第二十二話 ワンドの2「発火」
日が落ちて間もない、薄暗い夜道。
街から外れた、麓の村。
畑や雑木林。
その間にポツポツと家が建つ。
秋穂のスポーツカーがゆっくりと走っていく。
ミドリ「先生……」
秋穂「わかってるわ。折り返すわね」
スミ「……」
一件の民家。
少し離れたところにスポーツカーを停めて、
監視する。
秋穂「強い感覚。複数枚持ちね」
ミドリ「でもよ、普通に民家じゃん。どうする?」
秋穂「そうね、同居人もいるかもしれない。可能なら、騒ぎにせず、カードの持ち主だけを狙いたいわね」
スミ「えっと……、まさか、暗殺……」
秋穂「できるならね」
ミドリ「ちょ、ちょ、ちょっと待って。まだ相手が悪い奴かなんて、わかんないじゃん。やるにしてもさ、様子見た方が良くね?」
秋穂「それもそうね~」
スミ「相手が動くのを待ちますか?」
秋穂「あまり時間はかけたくないの。相手が今日動くかはわからないしね。そして、何よりも、こうしている間に私達を狙っている人がいるかもしれない」
ミドリ「そ、それならさ、こっそり盗み出すとかは?」
秋穂「それが出来るのなら」
ヒロト「……」
秋穂「そうだ、3人で手分けして、窓の開いている場所がないか、見てくれないかしら」
ミドリ「おっけー」
スミ・ヒロト「……」
車から出る。
ミドリ「……ねーよな。裏側は?」
スミ「ヒロト君が見に行ってくれてるみたい」
戻ってくるヒロト。
ヒロト「わからね。カーテンも締まってるし」
ミドリ「どうすっかな……」
運転席の窓をノックする。
秋穂「どうかしら?」
スミ「空いているかどうか……、わかりませんでした。どうしましょうか」
秋穂「そうねぇ……」
ヒロト「なあ、向こうはもう、とっくに気づいてると思わね? 近くに俺たちがカードを複数枚持ってうろついてんだから」
ミドリ「そ、そうだよな……。それで出てこないってことは……」
スミ「こちらの様子を見られている……」
秋穂「恐らく警戒しているわね」
ヒロト「どんな相手かもわからないんだし、今日はやめといたほうがいいんじゃない?」
秋穂「そうねぇ……。さて……、どうしましょうか? ね、黒瀬さん」
スミ「え……」
スミを見つめる3人の視線。
スミ「……今日は引くという選択肢はありませんか?」
秋穂「そうよねぇ……。でも、それは問題を先延ばしにしているだけではなくて?」
ミドリ「あ、あのさ……。アタシ、聞いてみようか?」
スミ「え?」
ミドリ「前にもやったことあるんだ。インターフォンでよ、カードを持ってないかって聞くんだよ」
スミ「……」
ミドリ「運がよかったら、話ぐらい聞いてもらえると思う」
ヒロト「向こうがヤル気だったらどうすんの?」
ミドリ「そ、そんときゃ、やるしか……、ねえだろ」
ヒロト「礼儀正しく、インターフォン押して戦闘開始なんてことになったら、自殺行為もいいとこだろ」
ミドリ「なら、他にどうしろってんだよ」
スミ「西野さん、インターフォンを押して、カードを知らない人が出たらどうしたらいい?」
ミドリ「え?」
スミ「例えば持ってるのが、子供で、親がインターフォンに出たら……」
ミドリ「そんときゃ……、すんませんって言って、不審者みたいに逃げんだよ……」
秋穂「まあ、そうよね。でも、それじゃ、今日は引く、という選択をしたことと変わらないんじゃないかしら」
ミドリ「まあ……。じゃ、やっぱ様子見るしかないだろ」
秋穂「カードは集めなければならない。この家は今日攻めないとしても、いずれ、その時は訪れる。ましてや、その時には別の人に奪われているかも。……さて、どうしたものかしら」
スミを見る。
スミ「……」
ヒロト「先生の話に惑わされんなって……。無理な時だってあるんだからさ」
スミ「……相手が……、家の外に出てくればいいんですよね?」
ヒロト「黒瀬先輩?」
スミ「カードを持って出てくれば、その時に奪えるかも」
ミドリ「どうやってだよ」
スミが畑に囲まれた小さな雑木林を指差す。
スミ「あそこに火をつけます。そしたら、野次馬に出てくるはず。カードを持つ人なら、私達の仕業だって直ぐに勘づく。あそこは孤立した雑木林だし、火がついても、燃え広がらない」
ミドリ「挑発して呼び出すってのか……」
ヒロト「おい……、そんなの目立ちすぎだろ……。火をつけるったってさ……」
スミ「ヒロトくん。聖火のカード、持ってるよね? あれで遠くから火を放つの」
ヒロト「……ホントにやる気?」
スミ「……」
神妙な顔つきでうつむく。
秋穂「ふ、ふふ、いいんじゃない? 面白そうね」
ヒロト「……出てきたとして、カードはどうやって奪うの?」
スミ「……先生、先生のツタで、カードだけを奪えませんか? 相手を殺さずに」
秋穂「いいわよ。相手が油断していたらね」
スミ「……お願いします。私達は分散して隠れる。相手の注意をそらして、先生がカード奪う時間を稼ぐ」
ミドリ「……お、おう」
ヒロト「……」
秋穂「さ、そうと決まればやりましょうか。各自で離れた場所へ」
スミ「はい」
ミドリ「おう……」
ヒロト「ああ……」
畑の端の土手に、一人でかがんで潜む。
畑を挟んだ向こうに林、その向こうには、
別の畑を挟んで、対象の民家。
ピロン!
スマホのグループチャットに通知。
秋穂 “準備はいい?”
スミ “大丈夫です”
ミドリ “OK”
ヒロト “いつでも”
秋穂 “では、作戦開始。新藤君、始めなさい”
ボウッ!
スミから見て右手の畑の端から、火の玉が放たれる。
雑木林に火の玉がぶつかる。
枯れ葉に燃え移り、木々の上から火が上がる。
スミ「……」
真っ直ぐに炎を見つめる瞳。
一枚のカードを手に持つ。
震える指先。
勢いよく燃え出す雑木林。
パキッ、パキッ!
竹の燃える音が鳴る。
モクモクと上がる灰色の煙。
赤い炎が暗闇を照らす。




