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第三十五話 正義・節制「剥奪」





山奥の集落。

広場の端で携帯ゲームをする男の子。

スミたちを見て驚いている。


男の子「なに? なに?」


スミ「小学生……」


ミドリ「どうする……? カード持ってるか聞いてみるか?」


ナオ「相手がヤル気だったらどうするの……?」


ミドリ「あんなガキが、そんなこと考えるかよ」


水際「ねえ、あの子以外にカードの反応はないの?」


スミ「え?」


水際「あの子がデコイの可能性が無いかってこと」


スミ「デコイ?」


刑事の男「おとりだよ。本命が他にいないかって聞いてる」


ナオ「いないわ。カードの反応はあの男の子だけ」


男の子がスミたちを見ている。


水際「いいわ。私が声をかけてみる。あなた達はバックアップ」


スミ「は、はい……」


水際が男の子に向かって歩いて行く。

男の子が焦ったように携帯ゲームを鞄にしまう。


水際「ねーきみー。教えてほしいことがあるんだけどなー」


男の子が無言で鞄を持って走り出す。


水際「あ、まてー!」


広場の横の民家の塀をよじ登って越えていく。


水際「しまった」


刑事の男「俺が行く」


刑事の男が塀をよじ登る。


ミドリ「お、おい!いいのかよ!」


水際「逃したら駄目よ。追うわ」


ミドリ「で、でもよ!」


水際「カードは子供が持っていい物じゃない」


水際も塀を飛び越えて、民家の庭に入っていく。


ミドリ「まじかよ」


ナオ「私達も行きましょう」


ミドリ「お、おう」


スミ「……」


塀をよじ登って、民家の庭に入る。




刑事の男「そこのお前! 止まれ!」


男の子「はっ、はっ、はっ」


男の子が民家の横の隙間を通り、裏手に回る。


刑事の男「ちょっと、くそ、狭いな」


民家と塀の隙間が狭く、通れない。


刑事の男「裏手に回られた!」


水際「はいはーい、見てましたよー」


刑事の男「おお? いてっ!」


刑事の男の肩を踏みつけ、塀の上に登る水際。

細い塀の上を走って、民家の裏手に回る。


ミドリ「ちょ、どうする!?」


スミ「どうするって言っても」


ナオ「追えないでしょ、私達じゃ」


刑事の男「ここで待っていてくれ!」


刑事の男が塀をよじ登る。


ミドリ「いや、ここで待ってろって言ってもさ」


周りを見る。誰かの家の庭だ。


刑事の男「各自、身を守るように!」


塀を走っていく。


ミドリ「たく、どうする?」


ナオ「ちょっと待って……、後ろ!」


スミが振り返る。


民家を一周してきたのか、

男の子が、初めに乗り越えた塀の所に出てくる。


ミドリ「こんにゃろ!」


ミドリが包丁を片手に、男の子へ迫る。


男の子「う、うわあ!」


男の子が塀沿いに、門へ走る。


ミドリ「にがさねえ!」


スミ「に、西野さん! 包丁をしまった方が!」


ミドリ「出来るかよ! こいつがオープンしたらどうすんだ!」


スミ「そ、そうだけど!」


男の子が門を飛び出す。

追う、スミたち。


キキー!!


車が急ブレーキする音。

男の子の目前にトラック。


男の子「うわあああ!」


スミ「きゃ、きゃああ!」


ギギギー!!


門の前で急停車するトラック。


スミ「お、男の子は!?」


ナオ「はいは~い。こっちよ」


スミ「え?」


ナオが男の子のわきを両手で掴んで、トラックの上に立っている。


ナオ「あんた、飛び出したら危ないでしょ」


男の子「な、なんだよ!お前ら!」


ナオ「それは下に降りてから。口閉じて、舌、噛むよ」


ナオが男の子を抱えて、トラックから飛び降りる。


スミ「ナ、ナオちゃん!」


ミドリ「やるじゃん!白川ナオ!」


ナオ「私のカードなら、あの程度のスピードは余裕よ」


トラックの運転手「お、おい!なんだ、お前ら!」


水際が警察手帳を見せながら、門から出てくる。


水際「警察です。事故にならなくてよかったですね」


トラックの運転手「け、警察?」


水際「ご協力に感謝します。もう、行って大丈夫ですよ」


トラックの運転手「い、行っていいって、ガキが飛び出して来たんだぞ! 危うくひきかけた!」


水際「それは危ない所でしたね。ですが、事故を起こさなくてよかったです。随分なスピードが出ていたようですし。ここ、法定速度30キロですが、何キロだったのでしょうね」


トラックの運転手「そ、それは……」


水際「ああ、失礼。私達も用がありますのでこれで。行っていいですよ」


トラックの運転手「……」


トラックがゆっくりと走り去る。


水際「さて、それじゃあ取り調べと行きましょうか」


男の子「な、なんだよ! 俺に何すんだ!」


水際「聞きたいことがあるんだけど、お時間いーかな?」


男の子「聞きたいことって?」


ガラガラ。

民家の玄関が開く。

腰の曲がった老婆がいる。


老婆「あ、あんたら、うちのケンに何かようか?」


男の子「ばあちゃん! 寝てなくていいのか!?」


男の子が老婆に駆け寄る。


老婆「ケン、あんた、何をしたんね?」


男の子「何もしてねーよ! こいつらが追いかけて来て!」


水際「申し遅れました。私、県警の水際と申します」


警察手帳を見せる。


老婆「警察かえ?」


水際「ええ。ご心配をおかけして申し訳ありません。そちらの……、ケン君が危険物を所持している疑いがありますので、聞き取りをしておりました」


老婆「危険物?」


水際「よろしければ、お話を聞いていただけないでしょうか?」


老婆「……わかった。ここじゃなんだ、中に入りなさい」


水際「ありがとうございます」






家の居間に通される。


老婆「そんで、なんの用かえ?」


水際「はい。黒瀬さん、カードを見せてくれない?」


スミ「わかりました」


スミが一枚のカードを卓上に置く。

ぼんやりと光るカード。


男の子「あ、これ!」


スミ「知ってるの?」


男の子「これ!これ、くれるの!?」


スミ「あげるのはちょっと……」


水際「ねえ、ケン君。これが何か知ってるの?」


男の子「願いが叶うカードでしょ!」


水際「へえ……。よく知ってるね。君も同じカードを持ってるのかな?」


男の子「持ってるよ!」


水際「ねえ、そのカード、見せてくれない?」


男の子「うん、いいよ」


ポケットからカードを取り出す。


水際「貸して」


男の子「え、ダメ」


水際「どうして?」


男の子「俺、このカード集めるんだ! 大切なものだから、貸さない!」


男の子がポケットにカードをしまう。


水際「困ったな……」


スミ「……ねえ、あなたも、願い事、してるの?」


男の子「そうだよ!」


水際「お願い。そのカードは危険なの。渡してもらえる?」


男の子「嫌だよ!」


老婆「その、鏡みたいなやつが、危ないものなんか?」


水際「ええ、危険です。持っているだけで、とても危険な犯罪に巻き込まれる可能性がある」


老婆「犯罪って、それは、いったいなんやの?」


水際「機密情報です。詳しいお話は出来ません。ただ、国はそれを管理しようとしている、とだけお伝えします」


老婆「そんな大層な……」


水際「ですから、そのカード、私たちに渡していただけませんか?」


老婆「まあ、ようわからんけど、面倒事もごめんやし、ケン出したらんか」


男の子「嫌」


老婆「なんやわからんけど、はよ、出し」


男の子「嫌だって!」


老婆「何をそんなに嫌がっとるん? 危ない物らしいで」


男の子「渡さない」


老婆「ケン」


男の子「……」


水際「ケン君。渡してくれないと、おばあちゃんも困っているんじゃない?」


男の子「……」


黙っている男の子。


ミドリ「なあ、どうして渡してくれないんだよ。それ持ってると、また誰かに追いかけられるぞ。次はアタシらじゃない。もっとヤベー奴かもしれないんだ」


男の子「……なんだよソレ」


ミドリ「やばい犯罪に巻き込まれるって、さっき言ってたろ。持ってるだけでヤベーんだよ」


男の子「嘘だ。今までそんなことなかったし!」


ミドリ「こんな山奥で、なかなか見つからなかっただけだって」


男の子「どういうことだよ!」


ミドリ「聞き分けがねぇなあ! さっさと渡したほうがいいんだって!」


男の子「うるさい!もういいだろ!部屋でゲームしてくる!」


ミドリ「こ、こら!」


老婆「ええかげんにし! ケン、渡しなさい」


男の子「嫌だ!」


スミ「ね、ねえ……、教えてくれない? あなたの願いが何なのか」


男の子「……」


スミ「願い事があるんでしょ? それが何か、教えてほしいな」


男の子「……」


ミドリ「だまってちゃわかんないだろ」


ナオ「静かにしてなさい、西野ミドリ」


ミドリ「な?」


ナオ「今は黙って聞く番よ」


ミドリ「……ああ」


スミ「ね、教えて、あなたの願い」


男の子「わ、わかった」


スミ「うん」


男の子「ばあちゃんは出てって」


老婆「え?」


男の子「出て行って、ばあちゃん」


老婆「なんでや」


男の子「聞かれたくないんだよ」


老婆「なんで?」


男の子「いいから!」


老婆「ああ、はいはい、よっこらしょ。あんた、ちゃんと渡すんやな?」


男の子「……」


老婆「はあ、人様に迷惑かけたらあかんで……」


老婆が部屋を出ていく。


男の子「……」


スミ「えっと、じゃあ……」


男の子「ばあちゃんの病気だ」


スミ「え?」


男の子「ばあちゃん、先週帰ってきたんだ、病院から」


スミ「そう、だったんだ」


男の子「長くはねーんだよ」


スミ「え?」


男の子「病気がもう治らねーから、家に帰ってきたんだ」


スミ「……」


水際「……終末医療ってことかしらね」


男の子「元気そうにしてるときもあるけどさ、夜に痛い痛いって泣いてるときもあるんだよ」


スミ「……うん」


男の子「だから、俺がこのカードを集めて、病気を治すんだ」


ミドリ「お前……」


ナオ「……その気持ちはわかるわ。でもね、そのカードの危険性を、あなたは知らないのよ」


男の子「危険ってなんだよ」


水際「西野さん、見せてあげて」


ミドリ「……ああ」


ミドリがカードを包丁に変化。


男の子「え、ええ?」


ミドリ「動くなよ」


ミドリが包丁の切っ先を男の子に向ける。


男の子の周囲を囲むように、大量の包丁が浮かび上がって囲い込む。


男の子「う、うわあ!」


後ずさりする男の子。


ミドリ「こら、あぶねーって!」


浮かび上がった包丁が一瞬にして消える。


ミドリ「はー、怪我するって、マジ」


男の子「な、なんだ、今の!」


ナオ「これがカードの危険性よ。私達はそれを使って戦っている。カードを狙う奴らとね」


男の子「戦う?」


ナオ「そうよ。家が襲われることだってあるわ。私は、そんな奴らと戦って家族を守ってきた。あなたにも、その覚悟があるの? おばあちゃんだけじゃないわ。この家に住む家族全てを」


男の子「……」


スミ「あのね、カードを渡してくれたら、その危険は無くなるの。カードを持つ人は、カードを持つ人を引き寄せる。あなたがカードを手放せば、危険からも遠ざかる」


男の子「ばあちゃんの病気は、どうすんだよ……」


スミ「……それは、……」


男の子「ばあちゃんは見捨てろって言うのか!」


スミ「……」


居間に老婆が入ってくる。


老婆「なんや、あんた、そんなこと気にしとったんか」


男の子「ばあちゃん!聞いてたのか……」


老婆「あんたが気にすることやない。そんなことで人様に迷惑かけんなや」


男の子「で、でもさ」


老婆「もうええんや。そんなわけわからん物で、病気が治るとも思えん。渡したらええやんか」


男の子「……」


老婆「わたしゃあ、あんたの、その気持ちだけで嬉しいわ。ほら、そのけったいな鏡、渡してあげなさい」


男の子「……うん」


ポケットからカードを取り出し、卓上に置く。


スミ「……ありがとう」


男の子「うん」


男の子が涙目になる。


スミ「君の想い……、預かるね」


卓上のカードにスミが手を伸ばす。





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