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難聴者

−証言−

私のね、近所に難聴者の方がいらっしゃるの。

耳が聞こえないって、ずいぶん不自由かと思ったら

意外にもそうでもないみたいね。

だから、トラブルに巻き込まれたみたいよ。

 さかいという名の男がいる。

 彼は、世間の言う難聴者である。

 難聴者どうしでネットワークがあり、夫婦がある。

 境も妻が難聴者であり、息子も難聴者であり、そして愛人も難聴者であった。

 彼は今日も、パチンコ店で愛人と待ち合わせしていた。


 パチンコ店で、境は愛人に向けて万札を出し

(今日は、これで美味しいものでも食べようか)

 と手話を送った。愛人も笑顔で

(そうね)

 短く相づちをうった。

 2人はそのまま高級レストランに入った。

 美しいコップがシャンデリアの光に反射し、目に染みるように輝いていた。

(そういえば、今日は話があるって言ってたね)

 話を切り出したのは、意外にも男だった。

 女は、しばらくそれに答えなかったが、すっと顔を上げた。

(ねぇ、奥さんとはいつ別れられるの?)

(うっ・・・・・・今、その、あの、まだ言ってないんだ)

(なんで!?私は主人と別れたのよ!なんでよ!)

 女は今までの鬱憤が爆発したように、男に差し迫った。

 手話なので、手を振る度にぺちぺち音がする。


 そんな時であった。

 境の携帯が、ぶるぶると震えた。

(すまんな)

 境は携帯を手に取り、内容を開こうとした。が、発信者は不明である。

 開いてみた。


“ろくな職についてないのに、余裕があるな”


 それしか書いていない。

 境は不気味に思い、すぐ消去した。が、腑に落ちぬ点があることに気づいた。

(・・・・・・そういえば、何で金に余裕があるって分かるんだ?)

 すると、再び携帯が振動した。


“あんたの すぐ近くにいるからさ”


 ぎょっ!冗談じゃない!

 境はそう思い、辺りを見回した。誰もいない。タキシードを着た者、上品な人々ばかりで、怪しい者は誰一人といない。

(不気味ないたずらだ・・・・・・)

 そう思いながらも、内心ひやひやしていた。とりあえず、話をつけねばと思い、ごめんという仕草をして席に戻った。

 女は境の顔の変わりように、動揺してる。

(どうかしたの?)

(ちょっと怪しいメールが届いてね。でも大丈夫だよ)

(そう、で、離婚の話は・・・・・・)

(今はまだ・・・返事ができないよぅ・・・)

 ついに女はガッと立ち上がり、激しく手をふるわせた

(もういいわ!もうだめよ!別れましょう、わたしたち)

 そう言って、出て行ってしまった。


 その夜。

 帰宅途中の難聴者の女が、殺された。

 女の死体の横には、男の死体があった。

 境である。

 右手に包丁を握り、彼の愛人の胸に突きさしている。が、境は誰に殺されたのか。

 そのとき、左手に握られていた携帯が、激しく振動した。

 メールは、いじらずに勝手に開かれた。


“有リ余ル 金ノ正体 障害者年金ナリ

 軽イ障害 苦ニナラズ 金カカラズ

 男女トラブル 起キルモ 当然ナリ

 コレガ 世ノ 現状ナリ”

−証言後記−

障害者年金って、たくさんもらえるのね。

もっと重い症状の方に、たくさんお金をあげれば

今回みたいな殺人も起きなかったのにねぇ。

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