第三十三話 星・月「シフト」
朝。
登校するスミ。
ミドリ「おはよー!」
スミ「おはよう、西野さん」
ミドリ「数日、家出して、久々に帰ってみてどうよ?」
スミ「どうってほどでも……。西野さんは嬉しそうだね」
ミドリ「ああ、お母さんの体調も戻っててさ、良かったなって。警察が事情聴取に来てたらしいから、説明すんの大変だったけどよ」
スミ「全部話したの? カード犯罪対策室のこととか」
ミドリ「話してねーよ。急に聞いても驚くだろうし。時々、警察署に呼ばれるけど、心配ないって言っといた」
スミ「そっか……。良かったね、お母さんも元気そうで」
ミドリ「ああ、後は親父の仕事が上手くいって、またアパートでも借りれたらなー……。叔母さんに迷惑かけっぱなしだしさ」
スミ「うん。上手くいけばいいね」
ミドリ「おう!」
下駄箱で靴を履き替える。
水際「あら、お揃いで来たのねー」
ミドリ「あ……」
スミ「水際先生……」
水際「ん? どうしたの?」
ミドリ「えっと、いやあ~」
スミ「先生を……、続けるんだなって……」
水際「こらこら。シー」
スミ「あ、ごめんなさい」
水際「続けるに決まってるじゃなーい。あなた達の様子も見守らなきゃだしー、近くに居たら情報共有もスムーズでしょー?」
ミドリ「まあ……、たしかに」
スミ「そうですね」
水際「あのさ、二人にお願いがあるんだけどなー」
スミ「お願い?」
水際「今日の放課後、開けれるかなー?」
スミ「は、はい……」
ミドリ「いいけどよ……、何があんの?」
水際「街から離れて、市の外側の捜索にいくのー。協力してよー」
スミ「……、切り裂き、ジャック……?」
水際「ご名答ー。ね、お願い」
ミドリ「それ……、断ったらどうなるんだ」
水際「んー。ご想像にお任せしますー」
スミ「西野さん……」
ミドリ「……」
スミ「私、行きます」
ミドリ「……ああ、アタシも」
水際「ふふふー。それじゃあ、例の対策室に二人で来てね」
スミ「あの、秋穂先生や、ヒロト君は?」
水際「後で聞いてみるねー」
手を振って去っていく水際。
スミ「……。前に市之瀬さんって人が言ってた協力って……、こんな感じで始まるんだ……」
ミドリ「ああ……。のんびりはさせねーってことだよな……」
スミ「うん。そうかも……」
昼休み。
中庭。
スミ「ヒロト君」
ヒロト「黒瀬先輩。どう? 家のほうは」
スミ「うん。特に変わってなかった」
ヒロト「ふーん」
スミ「あの……、こ、これ」
ヒロト「ん?」
スミが鞄から小包を取り出す。
ヒロト「なに? それ」
スミ「ひ、久しぶりに帰って、クッキー焼いたから」
ヒロト「へー……」
スミ「食べてほしい……、かな……」
ヒロト「え、うん」
スミ「い、家に泊めてもらった、お礼、だから」
ヒロト「え、ああ」
スミ「はい…、どうぞ……」
ヒロト「あ、あのさ、そういえば、」
スミ「じゃ、じゃあ!」
小包を渡して、小走りに逃げる。
ヒロト「……」
放課後。
警察署の前にスミとミドリ。
スミ「ヒロト君たち……、来てるのかな?」
ミドリ「一緒に来たらよかったな。誘ってないの?」
スミ「なんか……、声をかけるのが、恥ずかしくなったと言いますか……」
ミドリ「なんで?」
スミ「えと……、別に……」
ミドリ「なにそれ」
カード犯罪対策室。
市之瀬「ああ、いらっしゃい。待っていたよ」
スミ「お邪魔します」
ミドリ「うーっす」
市之瀬「水際は、白川さんを迎えに行ってから来るそうだ。座っていてくれ」
スミ「はい、失礼します」
部屋の端っこに座る。
刑事達が沢山いる。
ミドリ「……なんか、気まずくね」
スミ「ま、まあ」
ミドリ「新藤たちも来てねーしな……」
スミ「早く来すぎちゃったのかも」
市之瀬「緊張しているのかい?」
スミ「あ、いえ……」
市之瀬「緊張しなくていいよ。ここは、君らの所属する部署のような物だ」
スミ「は、はあ……」
市之瀬「少し話をしようか。カードについて」
ミドリ「どんな話?」
市之瀬「君たちはカードについてどこまで知っているのかな?」
スミ「どこまでって……」
ミドリ「集めたら願いが叶うとか、武器になるとか、そのぐらいしか、わかってねーよ」
市之瀬「なるほど。後は他人のカードと近づけば、カードが熱を帯びる。または、違和感を感じるとか、そういうのもあるだろう? 他に思い当たる節は?」
スミ「そうですね……。武器……、私たちはオープンって言っていますけど、武器になれ、カードに戻れとか、念じるだけで反応します」
ミドリ「そうだな。アタシは結構、無意識的にやってんだけど、カードの力を使う時は、アイツを倒せとか、考えてるかな」
市之瀬「なるほどね……。僕らが調べている、カードが関わったと思われる犯罪は、この高牧市周辺に集中していると、我々は考えているんだ」
スミ「はい……。それは秋穂先生が前に言ってました。カードは高牧市周辺にバラまかれたって」
市之瀬「我々もそう思っているのだけどね、一つ重要な疑問があったんだ。どんな疑問か、わかる?」
スミ「えっと、なんでしょうか……?」
ミドリ「カード自体が壊れたりしねーかとか?」
市之瀬「それもあるね。そして、それは、ある程度検証済みさ。幸土教授によればね」
ミドリ「カードを壊したことあんの!?」
市之瀬「工事用の手持ち工具で破損を試みたらしい。残念ながら、工具の方が先に壊れてしまったようだ」
スミ「……壊せないんだ」
ミドリ「まあ、捨てても、無くしても、勝手に帰ってくることもあるらしいしな」
スミ「あの、市之瀬さんの言う重要な疑問って、カードを壊せないってことですか?」
市之瀬「いいや。もっと重要……、かもしれない」
ミドリ「なんだよ。教えろよ」
市之瀬「カードを高牧市の外に持ち出すことは可能か否か、ということさ」
ミドリ「え……?」
市之瀬「カードの力は不可解なものだが、強力な力を持つ物も多い。幸土教授も何かに利用できるならと考えているようだ」
スミ「カードの使い道……、ですか?」
ミドリ「まあ……、確かに、すげー力だけどさ……、何に利用できるってんだよ?」
市之瀬「さあ、それはまだ、わからないけどね。しかしね、つい先日、高牧市外にカードを持ち出すのは難しいのではないか、という出来事があったらしい」
スミ「なにが、あったんですか?」
市之瀬「秋穂先生に聞いていないかい?」
スミ「え?」
市之瀬「秋穂先生からの教えてもらったんだけどね。知人の一人に、カード持ったまま遠方で暮らしてもらうという実験を行っていたようだ」
ミドリ「……あの先生……。よく、そんな訳のわかんねー実験をしたもんだな」
スミ「結果は……、どうなったんですか?」
市之瀬「そのカードは、元々、秋穂先生から、その人に渡したものでね。その知人が遠方に行って数週間した後に、秋穂先生の手元に戻っていたそうだ」
スミ「え、それって……。前の持ち主に戻る……?」
ミドリ「きみわりぃ……」
市之瀬「今回は100キロほど離れた隣県に行った人だったようだがね。とても興味深い。どこまで行けばカードは消失するのか。今、幸土教授や、秋穂先生と共に調べている所さ」
スミ「……」
市之瀬「裏を返せば、カードが消失する範囲。ひいては、カードが存在出来る範囲を突き止められる。カード所持者がいる範囲をね」
ミドリ「なるほどね……」
スミ「その方法でもいいんだ……。県外に出て暮らせば、このゲームから降りることが出来るってことですよね? 誰かにカードを渡さなくても」
ミドリ「でもさ、結局前の持ち主に戻るんだろ。誰かに渡したのと変わんなくね?」
スミ「前の持ち主が、いなくなっていたら? どうなるの?」
ミドリ「え?」
スミ「帰る場所が無くなったカードは……、消滅したりしないかな?」
市之瀬「それは、まだ実験していない項目だよ。いつか、その結果も知ることになるかもしれないね」
スミ「……」
市之瀬「黒瀬さんは、カードを手放したいのかい?」
スミ「……。いいえ。アサコが……。友人が目を覚ますまで、手放したりしません」
ミドリ「スミ……」
市之瀬「ああ、しまった。ついつい、長話に付き合わせてしまったね。悪かった。水際ももうすぐ来るだろう。そうだ、コーヒーは飲めるかい?」
ミドリ「あ、ああ」
スミ「はい」
市之瀬「すぐに淹れよう」
市之瀬がポットから紙コップへコーヒーを注ぐ。




