第四話;家
圧力鍋に焼き目を付けた牛肉のブロックを入れてから栓をして私は一息吐いた。
生前建築士をしていたお父さんが建てた家はこの辺りではほとんど見かけない鉄筋コンクリート製で三階建になっている。
当時まだ取り入れられていなかった耐震設備を備えた我が家は当時破格の安さで作られたらしい。
今となっては普通の家の数倍するらしいけど、実験的な意味合いも含めていたローンはすでにお兄ちゃんが払い終わってしまったらしい、とかどうとか。
詳しくはお兄ちゃんが教えてくれないからよくわからない、けどきっと本当だと思う。
今日一日の洗濯物を干し終わり、ベッドメイキングやお風呂場掃除を終えた。
浮足立った足取りでビーフシチューの出来具合を確かめようと立ち上がったところで私のケータイが鳴り響いた。
液晶を見れば時刻は午後九時を回っていて、着信相手はお兄ちゃんだった。
電話に出て、お兄ちゃんの声を聞いた私は反射的にカーディガンをつかんでいた。
『春香ちゃーん。お兄ちゃんお酒飲んだからお迎えよろしくー。車使っていいからー。』
「分かった。これから行くから多分三十分くらいだと思う。今どこにいるの?」
陽気なお兄ちゃんから居場所を聞き出した私はタクシー会社の番号を探しだす。
『ベルガモットっていうバーにいるよー。早く春香ちゃんに会いたいー。』
退行したお兄ちゃんに嘆息しながらも話を切り上げた私は手慣れてしまった手つきでタクシーを呼んだ。
ハートのアップリケが施されたエプロンを外してミルクティー色のカーディガンを羽織って家出の為の準備をする。
タクシーに乗り込むとお店の名前を言って、静かに溜め息を漏らした。