第十九話 ペンタクルの5「一時結束」
保健室。
秋穂「西野さん、お帰り~!」
ミドリ「ありがと。先生、アタシのカードは?」
秋穂「はいはい。焦らないで」
カードの束を鞄から取り出して渡す。
ミドリ「サンキュー。助かったよ。先生」
秋穂「まだ身体は全快ではないようだけど、カードを持っていて大丈夫かしら」
ミドリ「いつまでも先生に預けてられねえよ。アタシはカードを集めなきゃだしさ」
秋穂「まだ戦えそうじゃないけどね」
ミドリ「大丈夫だって」
秋穂「ねえ、みんなに聞いてほしいことがあるの」
スミ「はい。なんですか?」
秋穂「私達はカードをかなりの数集めた。そして、あなた達は高校生で、親族と共に暮らしてるわね」
ミドリ「それがどうしたよ?」
秋穂「私達がカードを集めてるってことは、他にも同じぐらいカード集めてる人もいるでしょう。つまり、今日まで勝ち残っている人はどんな人だと思う?」
ミドリ「強いヤツってことだろ?」
スミ「それか、グループで行動している人でしょうか?」
秋穂「そう。つまり私達みたいに数人で動いているか、単独だとしたら、かなりの強者ね。もしかしたら、へんぴなところに住んでいて、他の人に気づかれてない人もいるかもね」
ヒロト「だから?」
秋穂「あなた達、これからは単独でいることは、危険を意味するのだと肝に命じなさい。家も安全じゃない。そして家族は巻き込まれる」
スミ「……」
ミドリ「……ああ、わかってるよ」
秋穂「でも、そこから逃げる方法はあるわ。カードを誰かに譲渡すること。捨てるだけでは駄目。いつか手元にカードは戻ってきてしまう。でもね、誰かの手に渡れば、その限りではない。わかるよね?」
ミドリ「願いを捨てて、カード集めから降りろってこと? 嫌だね」
秋穂「同じような願いを持つ人に、託す、と考えることは出来ないかしら」
ミドリ「……」
スミ「……」
秋穂「まー、難しいか。うんうん、気にしないで。これは提案の一つ目。二つ目の提案をするため準備ね」
スミ「……二つ目の提案って?」
秋穂「黒瀬さん、西野さん、あなた達、私と一緒の家に住まない?」
ミドリ「……え?」
ヒロト「……」
スミ「……どういうことですか?」
秋穂「家にカードがあれば、いずれ狙われる。家族は巻き込みたくない。でも、願いを叶えるためにカードは集めたい。そうなったら、同じ目的を共有する者同士で一か所にいた方がいい。寝込みを襲われたりしても、みんながいれば何とかなるんじゃない?」
スミ「……」
ミドリ「……理屈はわかるよ。アタシの家は無くなっちまったんだ。おばさんにだって、いつ迷惑かかるか、わかんねーからな」
秋穂「そうでしょう~。妙案だと思うんだけどな~」
ヒロト「俺も一人暮らしだけど?」
秋穂「あらあら、女の園に交じりたいのかしら。いいわよ~、お姉さんたちと一緒に暮らしても」
ヒロト「ふざけんなっての。俺は行かねえよ。先輩達を利用しようとしてんじゃねーかと疑ってるだけ」
秋穂「利用しようだなんて、人聞きが悪いわね。私はみんなを心配してるんだから。だったら、あなたも来たらいいじゃない」
ヒロト「男が混じっちゃ生活しにくいだろ。あんたの家、何部屋もあるわけ?」
秋穂「そうなったら広い所に引っ越します~。ちゃんと男女生活スペースも区切ります~」
ヒロト「ムキになんなよ」
秋穂「なってません~」
スミ「あの……」
ヒロト「なに?」
スミ「ヒロト君の家って、大きいお屋敷なんだよね?」
ヒロト「そうだけど」
スミ「ヒロト君の家に……、住まわせてもらえないかな?」
ヒロト「え……」
スミ「広い家なら、お部屋も余ってないかな? 私、掃除や洗濯も、ちゃんとする。料理だって、昔からお母さんの手伝いもしてるし、頑張ってやります」
ヒロト「えっと、あのさ……」
ミドリ「……。新藤、アタシからも頼むわ。お前の家に住まわせろ」
ヒロト「いや、でもさ、布団とかも買わなきゃだめだし、食費もかかるし……」
秋穂「はあ、まったく、情けない男ね。わかった。お金のことは心配しなくていい。お姉さんがスポンサーになってあげる。私も新藤君の家に住むわ」
ヒロト「はあ!? 先生と生徒が一緒に住むとまずいだろ」
秋穂「バレなきゃいいのよ。もしバレても、新藤君は知人の子供、遠い血縁とか言って誤魔化す。なんとでも言い訳作ってやるわ」
ヒロト「い、いや、待てって……。待てって、まじで……」
街はずれの古いお屋敷。
都心部から少し離れた、丘の中腹にある。
秋穂「思ったより広いわ。高い塀に囲まれて、立派な物ね。静かな場所なのも好ポイント。ただし、ボロボロすぎ。虫も多そう。まあ、しょうがないか。我慢するわ」
ヒロト「いやなら、帰ってくれていいんだけど」
秋穂「嫌よ~。もう、お姉さん、共同生活が楽しみになってきちゃったもの」
ヒロト「うぜ」
スミ「まあまあ……。ありがとう、ヒロト君」
ヒロト「カードの奪い合いが、ひと段落するまでの間だけだ」
スミ「うん」
ミドリ「まあ、いいじゃねーか。スポンサー様もいるんだしよ」
秋穂「任せなさい~。お姉さん、ちゃんと貯金しながら生活してたんだから~」
ヒロト「はあ」
ミドリ「とりあえず、入ろうぜ。荷物、置きたいしよ」
スミ「う、うん」
秋穂「何をしているの、新藤君。早く鍵を開けなさい」
ヒロト「……」
水際が離れたところから双眼鏡で覗く。
水際「……観察対象の新藤ヒロトの家に、複数のカード犯罪に関連するとみられる西野ミドリ。そして、同じクラスの生徒、黒瀬スミ。彼女も観察対象に追加したほうがいいかなー。でも、そんなことより、養護教諭の秋穂ユキノ。どういうこと? 彼女もカード所持者?」
双眼鏡を降ろす。
水際「この学校、真っ黒だよねー。たぶん」
夜の警察署。
特別捜査室と書かれた一室。
水際「お疲れさまでーす」
男性署員「お疲れ様です」
男性職員「お疲れ」
水際「ただいま戻りましたー。市之瀬参事官」
市之瀬「お疲れ様。教員生活は馴染んできたかな?」
水際「はいー。教育実習を思い出してー、とっても楽しいでーす」
市之瀬「それは良かった。それで、どうかな、滝見高校の内部事情は」
水際「はい……。報告いたします。市内で多発した放火、及び強盗事件。関与したと思われる不良グループは突然失踪。目撃情報もありません。失踪の数日前に、グループと接触したとみられる、滝見高校の2年生、西野ミドリ。彼女は懸念した通り、例のカードに関わっている疑いがありますね」
市之瀬「そうか、謎の力を持つ鏡状のカード。本当に存在するのか甚だ疑問ではあるが……」
水際「ええ。まだ現物は未確認。ですが、危険な香りがします。滝見高校の教師もそれに関わっているとみられますから」
市之瀬「教師が? 本当か?」
水際「ええ。養護教諭の秋穂ユキノ。彼女が生徒たちを犯罪に利用している……。なーんて、まだ未確定ですけどねー」
市之瀬「無理はするなよ。そのカードとやらも、いったいどんな物かわかっていない。踏み込みすぎれば、何がおきるか……」
水際「心得てまーす。じゃあ、明日も学校なのでー、失礼しまーす」
満面の笑顔で敬礼する水際セナ。




