第十八話 ペンタクルの2「両面」
夜。
街外れ。
大きな塀に囲まれている、広い屋敷。
所々、瓦が落ちていて、築年数の古さを感じる。
ヒロト「……」
畳の上で一枚のカードを眺める。
ぼんやりと輝く。
ヒロト「……来たか」
立ち上がってケンケンで縁側から庭に出る。
ヒロト「来るなら早く来いよ。外でやろうぜ。家壊されたくないし」
輝くカード。
門から黒いコートの男が覗く。
コートの男「お邪魔しますね」
ヒロト「邪魔されたくないし、出来たら帰ってくれない?」
コートの男「そういう訳にもね……。今、あなたは怪我をしているようだし、この機会を逃したくない。それにカードを沢山お持ちのようだ」
ヒロト「俺はやりたくないんだけど」
コートの男「だったらこうしましょう。あなたはカードを全て渡す。そうしてくれたら、ここは引きましょう」
ヒロト「そんなの無理ってわかってるだろ?」
コートの男「そうですよね。では」
男がカードを壺に変える。
壺の口から無数の蛇たちが、
ヒョロヒョロと顔を出す。
ヒロト「ふーん」
カードを金色の十字架に変える。
剣のように持ち、胸の前に垂直して立てる。
目を閉じる。
コートの男「十字架の武器、かっこいいですねぇ。じゃあ私から行きますね」
壺から蛇たちが伸びるように飛び出し、
ヒロトに向かう。
目を閉じたままのヒロト。
ヒロト「……」
目を開ける。
グルンと十字架を振り回す。
叩き落とされて消える蛇たち。
コートの男「ほう、素晴らしい」
ヒロト「どーも」
コートの男「では、お次行きますね」
蛇たちが大きく広がりながら、
ヒロトを周りから取り囲む。
ヒロト「……」
長い蛇がグルグルと、
ヒロトを中心に回る。
瞬きひとつ。
シャー!
ヒロトの後ろから蛇が襲いかかる。
怪我をした足を軸に、ピボットのように反転して、十字架で叩き落す。
次は別角度の蛇が襲う。
また反転して叩き落す。
コートの男「すごいですねぇ。まるで全体を見通しているようだ」
ヒロト「そんなすごい能力じゃないけどね」
コートの男「さあ、どんどんいきましょう。もっと、貴方の強さを見せてください」
ヒロト「めんどいなぁ……」
男の壺から、蛇の束がヒロトに向かう。
ヒロトが十字架をカードに戻したと思いきや、
新たなカードを取り出す。
ペンダントのような細いチェーンに、三日月型の大きな飾り。
ギャルルルル!
人の背丈ほどもある大きな犬が、
ヒロトの横に現れ、蛇を食いちぎる。
コートの男「おっと、これは変わったカードをお持ちだ」
ヒロト「まだやる?」
コートの男「どうやらあなたは想像以上に強い。今日は引き上げましょう」
ヒロト「うん。じゃあね。さっさと帰って」
コートの男「では、失礼します」
お辞儀をして、門から男が出て行く。
三日月のペンダントをカードに戻す。
消える大きな犬。
ヒロト「はあ」
突然、門の向こうの死角から、
一匹の蛇が猛スピードで庭に伸びて、
ヒロトに牙を向ける。
ポケットからカードを取り出す。
ハサミに変化し、蛇の首を切るヒロト。
跡形もなく蛇は消える。
ヒロト「……おーい、帰るって言ったよねー?」
返事はない。
ハサミをカードに戻す。
カードの輝きは、ぼんやりと無くなっていく。
ヒロト「帰ったか……。油断も隙もねえな、ったく」
遠くからフロントガラス越しに、
双眼鏡で覗く、非常勤講師の水際セナ。
耳にはスマホ。
水際「はい、今、男が出ていきました。はい、どうやらカードを持っていたようです。いえ、塀に囲まれているので、見えませんでした。はい、それでは、失礼致します」
水際が車を走らせる。
朝の教室。
ミドリ「おーっす」
女子生徒「あ!ミドリ来たよ!」
女子生徒「うわー、おひさー!怪我治ったの!?」
ミドリ「まだギリ歩けるぐらいだけどな」
女子生徒「よかったー!心配してたよー!」
ミドリ「ありがとなー。今日から登校すっから」
スミ「西野さん、おはよう。大丈夫?」
ミドリ「スミこそ大丈夫だったか?」
スミ「うん。なんとか」
ミドリ「よかった。新藤と秋穂先生は?」
スミ「たぶん、大丈夫そう。西野さんが登校してきたら、保健室に集合って」
ミドリ「わかった。放課後だよな。アタシのカードも返してもらわないとよ」
授業中。
あくびをする男子生徒。
男子生徒「ふわあぁ……」
水際「はい、そこー。休み時間が近いからってー、ダラけないー。しゅーちゅー」
男子生徒「すんませんっす、セナちゃん」
水際「先生を、ちゃん付けしないようにー」
女子生徒「セナちゃん、もうすぐ休み時間入っちゃうよ」
水際「あ、ごめんごめーん、あと少しだけ進めないとー」
キーンコーンカーンコーン。
水際「あちゃちゃ。しょうがないよねー。おわりまーす」
女子生徒「きりーつ」
生徒たち「ありがとうございましたー」
ミドリの横に水際が歩いてくる。
水際「西野さん、ちょーっといい?」
ミドリ「えっと、なんすか?」
水際「怪我でしばらく休んでいたよね? 授業の遅れで、わからない所なーい?」
ミドリ「いやぁ、ないと思うけど、わかんないっす」
水際「うん、授業がわかんなーいってことだよねー?」
ミドリ「え? たぶん大丈夫……」
水際「わかんないよねー」
ミドリ「いや、あの」
水際「補習でーす。今日の放課後ー」
ミドリ「え、はあ?」
水際「じゃあ、教室に呼びにくるからー、放課後待っててねー」
ミドリ「まじかよ……」
水際が、すれ違うスミと目が合う。
ポンと肩を叩いて、教室から出て行く。
スミ「水際先生、なんて?」
ミドリ「補習だってさ」
スミ「そっか。じゃあ放課後、先に保健室行くね」
ミドリ「わりぃ」
放課後。
保健室。
秋穂「はーい、みなさん、お揃い……。じゃないわね。西野さんも登校して来てたはずじゃない?」
スミ「すいません、西野さんは補習終わりで来るとのことです」
秋穂「あらそう、じゃあ待ちましょうか。先に報告会と行きましょう」
スミ「報告?」
秋穂「実験をしていたのよ」
ヒロト「なんの実験だよ」
秋穂「以前、西野さんにカードをくれた人が言ってたらしいのだけど、捨ててもカードがポストに入っていたって話。聞いたことあるかな?」
スミ「西野さんから聞いたことがあります」
秋穂「うん。カードの枚数も増えたから、私も一枚捨ててみたの」
スミ「え!?」
秋穂「池の中に、ちゃぽーんとね」
スミ「そんな、なんてことを」
ヒロト「で? どうなったの?」
秋穂「ある時、何事もなくカードの束の中に戻っていた」
スミ「よ、よかった」
ヒロト「……」
秋穂「もうひとつ実験中なんだけど、これはまだ結果が出てないから、いずれ報告します」
スミ「それはどういう……」
秋穂「まだ内緒〜」
教室。
ミドリと水際が机を挟んで向かい合う。
プリントの問題を解くミドリ。
水際「ふむふむ。西野さん、古文得意なんじゃない? ちゃんと物語の内容を理解できてるー」
ミドリ「まじすか。うれしー。勉強褒められたの初めてかも」
水際「考え方の要領良さが見えるよねー」
ミドリ「なんか、そう言われたら得意かもって思えるよ。セナちゃん、ありがとな」
水際「本当のこと言ってるだけー。あのー西野さん、ひとつ聞きたいことあるんだけどなー」
ミドリ「なに? 今、気分良いから何でも聞いてよ」
水際「今ー、何かー、熱中している事ってなーい?」
ミドリ「熱中? 趣味とか?」
水際「そそー」
ミドリ「アタシ、趣味とかねーんだよ」
水際「そっかー。じゃー、集めてる物……、とか」
ミドリのシャーペンが止まる。
ミドリ「……。ねーけど……。なんで?」
水際「んーん。聞いてみただけー」
ミドリ「……」
整った美人の笑顔を、
ミドリが訝しげに見る。




