第五十二話 世界
ギャウウウウ!!
首筋に嚙みついた大犬が、スミを押し倒す。
ヒロト「く、黒瀬先輩!!」
大きな犬を消し、
スミに駆け寄る。
ヒロト「抵抗しろよ!! 避けれただろ!!」
スミ「……ヒロト君の願いって、過去の自分を止めて、人生をやり直すことだよね……」
ヒロト「あ、ああ!」
スミ「私の願いも連れて行って……」
ヒロト「え!?」
スミ「私も、西野さんの願いも、一緒に……」
ヒロト「な、なんだよ、それ!!」
スミ「こんな物に惑わされない世界で、私たちの願い……、叶えて来て……」
ヒロト「ど、どうやって!」
スミ「カードが力を持たない世界……、自分たちが、自分たちの力で、何とか生きて行こうって、頑張れる世界……。それが、秋穂先生の望みだから……、だから……」
ヒロト「お、おい!!」
スミ「助けてね……、アサコも、西野さんも、白川さんも……」
ヒロト「ま、待ってくれ! 教えてくれ! どうすればいいのか!!」
スミ「やり直して来て……。西野さんの家庭が壊れるまえに……、アサコがあんなことになる前に……、白川さんが、巻き込まれなくて……、いいように……」
ヒロト「俺に、それが出来るのか!? 俺の願いで、それが叶うのか!? なあ! 黒瀬先輩!!」
スミ「信じてる……、から……、私、ヒロト君の……こ、と、一番……」
光りを失うスミの瞳。
ヒロト「黒瀬先輩!! ……おい!丸投げしやがって、それが先輩のやることかよ!」
動かないスミ。
手の中のカードを拾い上げる。
ヒロト「たく、無条件に、人を信じるなよ……、いつもそうなんだよ、黒瀬先輩は!」
落ちているカードを拾っていく。
ヒロト「お人好しで、優柔不断で、自分じゃ何も出来なくて!」
拾い集めていくたびに、光が強くなるカードの束。
ヒロト「これで、願いが叶わなかったら、どうするつもりなんだよ!!」
スミのポケットのカードを取り出す。
ヒロト「これで全部か!? おい、どうなんだよ!!」
ブワアッ!!
カードから強い光が放たれる。
辺り一帯を覆いつくす光。
※※※ カードはここに集まった。願いを叶えよう ※※※
ヒロト「……ふざけやがって、この野郎」
ヒロト「てめえのせいで、どんだけの人生が滅茶苦茶になったのか、わかってんのか!!」
ヒロト「……叶えろよ、絶対! いいか? 俺の願いはな……」
ヒロト「今の記憶を持ったまま、四年前、結晶祭りに行く前の俺に戻ること! そして、これが、てめえのカードが叶える最後の願いにすることだ!!」
眩い光がヒロトを包む。
「ヒロト……」
「ヒロト……!」
「ヒロト!」
ハッと気が付く。
玄関に立ち、
リュックサックを背負って、厚着をしているヒロト。
ヒロトの母「なにを、ぼーっとしてるの!」
ヒロト「……え?」
ヒロトの母「行くんでしょ? 結晶祭りに」
ヒロト「……そっか、戻って来たのか」
ヒロトの母「何? 行かないの?」
ヒロト「行かない」
ヒロトの母「え!?」
ヒロト「やめた」
靴を脱いで、家に上がる。
ヒロトの母「ちょ、ちょっと! ……反抗期かしら。もうすぐ中学だしね……」
半年後。
女子中学生「ねー、ミドリー、今日カラオケ行かない?」
ミドリ「いいぜー」
女子中学生「やった! じゃあ着替えて、いつものコンビニ集合で!」
ミドリ「うーっす」
住宅地を歩くミドリ。
ヒロト「なあ、西野先輩!」
ミドリ「あん?」
振り返る。
男子中学生。
ミドリ「ん? 誰? 別の中学の奴?」
ヒロト「やっと見つけた……。なあ、俺の話、聞いてくれ!」
ミドリ「え……、マジか……」
ヒロト「いいか、よく聞けよ」
ミドリ「アタシ、別の中学の後輩から、告白されんの……?」
ヒロト「ちげえよ!!」
ミドリ「え? じゃあ何?」
ヒロト「お、おれの父さんから、聞いたんだ! 知ってるか? 西野先輩の父さんの工場、経営がヤバいって!」
ミドリ「は? 何それ」
ヒロト「知らねえだろ! 今、無理して経営を立て直そうとして、とんでもない借金背負いこもうとしてんだよ!」
ミドリ「はあ~。嘘だろ、そんなの」
ヒロト「じゃあ、聞いてみろよ! お前の父さんに!」
ミドリ「……何コイツ」
ヒロト「俺だって、こんなこと言いたくねーよ。信じてくれないかもしれないしさ。でもな、アンタを助けろって、俺、お願いされてっから!」
ミドリ「……誰に?」
ヒロト「あんたの大事な友達から!」
ミドリ「……ふーん。まあ、わかった、わかった。告白するときは、ちゃんと、好きっていうんだぜ? 回りくどいこと言っても、付き合えないから。じゃあな」
ヒロト「はあ!? だから、ちげえって言ってんだろ! このままだと苦しむのはアンタだぞ! いいか! 帰ったら言えよ! 借金膨らますなって! 西野先輩は、どんだけ貧乏でも、家族と一緒なら幸せだって! それがアンタだろ!」
ミドリ「……あー……、はいはい。……なにアイツ……」
立ち去るミドリ。
うな垂れるヒロト。
ヒロト「はあ……。大丈夫だよな……? まだ、間に合うよな……? やれることは、やったぞ、黒瀬先輩……」
ミドリの家。
一軒家。
ミドリ「ただいまー」
ミドリの母「おかえりなさい」
ミドリの父「おかえり」
ミドリ「なに、親父、もう帰ってるの?」
ミドリの父「これから会合があってな。接待だよ、接待」
ミドリ「ふーん。なあ、親父の会社って、借金ヤバいの?」
ミドリの母「み……、ミドリ……、それ、どこで聞いたの?」
ミドリの父「お、おい!」
ミドリ「え……?」
ミドリの父「大丈夫だ。心配するな」
ミドリ「あの、アタシさ……」
ミドリの父「ん?」
ミドリ「アタシ、貧乏でもいいから……」
ミドリの母「ミドリ……」
ミドリ「家族が一緒に居られるなら、アタシ、どんな貧乏でもいい。だからさ、無理な借金なら、すんなよ……」
ミドリの母「……」
ミドリの父「……」
ミドリ「アタシ、家族が一番だから。家族が一緒に居られることが、一番大事だから」
三年後の春。
学校の放課後。
科学準備室。
アサコ「はあ~、やべ~、ウチらの代で、この部活も終わりか~」
スミ「まだ入学式から、日も経ってないし、まだ、部活決めてない後輩もいるでしょ……」
アサコ「もうすぐ5月だぜ? もう誰も入ってこねえよ……」
スミ「諦めないで、ほら、今からでも勧誘に行こう、ね?」
アサコ「へえ、へえ……」
ガラガラ
扉が開く。
一年の男子生徒。
ヒロト「あ、えっと……」
アサコ「あ? 誰、お前?」
スミ「ちょ、ちょっと、アサコ!」
ヒロト「あの、ここ、天文部?」
スミ「う、うん。そうだよ?」
ヒロト「にゅ、入部、できないかなって……」
アサコ「え、まじ?」
ヒロト「あ、ああ……」
スミ「来た……。新入部員……」
ヒロト「い、良い?」
アサコ「……よ、良く来たな! ほら、入れ! これ、すぐ書いて! 入部届! 今すぐ!」
ヒロト「お、おう……」
夏。
本屋に立ち寄るヒロト。
雑誌コーナーで、空手道マガジンが目に入る。
ヒロト「……」
手に取りペラペラとめくる。
“インターハイ出場選手一覧”
……
……
……
高牧市 白川ナオ
ヒロト「ふっ……」
ほくそ笑んで、棚に戻す。
冬の寒い夜。
山道を登る4人の高校生。
アサコ「はやく、はやく!」
スミ「ちょっと、走ると危ないって!」
アサコ「急げって、流星が来てんだしさ!」
ヒロト「急がなくても見れるって!」
アサコ「早く見たいんだよ~」
スミ「はあ、はあ、西野さん、大丈夫?」
ミドリ「はあ、はあ、こんなにきついの? 天文部って」
ヒロト「今日は特別だけどな」
スミ「来てくれてありがとう。夜の山は危ないから、一人でも多い方がいいって、ヒロト君がね」
ヒロト「あ、ありがとうな……」
ミドリがジーっとヒロトを見る。
ヒロト「な、なんだよ?」
ミドリ「なあ、新藤って、前にどこかで会ってたっけ?」
ヒロト「は、初めてじゃね……」
ミドリ「そっか……。似た奴に会った気がすんだけどなぁ……」
ヒロト「ふ、フーン……」
ミドリ「そいつに次会ったらお礼言おうと思ってんだけど、全然、現れねぇ。どこの誰だかもわかんねーし」
ヒロト「へえ……、どんな?」
ミドリ「あー、そいつのおかげで親父の工場を、売っぱらうことにもなったんだけどよ。おかげで大きな借金背負い込む前で良かったって、親父が毎晩言ってるよ」
ヒロト「ふーん……、よかったじゃん」
ミドリ「まあな。おかげで親父は、今は安月給だって嘆いてるけど!」
展望台。
アサコ「ほら、野郎ども!ここが今日の本拠地だ!シートを広げろー!」
スミ「お、おー……」
ミドリ「テンションたけー……」
ヒロト「気にすんな……、いつもこうだから……」
それぞれのグラウンドシートを広げだす。
スミ「あ」
アサコ「なに? 何かあった?」
スミ「うん、なんかのカード」
ヒロト「え!? ちょ、ちょっと見せて!」
スミ「ど、どうしたの? そんなに驚いて」
スミの手にボロボロの紙のカード。
ヒロト「あ……、なんだ、なんか、珍しいものかなって……」
アサコ「それ、タロットだろ?」
ミドリ「なに? タロット?」
アサコ「それ、運命の輪ってカード。出会いとか、別れとか、幸運とか、そういう意味の奴」
ミドリ「へえ、詳しいんだ、アサコ」
アサコ「まあねー。ま、誰かの落とし物かもしれねえし、置いとけよ」
スミ「そうだね」
ヒロト「……」
アサコ「さー、流れ星を観察するぞー! お前ら、願い事、たんまりとしとけよ!」
一同「お、おー……」
四人でシートに寝転んで、夜空を見上げる。




