第18話 海域の脅威
第18話です。
激突の直前。
水が、凍りついた。
違う。
冷えたのではない。
止まった。
迷路全体の流れが、不自然に沈黙する。
私とグラドは、同時に動きを止めた。
底の方から、低い振動。
重い。
ゆっくりと。
確実に近づいてくる。
グラドの瞳が、わずかに揺れる。
初めて見る表情。
警戒。
迷路の奥、崩れた岩の向こう。
暗がりが、さらに濃くなる。
そして。
それは現れた。
巨大な影。
グラドより、さらに一回り大きい。
長く伸びた体躯。
硬質な外殻のような鱗。
目は、冷たい金色。
海域主。
本能が、そう告げる。
この迷路の、本当の支配者。
水流が、変わる。
奴が尾を一振りしただけで、流れが一方向に引き寄せられる。
逃げ場が、削られる。
まずい。
この狭い迷路は、私には有利だった。
だが、奴は違う。
巨体でありながら、動きが滑らかだ。
地形を、知り尽くしている。
金色の目が、こちらを見る。
小さい。
格下。
値踏みする視線。
次に、グラドを見る。
一瞬の間。
そして。
迷いなく、こちらへ来る。
速い。
巨体とは思えない加速。
私は横へ跳ぶ。
岩をかすめる。
衝撃。
岩が、粉砕される。
直撃すれば、終わっていた。
グラドが動く。
横から体当たり。
鈍い衝突音。
だが、弾かれる。
質量が違う。
グラドが押し返され、岩壁に叩きつけられる。
選択。
ここで離脱するか。
漁夫の利を狙うか。
それとも――
共闘か。
胸が、ざわつく。
因縁の相手。
さっきまで殺し合っていた。
だが。
今、単独では、勝てない。
グラドも理解している。
こちらを見る。
敵意ではない。
計算。
私は、尾ひれを小さく動かす。
わずかに、位置をずらす。
真正面には立たない。
側面。
挟む形。
それが、答え。
金色の目が細まる。
二対一を、察したのだろう。
だが、怯まない。
尾が振るわれる。
衝撃波。
私は上へ逃げる。
グラドは下へ潜る。
波が分散する。
迷路の柱サンゴが揺れる。
崩落。
環境そのものが、武器になる。
私は崩れるサンゴの隙間へ滑り込み、急降下。
金色の影の背後へ回る。
だが。
振り向きが、異様に速い。
尾が迫る。
受けるしかない。
正面衝突。
衝撃。
息が詰まる。
耐久が悲鳴を上げる。
押し潰される。
その瞬間。
横から、グラドの体当たり。
二重衝撃。
巨体が、わずかに揺らぐ。
今だ。
私は、目を狙う。
光の反射を利用し、一直線。
金色の瞳に、牙を突き立てる。
浅い。
だが、確実に当たった。
怒りの振動。
水が爆発する。
吹き飛ばされる。
岩に激突。
視界が白む。
強い。
桁が違う。
だが。
傷は、ついた。
海域主が後退する。
初めて。
わずかに、距離を取る。
値踏みの目が、変わる。
小魚ではないと、認識した目。
グラドが、私の隣に並ぶ。
距離は、まだある。
味方ではない。
だが、敵でもない。
一時的な、均衡。
迷路は、崩れ始めている。
長期戦は不利。
私は、水流を読む。
崩落の方向。
逃げ道。
挟撃の角度。
進化で得た速度と反応。
全部を使う。
金色の影が、再び構える。
海域主。
この海の、本当の強者。
胸が高鳴る。
怖い。
だが。
逃げたいとは思わない。
世界は、まだ広い。
そして、強い。
だからこそ。
上へ行く意味がある。
尾ひれを、強く打つ。
グラドも動く。
二つの影が、同時に加速する。
海域主の金色が、輝く。
次の衝突は、迷路ごと砕く。
この戦いは、因縁を超える。
海域そのものを、揺らす戦いへ。
お読みいただき、ありがとうございました。




