第14話 自力覚醒
第14話です。
牙が、迫る。
水が裂ける音が、やけに鮮明だった。
巨大な影。
逃げ場は、ない。
尾ひれを打つ。
遅い。
グラドの加速は、もう以前とは別物だ。
水圧が壁のように立ちはだかる。
直撃。
視界が弾ける。
体が横転し、岩に叩きつけられる。
骨が軋む。
耐久特化が必死に衝撃を吸収する。
だが、限界が近い。
「……まだ、足りない」
わかっていた。
互角ではなかった。
読みも、戦略も、通じている。
それでも、純粋な出力で押し潰される。
グラドが旋回する。
とどめを刺す軌道。
逃げれば、生き延びられるかもしれない。
だが、それでは追いつけない。
胸の奥で、熱が膨らむ。
“選択してください”
頭の奥で、あの声が響く。
だが、今回は違う。
提示されるのを待たない。
私は、選ぶ。
「速さも、硬さも、全部」
水が、震える。
体の奥で何かが弾けた。
内部進化が、初めて“命令”に応じる。
骨格が再編される。
軋む音が、自分のものとは思えない。
ひれの付け根が熱を帯びる。
薄く、鋭く、形が変わる。
尾ひれが、広がる。
水を掴む面積が増す。
推進力が、段違いに跳ね上がる。
同時に、鱗がわずかに厚みを帯びる。
内側から、筋繊維が密度を増す。
痛い。
だが、止まらない。
グラドの影が覆いかぶさる。
牙が振り下ろされる。
――動け。
尾ひれを打つ。
世界が、変わる。
水が重くない。
いや、違う。
掴める。
一瞬で、牙の軌道から外れる。
今までの倍以上の加速。
グラドの瞳が、揺れた。
間に合わなかった、はずの距離。
だが、私はすでに横を取っている。
反撃。
腹部へ、全力で体当たり。
衝撃が走る。
だが、以前のように弾かれない。
耐久が上がっている。
筋力が、確実に増している。
グラドが尾を振るう。
今度は、受ける。
正面から。
衝突。
水が爆ぜる。
骨が軋むが、折れない。
押される。
だが、止まらない。
尾ひれを、さらに強く打つ。
水流が渦を巻く。
押し返す。
ほんのわずか。
だが、確実に。
グラドが、後退した。
静寂。
信じられない、というように、巨体が揺れる。
私も、息が荒い。
小さい体のまま。
見た目は、ほとんど変わらない。
だが、中身は別物だ。
受け身の進化ではない。
選んだ。
自分で。
速さも、硬さも、出力も。
一つに縛らない。
全部、取りにいく。
胸の奥で、鼓動が強く鳴る。
恐怖は、まだある。
だが、それ以上に。
高揚。
成長が、実感として爆発する。
グラドが、再び構える。
今度は、迷いがある。
互角。
いや――
まだ僅かに向こうが上だ。
だが、差は縮まった。
確実に。
尾ひれをゆっくり揺らす。
水が、応える。
「次は、逃げない」
呟きは、泡となって消える。
グラドが突進する。
私は、正面から加速する。
二つの影が、激突する直前。
体の奥で、さらに何かが疼いた。
これは、まだ途中だ。
この進化は、完成ではない。
もっと、先がある。
海の底から、別の重い振動が伝わる。
グラドではない。
もっと深く、もっと巨大な何か。
世界は、まだ広い。
だが。
今の私は、確かに一段、上へ行った。
止まらない。
この成長は、誰にも止められない。
お読みいただき、ありがとうございました。




