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第二十一話 カップの8「吐露」





秋穂「誰か試してみる? ここにある25枚のカードを持って、願いが叶えられるかどうか」


ヒロトの屋敷の座敷。

秋穂を見つめる三人。


ヒロト「……それ、誰がやってもいいの?」


秋穂「いいわよ。あなた達の誰かが立候補するなら、私はカード預けるわ」


ヒロト「あんたは立候補しないのかよ」


秋穂「しないわ」


ヒロト「なんで? カードを集めてるのは、自分の願いを叶えたいからだろ?」


秋穂「だって~。ここで私がやっちゃったら~、大人げないし~」


ヒロト「……」


互いを見つめ合い、沈黙する3人。



ミドリ「あ、あのよ……、アタシに、アタシにやらしてくねーか」


スミ「西野さん……」


ミドリ「アタシの家族、めちゃくちゃになっちまって、今じゃ家もねーよ。前はさ、こんなんじゃなかった。親父の工場は仕事がいっぱいで、帰るのも遅かったけど、家族みんなで毎年旅行に行ったりさ、誕生日には飯食いに連れてってくれたりよ。いま思えば、すげー幸せだった。借金取りとか来ないしよ」


秋穂「……辛いわね」


ミドリ「アタシの願いは、家族みんなが幸せに生活できることなんだ。毎年旅行に行けなくたっていい。外食だって別に行かなくてもいい。ちっこいアパートでもさ、ただ笑って暮らしたいだけなんだよ」


スミ「……」


ミドリ「だから、頼むよ。アタシにカード、預けてくれねーか。願いが叶うか、試してみたいんだ」


ヒロト「……」


スミ「……私も、試したい。願いが叶うかどうか」


ミドリ「スミ……」


スミ「アサコが眠り続けて数週間。まだ目を覚まさない。幼馴染なんだよ。私の家、市内から遠いから。家なんて全然ない。田んぼばっかりの村みたいなとこで、友達なんてアサコしかいなかった。私はアサコに目を覚ましてほしい。だから、私にもやらせて」


ミドリ「……」


秋穂「二人ともやってみればいいじゃない」


スミ「え?」


秋穂「どっちからやってみる?」


ヒロト「待てよ。願いってそんなに何個も叶うわけ?」


秋穂「さあ、やってみないとわからないわね」


ヒロト「俺は反対。願いは一人しか叶わないんじゃないかって思ってる。だから、ここで試すのは反対」


ミドリ「なんで一人しか叶わないって思うんだよ」


ヒロト「ただ、そう思うってだけ。願いなんて簡単に叶うもんじゃないから」


ミドリ「なんだよ……、それ……」


ヒロト「俺はカードを渡さない。少なくとも、ここでは」


秋穂「じゃあ、新藤君以外のカードでやりましょうか? 少なくとも20枚はあるわ。これで試してみたら?」


ヒロト「おい……」


ミドリ「じゃ、じゃあ……」


スミ「私も渡さない」


ミドリ「スミ……」


スミ「どちらかが叶って、どちらかが叶わないってなったら嫌だし」


ミドリ「た、頼む! やらせてくれよ、スミ!」


スミ「いや」


秋穂「あらら、困ったわね……」


ミドリ「ス、スミが渡さないって言うなら、アタシと勝負しねえか……」


スミ「え……」


ミドリ「渡してくれないなら、アタシはスミからカードを奪う」


ヒロト「待てって、落ち着け」


ミドリ「カードを使わなくてもいい。殴り合いでもいい。勝った方がカードを預ける。そうしねえか」


スミ「西野さん……」


秋穂「穏やかじゃないわね。ねえ、じゃんけんにしない?」


スミ「わ、わたしは……」


ヒロト「そこまでにしろよ。やるなら俺が相手してやる。先輩達がどうしてもって言うなら」


ミドリ「新藤……。もしかしてさ、お前も、ここで願いが叶うかもって、本当に思ってるのか?」


ヒロト「わかんね。でも否定できない」


スミ「ヒロト君も……、カードを集めたら願いが叶うって、信じてるの?」


ヒロト「信じてる。少なくとも、そう思わせるだけの力が、カードにはあるから」


スミ「……」


秋穂「ま、今日はやめときましょうか。この話はここでおしまい」


ミドリ「あ、ああ……、そうだな……」


ヒロト「おい、誰のせいでこんなことになったか、わかってる?」


秋穂「あら? 私のせいだとでも言いたげね」


ヒロト「あんたのせいだろ。余計なこと言いやがって」


秋穂「私は誰かが試してみてもいいと、本心から思っただけよ」


ヒロト「それが余計だっての」


秋穂「カードは謎だらけよ。誰かが何かを試さなければ、全ては謎に包まれたまま。試すことは解明につながるわ」


ヒロト「それはわかってる。でも、この話は今後しない。これで終わりにして」


秋穂「ええ、そうしましょう。ごめんなさいね、二人とも」


スミ「い、いえ……」


ミドリ「すまねえ、熱くなっちまった」


スミ「んーん。私もごめんね」


ミドリ「スミは悪くねえよ」


スミ「……」


全員黙り込む。






夜中。

キッチンでポットの湯を沸かすヒロト。


ヒロト「……」


ギシギシ

静かな足音。


ヒロト「……まだ起きてたの?」


スミ「うん……、眠れなくて」


ヒロト「お茶、飲む?」


スミ「うん」


湯呑を並べてお茶を注ぐ。

白い湯気。


スミ「ありがと」


ヒロト「気にすんなよ。先生が変なこと言い出すの、今に始まったわけじゃねーし」


スミ「わかってる……」


ヒロトがお茶をすする。


スミ「ねえ、ヒロト君。ヒロト君の願いごとって、何?」


ヒロト「聞いてどうするの?」


スミ「知りたいなって、思って」


ヒロト「人に話すほどじゃないんだけど」


スミ「聞いちゃだめかな?」


ヒロト「別にいいけど……」


お茶を置く。


ヒロト「雪の結晶祭りって知ってる?」


スミ「うん。年明けにやってるイベントだよね」


ヒロト「中学に上がる前さ、どうしても行きたくて、一人で見に行ってたんだよ」


スミ「そっか。大きな氷の人形とかあって、県外からも人がいっぱい来るぐらいの人気だしね」


ヒロト「そう、そんとき好きだったアニメの氷像とかもあってさ、一人で行ってたの」


スミ「うん」


ヒロト「そしたら、大雪になっちゃってさ、電車が止まって帰れなくなった」


スミ「それは、大変だったね」


ヒロト「そしたらさ、家族みんなで迎えに行くって言って、来てくれることになった」


スミ「へえ、よかったね」


ヒロト「よくねえよ。その時、家族が乗った車が事故にあって、みんな死んじまった。親も、ねーちゃんも」


スミ「え……」


ヒロト「じいちゃんも、それから元気が無くなっていってさ、中学の時に死んじまったよ」


スミ「……」


ヒロト「俺があのとき結晶祭りに行かなければ、こんなことにならなかった。だから俺は、あの時の自分に戻って、結晶祭りに行くのを止める。それが俺の願い」


スミ「……そっか。……」


熱い湯呑を握り締める。






放課後。

保健室。


ミドリ「ちわっす」


スミ「こんにちは」


秋穂「来たわね、二人とも。さあ、今日から悪いヤツ退治再開よ。あら?」


ヒロト「なに?」


秋穂「今日はあなたも行くの? 参加しないんじゃなかったっけ?」


ヒロト「うるせーよ。先輩達だけになって、前みたいに怪我したら大変だろ」


スミとミドリが目を合わせる。


ヒロト「一緒に住むのに、参加しないって訳にもいかねーだろ。家で待ってろっての?」


秋穂「ホント、素直じゃない子ね」


ヒロト「調整役が必要だろ。昨日みたいな揉め事は嫌だかんな」


秋穂「ま、そういうことにしましょ」


スミ「ありがと、ヒロト君」


ヒロト「別に」


ミドリ「よろしく頼むぜ、青少年」


ヒロト「俺、西野先輩が無茶しないための、お目付け役のつもりなんだけど」


ミドリ「はあ!? 調子に乗んなよ、後輩のくせに!」


ミドリがヒロトの首に腕を回す。

ヒロトが鼻で笑う。




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