年金と老人(後編)
車内は騒然とした。
老人多勢と、謎の仮面男との対決は続いていた。
戦後復興の尽力者について説いた老婦は、あきらめの悪い性格らしく、再びグロスマンに抵抗した。
「あっ・・・あんたねぇ、今の若者よりは、私は働いていたわよ!今の人なんて、ずっとパソコンいじっているだけじゃない!」
グロスマンはニヤリと微笑し、うっと腰を上げた。
「じゃぁ、やってみるがいいさ。IT企業に勤めてみれば。ソフトバンクも、ライブドアーも、社員の仕事量は並大抵のものないですよ。たぶんあれを一生続けたら・・・」
「なっ・・・なによぉ」
「廃人になるでしょう」
もう、反論するものは誰もいなかった。
が、話はここで終わらない。
席を立ち、下車したグロスマンは、そのまま川沿いを歩き出した。
眩しい夕日が、川に映り込んでいた。
ゆらゆらと揺れる柳の葉は、風に乗ってリズムを刻んでいた。
グロスマンは、歩いていた。が、突然立ち止まった。
ゆっくりと、沈みかけた夕日の方を向いた。仮面がいっそう笑って見える。
「フフフフフ・・・事故っぽくしといてやるよ・・・」
後日、老人15人の溺死体が、山奥の川で発見された。
よく見ると、グロスマンと話していた人たちだったという。
警察はこの15人全員を、自殺と判断した。
この結果が真実か否かは分からないが、一つだけ言えることがある。
自殺ではない。殺人である。
犯人は、貴公の判断にお任せする。
では、なぜ自殺に見せかけたか。
決して逮捕されるのが恐いわけではない。
自殺になると、警察の仕事が殺人より楽になるからだ。
だれが、そんなことを知っていたのだろうか・・・。
高齢化が進んでいることは事実。
この事実を黙殺するより
なんとしてでも受け止めなければ
いけないんですよねぇ・・・。