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第66話〜エピローグ

第66話

              二十年愛(後編)


 車は海岸線沿いを走っていた。

いずみは一星の運転する車の助手席から青々とした海を眺めている。

「もうすぐだから。。」

運転席から一星が言う。

「素敵なところに住んでるのね。景色もいいし。」

「死んだ親父が独身のとき、この土地に惚れ込んで引っ越したらしいんだ。」

「よく思い切ったわね。一星のお父様って。そしてそのお父様を探し当てた一星のお母様の根性もすごいわ。」

「息子ながら俺もそう思う。母さんには今でも頭があがらないよ。」

「・・ねぇ?」

「ん?」

「お母様がもう長くないって・・どういうこと?」

「もってあと3ヶ月らしい。。」

「Σ('◇'*エェッ!? なぜ?そんな体なのにどうして自宅にいるの?治療は?」

「・・・俺も説得したんだけどさ。。なんか自分の寿命を悟ってるみたいで。。」

「でも・・治る見込みがわずかでもあるんなら。。」

「母さん自身はそう思ってないみたいなんだ。堅い意志でさ。俺には母さんの思いを尊重するしか。。あとは本人から聞いてくれ。」

「・・・・」

「さ、ついたよ。」


 目の前に海が広がる少し高台の一軒家。古い平屋で大きくはないが、こじんまりして趣がある。潮風も体に感じて心地よかった。

「母さん。いずみを連れて来たよ。」

いずみは玄関に入るとすぐに静子の待つ部屋へ通された。

そしてそこには彼女がいた。年老いた幸村静子が。

窓際に横付けされたベッドに彼女は上半身を起こしていずみの方へ顔を向けた。

「いずみさん・・あなたが尚代の娘の栗山いずみさんなのね?」

静子の声は感動で震えていた。

またそれと同じく、いずみにとっても静子はとても懐かしい存在であり、時を隔てて再会できた感動に思わず涙腺が緩んだ。

「はい、いずみです。お母様・・随分ご無沙汰してました。またこの世界で再会できるなんて思ってもみませんでした。私・・なんか胸いっぱいで。。」

 年はとってはいるが、確かに静子だと確認できた。あの一大決心の元、時間のひずみの中へ自ら飛び込んだ静子。

「お母様にとっては私を見るのが初めてだと思います。あの時からは随分年をとってしまいましたが。。」

「いいえ、私はあなたを一瞬だけ見たことがあります。一星が誤って穴に落ちたときです。あなたのお顔はあの時私の脳裏に焼きついています。今も変わっていませんよ。」

「そんな・・恥ずかしい。」

「もっとそばに来てちょうだい。いずみさん。」

「はい。。」

  静子はいずみの両手をとって涙した。

「ごめんなさいね。。本当にごめんなさい。あなたをどれほど苦しめてきたことか・・とても許してほしいなんて言えた義理ではありません。ただただ謝るばかりです。」

「もういいんです。そんなに謝らないで下さい。お願いですから。私はお母様のおかげで“無の存在”からこの世界に復活することができたんですよ。」

「でも・・一星から聞きましたが、あなたは今までずっと苦労されてきたようで・・私、申し訳なくて。。」

「運が悪いのは自分のせいですから。決してお母様のせいなんかじゃないです。」

「ありがとういずみさん・・こんな罪深い年寄りに怨みごとのひとつも言わずにそんな優しい言葉を。。」

握り締めていた二人の手の上に静子の涙がこぼれていた。

「お母様、まだまだ長生きして下さいね。一星のためにも。」

涙ながらに微笑む静子。彼女にとって、長年引きずっていた胸のつかえが幾分取れたような気がした瞬間だった。


 やがて静子は、いずみの後ろに控えていた一星を見ておだやかに言った。

「一星、いずみさんと二人だけでお話したいから少し席を外してくれないかしら?」

「え?あ、あぁ・・わかった。」

 ひとつ返事で一星が静かに部屋から出て行く。それを確認すると、静子は再びいずみに微笑みかけた。

「どうぞそこのイスに座って楽にして。」

「あ、はい。ではお言葉に甘えて。」

静子の指示通りにいずみはベッドのそばのイスに浅く座った。

「いずみさん、突然でなんだけど、あなた今、好きな人はいるの?」

「・・え?いえ別に今は・・というか、もうこの年では。。」

「じゃあ結婚する気が全くないわけではないのですね?」

「ええ・・でも。。」

「あなたを好きな人がいたら考えてくれる?」

 いずみは静子は言わんとしていることにすぐ気がついた。

「一星・・のことですね。」

「・・ええ。私はあなたたちが以前の世界で付き合っていることなど夢にも思っていませんでした。だからあなたたちを離ればなれにさせてしまった責任があります。」

「そんな・・お母様のせいじゃありません。さっきも言いましたけど、お母様は私を復活させてくれました。お礼もせずに今日まで生きてきた私の方が申し訳ないくらいです。」

「ではまた一星と元に戻ってくれますか?」

「・・・それは。。」

「もう一星が好きではなくなったと・・?」

「いえ・・そうではありません。。いつまでも忘れることができません。」

「年齢差があなたにとって大きな壁になっているからですね?」

「・・はい。。」

「私は一星の気持ちのままに進んでもらって良いと考えています。一星は今でもずっとあなたのことを思っています。母親の私が年齢差など気にしないと言ってもダメですか?」

 少しの間があってから、いずみが話し始めた。

「この世界では一星と私は釣り合いが取れません。20歳と48歳。あまりにもかけ離れすぎています。芸能界や華々しい世界でならともかく、一般社会でまわりから好奇の目にさらされながら生きてゆくのはとても厳しいと思います。」

「・・いずみさん。あなたは世間体を気にするのですか?」

「いいえ。私は平気です。私が心配しているのは一星のことです。」

「・・・・・」

「彼がどんなに世間からバッシングや陰口を言われるかと思うと・・私のせいで彼を苦しめることはできません。彼とのことは素敵な思い出にしたいんです。一生忘れることのできない素敵な思い出として胸にしまって生きて行きたいんです。一星は若いし、まだまだ人生のチャンスがあります。きっと素敵な女性も現れるでしょう。私のために彼の将来を閉ざしてしまうことは許されないことなんです。」

 静子は思った。『この人は真っ直ぐすぎる。でも・・素晴らしい女性。』

「ごめんなさい。お母様。」

深々とお辞儀をするいずみ。そしてそれを微笑ましく見つめる静子がいた。

「いずみさん。」

「はい。」

「あなたは自分を犠牲にしすぎてるのではないですか?もう少しご自分のことを中心に考えてみてもバチなんか当たりませんよ。」

「は・・ぁ。。」

「一星はね、見た目と体は20歳でも、心の中は以前の世界いたときの社会人です。」

「・・・・」

「私はあの子を産み直したとき、彼にはもう時間のひずみの向こうの記憶なんてないものと思っていました。それが物心つくかどうかの3歳か4歳ごろ、突然大人びた子供になってしまったんです。」

「その時に記憶が蘇ったということ・・ですか?」

「忘れもしません。私と一星がショッピングセンターに買い物に出かけての帰り際だったと思います。一星が私に理由もなく走って泣きついて来たのです。」

「!!!」

 いずみはそれを聞いてハッとした。

『あの時だ・・私と権現の姿を一星に見られたとき。。』

 静子は更に話し続ける。

「あの時から一星は変わりました。というか元の世界の自分を取り戻したと言っていいでしょう。」

「そうだったんですか・・」

「でもあの子の性格の一途さは全然変わっていません。いずみさんと付き合っていたことは最近になって知りましたが、そのあと一星から、この世界に生まれ直して来てからも、ずっといずみさんだけを繰り返し思い起こしながら生きて来たと聞きました。

「・・・・」

「あなたが他の誰かと幸せになっているのを見て、一旦は諦めたとも聞きました。でも2年前にあなたと再会して独り身だと知ったときから、あの子の情熱は再びいずみさんに注がれるようになったようです。

「一星・・・なんでこんな私になんか。。」

「あの子の信念は変わりません。私が保障します。世間体に流される子でもありません。どうか一星を・・一星を20歳だと思わずに、大人の男として見てはくれないでしょうか?」

「お母様。。」

「私はもう長くはありません。この私の最初で最後の頼みだと思ってどうか・・あなたが今も一星を好いてくれているのなら、どうか一緒になってくれないでしょうか?」

静子は再びいずみの手を取って懇願するが、途中咳き込み始める。

「お母様・・お体に悪いですから、どうかもう横になって下さい。」

「ゴホッ。ゴホッ!!・・私の自己満足て言ってるわけじゃないんです。私のした過ちによってあなたたちの人生を狂わせたことは紛れもない事実なんです。あなたたちが結ばれなかったら私は・・私は死んでも死に切れません。」

「お母様、そんなに思いこまないで・・ほら、ゆっくり横になって。」

いずみは静子を介助しながら言った。

「お母様、どうして病院で治療なさらないんですか?」

「自分の体は自分がよくわかるってドラマでよく言うけど、あれはほんとね・・いずみさん、私はね、長生きだけがいいことだとは思ってないの。どれだけ一生懸命生きて来たかということの方が大事。そして曲りなりにもそれが何とかできたから私はもう充分満足なんです。死んだお父さんと同じ海を眺めながら最期を迎えたいのです。・・ただ一つ悔いることは一星といずみさんのことだけ。。」

「お母様。。」

 いずみの心は揺さぶられた。静子の思い。そして一星の気持ちと自分の思い。

 『こんなに人に思われ続けているなんて・・・一星。。一星、あなたは私の運命の人なの?・・・もしそうなら。。』

 いずみの心はついに、ある方向に向って大きくうねり出したのである。




第67話

             エピローグ


静子はいずみの介助で薬を服用したあと、軽い眠りに入った。

そっと部屋から短い廊下に出るいずみ。ふとその先を見やると、一星がこちらに背を向けて窓から外をじっと眺めていた。

ゆっくりと近づくいずみ。そして彼の真後ろまで来て立ち止まる。

 どうやら一星はその気配に気づいたようだ。

「なぁ、いずみ。」

窓の外を見たまま、おもむろに話し出す一星。

「俺、今の年齢は20歳だけど、精神的には昔の俺そのままなんだ。いずみと毎日ネットしてた頃の俺なんだよ。」

「・・・辛かったでしょうね。子供のころから大人のときの記憶があって。。」

「あぁ・・正直辛すぎた。そして長すぎた。」

「今までは一度も彼女はいなかったの?」

「いたよ。でも・・やっぱりダメだった。」

「どうして?」

「いずみを忘れようとして無理に付き合った彼女なんて長く続くわけないだろ。」

「そう。。。」

「俺は誰も抱いてない。遠い昔に誓ったんだ。優柔不断な心のままで安易に人を抱いてはいけないってさ。和代との一件以来、そう決めてたんだ。」

一星の話す内容や言葉遣いを聞いて、いずみは完全に悟った。

「一星、あなた本当に昔のままなのね。。生まれ直す前のあなたそのものなのね。」

「そうだよ。俺は20歳の俺じゃない。それは見た目だけの話さ。」

 いずみは最後にもう一度だけ、次の質問で一星の本心を確認したいと思った。

「ねぇ、こんな釣り合いの取れないオバサンでも・・・本当にいいの?」

一星はようやくいずみの方へ振り返り、ため息をつく。

「なぁ、いずみ。俺たちは元々ネットの恋人だったじゃないか。」

「うん・・そうだよね。。」

「お互い見た目を気にして付き合って来たわけじゃないだろ?会わなくたって何でも話せてわかり合えた。それだけでも毎日が楽しかった。」

「ええ・・楽しかったわ。」

「むしろ俺の方があのときはいずみに会いたくて我慢ができなくなってしまったくらいだ。それが余計にいずみを苦しめていたことになったんだけどさ。。」

「・・・・」

「でも今の気持ちはあの時の気持ちとは違うんだ。・・あの時は一目でもいいから会ってみたい好奇心が強かった。」

「今は・・違うの?」

「全然違う。今はとにかくいずみと一緒に時を過ごして行きたい。それだけなんだ。若いだの年寄りだの、俺にとってそんな外見なんて問題外なんだよ。」

「でも私・・もう子供産めるかどうかわからないよ。。」

「あのね、いいかいずみ。俺はいずみといつまでも一緒にいたいだけなんだ。子供は授かりものだからその延長上のこと。いないならいないで俺は構わない。」

「一星・・」

「俺たちのここまでの軌跡、そして俺たちの精神の結びつきってのはさ、たかが肉体程度のレベルで表現できるようなものじゃないはずだ!」

 

 いずみは一星の言葉に光を見出したような気がした。彼は強い。そしてたくましい。自分も一星のように強くならなければいけないのだと痛感した瞬間だった。

「たぶん私の方が先に死んじゃうよ?それでもいいの?もしそうなって一星が若い子を見つけても恨みはしないけど。。」

「いや、いずみは絶対に長生きする。今までの不幸な境遇をこれから取り戻すのさ。」

一星は常ににプラス思考で考えるため、それを聞いてるいずみにも少しずつ勇気が沸いてくる。いや、彼にしっかり勇気を与えてもらっているのに間違いはない。

「うん。。そうしたい。私、一星と一緒に人生を取り戻したい!、一星と一緒に幸せになりたい!」

「いずみ・・・やっと言ってくれたね。その言葉。。」

「どうしても言えなかったの。。そう思ってたのに・・ずっと思ってたのに。。」

いずみは一星の胸に顔をうずめて泣いた。優しくその頭をなでる一星。

「ありがとういずみ。俺たちはこれから死ぬまで一緒だよ。」

「うん。。うん。。」

いずみはそれ以上、言葉にならなかった。

 同じ頃、部屋で仮眠している静子の閉じた目からも涙がこぼれ落ちていた。

薄い壁の小さな古い家。部屋の外の会話など、この静かな空間の中では筒抜けなのである。



 その1ヵ月後、一星といずみに看取られながら、幸村静子はおだやかに永眠した。

 享年71歳。。

 自ら二つの世界に飛び込んで、波乱万丈な人生を繰り返しながらやり直した数奇な運命の女性、そして最期まで自分の責任をまっとうしようとした実直な女性であった。

 誰の目にも映らない静子の御霊みたまは、その肉体から離れ、天井を突き抜けて外に出ると、ふわふわとゆっくり天高く舞い上がり、遥かかなたへと消えて行った。



--------半年後--------


ponsuke:おーい、まだ起きてるー?

robin830:あ、一星!うん。まだ起きてるよぉ。

ponsuke:もう遅いからさっさと寝ろよ!じゃあな!

robin830:((ノ_ω_)ノバタ それだけ?w

ponsuke:夜勤中だからサボってるとヤバイんだw

robin830:サボってたんだ?(*^m^*)ムフッ

ponsuke:ちょっとなwホントは職場で勝手にネット繋いじゃダメだし。

robin830:それ初耳!ずっと繋いでたじゃない?

ponsuke:言ってなかったっけ?

robin830:全然。

ponsuke:あれれ?言ったと思ったけどなぁ。。

robin830:そこがポンスケなのよw もうヤバイんじゃない?やめたら?

ponsuke:バレやしないさ。今日は隅っこのダブルブースにいるんだ。

robin830:気をつけてね。私もそろそろPC落として寝るから。

ponsuke:俺はまだ頑張らないとな。(;´Д`)ハァ


 一星はネットカフェに勤務していた。交代制で日勤と夜勤の繰り返しの毎日。

いずみとは共働きで生計を立てている。


robin830:だけど不思議よね。私たち。

ponsuke;なにが?

robin830:夫婦になったのにまだこうしてお互いネットしてるw

ponsuke:そりゃあそうさ。俺たちとネットは切っても切れない縁だしな。

robin830:全てはネットから始まったんだもんね。

ponsuke:んだ。ネットの恋人さ。今は夫婦だけどなw

robin830:気分は恋人のままでいたいよね。

ponsuke:俺はそのつもりだぞ?いずみは違うのか?

robin830:そうだよ。まだまだ恋人だよw

ponsuke;それならよし!

robin830:ね、ね、クビにだけはならないでね!生活かかってるんだから。

ponsuke:いずみの方が稼ぎいいんだからアテにしてるよ。

robin830:もうっ!

ponsuke:明日の昼前には帰れるから、たまには外でランチしないか?

robin830:そうね・・節約生活ばかりじゃ息詰まっちゃうしね。

ponsuke:よし決まりっ!じゃあおやすみ。

robin830:一星は寝ちゃダメよ( ̄m ̄o)プ

ponsuke:アホか、お前に言ったんだよww

robin830: (o^-^o) ウフッ じゃあ明日ね!

ponsuke:おう!|彡サッ!

robin830:(u _ u) クゥゥゥ。o ◯


 二つの世界を経て、やっとこの二人のゴールとも言うべき平穏な日々が訪れていた。




 更に長い歳月が緩やかに過ぎて行った。

一星といずみ、そして静子が生き抜いた不可思議な世界も、この時の流れから見れば、ほんの欠片にも満たない一瞬の出来事でしかない。

 人はこの世で世代交代をしてゆく。新しい生命の誕生とその成長と共に、忘れる去られる過去となる。

 そんな中、遥か天空から紫色に光を帯びた御霊みたまがひとつ、誰の目にも触れずに地上へ舞い降りて来た。

その御霊は一直線にとある場所へと向かい、一人の人間の母体へと溶け込んでゆく。。


 それから6年後・・・


「ほら、一真かずま。ちょろちょろしてないでちゃんとお参りしなさい。」

「ママおなか空いた。」

「お墓参り終わったらみんなでごはんにしましょ。」

「ごはんよりおやつがいい!」

「とにかく先にご先祖様に手を合わせるのよ。あとはそれから!」

「そうだぞ!ママの言うこと聞かない子は、パパのゲンコのプレゼントだ。」

「そんなのプレゼントって言わないよぉ。」

「ほら、お姉ちゃんを見なさい。ちゃんと目をつぶってお祈りしてるだろ?」

「さおり姉ちゃん、何お願いしてるのぉ?」

「いろいろ。。」

「???ふぅん。。」


 帰省で訪れたお盆の墓参り。幸村一仁かずひと家族4人は先祖の墓前にいた。

 長女で5歳のさおりと、弟で4歳の一真。そして母親の美鈴。

「ねぇパパ。こっちの何て書いてるの?」

 一真が指摘したことは、石碑に刻まれた先祖の享年の年齢と没日だった。


 幸村 いずみ 2062年10月3日没 享年82歳

  〃 一星  2090年12月8日没 享年82歳


「あぁ、これはね、ご先祖様の名前と亡くなった年が書いてあるんだよ。」

「ご先祖様の名前?」

「そう。パパのおじいちゃんとおばあちゃんのね。一真とさおりにとっては、ひいじいちゃんとひいばあちゃんかな。」

「ふぅん。その上のおじいちゃんだったら、ひいひいじいちゃんになるの?」

「そうだよ。更にその上は、ひいひいひいじいちゃんさ。」

「あなたっ!子供にいい加減なこと教えないで!(^_^;)」

「あははは(@^▽^@)」

「でもあなたのお爺様とお婆様って、同じ年齢で亡くなってるのに、没年月日があまりにもかけ離れてるわよね。今まで全然気づかなかったけど、業者さんが間違えて彫ってしまったんじゃないのかしら?」

 妻からの質問を受けて一仁は軽く苦笑いをした。

「いや・・それは本当なのさ。うちのじいちゃんとばあちゃんは28歳の年の差があったんだ。」

「(゜〇゜;)ええっ!!それホントだったの?信じられない。しかもおばあちゃんの方が年上ってことよね?」

「あぁ。でもびっくりするくらい仲良かったんだぜ。」

「昔の人なのにすごい恋愛してたのねぇ。」

「詳しいことは知らないけど、複雑な事情も色々あったらしいよ。」

「へぇ・・なんか興味あるわ。」

「余計な詮索はよそう。ご先祖さんはそっとしておいて大事にしなきゃな。」

「でも、あなたのおじいちゃん・・晩年は独りぼっちで寂しかったんじゃない?」

「うん。そういうときもあったかもしれないな。でも・・」

「でも?」

「いずみばあちゃんが死んだとき、まだ一星じいちゃんは53歳か4くらいだったんだけど、再婚とか全く頭になくてさ、毎日仏壇にお供えして墓参りも自分でしょっちゅう来てね。墓前でいつもばあちゃんと会話してたんだ。」

「そう。。」

「花を取り替えたり、ばあちゃんの好きだったお菓子を日替わりでお供えする日課が楽しみだったような気がしたな。。二十三回忌の法要まできちんと取り仕切ったしね。」

「・・なんかせつないわね。。でも・・本当に素敵なお爺様だわ。」

「あぁ。俺もそう思う。さ・・そろそろもう帰ろう。」

「ええ。一真、行くわよ。」

「うん。」

 美鈴は一真と手を繋いで歩き出す。その後ろを一仁とさおりが・・・

「あれ?さおりが来てないぞ。」

すでに歩き出していた一仁が墓の方を振り返ると、さおりがまだ石碑の前にたたずんでいた。

「おい、さおり!何やってんだ?帰るぞ。早く来い!」

さおりはこちらに背を向けていたので、確認はできなかったが、確かに手で目をこすっているようなしぐさに見えた。

「おかしな奴だな。さおり、置いていくぞ!」

 その言葉を聞いてやっとさおりが向き直った。目がやや赤い。

「パパ待って。すぐ行くから。」

そう言うと、さおりは駆け出して一仁の元へたどり着き、父親の手を握った。

「お前、泣いてたのか?」

「・・泣いてなんか・・ないよ。」


 一仁に手を引かれながら墓前を後にするさおり。

歩きながら距離が遠くなってゆく幸村家の墓の方へ、ふともう一度だけ振り返る。

そしてさおりは心の中で囁いた。


「一星・・よくいずみさんを最期まで守ったわね。。偉いわ。。」

                    (完)

※ここまで時間を割いて読みに来ていただいた読者の方々には心から感謝致します。ありがとうございました。

できればほんの一言でも感想をいただけたら嬉しく思います。

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