第四十二話 審判・星「実行者」
店員「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
水際「ええまあ。こういう者ですけどー」
警察手帳を見せる。
店員「……店長を呼んできます」
水際「その必要はありませーん。行くよ」
ナオ「ええ」
店員「あ、あの、ちょっと!」
廊下を進む。
店員「あ、あの、困ります」
水際「……」
ナオ「そこの扉」
水際「ええ。了解よ」
一つの扉の前で立ち止まる。
コンコンコン
水際「入りますよー」
扉を開ける。
区切られた六畳ほどの部屋に、大きなソファーとテーブル。
そこに二人の人物。
水際を凝視する眼鏡をかけた男。
側にはソファーに倒れている女。
眼鏡の男「な、なんでしょうか?」
水際「言わなくてもわかるよねー?」
眼鏡の男「さあ……、何のことです?」
ナオ「その女の人、どうしたの?」
眼鏡の男「酔ってしまったようなので、介抱していたんですよ」
水際「ふーん、酔っちゃったんだってー。いったい何にだろーねー?」
ナオ「そりゃあ……、カードでしょ」
眼鏡の男「えっと……、もしかして、あなた達、あのカードを集めているんでしょうか?」
ナオ「そうかもね。あなたはどうなの?」
眼鏡の男「私は、そういう収集に興味はないので」
水際「なら、あなたのカード、渡してもらえる?」
眼鏡の男「え、ええ……。そうしたら帰ってもらえますかね……、彼女の体調も良くない、早く連れて帰らないと」
水際「そうですねー。あ、でもー、その話も聞きたいかもー」
眼鏡の男「な、何のことです?」
ナオ「後で聞けばいいじゃない。とりあえずカードでしょ」
水際「それもそうね。さー、カード、出してくださーい」
眼鏡の男「……わかりました」
胸ポケットからカードを取り出す。
眼鏡の男「これのことですね?」
水際「はい、では、預かりますねー」
眼鏡の男「どうぞ」
男のカードがぐにゃりと形を変える。
水際「ちっ!」
水際が後ずさり。
男の手のカードが、お香を焚く、香炉のような物に変わる。
ナオ「素直に渡すわけないか。この状況で」
水際「これは、取り調べのし甲斐がありそうー……」
ナオがカードを取り出す。
カードは光のローブへ変化し、ナオを包み込む。
水際は銃を構える。
水際「どうするー? 怪我する前に渡したほうがいいと思うけどなー」
眼鏡の男「そう、です、ね……」
ドカドカドカ
店長と思われる店員が、部屋の入口にやってくる。
店員「な、何事ですか?」
水際「下がってください。容疑者です、この人」
店員「容疑者?」
水際「邪魔よ、追い出して、その人」
ナオ「ええ、わかったわ」
店員「ちょっと、勝手なことはやめてください! 店の中で!」
店員が部屋に踏み込み、水際に近づく。
ナオ「こ、こら! 邪魔しないで!」
水際「白川さん」
ナオ「え?」
水際「逃げなさい……、白川さん……」
ナオ「は?」
店員が突然倒れる。
続いて水際も膝から崩れ落ちる。
ナオ「な、なに!?」
眼鏡の男を見る。
手に持つ香炉から、白い煙が上がる。
甘い香りがする。
ナオ「煙!? 最悪!」
部屋から飛び出す。
鼻をかすめる甘い香り。
視界がぼやけてくる。
ナオ「あ……、くそ……」
ドサッ
床に倒れ込む。
眼鏡の男「危ない。今のは捕まるところだった……。さっさとここを離れないと……」
倒れたナオをまたぐ。
ギイ……。
廊下の向こう、店の入り口が開く。
スーツ姿のスミと早乙女が入ってくる。
眼鏡の男「くそ……、まだいるのかよ……」
香炉を手に立ち止まる。
早乙女「貴様!動くなよ!! 黒瀬さん」
スミ「オープン」
スミの手にしたカードが変化。
チェーンにぶら下る藍色のメダルに形を変える。
スミ「力を、見せて……」
カサ、カサカサカサカサ、
建物中から、小さな音が聞こえる。
次第にだんだんと大きく。
眼鏡の男「なんだ……?」
ガサガサガサガサ!
ブーーン!ブーーン!!
天井の通気口や、入口にいるスミの足元、
開いている隙間から、色んな虫が飛び込んでくる。
眼鏡の男「な、虫!? う、うわ、やめろ、こっちに来るな!」
男にまとわりつく無数の虫たち。
眼鏡の男「あ、ああ、あああ!! やめてくれええ!!」
男がのたうち回る。
手から落ちた香炉がカードに戻る。
早乙女が走り、カードを拾い上げ、
男に銃を向ける。
眼鏡の男「いでええ!!噛むなああ!た、たすけてえええ!!」
早乙女「カードは確保した。黒瀬さん、もういい」
スミ「はい」
さーっと引いていく虫たち。
眼鏡の男「ふう、ふう、ふう」
カチャン
早乙女が男に手錠をかける。
早乙女「よくやった、黒瀬さん」
スミ「はい……」
ガヤガヤと店の入り口に、人が集まり始める。
早乙女「警察だ! ここは立ち入り禁止! 下がって!」
店の奥から怒鳴る早乙女。
入口で野次馬に囲まれるスミ。
夜。
警察署内。
カード対策室。
市之瀬「黒瀬さん、今日は素晴らしい働きを見せてくれたね。ありがとう」
スミ「ありがとうございます。あの、白川さんたちは?」
市之瀬「病院に搬送された。怪我などもない。深い睡眠状態ということらしい」
スミ「大丈夫なんですか?」
市之瀬「恐らくね。この男が関与したと思われる被害女性達も、翌朝には目が覚めている。恐らく白川さんたちも同じだろう」
スミ「よかった……」
市之瀬「黒瀬さん、カードの戦闘は、もうお手の物だね。関心したよ」
スミ「そんなことは……」
市之瀬「ほどなくすれば、幸土教授へのカードの貸与も始まる。君もたまには出向して、教授からカードについて学ぶといい。今の所、彼が一番カードについて理解しているだろうしね」
スミ「……わかりました」
市之瀬「期待しているよ」




