表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の飛び方  作者: Ray
10/14

第九話 「天使」、睨合

 「ただいまーっと……ん?」

勢いよく部屋のドアを開けた巽は、いつもと違うモノを発見した。

「おかえり、タツミ。悪いけど今取り込み中なんだよね。」

「――へ? ……どういう……っ!?」

 巽がゆっくりと、サールエから視線をずらしていく。そこにいたのは……――


 「ふふ……。久しぶりね、タツミちゃん。」

金の瞳と漆黒の翼。滲み出るのは悪しき心。

 「――あくま……?」

一歩後退りする。迫り来る狂気と邪心。

「あら、私のこと憶えてない? そう。貴女あの時まだ小さかったものねえ。」

悪魔の睥睨へいげいに打ち勝つことなど不可能だ。人間ならなおさらのこと……。


 サールエが、悪魔の威圧を遮った。

「……憶えてない? お前、昔タツミに逢ったことあるのか?」

サールエは、悪魔から視線を外さない。


 バチィ!

 目の前のクッションを、黒い稲妻が焦がした。

「『お前』だなんて失礼な言い草ね。今時の学生さんは、言葉遣いも弁えてないのかしら?」

悪魔は微笑で、サールエを威嚇した。彼女の指先には、煙が立ち昇っている。

 「……私はサールエ。あなたは?」

「ザンヴィアよ、士官候補のお嬢さん。確か、エリート部隊の“月”への入隊が決まってるのよねえ?」

「何故それを!?」

サールエは焦ったように声を荒げる。初めて「本物の悪魔」と遭遇し、尚且つ全てを見透かされていることに動揺している。見下すような視線は姉の眼差しを思い出させ、見透かすような視線は校長の言葉を思い出させる……。

 どんなに優秀でも、彼女はまだ学生だ。


 「『消灯ヴァイ』よ。ご存じない? 士官学校の主席さん。」

悪魔ザンヴィアは、何でもお見通しと言うふうにサールエを見下ろす格好で浮遊している。悪魔は天使と違い、自らの翼で飛行ができる。

「……ヴァイ……逆探知の紋章!」

サールエは、顔にしまったと書いた。自らの場所を悪魔に知らしめてしまったのだ。

「ふふふ……。まだまだお子様ね。でも安心して、今日は挨拶に来ただけよ……。」


 巽はその場にへたり込んでしまっていた。神聖と魔性の睨み合いの場で、ただただ固まることしかできなかった。あの日のように……――

 (あの日って、いつだっけ?)

 心臓が、鳴り止まない……。


 「忠告しておくわ。貴女のような小娘は私に勝てない。(その娘)は諦めて、貴女もここから出て行きなさい。」

先ほどの、愉悦を含んだ物言いとは打って変わり、ザンヴィアは冷たく言い放つ。

「……どうしてタツミを狙う?」

サールエもまた、明らかに敵意の篭った視線を突き刺す。もっとも、ザンヴィアは何も気にしていないが。

「さあね。その小娘にでも訊いてみれば? それじゃあ失礼するわ。」

ザンヴィアは、窓の縁に足を掛ける。

「あっ……待て!」

サールエは悪魔を追う。しかし、すぐに足が出なかった。

(恐れてる? このアタシが……!?)

 サールエが窓から身を乗り出す頃には、とうに彼女は窓から飛び立ち、消えていた。羽音がどこかでこだました……。


 「……サールエ、今のが悪魔?」

巽の声は震えている。悪魔が去った今、ようやく声を出すことができた。


 彼女は非力な「人間の女の子」だ。


 「ザンヴィアか……かなりの手練みたい。」

サールエは窓の外を見つめたまま、こちらを向かない。

 「……タツミ、今の女に見覚えは?」

「わからない……。憶えてないだけ、かも。」

巽はうずくまった。鼓動はまだ大きく早く、胸の苦しみや痛みを閉じ込め続けている。

「――そうか。」


 サールエも巽も、それ以上何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ