第五十一話 力
秋穂「うっとうしい!」
ガシャアァァ!
牛の角を持って薙ぎ倒す。
光りの粒子になり、消える牛や木の車。
転げるスミを、見下ろす秋穂。
スミ「はーっ、はーっ、まだ!」
秋穂に飛び掛かる。
次のカードを出す。
変化して裁ちバサミ。
スミ「うわあ!」
秋穂がハサミを避ける。
シャキン
ローブの先を切り裂く。
一瞬の光となって、消える秋穂のローブ。
スミ「よし!」
秋穂「邪魔」
ゲシッ!
秋穂がスミの顔を蹴り飛ばす。
地面をゴロゴロと転がる。
秋穂「黒瀬さん、最後のチャンスを上げましょうか」
スミ「ふーっ、ふーっ」
秋穂「カードの束を置いて、ここを去りなさい。そうすれば、貴方を新たな世界に連れて行ってあげるわ」
スミ「いらない!」
ポケットから二枚のカードを取り出し、
両手に持つ。
スミ「オープン!!」
右手のカードを変化させ、金色の円盤に。
秋穂「ふーん……」
秋穂はカードを、金色の骸骨模型に変化させる。
スミ「秋穂先生を! ころ」
秋穂「停止」
スミの動きがピタリと止まる。
スミ「……っ、……」
カラン、カラカラン。
手から円盤が落ち、地面でカードに戻る。
スミ「……」
目玉だけが動く。
身体はピクリとも動かせない。
秋穂「貴方が動こうとする、方向すべてへの動きを“停止”させたの」
スミ「……」
骸骨模型を持つ秋穂。
スミに近づき、頬を撫でる。
スミ「……」
バシン!
頬を平手打ち。
スミ「……」
秋穂を睨む。
秋穂「なに? その目」
バシン!
スミ「……」
秋穂「教師に向ける目じゃないわよ?」
バシン!
スミ「……」
秋穂「口だけは動けるようにしてあげましょうか」
スミ「はっ……、ふう、ふう、ふう、」
秋穂「ねえ、黒瀬さん、あなたが選んでいいわよ?」
スミ「ふう、ふう、何を……?」
秋穂「ここで死ぬか。それとも私と共に歩むか」
スミ「……」
秋穂「さあ、どうする? 10秒待ってあげようか?」
スミの頭を撫でる。
スミ「……いらない」
秋穂「ん~?」
スミ「そんなに、時間は要らない!」
ブシュッ!
秋穂の腹を鉄線が貫く。
秋穂「な……?」
スミの左手に、鉄線が巻かれた糸巻。
カクン、カクン、
鉄線が直角に曲がり、秋穂の腕を貫く。
骸骨の模型が手から離れ、カードに戻る。
秋穂「ちっ……」
反対の手でポケットから、カードを取り出す秋穂。
ブシュ!
秋穂「うう!」
鉄線が降り曲がって、その手にも刺さる。
秋穂の手からカードが落ちる。
秋穂「いっつ……」
ズキン……、ズキン……。
腹と両手を貫かれて動けない。
秋穂「……やられちゃった。強くなったね、黒瀬さん」
スミ「……」
秋穂「ねえ、もう一度、ちゃんと教えてくれない? 私の質問の答え」
スミ「……」
秋穂「私と共に、新しい世界を歩みたいのか、どうなのかって……」
スミ「……」
ブシュ!!
秋穂の心臓を鉄線が貫く。
秋穂「ぐ、ごぼ、ごぼっ……」
吐血。
うな垂れる。
秋穂「……」
シュルシュルシュル
ドサッ……
糸巻が鉄線を巻き上げる。
スミ「……秋穂先生。私、行きます。秋穂先生の考える世界へじゃない……。私が思う、私の大事な人たちが、生きていける未来へ」
散らばったカードを拾い上げる。
日が落ちる。
山の中を歩くスミ。
スミ「ふう、ふう、」
白い息。
大きな沢。
流れる水の音。
スミ「はあっ、はあっ……」
沢の張られたテント。
側で焚火をくべるヒロトがスミを見る。
スミ「……はあっ、はあっ……」
ヒロト「……」
スミ「ねえ……」
ヒロト「……何?」
スミ「……そっちに行っていい?」
ヒロト「……」
スミ「行くよ……?」
ヒロト「……今、お湯沸かしてたとこ。コーヒー飲む?」
スミ「……うん」
焚火を挟んで向かい合う。
スミ「……」
ヒロト「……」
スミ「……ねえ、知ってる?」
ヒロト「……なにが?」
スミ「みんな死んじゃったの。西野さんも、白川さんも、秋穂先生も」
ヒロト「ふーん……」
スミ「……何にも思わない?」
ヒロト「別に……」
スミ「……ねえ」
ヒロト「なに?」
スミ「……カード、まだ集めようと思ってる?」
ヒロト「……ああ」
スミ「気づいてる?」
ヒロト「なにが?」
スミ「もう、カードを持っているのは私とヒロト君だけだね」
ヒロト「……たぶんね」
スミ「どうしよっか……。今からでも遠くに逃げる? そしたら、カードは元の持ち主に戻るんだよね? そしたら、このカード集めをやめられるかな?」
ヒロト「……」
スミ「そうしよっか。そしたら、皆、また願いを叶えようって思うかな?」
ヒロト「……さあ?」
スミ「奪い合うんじゃなくて、譲り合って、託しあって、誰かの願いを叶えようって、そう思えるかな?」
ヒロト「知らない……」
スミ「ヒロト君はどう? 誰かの願いを叶えるために、自分の願いを手放してあげることは出来る?」
ヒロト「……」
スミ「自分の願いは叶わなくてもさ、頑張ってねって、君の願いを叶えてねって、言ってあげられるかな?」
ヒロト「……黒瀬先輩はどうなんだよ」
スミ「……私は、……出来ないかな」
ヒロト「……ふーん」
スミ「ヒロト君は?」
ヒロト「俺も……、出来ない」
スミ「そっか……。そうだよね。出来ないよね……」
焚火から離れるスミ。
カードを手に持つ。
スミ「譲り合えないんだ。私達」
ヒロトも立ち上がってカードを持つ。
ヒロト「最初から、わかってただろ……」
スミ「どうしたらいいかな?」
ヒロト「どっちかが叶えるしかないんだ。願いを」
ヒロトのカードが細い剣に変化する。
スミ「じゃあ、私が叶えてもいい?」
ヒロト「嫌だね」
スミがカードをアイスピックに変化させる。
スミ「ねえ、私はね、ヒロト君のこと、大切な友達だって思ってる。西野さんも、白川さんも、みんな大切な友達」
ヒロト「うん」
スミ「ヒロト君も、同じ気持ちだよね?」
ヒロト「……当たり前だろ」
スミ「大切に思ってる?」
ヒロト「ああ。……みんな、大切な友達だ!」
スミ「良かった……。じゃあ、行くね」
アイスピックを振りかぶって、ヒロトに飛び掛かる。
スミ「今まで、ありがとう! ヒロト君!」
アイスピックを振る。
フォン!
ヒロトの頭上に落ちる鉄の杭。
ズガン!!
前に走り出し、
頭上から迫る杭を避け、
焚火を飛び越えながら、スミの目前へジャンプ。
ヒロト「俺も! ありがとう! 黒瀬先輩!」
スミがアイスピックを捨て、
ポケットからカードを取り出す。
スミ「借りるね、西野さん!」
カードが包丁に変化。
ギンッ!
ヒロトの剣を包丁で受ける。
ヒロト「西野先輩!」
スミ「ごめんね! 本当は、西野さんの幸せ、私も願いたかった!!」
スミの周囲に出現する包丁たち。
ヒロト「俺も! 悪った! 叩きのめしたこと、謝れてない!」
ギン!
スミを薙ぎ払う。
ヒュンヒュンヒュン!
キン、キン、キン!
宙に浮く包丁たちがヒロトを襲う。
それらを弾き飛ばす。
ヒロト「西野先輩!親の問題は、親の問題だ!西野先輩の問題じゃない!」
ギン!
スミの持つ包丁を弾き飛ばす。
スミ「幸せになってほしかった!頑張って、何とかしてほしかった!」
ヒロト「あんたなら、自分の力で、何とか出来たはずだ!!」
スミ「うん! 私も思ってた!西野さんなら、どんな状況でも幸せになれるって!!」
スミがカードを取り出し、
光りのローブへ。
ヒロト「白川先輩か……。悪かったな、あの時、本気出しちゃってさ」
スミ「ナオちゃん。私、憧れてた。強くてかっこよくて、綺麗で」
ヒロト「頑固すぎんだよ。白川先輩は」
スミ「ごめん! 私達と関わらなかったら、ナオちゃんは幸せなままでいられたよね!」
ドゥッ!
スミが正拳を放つ。
衝撃波が周囲の石を巻き上げる。
ヒロト「だったら、もっと早くカードを手放していればよかったんだ!」
フォン!
ヒロトが剣を振る。
突風が巻き起こり、衝撃波を打ち消す。
スミ「正義感が強かったから、関わり続けちゃったんだよ! でも、そういうところが好きだった!」
ヒロト「優しすぎんだよ!馬鹿なくせに!」
ヒロトが剣をカードに戻し、
次のカードを変化させる。
金色の表紙の本。
パラパラとめくる。
ヒロト「……その力、夜ごと削げ落ちいつの日か、名を呼ぶ声も闇に溶けゆけ」
スミのローブが光を失いながら消えていく。
手の中でカードに戻る。
スミ「ナオちゃん!?」
パタンと本を閉じ、カードに戻す。
次のカードは三日月のペンダント。
大きな犬がヒロトの隣に出現する。
スミ「……待っててね、アサコ……」
スミはカードを金色の円盤に変化。
ガウウウ!!
大犬がスミに飛びかかる。
スミ「……願いを叶えて」
金色の円盤が光る。
スミ「皆の願いを、叶えて!!」
ギャウウウウ!!!
スミの首すじに食らいつく大犬。




