第十七話 ソードの7「裏の者」
夜の救急病棟。
マユミ「スミ!」
スミ「お母さん」
マユミ「あんた、怪我は?」
スミ「大丈夫。一週間後に抜糸だって」
マユミ「大丈夫じゃないでしょう! 一体どうして、こんなことになったの!?」
スミ「えっと……、それは」
フミコ「申し訳ありません。私の姪と、古い商店街に入ったらしくて、そこで……」
フミコが、座るミドリの頭を押して下げる。
ミドリの太もも包帯。
スミ「わ、私も行きたいって言ったし、思ってたより屋根とか壊れてて、それで……」
マユミ「はあ、まったく……」
松葉杖をつきながら、ヒロトが歩いてくる。
隣には秋穂。
秋穂「黒瀬さんのお母さん? 申し訳ありません。黒瀬さんから電話をもらって、行ってみたら、こんなことになっていて」
マユミ「あなたは?」
秋穂「滝見高校の養護教諭です」
マユミ「あー……。保健室の先生? すいません、娘がお手間をかけまして」
秋穂「いえいえ、みんな命に別状がなくて、なによりですわ」
マユミ「変なとこには行かないように、きつく言っておきますから」
秋穂「そんな、悪いことをしたのではないのですから。高校生ですもの。興味のある所へ足を運ぶのは普通のことです」
ヒロト「……」
フユミ「それじゃあ、私たちはこれで。スミ、一人で車に乗れる?」
スミ「うん」
秋穂「黒瀬さん、ちょっといいかしら? 西野さんも」
黒いスポーツカーに手招きする。
車いすのミドリと目を合わせて、
松葉杖をつきながら近づく。
ミドリ「どうしたんだよ、先生」
秋穂「あなた達は、今、非常に危険な状態にある。狙われたら逃げられない」
スミ「はい……」
ミドリ「まあ、そうだけどよ」
秋穂「あなた達のカードを預かるわ。襲われる理由をなくさなければ」
スミ「え……」
ミドリ「あの、で、でもよ」
スミがヒロトを見る。
ヒロト「同意したくないけど、今、カードを持っているのは危険だ」
スミ「……。そうだよね……」
ミドリ「待ってくれよ。せっかく枚数も揃ってきたんだ、預けるって言ってもさ」
秋穂「私を信用できない?」
ミドリ「ち、ちげーよ!」
ヒロト「一人の元にカードが集まれば、そこで願いが叶ってしまうかもしれない。そうしたら他の願いは叶わなくなるかも。そういう心配?」
ミドリ「い、いや、アタシは……、その……」
ヒロト「提案がある。預け先を分けるんだ。黒瀬先輩のカードは俺が預かる」
秋穂「あら、変わった提案ね」
ヒロト「一人にまとめる訳じゃない。もし、俺か先生、どちらかが襲われても、もう片方のカードは残る。それでどう?」
ミドリ「……任せるよ」
秋穂「ふーん。まあ、いいけど」
スミ「ヒロト君も怪我してるけど……」
ヒロト「俺は大丈夫」
スミ「ほんと……?」
ヒロト「信じて」
スミ「……それじゃあ、……預ける」
カードの束を取り出す。
ヒロト「預かるね」
手を離さないスミ。
ヒロト「黒瀬先輩?」
スミ「一枚、一枚だけ、持っておきたい」
ヒロト「……わかった」
ミドリ「……アタシも一枚残して、後は先生に預けようかな」
カードを取り出す。
遠目にフミコが目に入る。
ミドリ「……いや、やっぱ怪我が治るまで、先生に全部預けるよ。フミコおばさんには迷惑かけられないしよ……」
スミ「……」
秋穂「うんうん。それがいいわ。まずは傷を治すこと」
ミドリ「ああ……」
カードの束を預けるミドリ。
スミ「先生、ごめんなさい、一枚、あの商店街に落としてしまいました」
秋穂「必死だったんだもの。仕方がないわ」
ミドリ「先生、あの鉄線野郎は倒したのか?」
秋穂「いいえ。けん制し合って、私も逃げてきたの。かなり強いわ」
ミドリ「まじかよ……。先生でも……」
秋穂「あの商店街は危険よ。近づかないほうがいい」
ミドリ「わかった」
朝。
マユミ「スミ、お母さん仕事に行くけど、無理しちゃだめよ。数日、休むんだし、自習でもしてなさい」
スミ「うん。行ってらっしゃい」
母の車が出ていく音。
スミ「……」
手に持つカード。
スミ「武器になれ」
金色の円盤に変わる。
スミ「他のカードは、不思議な力が使えたのに……、このカードはなんで使えないんだろう……」
カードに戻し、眠りにつく。
松葉杖をつきながらバスに乗る。
校門をくぐる。
女子生徒「あ、スミ来たよ! スミ―!」
スミ「おはよ」
女子生徒「ミドリと肝試しに行ったんだって?」
スミ「肝試し、みたいなものかな……」
女子生徒「噂になってるよ。スミとミドリが、秋穂先生に変なバイトさせられてるんじゃないかって」
スミ「え……」
女子生徒「放課後、先生の車で一緒に帰ってるって。ねえ、どうなの……?」
スミ「えっと……。送ってもらってただけだし……」
女子生徒「ふーん」
スミ「……西野さんは?」
女子生徒「1週間は休むって。車いすで学校来たくないからって」
スミ「そっか……」
昼休み。
スミ「ヒロト君。足、大丈夫?」
ヒロト「黒瀬先輩、もう学校来たの?」
スミ「うん。痛みも引いてきたし、杖があれば歩けるかなって」
ヒロト「無理しない方がいいんじゃない」
スミ「秋穂先生や……、ヒロト君のことも気になって……」
ヒロト「先生、教頭とかに怪しまれてたみたいだけど、ヘラヘラしてるよ」
スミ「秋穂先生らしいね。ヒロト君、お礼、言えてなかった。助けに来てくれてありがとう」
ヒロト「やめてよ。はずいって」
スミ「ねえ、でも、どうして私達があそこにいたのがわかったの?」
ヒロト「カードだよ」
スミ「カード? カードを持っている人を探してたの?」
ヒロト「ちげえよ」
スミ「たまたま近くにいたとか?」
ヒロト「あー、めんどくせえな……」
一枚のカードを取り出す。
ヒロト「これ、十字架のカード」
スミ「あの、剣みたいに振り回してたやつ……」
ヒロト「そう、剣じゃないし、形は十字架だけど、見た目じゃ想像できないような能力なんだよ」
スミ「……どんな?」
ヒロト「ひみつ。言ってもわかんないと思うし」
スミ「……そのカードで私達のことが、わかったってこと?」
ヒロト「まあ、なんとなくね。そんなことより。家の周りでカードは反応してないよな?」
スミ「大丈夫。私の家、田舎だし、人もほとんど来ない」
ヒロト「余計に心配じゃん。誰かきたら終わりだろ」
スミ「ヒロト君だって、カード沢山持ってて、その足じゃ心配だよ」
ヒロト「俺はいいんだよ」
スミ「ヒロト君は良くても、お家の人も心配じゃないの? 家が襲われたりしたら」
ヒロト「俺、一人暮らしだから」
スミ「え?」
ヒロト「親はいない。ばあちゃんの残してくれた家と、遺産で暮らしてる」
スミ「そう、だったんだ」
ヒロト「だから襲われても、誰にも迷惑かけねえよ」
スミ「……ねえ」
ヒロト「何?」
スミ「家にいて不安じゃない?」
ヒロト「……別に」
スミ「私は不安。カードを持っていて、いつかお母さんに迷惑をかけるかもしれない」
ヒロト「まあ、家族がいればな」
スミ「一緒に住めないかな。ヒロト君の家」
ヒロト「え?」
スミ「……冗談」
教室。
担任「えー、西野も黒瀬も大怪我をしたことは、みんな知っていると思うが、くれぐれも危なそう場所には行かないように」
生徒たち「はーい」
生徒たち「うーっす」
担任「あ、それと、産休明けで戻った松木先生の補助として、非常勤の先生が入った。明日から、このクラスの副担任にもなってくれるから、そのつもりで」
ザワザワ。
女子生徒「副担任って珍しいよね?」
女子生徒「どんな人かな?」
担任「はい、静かに。紹介します。さ、入ってください」
扉から、若い女性教師が入ってくる。
後ろで縛った髪。
上下黒のリクルートスーツ。
水際「こんにちはー。非常勤講師のー、水際セナと申しまーす。どーぞ、よろしくお願いしまーす」
整った顔立ちに、わずかな笑顔。




