何かがおかしいタイムスリップ
これはこれで昔から構想があったヤツを形にしました
河原で寝そべりながら青い空を見上げていた。
川の緩なせせらぎ、少しはなれた場所から聞こえる車の振動音すら心地良い。
視界の端には散り始めた桜の花びらが風に乗って舞い上がる。
時刻は午前10時半を少し回ったくらいだろうか。
紺色のブレザーを羽織り、白銀の髪を携えた遠坂悠一は欠伸を噛み殺しながら少し伸びをした。
ちなみに土日や祝日、学校行事の振替休日などでもなく平日ど真ん中。
何故彼がこんなところに居るかといえば、端的に言えばサボりである。
それもこれは初めてではなく新学期が始まり1か月ほどだがすでに何度目か分からない。
高校二年生になる年齢である悠一は昨年からもサボりの常習であったが、今や彼を咎める者はほとんど居ない。
無論はじめの頃は彼のクラスの担任だったり生活指導の教員なども学校に来るように諭しはした。
学校は勉学だけではなくクラスメイト達との交流で社交性が云々かんぬんなどと。
だが悠一にとって学校という物に対しての意義というのが全く感じられなかった。
と言うのも何故生まれつき髪は白銀であり、それが起因で所謂よくない連中から目をつけられる事も多々あった。
そのため結果的に素行不良と言われても仕方のない行動を起こすこともあった。
彼自身は面倒な争い事は嫌いであり首を突っ込むつもりは毛頭なかったのだが、降りかかって来る火の粉を払わねばならなかった。
そんな関係がめんどくさくて堪らなくなり学校には最低限しか通わないようになった。
幸いというべきか悠一は勉学はかなり出来る方であり、自主勉だけで学年1位も取れる程の学力は持っている。
そのため、なおのこと学校に通う意味がなくなり自然とサボりの回数は増えていった。
テストでそれだけの成績を出せることもあり学校側も無理に登校を進めることはなくなっていった。
かれこれこの河原で寝そべり30分程度が経過した。
身体を起こし、枕代わりにしていたボストンバッグを開けるとブレザーを脱いでねじ込む。
ちなみにバッグの中は参考書の類いも入っておりいつでも勉強はできるようになってはいる。
そろそろ図書館に行って今日の分の勉強をしようと思い、アスファルトに足をつけると後ろから声をかけられる。
「遠坂ぁ!!この前はよくもやってくれたな!」
またか、と思いながら振り返る。
そこには左腕にギプスを着け学ランを羽織っているヤンキー風の男とその取り巻き達がいた。
彼らの手には鉄パイプなど武器も握られている。
どうやら依然蹴散らした輩らしく報復に来たようだ。だが悠一の記憶の中には1ミリも残っておらず何の悪気もなくこう質問した。
「━━━お前、だれだっけ?」
「て、てめぇ……人にこんだけの怪我負わせといて覚えてねぇとかケンカ売ってのんか!?」
「……?どちらかと言えばケンカ売ってるのはお前らだろ?」
煽るつもりはないが、淡々と事実を口にする。
当然、ヤンキー風の男達は━━━キレた。
「やれ!お前ら!!」
取り巻きに指示を送り一斉に襲いかかってくる。
数は10人。
一見すれば多勢に無勢。
その上相手は全員武器を持っており、一方の悠一は丸腰。
普通に考えれば悠一のほうが圧倒的に不利な側だ。
本来なら逃げるのがセオリーと言える。
だが悠一は悠長にため息をつくとボストンバッグを足元に下ろす。
丁度そのタイミングで鉄パイプが頭部に差し迫る。
悠一はそれを視認することすらなく最小限の動きで躱すと鉄パイプを持っている両手の手首をおもいっきり蹴り上げる。
鉄パイプを把持する事は出来ず少し宙を舞った後、足元にカランカランと音を立てて落としてしまう。
手首の痛みに悶絶している隙に一撃がら空きの顔面に拳を叩き込む。
骨が軋む音がする。
それは悠一の拳ではなく、それを叩き込まれた男の顔面からする。
拳を振り抜くと凄まじい速度で後方に吹き飛ばされガードレールにぶつかる。
その衝撃でガードレールも少し曲がりまるでめり込んだような様相となる。
流石に怖じ気づいたヤンキー達は迫る足が少し遠退く。
一方の悠一はおもむろに鉄パイプを拾い上げるとゆっくりと曲げていきソフトボールくらいの大きさに丸める。
「……は!?」
それを見て足が完全に止まる。
通常ではあり得ない現象が目の前で生じたのだ。
そんな反応も当然だ。
そして何を思ったか悠一はワインドアップを始める。
その瞬間、ヤンキー達は次に何が起こるのか理解した。
だが時すでに遅し。
オーバースローで放たれた鉄パイプボールは目にも留まらぬ速さで迫り、周囲の空気すら削り取りながら鉄パイプ以上の質量と威力をはらんでいる。
先頭にいた男の鳩尾に直撃すると威力は一切落ちることはなく後ろに控えていた8人もろとも巻き込み吹き飛ばされる。
さながらボーリングのピンが散るかの如くだ。
最後尾にいた辛うじて攻撃を免れた主犯のヤンキーのもとにゆっくりと歩いていく。
「ひっ……く、来るな!化け物が!」
腰を抜かし後ずさりをするが当然うまく逃げられるわけもなく、あっという間に視界に悠一の膝が入り込む。
震えながら見上げれば冷たい眼をした悠一がじっと見下ろしている。
「お前が誰か知らないが、次はアイツ等以上の事をするぞ」
そう言って親指を立てて後ろで気絶している取り巻きのヤンキー達を指差した。
「……は、はい……」
男はそう返事するしかなくこの件は決着が着いた。
踵を返しバッグを拾うと当初の目的通り図書館へと足を運んだ。
図書館では平日の5日間を割り振って1教科ずつ集中して勉学に取り組むという方法を取っており、この日は日本史について掘り下げるつもりだ。
実は悠一は戦乱の世である所謂戦国時代辺りの事は興味を持っている。
興味を持ったきっかけはその辺の男子と同じようにゲームや漫画の影響だ。
だが次第にその時代に対して恋い焦がれるようになっていった。
理由は単純明快。
力こそが正義であり、それが生きていく上で何よりも必要とされてきたからだ。
面倒事は嫌いだが、力を試すこと自体は嫌いではない。
むしろ勉学にしろ、武力にしろ向上心だけは備えているため心のどこかで試したい気持ちがあるのだ。
勉学の方は現状十分昇華できていると言えるが、武力についてはやはり現代社会という壁が大きくのし掛かかってくる。
だからこういう荒唐無稽な事を無意識に呟いてしまう。
「……あ~、戦国の世に生まれたかったかもな」
想いを馳せながら今日の勉学に向かう。
時刻は夕方4時ほど。
本日分のノルマはこなしたため本を元あった場所に戻し、広げたノートなども片付ける。
図書館から出るが春先であるためまだまだ空は明るい。
近くの道路や公園には学校が終わったのか小学生達の笑い声なども聞こえてくる。
ある種平和の象徴をBGMにして帰路に着く。
その道中、少し不思議なことが起こった。
ふと空を見上げると1羽の鷹が優雅に━━━鷹揚と呼ぶに相応しい姿を見せていた。
動きを観察していると真上辺りを通過した瞬間、鷹が何かを落とした。
丁度目の前に落ちてきたため反射的にキャッチする。
「なんだ、これは?」
それは手のひらサイズで五角形の金属のようなものであった。
重さ自体は大して無い。
よく見れば表面には五芒星のようなものも描かれている。
そして奇しくも悠一の髪色と同じ白銀で彩られていた。
しかし鷹が生き物や食べ物ではなく、こんな明らかな無機物を拾っているなど珍しい。
そんなことを思っていると突然上空の鷹が鳴き声を上げる。
気が付くと1羽しかいなかったはずの鷹は数を増やし悠一の上で円を描くように隊列を組んで羽ばたき続けていた。
これも珍しい光景だが何かがおかしいと思い始めた悠一。
だが、すでに遅かった。
手の中にある金属が鷹の鳴き声、行動に共鳴するかのように震えだし光を放つ。
そして鷹が一斉に鳴き声を上げた瞬間━━━悠一は金属から放たれる光の中に消えていった。
━━━それを近くの電柱の上から観察するローブを羽織った人物が見守っていた。
「……成功した、ようですね」
一言そう呟くと懐から悠一が持っているものと同じ形の金属を取り出し同じように光を放ち消えていった。
光に包まれた瞬間、悠一は死すら覚悟した。
それも当然だろう。
突如として手に持っていた金属が光を放ったかと思えばそのまま自身の身体を覆い隠したのだから。
少しして光が収束したのを感じとれた。
恐る恐るといった様子で目を開けると自身を疑った。
「ど、どこだ……ここは」
眼前に広がるのは全く見覚えの無い山の麓だった。
先程まで居たはずの住宅街から山と言うのは相当距離があり眼を瞑っていた十数秒で辿り着ける距離にはない。
しかも地面はアスファルト加工などされておらず、地面が踏み固められできた獣道の如くだ。
明らかに何かがおかしい。
スマホを確かめるが圏外。
何も調べようがない。
だがここでじっとしていても何も始まらない。
ふと思い返し、手にある金属を見るが光を失いただの五角形の白銀の物体と成り果てていた。
「絶対にこいつが原因なんだが……エネルギーを使いきった感じか?」
考えても仕方ないとブレザーのポケットに仕舞うと一先ずは右手側の道を進むこととする。
十分ほど歩いたが、人には未だ出会えず。
だが田畑や倉庫らしき建物はあり人の影はする。
しかしながら違和感が一つ。
(……田舎と言えばそれまでだが、なんと言うかそう言う次元じゃない。これだけ田舎とは言え車や電柱、街頭とかも無いなんて事があるか?)
どんなに田舎な山道であっても田畑や倉庫など人の影がある場所において何れも一つも無いなんて事があるだろうか。
時刻は夕刻であり山の麓ということもありどんどん薄暗くなっていき、この道の異質さが顕になってくる。
ボストンバッグから懐中電灯を手に取ると道を照らしていく。
しばらく歩いていくと遠くの方から何かだ楽器のような音がした。
(太鼓?向こうからか)
音の方へと向かうと灯りと人の声が聞こえる。
近づいていくと煙の匂いもしてくる。
キャンプか何かしているのだろうと思い歩みを進めると驚きの光景が眼に入る。
そこには幕を張った陣営のようなものがありその周囲を甲冑を纏った人々が警戒している様子だった。
(何だアレは?何かの撮影か?)
まるで映画か何かの撮影をしているのかと思ったが、どうやら違いそうだ。
周囲にはやはりというべきか車すらなく言ってしまえば現代文明的なものは感じられないのだ。
違和感は拭えないものの四の五の言っている場合ではない。
一先ずはあの一団に情報を貰うのがいいだろう。
「すみません、ちょっといいですか?」
「!?何者だ!ここがノブナガ様の陣地と知っての侵入か」
近くに居た者に声をかけたが槍をこちらに向けて警戒心を隠さない。
甲冑で分からなかったが、どうやら声を聞くに女性だ。
それもまた珍しいと思ったが今はそんな場合ではない。
「ちょっと陣地とか知らないんですが、迷子になりまして。ここがどこかって教えて貰えないですか?」
「……迷子、だと?怪しいな、そこを動くな」
槍の切っ先を向けたまま見張りの女性は悠一の周りを一周して警戒する。
すぐに3人ほど応援も駆けつけたが、その者達も女性であった。
「見たこと無い装いだ。どこの差し金だ」
「いや、普通に高校の制服なんですが」
「……コウ、コウ?」
どうやら理解できていない様子。
自分を囲む他の者達を見ても、誰一人として分かってないらしい。
「なんでもいい、ノブナガ様に仇なすものであればここで討つのみ!!」
すると正面の女性が槍を突きつけてくる。
距離は十分に取って回避したつもりだがある種の衝撃波のようなものが眼前を通過した。
(!?何だ、今のは)
続け様に攻撃が繰り出されるが、やはりというべきか攻撃の距離感がおかしい。
少し距離を取り頬に手を添えると流血している。
その辺に転がっていた石を手に持つと全力で投げ込む。
投げられた石は槍でなぎ払うとことごとく霧散した。
「マジかよ。何だよそれ!」
兎に角あの攻撃をもろに受けるのはマズいのは確定した。
あちらからの攻撃は回避するしかない。
槍の刃に触れた岩や木々は砕けたり薙ぎ倒されたりと通常ではあり得ない威力を孕んでいた。
普通の得物なら余裕なのだが、こんな超常的な得物は経験もない。
ひとまず距離を取り対策を練ることにした。
半ば苦し紛れではあるが石を投げ続ける。
槍の刃の部分に向かった石は粉々に霧散し、柄にぶつかったものはそのまま弾かれた。
(━━!もしかして)
何かに気付いた悠一は再度距離を詰め出す。
そこにあわせて槍の一撃が飛んでくる。
(今だ!)
完璧に回避すると柄を掴み逆に引き寄せる。
(やはり、持ち手の柄には良く分からないエネルギーは宿ってないな)
荒事は得策ではないが、下手すれば命も取られる可能性がある。
ならばこの場を制圧するのが手っ取り早い。
引っ張られた勢いでこちらに引き寄せられる女性。
本意ではないが、状況が状況だけに一撃鳩尾に掌底を叩き込む。
甲冑の上からだが、その部分は構造上脆い。
「……ガァッ……!?」
その場で膝を着いて崩れる。
死にはしないが数十秒呼吸もままならないだろう。
「殺しはしない。そして俺は争うつもりもないが、向かってくるなら彼女のように制圧はさせて貰うぞ」
一応警告はしておく。
だがそんなことで退くなら苦労はしない。
一斉に襲いかかってきたが、難なく全員を無傷で一方的に制圧した。
「俺に敵対する意思があれば、とっくに君たちを殺しているという前提が君たちに敵対する意思がないという証明としてくれ」
「━━━お見事だな、来訪者」
声の方を向くと茶髪のウェーブがかった髪型の女性が声をかけてくる。
「やたら騒がしい声と物音がするからと思い見てみれば、驚いた。槍を持った兵を4人。それも丸腰で一方的に制するとは相当腕が立つようだな」
「……貴女は?」
「ん?ワシを知らぬとは……相当の田舎から出てきたのか?」
不思議そうな表情を浮かべる。
どうやら有名人らしいのだが生憎見覚えはない。
「まぁ良かろう。久々にちゃんと名乗りを上げるのも悪くはない。
━━━ワシはヒノモト統一に最も近いオワリの国を守護せし武神。【第六天魔王】・織田ノブナガだ」
「織田……信長!?」
耳を疑った、そして同時に眼も疑った。
織田信長ということはあの織田信長なのだろう。
だがあり得ない。
悠一の知る織田信長とは男だ。
しかし目の前にいる織田信長を名乗る者は口調こそは男っぽいが明らかに女性だ。
流石に混乱するがそこにつっこんでも仕方ない。
「俺は遠坂悠一です」
「ユーイチか。して、何故ここにいる?」
「……分かりません。気が付いたらこの近くに連れてこられたんです。この金属から放たれた光に飲まれて」
そう言ってポケットから例の金属を取り出すとノブナガの表情が険しくなる。
「!?……お主、それをどこで?」
「どこ……と言われましても。帰り道を歩いていたら鷹が俺の目の前に落としていったんです」
「…………。よい、こちらで話をしよう」
ノブナガの誘導に従って後ろを着いていく。
少し奥には雨風が凌げるようにか天幕を張った空間があり、その中に入る。
中には木組みの台と丸太がテーブルと椅子のような位置関係で配置されている。
「そこに座れユーイチ」
促されるまま座るとノブナガがその正面に座る。
「さて、どこから話そうか。何が聞きたい?」
「……ノブナガさんは、これの事を知っているんですね?まずはここはどこなのか。そして俺をここに連れてきたこれの正体を教えて下さい」
「まず、ここはワシの納めるオワリから少し離れた野営地だ。遠征の帰りで明日オワリに帰るつもりだったところに、ユーイチが来訪したんだ」
「オワリと言いますとここは、日本なんですか?」
「……ニホン?ユーイチの郷ではヒノモトの事をそう呼ぶのだな。まぁ所違えば細かい言葉も違うのか」
どうやら納得した様子だが今の反応で疑問が一つ確信的になる。
(……やはり微妙に会話が噛み合わない。そしてここに至るまで一切の文明的な物を見ていない。言葉が通じていながら日本を知らずヒノモトと言う。恐らくあの金属によってタイムスリップをした。が、俺の居た世界とは違う軸の日本もといヒノモトか)
今まで見てきた情報、ノブナガの話した少しの内容だけでそこまで推察した。
「ノブナガさん。恐らく俺は未来の世界からこの時間にやって来たのではないかと思っております」
「未来から?……となると、それが導いたのか?」
「恐らく。それで、これは一体?」
「それは【神機】と言ってな、ワシ達武神が力を用いるための言わば媒介だ。誰でも彼でも使えるわけではないが、使用できるのであれば戦況や情勢を一変できるだけの力を備えていると理解してくれればよい」
「それがなぜ現代の俺の元に?」
「それは分からん。だが、ここで出会ったのも何かの縁だ。どうせ行く宛も無かろう。オワリにてユーイチを保護してやってもよい」
「ノブナガ様!よろしいのですか、得たいの知れぬ男を招いても」
側に控えていた部下と思われる少し紫がかった髪をポニーテールのように括っている女性が少し声を荒げる。
それをいさめるように手を翳す。
「構わんさ。それに、ワシに会ってから一切の敵意や殺意も感じられん。本当にワシを狙った刺客なら見張りを制圧などせず殺して察される前にワシを殺そうとするだろう。仮にどこからか送り込まれた刺客だとしてもワシが殺されると思うか?」
「そ、それは……思いませぬ」
「であればよかろう。ユーイチ、どうする?」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「決まりじゃ。今日は場所がないゆえこの天幕で眠るとよい。そこのゴザを敷くとよい。それと掛けものくらいは用意してやる」
「ありがとうございます」
「ではまた明朝。ワシはもう休む。ああ、それとその【神機】は大事にしておくように。気が向けば使い方を教えてやるからな」
そう言ってノブナガは天幕から出ていった。
残った部下の女性に視線を向けると一つため息をついて出口の方に向かう。
「ノブナガの恩情に感謝してくださいね。本来なら斬られてもおかしくない状況ですので。掛けものはそちらの台座に敷いているものを使って下さい。本日出したばかりですので、清潔なはずです」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「ノブナガ様の命令ですから。では明朝起こしに参りますので失礼します」
そう言って部下の女性も天幕から出ていき悠一一人となった。
言われた通りゴザを敷いて台の布を掛けものにする。
河原でサボるときのようにボストンバッグを枕にして床につく。
(タイムスリップ……ね。まぁワンチャン明日になれば元の時代に帰ってるなんて事もあるかもしれないな)
【神機】と呼ばれた金属をズボンのポケットにしまって眠りについた。
「━━━……さい。……きて下さい」
声が聞こえる。
そして身体が揺すられている。
誰かが起こそうとしている。
もしかしたらいつもの河原で目が覚めるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて眼を開けたが、視界には昨晩から世話になっている天幕と起こしに来ると宣言したノブナガの部下の姿が映る。
「起きてくださいユーイチ殿。間もなく出発の準備をいたします」
「………。おはようございます」
「色々あってお疲れで大変なのは重々承知しておりますが、すぐにここも解体しますので御移動願います」
「であれば、手伝いますよ。何をすればいいですか?」
「いえ、主の認めた客人を相手に労働を強いるなど」
「強いてませんよ。俺が自主的に手伝いたいだけです」
「いえ、しかし……」
お互い気を遣い合い結論が出ずいると、
「━━ならばワシと一緒に来るといい」
天幕の入り口からノブナガが声をかける。
「ノブナガ様」
「おはようございますノブナガさん。昨晩はありがとうございました」
「構わんさ。それよりも昨日話しそびれたことがあってな。少し説明したいから良いか?」
「分かりました。すみません、片付けお願いします」
「もとより私がするつもりでしたのでお気になさらず。…………まぁ、でもお心遣いは……感謝します」
そういうとそそくさと片付けに取りかかる。
「ささ、行くぞユーイチ」
ノブナガの先導に悠一は着いていく。
「しかし未来の世界から、か。なぁユーイチよ、後世ではワシはどのように語り継がれておる?」
「えーっと……ショックを受けないで下さいね?」
「何じゃ、大して伝わっておらんか?」
「いえ、むしろ多くの事が語られておりますが……概ねの教えでは『傍若無人、大うつけ者』というような悪名が轟いてますね」
「………ほう?このワシが、か??」
「あ、でも沢山の素晴らしい功績についても語られておりますし嫌われてはおらずむしろ人気者です」
何となく負の波動を感じ取った悠一はすかさずフォローにはいる。
どれだけ時間軸が繋がり一緒かは不明だが、悠一の知る歴史についてはなるべく触れずに話をする。
「しかし俺は驚いているんですよ。織田ノブナガが女性だったなんて」
「……ん?異なことを言うな。悠一の歴史の中でワシは男であったと?」
「はい。あの、何故女性であるノブナガさんが戦場にいるんですか?」
「……?もしかして悠一の時代には過去にも【神機】は伝承されておらぬのか?」
「だから昨日聞いたんですよ」
「なるほどの。だから妙に会話が噛み合わぬわけか。まぁ細かいことは城に戻ってから聞くとして、本題だ」
そう言うとノブナガは足を止めて悠一に指をさす。
「━━━ユーイチ、お主も武神にならぬか?」




