第二十四話 カップの5「失墜」
朝の病院。
ベッドから窓を見つめるナオ。
隣でリンゴの皮を剥く母。
母「……ナオ、……ねえ」
ナオ「……」
母「……」
コンコンコン。
病室がノックされる。
母「誰か来たみたい……。はい、いま開けます」
扉を開けると、
警察手帳を掲げる水際。
後ろに数人の刑事。
水際「お邪魔しまーす」
母「警察の方……。どういった御用件でしょうか?」
水際「いえいえー。昨日の夜のことでー、ちょっと娘さんに確認したいことがあってー」
母「娘はまだ混乱しています。今日はやめて頂けませんか?」
水際の笑顔が消える。
水際「ドクターからも許可を頂いております。心配しないでください。娘さんは被害者。その認識で来ていますので」
母「は、はあ……。それでは……」
水際の整った美人の顔が、笑顔に変わる。
水際「ありがとうございまーす。あのー、申し訳ないんですけどー、秘匿事項もありますしー、お母さんには、部屋の外で待っていてもらえますかー?」
母「え……」
男の刑事「お母さん。どうぞこちらへ」
病室の前のベンチに案内する。
母「あの……」
水際「ごめんなさーい。ご協力、感謝しますー」
母の腕を持ちベンチに案内する男の刑事。
母「は、はい……」
病室の扉が閉まる。
水際「こんにちはー、えっと確か、お名前は……」
ナオ「……白川ナオ」
水際「ナオさんね。よろしくー。昨日、不審者たちに襲われたんだってー? お身体のほうは大丈夫―?」
ナオ「気を失ってたみたいですけど、今は何ともないです」
水際「よかった。じゃあ、お話聞かせてもらえそうねー」
ナオ「はあ……」
水際「聞いたよ? 見ず知らずの不審者を追い払うなんてすごいよねー。女子高生が簡単に出来ることじゃないよ? ちょっと調べたけど、空手黒帯なんだって?」
ナオ「はい。小さい頃からやってましたから」
水際「すごいなー。これから黒帯女子って呼んでもいい?」
ナオ「はい? まあ、なんでもいいですけど」
水際「それともー。光のローブのカード使いと呼んだ方が、適切かしら?」
ナオの肩がビクっとする。
表情が固まった表情で水際を見る。
水際の整った顔に、張り付いたような笑顔。
ナオ「何を……、聞きに来たの?」
水際「私ってー、謎のカードなる物を使って、犯罪を起こしてる奴らを追ってるんだー」
ナオ「……」
水際「あなたもカードを持ってるー。そうよね? 白川ナオさん?」
ナオ「はい……」
水際「ねえ、あなたはどう思う? カードを犯罪に利用する奴らを」
ナオ「許せない、です……」
水際「そうよねー。私達ってー、同じ考えって言うかー。似た者どうしだと思わないー?」
ナオ「そう……、ですね……」
水際「じゃあ、そいつらを追い詰めるために、いえ、カードを犯罪に利用させないためにも、協力してくれないかしら?」
ナオ「……協力?」
水際「ええ。カードとは、一体どんな物なのか、私は知りたいの。この街で起きている不可解な事件を、これ以上起こさせないためにもね。あなたは、特別捜査官として私たちに協力してほしい」
ナオ「特別……、捜査官」
水際「ええ。悪いようにはしない。あなたの家族の安全も警察が全力で守る」
ナオ「……」
水際「協力してくれるよね? 白川ナオさん」
ナオ「……あの、家族の安全は……、保証してください……」
水際「うふふー。ええ、もちろんー」
青ざめた顔のナオと、
笑顔を崩さない水際。
ヒロトの屋敷。
座敷でこたつを囲む。
秋穂「どうしたの、あなた達。 休日なのに、暗い顔して」
スミ「……」
秋穂「朝ごはんも、みそ汁と漬物だけだし、味気ないな~」
ヒロト「冷蔵庫に卵が余ってたろ。持ってきなよ」
秋穂「私、生卵好きじゃないし~」
ヒロト「焼けば?」
秋穂「焼き方わかんないし~」
ミドリ「……焼いてこようか?」
秋穂「うんうん、お願~い」
ミドリが何も言わず部屋を後にする。
ヒロト「……」
スミ「あの、先生……」
秋穂「なに?」
スミ「昨日の子、殺して……、ませんか?」
秋穂「どうかな~。殺す余裕がなかった、と言ったほうがいいかしらね。多分、生きてはいるでしょう」
スミ「……良かった」
秋穂「遠くからではあったけど、目撃者も大勢いたしね。パトカーが来ていたから、カードを奪う時間もなかったし、結果論だけど、あそこで殺す意味は薄いわね」
スミ「……状況によっては、殺していたってことですか?」
秋穂「それはそうね」
スミ「そんな……」
ヒロト「甘いんだよ、黒瀬先輩は……」
スミ「だって……、相手は同い年ぐらいに見えた。私達と同じ、高校生ぐらいに見えた」
ヒロト「だから何?」
スミ「え……?」
ヒロト「学生だから殺しちゃいけないってこと? 大人だったら死んでも仕方ないって?」
スミ「そ、そういうわけじゃ……」
ヒロト「じゃあなんだよ。そうとしか聞こえないんだけど」
スミ「……」
ヒロト「カードを取り合うってことは、命を取り合うことなんだ。いい加減に理解しろよ」
スミ「……」
秋穂「黒瀬さん、あなたは自分の願いの為に、カードを奪うための作戦を立てた。昨日の行為は黒瀬さんの発案よ。私達はそれに賛同しただけ」
スミ「え……」
秋穂「そして結果は失敗。私達も見知らぬ人達の前に、姿をさらしてしまった。カードを奪うこともできずにね」
スミ「……」
ヒロト「……黒瀬先輩をあおったのは、あんただろ」
秋穂「それでも、作戦を立案したのは黒瀬さんよ。でもね、私はそれを責めたりしない。個人の願いは尊いものだから、それをつかみ取ろうと、手を伸ばす行為を咎めたりしないわ」
スミ「……余計なことを言ってしまいました。ごめんなさい」
秋穂「まあ……、気にしなくていいわ」
スミ「……」
ミドリが湯気の上がるお皿を持ってくる。
ミドリ「目玉焼きできたよー」
秋穂「ありがと〜。料理得意なんだ、西野さん」
ミドリ「ただの目玉焼きだよ…」
秋穂「目玉焼きだってすごいわよ〜。だって私はできないし〜」
ミドリ「おう……、ありがと」
ピピピ。
ミドリ「わり、電話だ……。あ、もしもし、おばさん? どうしたの?」
フユミ『今日、姉さんを迎えに行ってきたわ。今日から家で一緒に暮らそうと思ってる』
ミドリ「え、お母さん戻って来たの? よかった〜」
フユミ『あんた、いつまで家出してるつもり?』
ミドリ「家出って、友達の家にいるって言ってるじゃん」
フユミ『悪い友達じゃないでしょうね』
ミドリ「ちげぇよ」
フユミ『その子たちと、犯罪まがいの事をしているんじゃないの?』
ミドリ「はあ? してねーよ」
フユミ『人様の田んぼに火をつけたりしてないわよね!?』
ミドリ「……。何の話をしてんだよ?」
フユミ『今、警察の人がうちに来てる。あなたに複数件の放火の疑いがあるって!』
ミドリ「な……に……?」
ミドリの瞳孔が大きく開く。




