第四十五話 リレイ・ザ・スプレッド
スミ「……」
ワゴン車の助手席に座る。
運転席には水際。
車を高台に停め、夕方の街を見下ろす。
水際「不満? こうしてるのが」
スミ「……別に」
水際「今カードを集めても、取り上げられちゃうもんねー」
スミ「……」
水際「秋穂先生も、西野さんも、カードの受け渡しに応じたそうよ。当然よね。だって教授の所に行けば、全てのカードが帰ってくるだろうし」
スミ「水際さん、私も……、教授の所に行ってもいいですか?」
水際「行ってどうする気? 西野さんのように、願いを唱えさせてもらうの?」
スミ「……いけませんか?」
水際「やめた方がいいんじゃない。前にね、幸土教授と秋穂先生が言っていたのよ。大きな願いがあるって」
スミ「大きな願い?」
水際「ええ。それを叶えることが、教授の本命。だから私たちからもカードの受け渡しを求めた。西野さんは別の目的で利用されてるだけ」
スミ「西野さんが、利用?」
水際「ええ。きっと西野さんの願いは叶わない。ただ、西野さんのカードを手元に置いておきたいから、口実を作ったんでしょ」
スミ「そうかもしれないですね……」
水際「まあ、私なんかが言えた義理じゃ無いかもね。私たちは、あなたを利用してるんだから」
スミ「……」
水際「勘違いしないでね。悪いなんて思って無いから。これも仕事だし」
スミ「……別に、そんな風に思ってませんよ。私だって、対策室に入ったのは、母や自分の安全を守るためでもあったし」
水際「黒瀬さん、内心は、捜査に協力すれば、カードが手に入るかもって思ってたんでしょ」
スミ「……ええ。そんなこと誰も言ってなかったのに、馬鹿ですよね」
水際「カードの公的管理は決まっていたからね。幸土教授の件が無くても、黒瀬さんのカードが増えることは無かったと思う」
スミ「……そうですか」
水際「カード回収は犯罪抑止であって、それ以上ではない。市之瀬参事官の考えてることなんて、そんなものよ。カードを集めて願いを叶えようなんて、そもそも信じてないし、考えてない。黒瀬さんとは考え方が違うのよ」
スミ「水際さんも……、願いを叶えようって思わないんですか?」
水際「当然。何枚あるかも定かじゃないカードなんて、集めても無駄。いつ願いが叶うっていうのよ」
スミ「……そうですね。……今日はカード探しをしないんですか」
水際「あなたがしたいと言わないなら、ここでサボっていてもいいわよ。私もやる気ないし」
スミ「……しますよ。……カード探し」
水際「無理しなくていいよ」
スミ「行かないと、カードは増えないから」
水際「どうせ取り上げられちゃうけど、いいの?」
スミ「……例え、願いを叶えるのが、西野さんでも、教授だったとしても、知らない人よりは、私の話を聞いてくれるかもしれないから」
水際「カードを渡す見返りに、黒瀬さんの願いも叶えてもらおうってこと? そんな都合のいいことなんて、してくれないと思うなー」
スミ「……それでも、何もしないより、願いに近づく可能性があるから」
水際「……そう」
車のエンジンをかける。
緩い山道。
帰り道を歩くヒロト。
刑事達に囲まれる。
刑事「新藤ヒロト君」
ヒロト「……何?」
刑事「君の所持しているカードは、公的管理に移行することになった。引き渡しをお願いできるかな?」
ヒロト「……それ、断っていい?」
ナオ「だめよ」
刑事達の後ろから歩いてくるナオと早乙女刑事。
ヒロト「白川先輩か……」
ナオ「引き渡しに応じなかったら、あなたは捕まる。今までみたいな高校生活は送れないわ」
ヒロト「……渡す気はないけど、そしたらどうする?」
ナオ「そしたら、強制的に連行されるだけ」
ナオがカードを取り出し、光のローブに変化させる。
早乙女「白川さん、穏便に」
ナオ「こっちが本気だって見せなきゃ、コイツは動かない」
ヒロト「どうする気? 俺は渡す気ないけど」
早乙女「手荒なことをしたくはない、さあ」
早乙女がヒロトの腕を掴む。
ヒロト「やめろよ」
手を振りほどく。
刑事「おい、お前!」
ヒロトの肩を刑事が掴む。
腕を上げて振りほどく。
ナオ「どうしてもカードを渡さない気?」
ヒロト「あんた達で、俺を連れてけると思う?」
ナオ「あんたの為に言ってんのに……」
ヒロト「……白川先輩にはわかんないだろうね」
ナオ「何が?」
ヒロト「大した願いも無い癖に、カードを持ってる白川先輩には!」
ヒロトがカードを取り出す。
チェーンが付いた三日月のペンダントに変化。
ガウウウウ!!
大きな犬が突然現れ、ナオに襲い掛かる。
ナオ「わからずやめ……」
ナオが一歩踏み込んで、犬の横顔に強烈なパンチを食らわせる。
ギャウ!
吹き飛んで消える犬。
ナオ「消えた?」
ヒロト「消したんだけど」
はっとヒロトを見る。
金色の十字架を構えて、ナオに飛び掛かる。
早乙女「白川さん!」
ガシン!
光りのローブをまとう両腕で、十字架を受け止めるナオ。
ナオ「本気なのね? 新藤ヒロト!」
十字架を払いのけ、回し蹴り。
しゃがんで避けるヒロト。
ブオ!
刑事達「うわっ!」
ナオの蹴りから放たれる衝撃波。
その余波に刑事達がたじろぐ。
ナオ「やめなさい!ここで逃げても家は封鎖される!いずれ捕まるわ!」
ヒロト「だったら、逃げ切るだけだ!」
ヒロトが十字架をナオに叩きつける。
ナオが片腕で受けて正拳突き。
懐に踏み込んでかわすヒロト。
顔と顔が接触するほどの距離。
ナオ「くそ!!」
刑事「と、止まれ!」
銃をぬき、ヒロトに向ける。
早乙女「ま、待て!」
ヒロト「邪魔」
振り向いて、刑事の銃を十字架で叩き上げる。
刑事「な!?」
ヒロト「下がってろよ」
刑事を蹴り飛ばす。
刑事「ぐっ!」
早乙女「や、やめろ、新郎ヒロト!」
刑事「は、発砲許可を!」
早乙女「だめだ!!」
ナオ「止まりなさい!新藤!」
ヒロト「だから、邪魔すんなよ」
ナオ「これ以上やったら、取り返しがつかなくなるわよ!?」
ヒロト「そんなの、わかってるっての!」
十字架の先端で、ナオを突き飛ばす。
ナオ「うぐっ!」
十字架をカードに戻し、
新たなカードを取り出す。
金色の表紙がついた本のように形を変える。
ナオ「な!? 別のカード!」
本をパラパラとめくるヒロト。
ヒロト「……轍なく、我は我のみ道を踏む、名もなき道を風として行く」
ナオ「な、なにを言って……」
ヒロトが一歩踏み出すと、
突然風が舞い上がる。
早乙女「うっ!?」
風をまとい、歩み出すヒロト。
刑事「待ちなさい!」
ヒロトに掴みかかろうと迫る。
ブアッ!
刑事「な、な!?」
突風に巻き込まれ、吹き飛ぶ。
ナオ「と、止まれ、新藤!!」
ナオがヒロトに飛び掛かる。
風の壁がナオを押しとめる。
ナオ「な、なによ、これ!?」
ヒロトが本をめくる。
ヒロト「……行く手には、試す者のみ残されて、我にはばかる意思すら拒む」
ナオ「え……?」
ナオが突風で吹き飛び、地面に叩きつけられる。
ローブが消え、手元に落ちるカード。
早乙女「し、白川さん!」
ナオに駆け寄る早乙女。
眠るように意識を失っているナオ。
ヒロトはそれらを無視するかのように、歩き続ける。
早乙女「し、新藤ヒロト君! ここで逃げても、どうしようもないぞ! 何度でも君を捕えに出向くだろう! それでいいのか!?」
ヒロト「来てみなよ。何度でも追い返す。そっちが諦めるまで」
歩き去るヒロトを、刑事達が見送る。




