン聞いてる?
robin830:う、うん。。聞いてるよ。
あらかじめこういうこともあり得るだろうとは予測はしていたいずみだったが、こうして和代の口からはっきり言われるとショックは隠し切れなかった。
kazupon_v:ごめんねロビン。でもアタシ自分にウソつけないの。だからあなたに正直に言ったの。
robin830:うん。。。かずぽんらしいよ。それはそれでいいと思うよ。でも、もうちょっと待って。
kazupon_v:待つって何を?待ったら何かあるの?ポンスケと別れるつもりだったの?
robin830:いえ、そうじゃないの。でも今はそれしか言えない。ごめん。
kazupon_v:そりゃないわよ。それじゃ納得できない。ロビンはポンスケが本当に好きなの?嫌いなの?
robin830:・・・好きだよ。。
kazupon_v:じゃあ待つってなんなの?
kazupon_v:それは。。。
いずみは言葉に詰まって話せなくなった。
正直、いずみにとって一星は好きでも嫌いでもない存在。
いずみが信じて疑わない自分のデジャヴを奪った男。逆に憎たらしいと思ったこともある。
部屋でおいしそうに飲み食いする姿を見るたび蹴飛ばしたくもなった。
でもそれはそのときの一瞬だけであって、心から恨んでいるわけではない。
チャットで一星と話すようになってから、この環境の変化の糸口をどうにかして見つけようと懸命に彼とコンタクトしてきた。
そんな中で、いずみが凹んだときや辛いときにも一星は常に勇気付けてくれた。それがどんなに心強かったことか。。
好きという感情よりも、一緒にいて安心する存在。
心地良くて、気さくに話せる人。
彼が仕事に出かけると心細くなる。
早く帰って来てほしい。。
そう思うこともしばしばだった。
だが、和代のさっきの発言で、いずみの頭が一瞬真っ白になった。
『愛』まではいかない程度のはずなのに、いざ和代に言われると自分がどれだけ一星が好きだったのかがよくわかった気がした。
robin830:かずぽん・・やっぱり私もポンスケが好き。別れるなんてできない。
第18話
あの頃の俺たち
一星はロビンとコンタクトできないでいた。
チャットの約束の時間は1時間以上過ぎているのに、彼女の状態表示が入浴中になったままだ。
『長風呂なのは知ってるけど遅すぎるな。。』
一星の脳裏に一瞬だけ疑いの念がよぎる。
『こっそり別な男とチャットしてたりして?まさかな・・ハハ』
ふと部屋の鏡に映っている自分を見ると、明らかに苦笑している自分がいる。
そんな自分の情けない表情を確認すると、なんだか心の狭さを痛感した。
チャットのロビンとリアルのロビン。。
若干の違和感はあるけれど、目に見えない分だけチャットの方が遠慮のない発言になるのは当たり前だ。
これからデートを重ねる度にきっとリアルでもそうなって来るのだろう。
一星はパソコンの画面から目を離し、ベッドに仰向けに大の字になった。
『そういえば昨日の今頃は権現京二が来てたんだよな。。』
何気にふと彼の名前を思い出すと、一星は一緒のクラスだった頃の学生時代を回想していた。
権現京二・・・成績は抜群だった。でもどこか神経がおかしいと思えるくらい虚言が多い奴だった。
バカと天才は紙一重というが、権現はどっちも併せ持ったような奴。
一星が彼をそう思うようになったのはクラスの誰よりも早く、新学期初日で席がとなり同士になった時からだ。
「おい幸村?」といきなり権現京二が話しかけてくる。
「ん?」と一星もぶっきらぼうに返す。
「あぁ・・いるんだやっぱり。。」
「??どういう意味だ?」
「なんかお前、存在感がないんだよ。」
「てめぇケンカ売ってんのか?」
一星は熱くなった。初対面でいきなり『お前よばわり』の上、人に向かって存在感がないとは何事かと!
「ごめんごめん。存在を確認したからもういいんだ。」
権現の『ごめん』には悪かったという感情が全くなかったが、一星もいらぬ波風は立てたくないのでケンカに発展することはなかった。
その後、中間、期末テストの成績発表で、権現が学年トップの座に君臨する。
一星にとってはそれもまた気に入らない。口が悪くてマナー知らず、おまけに勉強している素振りも見せずに成績トップなんてふざけた話だ。
きっと隠れて猛勉強してるには違いないのだ。ただクラスメートにはガリ勉しているように見られたくないだけの『ええカッコしい』なのだ。
「俺、生まれつきIQ高いからさ。(@^▽^@)ノあはははは」
と平気で言うところも憎たらしい。
普通、こんな人間は友達一人できないはずだが、勉強を人に教えるのがうまくて、クラスメートからは特に嫌われてもいなかった。
逆に女子から「権現君、すっごぉぉい!満点ばっかりぃ!」とチヤホヤされるばかり。
「(@^▽^@)ノあははは。実力実力。」
彼は徹底して謙遜などしなかった。
彼の様子が少し変わって来たのが夏休みも終わった2学期からだった。
席についている一星が何気にとなりを見ると、権現と目と目が合った。
普通、目と目が合うと視線をそらすものだが、彼は真顔でじっと一星を見ていた。
「なんだよ?どうかしたのか?」
すぐにその返事が来た。
「幸村、お前、1学期より薄くなってる。」
「はぁ??」
「薄いと言っても髪の毛のことじゃないからな。(≧∇≦)ぶぁっはっはっ!!」
突然、ひとりウケする権現。
「わけわかんねぇって!何が薄いんだよ?」
「お前全体だよ。不思議なんだけどさ、お前が透けて見えるんだ。」
「( ̄□ ̄;)!!お前何言ってんだよ?バカか?」
「いや、俺は秀才だw」
その会話を聞いていたまわりのクラスメートも不思議そうに権現を見ていた。
一星はすかざず彼らに話しかける。
「俺が透けて見えるんだってさ。みんなにもそう見えるのか?」
「いえ別に。。」女子のひとりが不安そうにまわりを見ながら答える。
「良かったな幸村。まわりにはまだ存在感があるようだぞ。」
再び1学期のときと同じことを言う権現。
だが今回の一星は腹が立つことはなかった。むしろ彼に哀れみを覚えた。
そしてクラスの誰もが権現京二の度重なる虚言に対して不審に思うようになっていた。
そして権現京二の言動の中には、常に出てくるひとりの女子の名前があった。
そう・・・『栗山いずみ』
当時、彼はしつこいくらいにこの見知らぬ女性の名前を口にしていた。
「このクラスに何で栗山いずみがいないんだ?みんな知らないのか?」
もちろんそんなこと聞かれてもいないものはいない。
一応、全クラスを調べてもそのような名前の女子はいなかった。
それでも権現は生徒ひとりひとりに真剣な顔で聞いてまわる。
「栗山いずみを本当に知らないのか?」
「お前は栗山いずみと仲良しじゃないか?何で知らないんだ?」
「栗山いずみは俺とトップを争ってたんだぞ!覚えてないのか?」
そして一星にはこう言った。
「お前、栗山いずみをどうしたんだ?」
当然一星は「マジで知らねぇよ。ウソついたって意味ねぇじゃん。」
と答えるくらいしかなかった。
彼の様子が日増しに変化して来るのがわかると、当然担任にもその情報が伝わった。
そして彼はしばらくしてこの学校から転校して行った。
噂では北海道のどこかの施設に入ったという話だったが、人から伝え聞いたことなので詳しくはわからなかった。
そして数年の歳月がたち、何とカラオケでバッタリ権現と出会い、そして迷惑なことに家に1泊させてしまったのだった。
「もう奴とは関わるのはこりごりだ。。。」
一星は深いため息をつきながらベッドからパソコンの画面を眺めた。
まだロビンは入浴中の表示だ。
「今日は・・もういいや。寝よう。。」
一星はロビンにPMを飛ばす。
ponsuke:今日は何か疲れたから先に寝るよ。おやすみロビン。チュ(*^3(*-。-)
第19話
事実の確認
栗山いずみはチャットの親友、水口和代に自分の気持ちを言って自らオフラインになった。
「かずぽん・・やっぱり私もポンスケが好き。別れるなんてできない。」
そう言ったあと、和代の返答も聞かずにいきなりチャットを閉じた。
怖かった。。彼女の次に返って来る言葉がとても怖くてたまらなかったのだ。
和代の告白を聞いて、初めて自分もポンスケを好きであることに気づかされた。
私だってかずぽん以上に彼が好き!付き合ってる年月からして違う。
私はいつも彼の生活にまで密着している。誰よりも私が彼のことを知っている。。
それに彼はこの不可解なデジャヴ現象に何らかの関わりがあるに違いない。
かずぽんなんかに彼を渡すわけにはいかない!
権現と約束していたチャットの時間が迫って来ていた。
一星も自分のパソコンを立ち上げ待機している。
ごめんねポンスケ。。今日だけは許して。。
いずみは自分の状態表示を入浴中にした。
彼女自身は形を持たない存在なので、もちろんキーボードなど打てない。
でもなぜかネット上の操作だけは頭で思ったことを文字にして送ることができた。
間もなくして、権現京二のオンラインをいずみの思考が確認した。
彼女の脳の中ではすでに京二のIDを登録していたからだ。
robin830:いずみです。もう話せる?
gongen:なんだ。栗山か。ロビンて誰かと思った。なんでそんな名前にしたんだ?
robin830:昔の子供番組に出てたのよ。ロビンちゃんて。
gongen:知らんなぁ。。
robin830:『がんばれロボコン』て知ってる?
gongen:それ大昔のテレビじゃん。いくつだよお前!
robin830:あなたと同級でしょ!いいじゃない。再放送で観てたのよっ!
gongen:ところで栗山、お前大丈夫なのか?そばに幸村いるんだろ?
robin830:いるよ。パソコンの前に。
gongenn:( ̄□ ̄;)!!ええっ?じゃこの画面見られてるじゃんかよ!
robin830:それが大丈夫なのよ。この画面は私の思考の中に流れてくるみたいだから。
gongen:(・。・) ほー。お前、すげぇことできるんだな。いつ覚えた?
robin830:それが偶然なの。ポンスケ・・あ、幸村一星のことね。彼がチャットに目覚めて人と話し始めたのね。
gongen;ふむふむ。。
robin830:で、そのうちにチャットを利用してファイルとか友達に転送するようになったの。
gongen:あぁ、俺もたまに人からもらうけどなw
robin830:それで私が気づいたことは、ファイルなんて物理的なものでもないのに、ちゃんと人に渡るじゃない?
gongen:ははぁ、そうか。ここなら人とコンタクトできると思ってやってみたわけだな?
robin830:そう。そしたらできちゃったのよ。思考の中でね。
gongen:転送は試したのか?例えばお前自身が転送されて俺の部屋に来るとか。
robin830:考えたことはあるけど、まだ怖くてしたことないわ。
gongen:今度やってみろよ。うちに来てみろ。
robin830:そのうちね。今日はそんな問題じゃないもの。なぜ私がこうなったかよ!
gongen:それを知ってたら俺は高校時代、無理矢理転校させられなかったさ。
robin830:どういうことなの?
gongen:俺とお前はクラスメイト。俺と幸村もクラスメイト。でもお前と幸村はクラスメイトじゃないってことさ。
robin830:私はずっと前からデジャヴの歯車がどこかで狂ったんじゃないかって思ってるんだけど。。
gongen:デジャヴか。。人は同じことを何度も繰り返して生きてるって説だな。それもどうかなぁ。。
robin830;なんで?ほかにどんな説明がつくの?
gongen:それはまだわからないけどさ、だって俺はお前と一緒のクラスだった記憶もあるし、幸村との記憶もあるけどさ・・
robin830:うん。。
gongen:それ意外は同じことを繰り返して来た記憶が全くないのさ。デジャブだったとしたらおかしいだろ?
robin830:なんとも言えないわよね。。
gongen:お前が高校にいたときには、幸村の存在はなかった。でも幸村がいる今はお前の存在がない。。。
robin830:私の生まれ代わりがポンスケなのかなぁ。。?
gongen:生まれ代わりなら時代は未来に行ってるはずだろが。
robin830:そうなのよねぇ。。。わからないわ。。
gongen:今、幸村はまだパソコンの前なのか?
robin830:いいえ。ベッドで仰向けになってるよ。なんかボーッと考えてるみたい。。
gongen:のんきな奴だ。で、俺たちこれからどうするよ?
robin830:とにかくこうなった原因をつきとめたい。私が高校に通ってたときは、あなたは転校なんてしなかったわよ。
gongen:あぁ。わかってる。お前と一緒のときは卒業してから引っ越したが、幸村と一緒のときは転校している。俺には高校入学から二つの記憶があるんだ。
robin830:じゃあ、私が存在してたときのあなたの記憶って、どこまであるの?
gongen:そうだなぁ・・一緒に卒業して・・お前はちっぽけな会社に就職して。。
robin830:ちっぽけで悪かったわね(^_^;)
gongen:その後、同窓会でまた会って。。
robin830:そうそう。それは私も覚えてる。あのときあなたと何か話したよね?
gongen:俺は・・あのとき。。。お前に好きだって告白したんだ。。
robin830:Σ('◇'*エェッ!?そうだった?あのときすごく酔っ払ってたから覚えてない。(^□^;A
gongen:(ノ _ _)ノコケッ!!
robin830:で、一体いつまでの記憶があるの?自分が年を取って死ぬまでの記憶があるの?
gongen:それはないな。今のリアル年齢での記憶だけだ。来年になれば、そのときに過ごした新しい記憶が現れるんだ。お前だってそうだろう?ババアになって死ぬまでの記憶があるのか?
robin830:いえ、ないけど。。(⌒-⌒;
gongen:だろ?お前と俺は同じだよ。ただ、俺は形ある存在だけどな。
robin830:憎たらしいこと言うわよねあなた。
gongen:まあまあ、俺だって真実を確かめたくて幸村んちに行ったんだ。お互い協力しようや。
robin830:う、うん。。。
第20話
あとへは引けない
『アタシがちょっと甘かったのかもしれない。。』
和代は自らを反省した。
ロビンに比べて自分はリアルでデートしているわけだから、立場は断然有利。
ポンスケの心は自分になびき、そして正直にロビンに話せば半ば諦めてくれるものかと思っていた。
でも結果は違った。きっとロビンはポンスケを譲らないだろう。
和代がロビンに宣戦布告したようなものだ。互いの友情も崩壊するかもしれない。
『でも、元はロビンが巻いた種。だったらアタシに代理なんで頼まなければ良かったのよ。』
和代はロビンと中途半端なチャットに終わったことに不服だった。
自分だって言い返したいこともあるのに、ロビンは聞こうともせずにオフラインになった。
一方的でとにかくむかつく。翌日になれば冷静になれると思ったが、憎しみは増すばかりになっていた。
このままでは今夜もとても眠れやしない。
和代はロビンにオフラインメッセージを入れておくことにした。
kazupon_v:アタシもポンスケが好き。ロビンはネットだけでいいんでしょ?
アタシはリアルで会えるし彼に本名も言える。
あなたにはできないでしょう?
彼だってリアルな付き合いを望んでる。
ロビンと彼がネットのままで付き合ってても長くは続かないと思う。
ここで和代は一旦送信して考える。
そして新たな決意の元、再びメッセージを書き込む。
kazupon_v:今度のデートで彼に本当のことを言います。
アタシが今までロビンに成り済ましてたことをね。
そして正直に謝るの。アタシにもリスクは大きいと思う。
アタシがロビンじゃないとわかったら彼の気持ちは。。。
でも絶対必要なことだから告白します。
その上でもし彼があなたを選んだならアタシは諦めます。
何より最後に決めるのはポンスケだし、彼の気持ちを尊重するつもりです。
このあと和代は送信ボタンを押した。
時間が経つに連れ、和代は今まであった自信が徐々に消えてゆくように思えた。
腹いせの興奮から、勢いで書いたメッセージだったが、やや冷静になると不安の方が大きくなってくる。
『やっぱりアタシは不利なのかな。。』
ネットとはいえ、ロビンは彼と1年間の交際期間がある。
それがすぐに断ち切れるとも思えない。
しかしながらロビンが犯した罪も重い。ポンスケがこの事実を知ったら逆上するかもしれない。
ロビンと彼が大喧嘩をして、二人の仲は急速に冷めるかもしれない。
『もしそうなったら・・アタシが有利。。』
一瞬そう思った和代だったがすぐに自らを反省する。
「アタシってやらしい。。人の不幸を期待するなんて意地汚いわ。。」
なんとも煮えきらぬ思いのまま、この日はすぐにパソコンの電源を落として就寝の準備をする和代であった。
(続く)




