第四十九話 死神
担当「……知っている者もいると思うが、昨日、西野がな……。大々的なお葬式などは行われないということだ……」
シホ「ヒック……、ヒック……」
女学生「う、うう……」
ナオ「……」
担任「みんな、家に押し掛けたりするなよ。いつも通り、いつも通り、過ごそう」
誰も座っていないミドリの机。
校門の側にバリケードを張る警察。
水際と市之瀬もいる。
水際「死因は心臓発作とみられる。しかし、現場には大きく破損した地面に、大量の刺殺されたカラス。さらには防犯カメラが都合よく故障して映ってないとか。おかしなことだらけ」
市之瀬「カードだろうな」
水際「それは当然です。でも、どうしてでしょうね。西野さんのカードは、回収して教授に渡っていたはず。他に狙われる理由ってありますか?」
市之瀬「西野さんが盗み出したか、何かしらの理由で、持っていたのかもしれないな」
水際「管理体制を疑うべきでは? 現状の枚数を調べ直した方がいいかも。もし、無くなっていたなら、教授にカードを渡すこと自体に問題があると思います」
市之瀬「そうだな……」
早乙女「連れてきました」
ナオ「なに? まだ授業中」
市之瀬「白川さん、同じクラスだよね? 彼女が昨日何をしていたか、予想できるかい?」
ナオ「出来る訳ないでしょ」
市之瀬「だよね……」
ナオ「それだけ?」
水際「白川さん、今日からカード探しに復帰してくれないかな」
ナオ「何? 都合よくカードを取り上げておいて」
水際「信頼できる人が必要なの」
ナオ「なに? 秋穂先生たちを疑ってるわけ?」
市之瀬「静かにね……」
ナオ「……だったら、カードの研究なんてやめたら?」
水際「なんか、白川さんの意見に賛成したくなりましたね」
市之瀬「それは上が決めることだ。それで、手伝ってくれるかな?」
ナオ「……ええ。友達の仇討ちになるならね」
保健室。
スマホをかける秋穂。
秋穂「残念ですけど、失敗でした。彼女は思った通りに動いてくれたようですけど」
幸土『焦ることはないだろう。カードが存在出来る範囲は限られている』
秋穂「ええ、そうですわね……」
幸土『悲しんでいるのかい? 教え子同士が殺し合うことに』
秋穂「まさか。大儀には犠牲がつきものですから」
幸土『君の心が折れていないようで良かったよ。君はこの世界を導く存在になるべきだからね』
秋穂「ええ、もうすぐそれは達成されるはず」
幸土『ああ、我々の手持ちカードの枚数が増え、他のカードへの違和感も強く感じつつある。直ぐに見つけられるだろう』
秋穂「ですけど、上手く捜索を進められるかしら。西野さんの件から、こちらの不備を疑われるかも。より動きにくくなるのでは?」
幸土『なら、先に手を打とうか』
秋穂「先に?」
幸土『電話では伝えにくい、後はこちらに来てからにしよう』
秋穂「わかりました」
夕方。
幸土の研究室。
秋穂と幸土が向かい合う。
幸土「以前は、感じられなかったが、今はよりはっきりとね。三つの大きな違和感さ。一つは知っての通り、警察署」
秋穂「なら、後の二つは黒瀬さんと、新藤君。そういうお話ですわね?」
幸土「ああ。散逸していたカードの収束か、手持ちカードの増加。あるいは両方が合わさり、違和感の性質も変化しつつある。君もやってみると良い」
机の上のカードの山を秋穂に勧める。
手のひらを乗せる秋穂。
秋穂「……遠い場所。西と、北方向かしら……」
幸土「絶えず動いているよ。逃亡しているのか、それとも、カードを探しているのか」
秋穂「なるほど。これからの捜索には、これらのカードを束にして持って行くのがよろしいですわね。私に持たせていただいても?」
幸土「ああ。しかし、我々も次のステップを考える時期に来ていると思ってね」
秋穂「なるほど、そうですわね。もう、充分に彼らは役割を果たしてくれた。……どうやら噂をすれば、すぐ近くにも小さな違和感が」
幸土「……来たか」
コンコンコン
市之瀬「お邪魔致します」
水際、早乙女、ナオ、そして数人の刑事で研究室に押し入る。
幸土「やあ、今日は皆さんでいらしたのですね」
市之瀬「ええ。折り入ってご相談もありましてね」
幸土「ほう、相談とは?」
市之瀬「現在、こちらで管理して頂いているカードの枚数ですよ」
幸土「それが、何か?」
市之瀬「調べさせてもらえませんか。管理体制に不備があれば、我々も大目玉だ」
幸土「ふむ。お断りさせていただきましょう」
カードの束を半分掴む幸土。
残りの半分を手に取る秋穂。
水際「あのー、どうなさるおつもりですかー? 急にカードを持ってー」
市之瀬「まあ、まあ。手に持たれては数えにくい。机に置いてもらいましょうか」
秋穂「え~、いやだなぁ。指紋が付いたら、拭くのが大変なんです」
ナオ「ふざけてる場合? 明確な裏切り行動よ?」
幸土「ああ、わかっているとも」
銃を構える刑事達。
ナオが光のローブをまとう。
ナオ「化けの皮をはがしたわね」
市之瀬「今ならば、何かの間違いであったと認めましょう」
幸土「その前に、一つ君たちの誤りを指摘したい」
市之瀬「お聞きしましょうか」
幸土「警察内部で、カードを危険物として保管し始めたことだ」
市之瀬「ほう……」
幸土「警察内部で、もっと多く、カードの扱いに長けた人物を育てるべきだったのだ。それをしなかったから、君たちは、私達に後れを取ることになる」
幸土がカードを変化させる。
等身大の金色の骸骨模型に変化。
市之瀬「発砲許可!」
バンバンバンバン!
カラカラカラカラ……
一斉に刑事達が発砲。
しかし、銃弾は飛ばず、銃口から力なく床に落ちる。
早乙女「な!? 当たってない!?」
幸土「カードの力はね、物理現象の外側に位置しているのですよ」
市之瀬「ほう……」
ナオ「だったら、止めてみろよ!」
幸土の前ある骸骨模型に飛び掛かる。
ビタッ
骸骨模型の目前で止まるナオの拳。
ナオ「なに!?」
市之瀬「下がって! 白川さん!」
ナオ「う、動けない!」
幸土「停止させたのです」
ナオ「はあ!?」
幸土「あなたの動きを、停止させたのですよ」
バン!
幸土の肩を撃ち抜く水際。
幸土「ちっ……」
ナオ「あ!?」
ナオの拳が金色の骸骨を吹き飛ばす。
ナオ「動ける!?」
水際「なんだ、銃も当たるじゃない。もしかしてー、意識してないと、止められないって奴?」
幸土「銃を隠して撃つなんて、相変わらず卑怯ですね」
ナオ「はあ!? 卑怯だとか、なんだとか、お前ら大人はみんなそうだろ!!」
ナオの拳が幸土を吹き飛ばす。
ガシャアアアン!
棚に叩きつけられ、倒れる幸土。
ナオ「舐めんなよ! 他人のことをさ!」
水際「やりすぎー。殺したらだめよー?」
ナオ「当然!」
パン、パンと拳を叩きながら幸土に近づくナオ。
幸土「う、うぐぐ……」
ナオ「ねえ、さっきみたいにさ、もう一つ教えてよ」
幸土「な、何かね……」
ナオ「西野ミドリはカードを持ち出したのよね? そうでしょ?」
幸土「ああ……、そうだとも」
ナオ「なぜ? 何のために持たせたのよ?」
幸土「君たちに見張られて、私達は、この研究室からはカード持ち出せなかったのでね」
ナオ「だから?」
幸土「彼女に探してもらおうと思ったのさ、君たちの友人をね。君たちも油断しすぎだ。既にカードを回収した相手だからと、甘く見ていたのではないかね?」
ナオ「……囮にしたっていうの? 西野ミドリを」
幸土「ああ、そして予定通りに動いてくれたようだね。しかし、残念だ。彼女なら、友人からカードを譲り受けれるかもしれんと踏んでいたが、結果は戦いに、そして、彼女は敗北を喫してしまったのだから」
ギリギリと拳を握るナオ。
水際「乗せられないで、白川さん」
ナオ「舐めんなよ。じじいが」
幸土「彼女の願いはわかりやすく、切実だ。それゆえに動かしやすい駒だったのだけどね」
ナオ「黙れって、言ってんだ!!」
カクン。
幸土の首がうな垂れる。
ナオ「な……、まさか、死んだ?」
プ~ン……
ナオ「え、これ、ちょっと待って……」
水際「何?」
ナオ「この匂いって……」
カクっと力を失うナオ。
水際「な!? まさか!」
バタンッ
力なく倒れるナオ。
市之瀬「白川さん!?」
水際「しまった、この匂い、あのカード……」
バタ、バタ、バタ、バタ……
次々と倒れる刑事達。
秋穂「……あの~。全員、寝てくれた?」
机の下から立ち上がる秋穂。
手には銀色の香炉。
秋穂「は~い。ぐっすりですね~。起きてる人、居ますか~? ……さて、と……」
香炉を片手に落ちたカードを拾い集める。
秋穂「これで全部かな……」
香炉をカードに戻す。
別のカードを変化。
シャンパングラス。
バシャァ!
赤い液体を市之瀬にかける。
液体は小さく縮みながら市之瀬を消す。
秋穂「お疲れ様でした。今までありがとうね」
バシャ、バシャ
消える刑事達。
秋穂「さようなら、あなたもコッチ側に居ればよかったのにね」
バシャ、
消える、水際。
ナオ「……う、……」
うなされるように眠るようにナオ。
秋穂「……」
バシャ、
ナオも消える。
カツ、カツ、カツ、
眠る幸土に向かい合う。
秋穂「さよなら、教授、後は私一人で出来ますから」
幸土に赤い液体をかけて、消す。




